種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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ヒナ編

花見

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「んっ……この肉、少し筋があるけど行けるね」
「……うまうまっ」
「少し硬いですけど、ちゃんと焼けば美味しいですっ」
「……量が少ない」
「「…………」」


桜の木を鑑賞しながら、ヒナ達は焚火を行い、先ほど捕えた魔獣の肉を焼肉に調理して頬張る。その光景に三人の冒険者は引き気味に観察し、こそこそと話し合う。


「……いくら命を狙ったからってさ……普通あれを喰うか?」
「おえ……見ているだけで気持ち悪い」
「俺、魔獣の調理をするところなんざ初めて見たよ……しばらくは肉が食えねえかも……」



彼等はゴンゾウが捕獲したトラップ・モンキーを食すヒナ達と距離を取り、先ほど三人はは暴れ狂う魔獣に容赦なく止めを刺し、毛皮を剥ぎ取り、不要な部分も同時に削ぎ取り、焚火で焼き肉を行うヒナ達の行動に背筋が震える。幾ら相手が魔獣とは言え、少しばかり残酷すぎるのではないかという思いもある。

しかし、ヒナ曰く「狙ってくる以上、こちらも相手の命を奪う権利はある」と説明を行い、実際にトラップ・モンキーを見逃すなどという馬鹿げた選択肢などあるはずが無い。一流の冒険者ならば例え相手がどんな魔獣であろうと、将来的に自分たちにどれほどの危害を加えるかを想像し、必要と判断したなら止めを刺すのが常識である。

現に2年ほど前にヒナが訪れた林檎農園を営む老人が近くに住む村は、勇者達が「子供だから」という理由で討伐を躊躇った「ハニーベアー」の子供が成長し、より凶暴に育ち、成獣と化して村に途轍もない被害を生み出した。幼少の頃は人に対して愛嬌はあっても、成長するにつれて野生独特の獰猛性に目覚め、人間に襲い掛かる魔獣も数多い。

最後まで責任を持って飼育するのであれば魔獣であろうと手懐ける事は可能だが、勇者達は行った行為は最悪であり、ハニーベアーの子供に対して何の処置も行わず、自然に戻したことが悲劇の切っ掛けとなった。

しかし、頭では正しい事だとは分かっていても三人組は躊躇なく生物を殺戮し、食料として調理するヒナ達に不気味に見やり、距離を取る。


「君たちは食べないの?」
「うぷっ……遠慮するっす」
「さっきの魔獣の断末魔の声が頭から離れねえ……」
「も、もういいでしょ?さっさと帰るなり、先に進むなりしましょうよ」
「そうだね」


独特の硬さがある魔獣の肉を頬張りながら、ヒナはこれからの行動を考える。先ほど捕まえたトラップ・モンキーがヒナを水人華の泉にまで誘導していたとしたら、ロスト・ナンバーズが既に潜入し、この島で暗躍しているという可能性は減少する。

リーリスが団員の何人かに分身を埋め込んでいたのは事実だが、それでもこの放浪島への移動手段は限られており、王国の「転移の門」以外に移動できる方法は皆無に等しい。

以前にアイリィがレノを転移で地上に送り返したり、地上から招き入れた事が出来たのは彼女が規格外の存在だからであり、ロスト・ナンバーズでもそう簡単には出入りはできない。だからこそ、リーリスも分身を埋め込んだ人材を部隊に紛れ込ませて侵入させる事しかできない。

第一にこの島を遥か上空へと浮揚させたのはリーリス本人であり、わざわざ自分が封印した場所へ戻ってくるとは思えない。実際、彼女でも恐れる存在がこの放浪島の地下迷宮に存在する。



――よくよく考えればこの島自体が数多くの謎に包み込まれており、海上王国アトランティスがリーリスの配下達によって「島」ごと天高く浮揚したと言われているが、それ以前にどうして隔離されたこの島が独特の生態系を作り出しているのは気にかかる。



だが、現在のヒナ達に必要なのは「フェンリル」の文献が保管された遺跡の調査であり、この島の謎を考えたところで意味はない。ヒナは最後の肉を口に入れ、よく咀嚼して飲み込み、先に進む事にした。


「もう少しだけ進もうか」



焚火の処理を済ませると、ヒナ達は「桜の森」を通過し、時間に猶予がある限りは森の奥部へと移動する事にした。ここまで森の奥に進むとサイクロプスとも遭遇せず、代わりに他の野生の魔物が多く見られるようになる。



