種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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ヒナ編

炎の槍

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『ここです。この部屋の中にメモリが保存されています』
「ここか……」


ヒナはベータに案内され、まるでエレベーターを想像させる出入口の前に立たされていた。扉には二つの窓ガラス(強化ガラス)が存在するが、内側から何かに塞がれているのか中の様子は覗けない。ベータによれば室内には照明が灯されており、懐中電灯を使用する必要は無いとの事。


『相当に知能がありますからね。窓の部分にシートを張り付けて外部から見えない様にしてるんですよ。しかも、監視カメラの位置を把握しているのか今現在は死角に入って何処にいるのかも見当も尽きません』
「カメラは壊されないの?」
『SF映画と違って簡単に破壊されない仕組みを施していますから……一応は言っておきますけどこの中に入れば当然、鍵は掛けさせてもらいます。カメラを通して中の様子は確認しておきますが、もしもヒナさんが殺されそうになっても私は助けに入れませんから』
「分かってる」


バシィッ!!


ヒナは両拳を叩き合わせ、本当に自分の左腕が戻ったことを実感する。聖剣の柄に関しては腰に装備したままであり、何時でも「光の剣」を発現させる準備を整える。相手が得体の知れない化物だろうと負ける訳には行かない。

多彩な魔法を操るレノと比べれば、今のヒナは身体能力が大幅に上昇しており、ソフィアには無い安定感がある。だが、その分に魔法の類は一部しか扱えず、代わりに攻撃型の「魔鎧(フラム)」を扱える(簡単に言えば魔法に特化した状態が「レノ」肉弾戦に特化した状態が「ソフィア」その中間に位置するのが「ヒナ」という事になる)。


「さてと……入る前に聞きたいことがあるけど」
『何ですか?』
「私の頭の中にある脳内チップって、取り出せる?」
『可能ですよ。ですけど、その場合は色々と不都合な事になりますよ』
「例えば?」
『ヒナさんの記憶……つまり「雛」さんの記憶が消去されます。人格には影響はないでしょうけど、もうあの世界の事は一切思い出せないでしょうね』
「ならいいや」


別に頭の中にチップがある事に不安があるというわけではないが、もしも頭部に直接高圧電流など流された場合に脳内のチップが暴発しないか心配だった。しかし、よくよく考えれば反魔紋が存在した時点で常日頃から電流を体内に流されていたのだが、それが逆に功を奏してDEの充電代わりとなり「雛」の記憶が残っていたのかもしれない。


「さてと……いいよ、開けて」
『ご武運を祈ります』


ガシャンッ……!!


ベータは扉の隣に設置されているセンサーに自分の身体から射出したコードを取り付け、扉からロックが解除された音が響き渡る。ゆっくりとヒナの目の前で扉が左右に開かれ、人一人が通れるほどの穴を開くと停止してしまう。

最後に彼女の方に視線を向けると、親指を突きだして頷く姿があり、同じように頷いた後にヒナは部屋の中に入り込む。



ガシャァアンッ……!!



「……凄い」



部屋に入ると瞬時に出入口が締まり、ロックが掛けられる。照明は確かに点けられているが、思ったよりも灯りの数は少なく、それでも全く見えないほどではない。ヒナは室内に入って早々に無数の卵形のカプセルが並んでいるのを確認し、間近で見ると想像以上に大きい。周囲に警戒しながら何処かに奴が潜んでいないのを確かめながら、カプセルに接近する。

卵型の機器の1つに接近し、中身を覗き込むとコードのような物が幾つか取り付けられ、表面は特殊強化ガラスで覆われており、機体には日本語で名前の様な物が刻まれている。どうやら勇者達の名前であり、この中にバルトロス王国に召喚された30人の勇者が保管されていたのだろう。

一体、どうして彼らがこのようなカプセルの中で保存されていたのかは分からないが、ここからバルトロス王国まで召喚魔法で送り込まれていたとしたら、勇者という存在もセカンドライフ社にとってはこの世界を造り上げる時に必要な存在なのかもしれない。


『何をしてるんですか!!上です!!』


唐突に部屋中にベータの言葉が響き渡り、咄嗟にヒナは後方に跳躍すると、


ガキィンッ!!


