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ヒナ編
送別会
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使者の報告で第四部隊が集結し、全員が放浪島に向かう準備を終えると、黒猫酒場でバルたちの送別会が行われる。ちなみに聖導教会組とホノカは仕事があるため不参加だが、代わりに都市の復興を手伝っているライオネルとダイアがわざわざ参加してくれた。
全員が机の上で大量の酒類やご馳走を前にして喰らいつく中、ヒナはライオネルと共に向かい合う形で座り込み、
「そうか……あいつは今はいないのか」
「えっと、何か用だった?」
「いや、たいしたことじゃないから気にするな。それにしても……お前の顔はどこかで見覚えがあるような気がするが……」
「どきっ」
ライオネルがこの酒場に立ち寄った理由はレノに会うためだったが、当の本人は現在「ヒナ」として過ごしているため、正体を明かすわけにはいかない。しかし、彼女は以前に地下闘技場でソフィアの姿でライオネルと対決しているため、彼はヒナの顔をじっくりと眺め、訝しげな表情を浮かべる。
「そ、そんな事より、ライオネル……さんはこれからどうするの?いなくなった仲間を探しに行くの?」
「いや、俺は元々一匹狼だ……正確には獅子だが。これからも1人で気ままに旅をする事に変わりはないが、一先ずはこの都市の復興に力を貸そう」
「そうですか」
何気に人の良い性格であり、彼は大樽ごと持ち上げて酒を飲み干す。隣の机にはダイアとゴンゾウが向かい合い、共に語り合っている。
「そうか……試合は俺も見ていたが、もう一度あのダークエルフに挑むってのか」
「ああ……必ず、勝つ」
「その意気だ。俺達巨人族に同じ相手に二度目の敗北はねえ!!……まあ、俺が言えた義理じゃねえが」
「?」
既にレノに二度も負けているダイアは顔を反らすが、ゴンゾウは彼に酒を注ぐと礼を告げ、
「放浪島か……確か、リュウケンの野郎も送り込まれた場所だな」
「リュウケン……?」
「え、リュウケンの事、知ってるの?」
不意に気になる単語を耳にしてヒナが話に割り込むと、ダイアは驚いたように頷き、
「あいつとは長い付き合いだが、別に友達同士ってわけじゃねえ。利害が一致したから一緒に行動していた時期もあったが、気に食わねえ野郎だったな……ケンキの奴はいい奴だったけどよ」
「ケンキ……?」
「ああ、ダンゾウ様の弟のレイゾウさんの息子だ。リュウケンの奴と同じハーフだが……中々にいい奴だったよ」
「……過去形?」
「……あいつは姿を消した。何が不満だったのかは分からねえが……ダンゾウ様の元を離れて旅立ちやがった。くそ、俺も一緒に連れて行けってんだ」
ダイアは不服そうに酒を飲み干し、ゴンゾウたちは顔を見合わせ、彼にも色々と複雑な過去があるらしい。
「な~に、辛気臭い顔をしてるんだい!!ほら、あんた等も飲みな!!」
「そうっすよ!!送別会なんすから、皆で明るくやりましょうよ!!」
酒に酔っぱらったバルとカリナがヒナ達の元へ訪れ、握りしめた酒瓶をがぶ飲みする。あまり飲み過ぎると明日に支障が出るだろうが、どうせ都市の復興で客も集まらい状態なので問題無い。
「……そうだな、タダ酒なんだから飲んどかないと損だな!!」
「よし、店中の酒を持ってこい!!」
「あ、あんた等はうちの子じゃないから代金を払ってね」
「「おいっ!?」」
バルのさり気ない言葉にダイアとライオネルが驚愕の声を上げるが、ヒナはその場を離れてポチ子たちの方に向かう。
「わふわふっ……こ、これは……イヌガミ印のドックフードですね!!」
「……おみやげ」
「何時の間に帰ってきてたのコトミン……」
「……さっき」
大量のドックフードが盛り付けられた皿にポチ子が齧り付き、その隣でコトミが焼き魚を食していたが、ヒナに気付くとぽんぽんと隣の椅子に座るように指示する。
「よっこいっしょっと……随分と時間が掛かったね」
「にゃあっ……」
なでなでと頭を撫でやると、コトミはくすぐったそうに身体を預け、
「……巫女姫様が、帰してくれなかった。仕事ばかりでつまらないって」
「なるほど」
「……これからはずっと一緒」