「あ、レノさん栗ですよ!!珍しいです!!」
「本当だ。というか、この世界にも栗はあるんだ」
「……ホーン・ラビットもいる。美味しそう」
「一角兎……いや、さっき食べた後でしょ。涎を垂らさないように」
「あれは……ビートルか?」
「でかい青虫……」
「ううっ……気分悪くなってきた」
「あ、あの……まだ進むんですか?」
「そろそろ帰りませんか……?」


野生魔物達を鑑賞しながら移動を行うヒナ達に冒険者たちは顔色を青くしており、彼らにとっては魔物の姿を見る度に怖気着かなければならない。



――活性化現象によって忘れがちだが、実際には魔物という存在はつい10~15年ほど前は滅多に人前で現れる存在ではなく、一生に一度出会うかどうかと言われるほどに希少な存在だった。



この世界には「旧世界」の動植物はほとんど存在しないが、この魔物というのは「人を襲う危険性の高い魔物」の事を意味し、世界全体に活性化が起こる前の生態系は旧世界の時よりもある意味安定していたと言える。

その代わりに種族間の対立が激しく、常に各種族は戦争状態であり、皮肉にも活性化現象によって大量発生した危険性の高い魔物の対応のため、種族同士が一時的に同盟を組み、戦争が休戦した。そう考えると活性化現象は害だけを引き起こすという訳では無く、実際に活性化が始まってから大量の魔石が発掘され、農作物の成長速度が異様に早くなったと言われている。

また、地上に住んでいる者達にとっては活性化の影響によって魔物達が活発化し、それに対抗するために冒険者や傭兵稼業が盛んとなり、この三人の冒険者も元々は平和な地域に生活していたが、冒険者として大成するためにテンペスト騎士団に志願したのだ。

しかし、現実は非常であり、彼等三人は冒険者としての才能は並であり、運よく今回の放浪島の捜索隊に加わることは出来たが、彼等の実戦経験は皆無に等しい。だからこそ、森の中で魔獣を見かける度に身体を震わせる。


「ひ、ヒナ隊長……もういいじゃないですか?」
「そ、そろそろ帰ろうぜ……」
「あ、あんた達は平気でも、俺達は戦えねえんだよ……!!」
「はあ……」


文句ばかりを告げてくる三人の冒険者たちにヒナは溜息を吐き、どうして彼等が自分たちの捜索部隊に志願し、ここまで付いてきたのかを問い質したい。だが、彼等の気持ちも理解できない訳ではなく、確かにいつ襲われるかも分からない状況下に身を置くのは不安を抱かずにはいられない。

ヒナ達はそれぞれが実戦経験を積み、魔物達との戦闘も十分に行えるが、今回同行した三人組はほぼ初心者同然であり、このような場所までむしろよく付いてきたとも言える。実際、この状況下で魔獣の集団に襲われた場合、彼らは足手まといに等しい存在だ(それならば最初から連れてこなければ良いようにも考えたが、今更後悔しても遅い)。

このメンバーで大勢の魔物に襲撃された場合、ヒナ達が三人組を守護するしかないだろう。しかし、ここは世界で最も危険度が高いと言われている放浪島であり、さらに言えばヒナでさえもこの南部地方には足を踏み入れたことが無く、どれほどの魔物が生息しているのかは分からない以上、もしも戦闘に入った場合はヒナ達がこの三人組を守り切れる保証は無い。

仕方なく、今日の捜索はここまでとして怯える三人組のために貴重な転移結晶を使用しようとした時、


ガサガサッ……!!


「ひっ!?」
「な、なんだ!?」
「く、来るなら来やがれぇっ!!」
「落ち着きなって……」


ヒナ達の前方に広がる林が揺れ動き、冒険者三人組は混乱を起こし、中には武器を引き抜く者もいたが彼女は制止し、


「……誰?」


林に向かってヒナが話しかけるが返事は無く、確実に彼女達に向かって移動してくる。仕方なく全員が武装して迎撃しようとした時、



――ウォンッ!!



妙に聞き慣れた「狼」の声が聞こえ、ヒナは呆気に取られていると、すぐに林から白い毛皮で覆われた魔獣が姿を現し、彼女の姿を捉えた瞬間にとことこと接近してくる。


「……ウル?」
「ク~ンク~ン……」


それはフレイと契約を躱し、現在は枯葉の森で留守番しているはずの放浪島の地上の主である「白狼」の子供であり、ヒナの身体に擦り寄ってきた。
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