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英雄編
事情説明
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カノンが正気を取り戻し、センリが彼女の身体に何が起きたのかを説明している間、その一方でレノはテンに根掘り葉掘り、エクスカリバーに嵌め込まれた「聖光石」の入手経緯を質問攻めに遭い、面倒ではあるが先の放浪島の出来事を説明する。
流石に地下施設で起きた出来事を全て伝える事は出来ず、内容は放浪島に住んでいたある科学者に助けられ、彼女の手によって聖石が加工され、現在の宝石へと変化したと伝える。別に嘘はついていないが、テン達は半信半疑という感じだった。
「はあ……そんな事があったのか、よく分からんけどけど大変だったんだな」
「まあね」
「それにしても……聖石を加工する技術を持つ人間がまだいたのですか……それも悪名高い「天極島」にいるとは。出来ればお会いしたいのですが」
「私もその話気になります!」
事情を伝え終えたセンリも話しに入り込み、カノンも食いついてくる。だが、会いたいと言っても既にベータは地下施設内で自爆しているはずであり、さらに言えばあの施設の地下は完全に封鎖されているため、もう侵入は出来ない。
「それは難しいと思うな……えっと、あの島って特別な許可が無ければ入島できないし、あの人も人間と会うのは嫌がってたし」
「そうですか……残念です」
「にしても伝説級の魔道具を生み出す人間がまだ残っていたとはなぁ……」
「聖光石は魔道具ではありませんよ。神聖な法具です」
「す、すいません……」
「あの、ちょっと見せてもらってもいいですか?」
カノンは興味津津といった感じでレノが握りしめるエクスカリバーを覗き込み、彼女に手渡すと、
「ふむふむ、これがあの伝説の聖剣……って、エクスカリバーぁあああっ!?」
「今更気付いたのかい!?」
「あ、あの……見るのは構いませんが、壊さない様にして下さい!?」
自分の手元にあるのが全ての聖剣の中でも一番を誇る知名度の聖遺物だと気づき、危うく落としかけ、彼女は決して壊さない様に慎重に握りしめながら確認sる。
「なるほど……触れるだけでも確かに力を感じ取れます。けど、どうして刀身の部分が無いんですか?」
「それは私も気になっていました。この聖導教会に管理されていた時は確かに刀身は存在したはずですが……」
「まさか失くしたんじゃないだろうね?」
「……黙秘権を行使します」
レノは視線を反らし、冷や汗をだらだらと流す。実際の所、この聖剣の刀身部分が現在どうなっているのかは彼自身も知らない。唯一知っているであろうアイリィは枯葉の森に滞在し、彼女に直接問いたださない限りはどうしようもない。
「……まあ、いいでしょう。聖剣に関しては次の機会に問い質すとして、今はカノン将軍を王国へ送りましょう」
「王国に?まだ病み上がりなんだから、もう少し休ませたら」
「いえ、大丈夫です。私はもう平気で、す……?」
「おっと」
ベッドから身体を起き上げようとしたカノンだが、突然に立ち眩みを起こしたかのように膝を着き、すぐ傍にいたレノが支える。
「す、すいません……急に力が抜けて……?」
「……無理もありません。貴女は長い間、眠り続けていたのですから……見た目よりも疲労が蓄積されているはずです。やはりもう一晩だけ教会で療養させましょう」
「し、しかし……私は王国の将軍!!これしきの事で……!!」
「無理はしない方がいいっすよ?ね、センリさん」
「そうですね。バルトロス王国側には報告して置きますので、今日の所はここで安静にして下さい」
「で、ですが……!!」
「い・い・で・す・ね!?」
「あうっ……」
センリにやたらと怖い笑顔で言い付けられ、カノンはレノの背中に隠れながら涙目に頷き、渋々とだがベッドの上に横になり、それでも諦めきれないのか、恐る恐る毛布の中から顔を出す。
「あ、あの……私が完全に回復するまでどれくらいの時間が掛かりますか……?」
「それは……分かりかねますね。カノンさんの症状の例は教会側としても初めてなので……ですが、その調子なら2、3日ほど安静にしていれば大丈夫だと思いますが……」
「そうですか……」
センリの説明にカノンは落ち込み、彼女としてはすぐにでも王国に帰還したいのだろうが、今は体調を取り戻す事が最優先である。不意に彼女はレノに視線を向け、
「あの……1つ気になったんですが、貴方は一体何者ですか?」
「何者……」