ごろごろと喉を鳴らしながら擦り寄るコトミを撫でながら、ヒナは自分の左手を確認する。現在は黒衣で左腕の義手を形成しているが、やはり戦闘を行うには不便である。だが、銀の鎖も聖爪も現在は修理中であり、アイリィによればもう少し時間が必要らしい。
代わりに新しい武器を装備する事も考えたが、左手が真面に扱えない以上は右手で扱うしかなく、だからといって唯一魔法を発現できる右手を封じてまで武器を装備する必要性は無く、実はここ最近でヒナの「魔鎧」は「第四段階」にまで到達した。
普段のヒナが発現させる魔鎧はソフィアの時と同様に攻撃型であり、蒼炎を纏わせて攻撃を行えるが、実は最近になって「魔装術(アーツ)」と呼ばれる新しい技術を習得した。
――この魔装術とは自分の肉体以外の物質に魔鎧を纏わせる事であり、握りしめた武器にヒナの蒼炎を纏わせて攻撃を行う事が出来るようになった。但し、リノンのように刀身の部分にだけ炎を纏わせる事は不可能であり、武器全体に炎を包み込む形になる。
専門家のレグによればヒナの「蒼炎」の能力は高熱を帯びる事であり、今のヒナの魔鎧ならばゴーレムが相手だろうと溶解させる事が可能らしい。しかし、レノやソフィアの状態と違って魔鎧の発動時間は1日に「20分間」に限定されてしまい、使い道を誤れば魔力枯渇を起こしてしまう。
カラドボルグが所持していない現状では、これまでのような無茶な行為は行えず、アイリィからも厳重に注意されている。元の姿に戻るまで最低でもあと半月は必要であり、この状態で戦闘を行うこと自体が危険なのだが、王国側からフェンリルの調査依頼を受けた以上、大人しく待機しているわけいにはいかない。
(武器を使うなら……やっぱり、ナイフか鍵爪かな)
ヒナは以前に剣を装備したこともあるが、アイリィによれば剣の才能は無いとの事。それにどれだけ鍛錬をしたところで、ヒナはリノン達のような達人の領域までは至れない。その代わり、ナイフなどの短刀は盗賊時代に仕込まれており、鍵爪に関してはそれなりに自信はある。弓矢も北部山岳時代では愛用していたため、それなりに自信はある。
一応は闘人都市の武具店を尋ねてみたが、現在の都市の殆どは半壊しているため、店その物が経営していなかった。そのため、アイリィにこの事を相談すると、明日の朝一番に彼女からの「贈り物」が届く手筈だった。
全員が机の上で大量の酒類やご馳走を前にして喰らいつく中、ヒナはライオネルと共に向かい合う形で座り込み、
「そうか……あいつは今はいないのか」
「えっと、何か用だった?」
「いや、たいしたことじゃないから気にするな。それにしても……お前の顔はどこかで見覚えがあるような気がするが……」
「どきっ」
ライオネルがこの酒場に立ち寄った理由はレノに会うためだったが、当の本人は現在「ヒナ」として過ごしているため、正体を明かすわけにはいかない。しかし、彼女は以前に地下闘技場でソフィアの姿でライオネルと対決しているため、彼はヒナの顔をじっくりと眺め、訝しげな表情を浮かべる。
「そ、そんな事より、ライオネル……さんはこれからどうするの?いなくなった仲間を探しに行くの?」
「いや、俺は元々一匹狼だ……正確には獅子だが。これからも1人で気ままに旅をする事に変わりはないが、一先ずはこの都市の復興に力を貸そう」
「そうですか」
何気に人の良い性格であり、彼は大樽ごと持ち上げて酒を飲み干す。隣の机にはダイアとゴンゾウが向かい合い、共に語り合っている。
「そうか……試合は俺も見ていたが、もう一度あのダークエルフに挑むってのか」
「ああ……必ず、勝つ」
「その意気だ。俺達巨人族に同じ相手に二度目の敗北はねえ!!……まあ、俺が言えた義理じゃねえが」
「?」
既にレノに二度も負けているダイアは顔を反らすが、ゴンゾウは彼に酒を注ぐと礼を告げ、
「放浪島か……確か、リュウケンの野郎も送り込まれた場所だな」
「リュウケン……?」
「え、リュウケンの事、知ってるの?」
不意に気になる単語を耳にしてヒナが話に割り込むと、ダイアは驚いたように頷き、
「あいつとは長い付き合いだが、別に友達同士ってわけじゃねえ。利害が一致したから一緒に行動していた時期もあったが、気に食わねえ野郎だったな……ケンキの奴はいい奴だったけどよ」
