種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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ヒナ編

デルタ

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ヒナは治療室を抜け出すと、通路の点灯が赤く光り輝いており、すぐに施設全体に聞き慣れた声の放送が流される。


『緊急避難装置が発動しました。この施設は1時間後に焼却されます。施設内に残っている人間は速やかに1階へ避難してください。1時間後に地下は完全に封鎖されます。警備アンドロイドが誘導を行いますので、指示に従って行動してください』


ベータの、いや正確に言えばセカンドライフ社の会長であるアイリスの機械音声が響き渡り、ヒナは彼女に事前に説明された道順で通路を移動する。すぐにも施設内のエレベーターを発見し、彼女は傍に存在する指紋認証機の画面を確認し、手袋を取りだして嵌め込む。


「これで……よし」


ピンポンッ!


手袋に刻まれた「指紋」を画面に押し込むと、指紋認証機からクイズに成功したかのような軽快な音が流れる。同時に扉が左右に押し開かれ、ヒナはすぐに乗り込む。


「中は案外普通だな……って、言ってる場合じゃないか」


エレベーターのデザインは真っ白な空間であり、ボタンの類は存在せず、声帯認証で移動したい階層を告げれば自動的に動き出す仕組みらしい。指紋と違い、声帯に付いては既にベータがヒナの分も登録しており、彼女は「1階」と一言だけ告げると扉が即座に閉鎖する。


ガタガタンッ……!!


「……大丈夫かな」


随分と長い間使用されていなかったらしく、エレベーターは酷く揺れながらも上階に向けて移動を開始する。その間にもヒナは自分の装備を確認し、ベータから受け取った腕時計を確認する。この時計は希少な年代物であり、今の世界には存在しない物のため、時間を計るという点では便利だ。


「あと58分……余裕で間に合う」


既に地上にはデルタが必要な資料を用意して出入口に待機しているはずであり、ゴンゾウたちも外で休憩を行っている。1階の通路を封鎖する遮断壁はデルタが解除出来るとの事らしく、まずは彼女と合流して外に抜け出る手筈だが、その前にやるべきことがある。


「声帯装置と……バックアップ」


ベータから渡されたのは他にも存在し、デルタに装着されている機器(イヤホン)に取り付ける装置と黒色のUSBメモリであり、一方は取り付ける事でデルタも他の姉妹機のように喋れるようになるらしく、もう一方に関しては「緊急時」の際にのみに取り付けるように厳守されており、これを装着すればベータに内蔵された「アイリス・システム」が作動し、デルタのAIが上書きされるという。

一応はデルタ自体にも独自のAIは組み込まれているが、既に破棄された「アルファ」「ガンマ」「シグマ」よりも性能が少々上というだけであり、ベータのように人間同然にまで会話する事は出来ない。だが、ベータとしてもデルタの自己を消してしまうような真似は避けたいらしいが、万が一の事態を想定して用意してくれた。


「さてと……」


USBメモリに関しては聖剣と共にホルスターに収納し、エレベーターが到着したのを確認すると、黒色のイヤホンを片手に扉が開かれるのを待つ。


ガタンッ……!!


「さて……うわっ!?」
『………………』


扉を開いて早々に1人の女性が既に待ち構えており、ヒナは咄嗟に後退る。それは先ほど別れを告げたはずのベータの姿があり、すぐにヒナは彼女がベータの最後の姉妹機である「デルタ」だと悟る。


「あ、ああ……そう言えばエレベーターの前に待機しているように命令されてるんだっけ……びっくりした」
『……(こくりっ)』


ヒナはデルタを観察し、他の姉妹機と比べ、こちらは最も外見が人間らしく造りだされており、機器の類は殆ど見られない。せいぜい、ベータと同様にイヤホン型の機器を両耳に取り付けているだけであり、すぐにヒナは事前に渡された機械を取りだすと、


「えっと……触るけど大丈夫?」
『……(こくりっ)』
「何だかコトミみたいだなぁ……」


黙って頷く姿がコトミと重なるが、取りあえずは従順に従うようであり、彼女の左耳の機器にベータから受け取った装置を取り付ける。


ブゥウウンッ……!!