天井から物体が落下し、先ほどまでヒナが立っていた場所に鋭利な刃物のような物が突き刺さる。前方を確認すると、そこには嫌に見覚えのある「化物」が立っており、



「クォオオオオッ……!!」
「2年ぶりだね……まあ、この姿じゃ分からないかもしれないけど」



ヒナの眼前には一言では表現できないほどの異形の怪物が立っており、前回にあったときよりも瞳の色が赤く光り輝く。先ほど天井を確認した時は姿を見つけられなかったが、どうやら遠方から跳躍して襲い掛かってきたらしく、ベータの放送が無ければ抵抗できずに鋭利な「指」で串刺しにされていたかもしれない。


ズボォッ!!


金属製の床をまるで粘土のように突き刺した指を引き抜き、爪の類も存在しないのに恐るべき切れ味である。よくよく確認すると指先がまるで刃物ように研ぎ澄まされており、徐々に丸みの帯びた物へと変化していく。どうやら状況によって指先の形態や硬度を変化出来るようだが、鋼鉄よりも頑丈な特殊合金で形成されている床を抉るなど、色々と有りえない存在だと認識される。


「クォオオオオッ……」


化物は襲い掛かって来たにも関わらず、距離を開くヒナを観察するように見据え、その瞳の不気味さに彼女は冷や汗を流す。今までに様々な魔物、人間、その他の種族と戦い続けたが、そのどれでも無い異様な圧力が眼前の怪物から感じ取れる。

ホムラが放つ「威圧感」とも違う異様な「圧迫感」は、本人も気付かぬうちに後退りしており、無意識に化け物と距離を取っていた。これまでに人型の魔獣や魔人など戦い続けたが、目の前に存在する生物はそのどれでも無い、遥か昔からこの星に存在する「得体の知れない何か」なのだ。


「クォオオオオッ……」
「何処かで聞いたような鳴き声だなぁ……」


この放浪島に最初に訪れた際、牛とも馬とも言える魔物(モーヒ)と出会い、監獄から抜け出したことを思い出す(別にモーヒと目の前の化物が何か関係があるとは思えないが)。


「クォオッ……」


ぽりぽりと頭部を搔く仕草を行いながら、異形の化け物は不意に視線をそらして先ほどヒナが調べていたカプセルに視線を向けると、


ガキィンッ!!


一瞬にして指先を鋭利に尖らせると、そのままガラスを突き刺し、カプセルに配備されているコードを引きずり出す。


バチバチィッ!!


「ちょっと……!?」
『あ、すいません……カプセルの電力を切るの忘れてました』
「クォオオッ!!」


ブゥンッ!!


コードをまるで鞭のように振るいながら、化物はヒナに向けて投げ込む。先端部は無理やり引き千切ったせいで電流が迸っており、彼女は咄嗟に両腕を交差させ、


「魔鎧(フラム)!!」


ボウッ!!


両腕から「蒼炎」が発現し、両腕全体を覆う。コードの先端が交差させた腕に衝突し、周囲に電流と蒼色の火炎が舞う。


バチィイイイッ……!!


「クォオオッ……!?」
「あの時とは、違うよ!!」


バシィッ!!


コードから放たれる電流が魔鎧によって遮断され、すぐに弾き返す。そのままヒナは化物に向けて走り出す。両足に肉体強化を発現させ、加速しながらもヒナは右拳に集中し、


(雷槍の要領で……!!)


右腕に纏わせた蒼炎の形状変化を行い、右拳を空手の貫手の形に変え、レノが扱っていた「雷の槍」のように炎の形を鋭利な槍状に変化させる。



「火炎槍(フレアランス)!!」



ズドォオオンッ!!



蒼色に輝く炎の槍が誕生し、そのまま化け物に向けて放たれた――
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