種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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ヒナ編

不正発覚

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――決闘は杖を破壊した事でリオがこれ以上の戦闘は不可能と判断され、結果としてアルトの勝利となり、敗北した彼女は何故かすっきりとした表情で頷くと、彼に深く頭を下げる。


「完敗ですわ……まさか、あのような奥の手を隠してなさるなんて……」
「いや……正直に言えばぎりぎりだったよ。もう一度戦えば、今度はリオが勝つだろうね」
「ふふっ……ご謙遜を」


決闘を終えた事で2人の蟠りが溶けたのか、両者ともに笑顔で話し合いを始め、騎士達はその光景に微笑み、リオを支援している大臣たちが苦虫を潰したような表情を浮かべる。

すぐに大将軍に事の顛末を見届けるように申し付けられていた熟練の騎士達が動き、彼等は決闘場の調査を行い、一部の大臣たちがその光景に顔色を青くする。慌ててその場を立ち去ろうとする者が続出するが、既に決闘場には無数の兵士に囲まれており、誰も逃さないとばかりに武器を構えていた。


「これは……やはり、そう言う事か」
「アルト様、この決闘場内の魔方陣の術式が組み替えられています。恐らく、アルト様に対してだけ魔力吸収の効果を発揮していたと」
「え!?」
「そうか……」


騎士達の報告にリオは驚愕し、アルトは納得したように頷く。明らかに決闘の際に彼女が使用していた魔法の出力は凄まじく、どう考えても魔力吸収の魔方陣の影響を受けていたとは思えない。

リオは動揺したように決闘状に視線を向け、おろおろと周囲の大臣達に視線を向ける。この反応から察するに、どうやら彼女自身も自分に対して魔方陣が効果を発揮していなかった事に気付いていなかったようであり、自分の実力で魔方陣の力を跳ね除けていたと本気で信じ込んでいたようだ。

だが、実際にこの魔方陣の上で最大出力で魔法を使用できるとしたら、ヒナのような魔力容量が桁違いに高い種族だけであり、もしもヒナがこの魔方陣が刻み込まれた決闘場で戦闘を行った場合、いつも通りに魔法を発現できるだろう(魔力消費量が数倍になるだろうが)。


「専門家に調べさせないと詳細は分かりませんが……調査の結果次第、何時頃から魔方陣が組み替えられていたのか特定できるでしょう。それにこの魔方陣の仕組みを理解している者は城内にはそれほどいません。すぐに犯人は見つかるかと……」
「だろうな……まあ、仕組んだ輩の見当はつくが」
「ひっ!?」
「わ、我々は……」


アルトが一部の大臣達に視線を向けると、彼らは怯えた様に後退り、恐らくはリオが王位を継ぐことを支持する者達であり、この決闘を彼女に勝利させるために事前に仕組んでいたのだろう。

彼等が魔方陣に細工を仕掛けたのは間違いないが、この場所で問いただす事は出来ない。明確な証拠が発見されていない以上、この件は王国の騎士達に任せるしかない。


「お、お兄様は魔方陣の負荷を受けながらも、決闘を続けていたのですか?」
「まあ、そうなるかな」
「な、何故そのような事を!?最初の時点で気付いていたのなら、審判に申し付ければ良かったのではないですか!?」
「……言えば君は信じてくれたかい?」
「そ、それは……」


仮にアルトが決闘中に魔方陣の事を申付けたとしても、リオはその事を信じるとは思えず、攻撃を続行するだろう。


「あの状況で撲が出来る事は、短期決戦の覚悟で勝負を終わらせる事だ。一か八かの賭けだったが……上手く行ってほっとしているよ」
「そ、そんな……私は魔方陣で弱ったお兄様を相手に戦っていたなんて……」
「それは違う。確かに僕は魔力吸収という負担を負っていたが、それでも全力で君と戦った。結果としては今回は僕の勝利だが、もう一度同じ条件で戦えば君が勝つだろうけどね」
「……慰めはいりませんわ」