『ンッ……ア、ああっ……おはよう、ございます』


装置を取り付けた途端にデルタの口から機械音声が流れだし、ベータと比べればまだまだ流調に話せないようだが、時間が経過すれば慣れていくだろう。


「よし……肝心の資料は?」
『こちらに……痛んでおりますので、ご注意を』
「何だか凄い違和感……」


外見も声音もベータと同じであるため、彼女が丁寧な態度を取っているように感じられて奇妙な感じだが、ゆっくりしている時間は無い。デルタの手には一冊の古い本が握られており、これがアイリィが書き上げた伝説獣の書物だろう。


「デルタでいいのかな」
『はい。主人(マスター)』
「その呼び方は止めて」
『了解しました。ヒナ様』
「様付けも……まあ、いいや」



――デルタは通路を確認し、この階層は地下と違って白色の点灯が灯されている。既に「爆破プログラム」は作動しているが、ベータが指定したのは地下空間だけであり、地上へ通じる通路は全て遮断壁で封鎖されている。彼女が焼却するのはあくまでも地下設備だけであり、地上の建物に関しては手を出さない事を約束してくれた。



『地上に関してはもう、重要な物は全て回収済みですからね。それに勝手に私物化した人もいるようですし、もう好きに使ちゃってください』



それがベータの言葉であり、爆破時間が訪れたとしても激しい振動が建物全体に走るだろうが、破壊される心配はない。それでも万が一の事も考えて即座にこの施設を脱出しなければならない。


「よし、行こう」
『イエッサー』
「なんで軍人みたいな返事を……」


コツコツッ……


デルタが先行し、ヒナは彼女の後に続く。この施設に訪れた目的は達成し、後はこの階の遮断壁を解除してゴンゾウたちと合流して外に出るだけだが、


『……停止』
「どうしたの?」


遮断壁の前でデルタが立ち止まり、彼女が壁際の画面に掌を押し当て、遮断壁を解除しようとした途端に彼女の瞳が点滅し、イヤホンのアンテナが射出と収納を繰り返す。


『遮断壁に破壊行為を行う物を多数感知しました……侵入者が離れるまで遮断壁は解除できません』
「ああ……」


先ほど監視カメラを確認した時はゴンゾウたちは外で休憩した姿を確認したが、どうやらまたもや施設内に侵入して遮断壁の破壊を試みているらしい。


「別に問題ないよ。知り合いだから、解除して」
『了解しました』
「……従順なのも考え物だなぁ……」


普通の人間ならば例え上司の人間の命令だとしても、得体の知れない侵入者が待機しているにも関わらずに即座に命令を遂行するなど有りえないが、デルタは即座に命令に従う。



ギギギギッ――!!



「わふっ!?」
「おおっ!?」
「ひ、開いた!?」
「……ふにゃっ」
「ウォンッ!!」


遮断壁が徐々に収納され、すぐにも汗だくのゴンゾウ達の姿が露わになり、すぐにヒナとデルタの存在に気が付くと、



『ヒナァアアアアアッ……!!』
「おおうっ!?」



ドドドドッ……!!



全員がヒナ達に向けて駆け寄り、中には3メートル級の巨人も含まれているため、このままでは衝突の勢いで打撲もしくは骨折の可能性があり、咄嗟にヒナは身構えると、



『スタンッ!!』



バチィイイイッ!!



「「あばばばばっ……!?」」
「わぅうううっ……!?」
「にゃにゃにゃっ……?」


ヒナを守るとばかりにデルタが前に飛び出し、両手を差し出してまるで雷属性の魔法のように電流をゴンゾウたちに放出し、彼らを感電させた――
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