「ケンキ……?」
「ああ、ダンゾウ様の弟のレイゾウさんの息子だ。リュウケンの奴と同じハーフだが……中々にいい奴だったよ」
「……過去形?」
「……あいつは姿を消した。何が不満だったのかは分からねえが……ダンゾウ様の元を離れて旅立ちやがった。くそ、俺も一緒に連れて行けってんだ」
ダイアは不服そうに酒を飲み干し、ゴンゾウたちは顔を見合わせ、彼にも色々と複雑な過去があるらしい。
「な~に、辛気臭い顔をしてるんだい!!ほら、あんた等も飲みな!!」
「そうっすよ!!送別会なんすから、皆で明るくやりましょうよ!!」
酒に酔っぱらったバルとカリナがヒナ達の元へ訪れ、握りしめた酒瓶をがぶ飲みする。あまり飲み過ぎると明日に支障が出るだろうが、どうせ都市の復興で客も集まらい状態なので問題無い。
「……そうだな、タダ酒なんだから飲んどかないと損だな!!」
「よし、店中の酒を持ってこい!!」
「あ、あんた等はうちの子じゃないから代金を払ってね」
「「おいっ!?」」
バルのさり気ない言葉にダイアとライオネルが驚愕の声を上げるが、ヒナはその場を離れてポチ子たちの方に向かう。
「わふわふっ……こ、これは……イヌガミ印のドックフードですね!!」
「……おみやげ」
「何時の間に帰ってきてたのコトミン……」
「……さっき」
大量のドックフードが盛り付けられた皿にポチ子が齧り付き、その隣でコトミが焼き魚を食していたが、ヒナに気付くとぽんぽんと隣の椅子に座るように指示する。
「よっこいっしょっと……随分と時間が掛かったね」
「にゃあっ……」
なでなでと頭を撫でやると、コトミはくすぐったそうに身体を預け、
「……巫女姫様が、帰してくれなかった。仕事ばかりでつまらないって」
「なるほど」
「……これからはずっと一緒」
ごろごろと喉を鳴らしながら擦り寄るコトミを撫でながら、ヒナは自分の左手を確認する。現在は黒衣で左腕の義手を形成しているが、やはり戦闘を行うには不便である。だが、銀の鎖も聖爪も現在は修理中であり、アイリィによればもう少し時間が必要らしい。
代わりに新しい武器を装備する事も考えたが、左手が真面に扱えない以上は右手で扱うしかなく、だからといって唯一魔法を発現できる右手を封じてまで武器を装備する必要性は無く、実はここ最近でヒナの「魔鎧」は「第四段階」にまで到達した。
普段のヒナが発現させる魔鎧はソフィアの時と同様に攻撃型であり、蒼炎を纏わせて攻撃を行えるが、実は最近になって「魔装術(アーツ)」と呼ばれる新しい技術を習得した。
――この魔装術とは自分の肉体以外の物質に魔鎧を纏わせる事であり、握りしめた武器にヒナの蒼炎を纏わせて攻撃を行う事が出来るようになった。但し、リノンのように刀身の部分にだけ炎を纏わせる事は不可能であり、武器全体に炎を包み込む形になる。
専門家のレグによればヒナの「蒼炎」の能力は高熱を帯びる事であり、今のヒナの魔鎧ならばゴーレムが相手だろうと溶解させる事が可能らしい。しかし、レノやソフィアの状態と違って魔鎧の発動時間は1日に「20分間」に限定されてしまい、使い道を誤れば魔力枯渇を起こしてしまう。
カラドボルグが所持していない現状では、これまでのような無茶な行為は行えず、アイリィからも厳重に注意されている。元の姿に戻るまで最低でもあと半月は必要であり、この状態で戦闘を行うこと自体が危険なのだが、王国側からフェンリルの調査依頼を受けた以上、大人しく待機しているわけいにはいかない。
(武器を使うなら……やっぱり、ナイフか鍵爪かな)
ヒナは以前に剣を装備したこともあるが、アイリィによれば剣の才能は無いとの事。それにどれだけ鍛錬をしたところで、ヒナはリノン達のような達人の領域までは至れない。その代わり、ナイフなどの短刀は盗賊時代に仕込まれており、鍵爪に関してはそれなりに自信はある。弓矢も北部山岳時代では愛用していたため、それなりに自信はある。
一応は闘人都市の武具店を尋ねてみたが、現在の都市の殆どは半壊しているため、店その物が経営していなかった。そのため、アイリィにこの事を相談すると、明日の朝一番に彼女からの「贈り物」が届く手筈だった。
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