今更ながらの質問にレノは顎に手を当てて考え込み、どう説明すればいいのか悩む。形式上はレノはテンペスト騎士団の第四部隊の隊長であり、将軍であるカノンとは上司と部下という関係であるが、実際に彼はバルトロス王国に忠誠を誓っているわけではない。
王国関係者である事は間違いないが、どちらかと言うと客将という立場であり、特別扱いをされているのは自覚しているが、だからと言って今後王国に仕える気は無い。それでもここは後輩として頭を下げるべきだろう。
「えっと、自己紹介が遅れてすいません。レノと言います。一応はテンペスト騎士団の第四部隊の隊長を務めていますが、王国に仕えるはさらさら無いので気軽にレノさんと呼んでください」
「あ、はあ……これはこれはご丁寧にって、私がさん付けするんですか!?それにテンペスト騎士団の第四部隊?私が知る限りでは第一、第二、第三(隠密)部隊しか存在しなかったはずですが……」
「ああ……そこから説明しないといけないのか」
彼女がセンチュリオンに誘拐されたのはレノが放浪島(二度目)から帰還する以前の話であり、テンペスト騎士団に新たに部隊が造り出されたのは知らない。仕方なく、レノは自分が知る限りの王国の状況を伝えると、
「私がいない間にそのような事が……しかも、ジャンヌ団長とアルト王子が聖剣に選ばれたとは!?確かに見込みのあるお二人だと思っていましたが……」
「2人の事を知って……当たり前か」
以前にリノン達からカノンがテンペスト騎士団の新入団員たちの教官を務めていたと聞いており、ゴンゾウやポチ子も尊敬している存在だという事をを思い出す。当然、テンペスト騎士団に所属しているアルトやジャンヌとも関わりが合っても可笑しくは無い。
「でしたら、他の団員達の様子はどうですか?ゴルスやキティ、カゲマルの三隊長は立派に勤めを果たしていますか?」
「ゴルスとキティは分からないけど、カゲマルは頑張っていると思う」
カゲマルは多忙でありながらもレノ達の元に良く訪れており、色々な土産品を持参して雑談を行っている。彼女曰く、現在は「人魚族」と「魔人族」の動向を探っており、近々行われるフェンリル対策会議にも出席するという。
「そうですか……あの、他に私がいない間に大きな出来事はありませんでしたか?」
「腐敗竜の復活とか、バジリスクが目覚めたり、剣乱武闘の崩壊とかあったけど……特に話す事はないかなぁ」
「不穏な単語ばかりじゃないですか!?」
カノンに突っ込まれ、レノはレミアの見舞いが遅くなるなと考えながらも、センリとテンも交えて彼女が誘拐されている間に起きた出来事を一から彼女に説明した。
流石に地下施設で起きた出来事を全て伝える事は出来ず、内容は放浪島に住んでいたある科学者に助けられ、彼女の手によって聖石が加工され、現在の宝石へと変化したと伝える。別に嘘はついていないが、テン達は半信半疑という感じだった。
「はあ……そんな事があったのか、よく分からんけどけど大変だったんだな」
「まあね」
「それにしても……聖石を加工する技術を持つ人間がまだいたのですか……それも悪名高い「天極島」にいるとは。出来ればお会いしたいのですが」
「私もその話気になります!」
事情を伝え終えたセンリも話しに入り込み、カノンも食いついてくる。だが、会いたいと言っても既にベータは地下施設内で自爆しているはずであり、さらに言えばあの施設の地下は完全に封鎖されているため、もう侵入は出来ない。
「それは難しいと思うな……えっと、あの島って特別な許可が無ければ入島できないし、あの人も人間と会うのは嫌がってたし」
「そうですか……残念です」
「にしても伝説級の魔道具を生み出す人間がまだ残っていたとはなぁ……」
「聖光石は魔道具ではありませんよ。神聖な法具です」
「す、すいません……」
「あの、ちょっと見せてもらってもいいですか?」
カノンは興味津津といった感じでレノが握りしめるエクスカリバーを覗き込み、彼女に手渡すと、
「ふむふむ、これがあの伝説の聖剣……って、エクスカリバーぁあああっ!?」
「今更気付いたのかい!?」
「あ、あの……見るのは構いませんが、壊さない様にして下さい!?」
自分の手元にあるのが全ての聖剣の中でも一番を誇る知名度の聖遺物だと気づき、危うく落としかけ、彼女は決して壊さない様に慎重に握りしめながら確認sる。
「なるほど……触れるだけでも確かに力を感じ取れます。けど、どうして刀身の部分が無いんですか?」
「それは私も気になっていました。この聖導教会に管理されていた時は確かに刀身は存在したはずですが……」
「まさか失くしたんじゃないだろうね?」
「……黙秘権を行使します」