リオは深いため息を吐き、不意におどおどとした態度を取る大臣たちに視線を向け、


「貴方達が仕掛けましたのね……そんなにも、私に王位を継いでほしいのですか!!」
「り、リオ様……」
「もういいですわ!!今から、お祖父様の所に赴き、王位継承権を辞退しますわ!!」
「そ、そんな!?」
「お待ちください!!リオ様!!」


彼女は怒り狂ったようにずんずんと歩みだし、複数の大臣たちが後を追おうとするが、取り囲む兵士たちがそれを阻止し、彼女はその場を後にした。アルトも慌てて彼女を引き止めようとしたが、寸前でレノが彼の肩を掴み、


「あの子がそう決めたのなら、止めるべきじゃないと思う」
「し、しかし……」
「まあ、私には王国内での立場とかは良く分からないけどさ、それでもリオは王位に関しては本当に興味が無いし、これ以上に権力争いに巻き込むのは駄目だと思う」
「だが……僕とて戦場に赴く以上、いつ死ぬかは分からない状況に陥る事も決して少なくは無い。もしも、僕に何が合った時に他の王位継承者が居なければこの国は……」
「言いたいことは分かるけどさ、リオ自身がいい加減に王様とちゃんと話し合う機会が必要じゃないかな」
「そ、そうか……ところで気になっていたんだが、ヒナはリオの事を知っているのか?」
「前に護衛に誘われた」
「そうなのか!?」


以前にヒナがカゲマルから聞いた話から判断する限り、バルトロス13世は常に多忙であり、リオと真面に会話を行う機会はほとんどない。だが、正確にはやっとの事で再会が出来た孫娘とどのように接すればいいのか分からず、彼の方から邂逅を拒んでいる節がある。

だがらこそ、リオがある程度の我儘を告げても国王は今まで黙認しており、直接咎めるような真似はしなかった。だが、流石に彼女を本当に王位継承者の1人として考えているのならば、いい加減に直接対面して話し合う場を設けるべきだろう。


「だが、国王様は森人族との交渉でこの城には本当にいないんだ。もしも、リオが国王の後を追ってしまったら……」
「カゲマルがいるから平気だって、多分」


先ほどリオが出て行ったあと、何時の間にかカゲマルの姿も消えており、どうやら彼女の後を追って行ったのは間違いなく、リオが暴走すればカゲマルが抑えてくれるだろう。


「なあヒナ……そろそろアルトを回復させたらどうだ?」
「あ、そうだった」
「え……おおっ!?」


ボウッ……!!


ヒナはアルトの掌を掴み上げると、彼に「魔力供給」を行い、数秒ほどでアルトは自分の身体に暖かな魔力が満ち溢れたことを実感する。彼は驚いた表情を浮かべ、よくよく考えれば彼はヒナの魔力供給を受けたのは初めてかもしれない。


「これは……凄いな」
「おおっ……」
「他者に魔力を送り込む技術……まるで聖属性の治癒魔法と似通ってますね」
「わぅんっ!!ヒナさんは凄いんです!!」
「流石だな」
「何時からいたんだ君たち」


何時の間にかアルトとヒナの周りにはリノンたちが集合しており、すぐに全員がこの王城に呼び出された本来の理由のために移動を開始する。この場は騎士達に任せ、アルトが先行してバルトロス王国の転移魔方陣から聖導教会へ向かおうとした時、



「――た、大変です!!」



唐突に裏庭に1人の兵士が駆け込み、アルトの姿を確認すると慌てて彼の元へ跪き、ヒナ達は顔を見合わせる。


「どうした?何が起きたのか?」
「そ、それが……この王城内に、あの御方が……!!」
「お、おい……少し落ち着いて……」


慌てふためきながら報告を行おうとする兵士にリノンが落ち着かせようとするが、次の彼の言葉に全員が硬直する。


「森人族の代表、レフィーア様が転移の門から訪れました!!」
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