レノは視線を反らし、冷や汗をだらだらと流す。実際の所、この聖剣の刀身部分が現在どうなっているのかは彼自身も知らない。唯一知っているであろうアイリィは枯葉の森に滞在し、彼女に直接問いたださない限りはどうしようもない。
「……まあ、いいでしょう。聖剣に関しては次の機会に問い質すとして、今はカノン将軍を王国へ送りましょう」
「王国に?まだ病み上がりなんだから、もう少し休ませたら」
「いえ、大丈夫です。私はもう平気で、す……?」
「おっと」
ベッドから身体を起き上げようとしたカノンだが、突然に立ち眩みを起こしたかのように膝を着き、すぐ傍にいたレノが支える。
「す、すいません……急に力が抜けて……?」
「……無理もありません。貴女は長い間、眠り続けていたのですから……見た目よりも疲労が蓄積されているはずです。やはりもう一晩だけ教会で療養させましょう」
「し、しかし……私は王国の将軍!!これしきの事で……!!」
「無理はしない方がいいっすよ?ね、センリさん」
「そうですね。バルトロス王国側には報告して置きますので、今日の所はここで安静にして下さい」
「で、ですが……!!」
「い・い・で・す・ね!?」
「あうっ……」
センリにやたらと怖い笑顔で言い付けられ、カノンはレノの背中に隠れながら涙目に頷き、渋々とだがベッドの上に横になり、それでも諦めきれないのか、恐る恐る毛布の中から顔を出す。
「あ、あの……私が完全に回復するまでどれくらいの時間が掛かりますか……?」
「それは……分かりかねますね。カノンさんの症状の例は教会側としても初めてなので……ですが、その調子なら2、3日ほど安静にしていれば大丈夫だと思いますが……」
「そうですか……」
センリの説明にカノンは落ち込み、彼女としてはすぐにでも王国に帰還したいのだろうが、今は体調を取り戻す事が最優先である。不意に彼女はレノに視線を向け、
「あの……1つ気になったんですが、貴方は一体何者ですか?」
「何者……」
今更ながらの質問にレノは顎に手を当てて考え込み、どう説明すればいいのか悩む。形式上はレノはテンペスト騎士団の第四部隊の隊長であり、将軍であるカノンとは上司と部下という関係であるが、実際に彼はバルトロス王国に忠誠を誓っているわけではない。
王国関係者である事は間違いないが、どちらかと言うと客将という立場であり、特別扱いをされているのは自覚しているが、だからと言って今後王国に仕える気は無い。それでもここは後輩として頭を下げるべきだろう。
「えっと、自己紹介が遅れてすいません。レノと言います。一応はテンペスト騎士団の第四部隊の隊長を務めていますが、王国に仕えるはさらさら無いので気軽にレノさんと呼んでください」
「あ、はあ……これはこれはご丁寧にって、私がさん付けするんですか!?それにテンペスト騎士団の第四部隊?私が知る限りでは第一、第二、第三(隠密)部隊しか存在しなかったはずですが……」
「ああ……そこから説明しないといけないのか」
彼女がセンチュリオンに誘拐されたのはレノが放浪島(二度目)から帰還する以前の話であり、テンペスト騎士団に新たに部隊が造り出されたのは知らない。仕方なく、レノは自分が知る限りの王国の状況を伝えると、
「私がいない間にそのような事が……しかも、ジャンヌ団長とアルト王子が聖剣に選ばれたとは!?確かに見込みのあるお二人だと思っていましたが……」
「2人の事を知って……当たり前か」
以前にリノン達からカノンがテンペスト騎士団の新入団員たちの教官を務めていたと聞いており、ゴンゾウやポチ子も尊敬している存在だという事をを思い出す。当然、テンペスト騎士団に所属しているアルトやジャンヌとも関わりが合っても可笑しくは無い。
「でしたら、他の団員達の様子はどうですか?ゴルスやキティ、カゲマルの三隊長は立派に勤めを果たしていますか?」
「ゴルスとキティは分からないけど、カゲマルは頑張っていると思う」
カゲマルは多忙でありながらもレノ達の元に良く訪れており、色々な土産品を持参して雑談を行っている。彼女曰く、現在は「人魚族」と「魔人族」の動向を探っており、近々行われるフェンリル対策会議にも出席するという。
「そうですか……あの、他に私がいない間に大きな出来事はありませんでしたか?」
「腐敗竜の復活とか、バジリスクが目覚めたり、剣乱武闘の崩壊とかあったけど……特に話す事はないかなぁ」
「不穏な単語ばかりじゃないですか!?」
カノンに突っ込まれ、レノはレミアの見舞いが遅くなるなと考えながらも、センリとテンも交えて彼女が誘拐されている間に起きた出来事を一から彼女に説明した。
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