種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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ヒナ編

側室

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「ミ、ミカ……何で王城に……!?」
「私も呼ばれたんですよ!今回の件で、あの自己中お馬鹿がいなくなったから、私が代わりに王城の警護に回されたんです!!」
「そ、そうか……その恰好は?」
「あ、言い忘れてましたけど私最近になってあのお婆さん……じゃなくて、聖天魔導士のセンリさんに弟子入りしたので」
「「えぇええええええっ!?」」


ミカの「弟子入り」発言に全員が驚愕する中、ヒナだけは納得したように掌をぽんと叩き、センリに以前に「転移魔方陣(スター・ゲート)」を教えて貰う際、彼女がレノに向けて「もう1人とは大違いですね」と深いため息と共に呟いていたことを思い出す。

疑問を抱き、ヨウカにそれとなく尋ねると最近になってセンリが新しい弟子を作ったと聞いており、毎日のように訪れては彼女に魔法の教えを乞いているという。その相手がまさかミカだとは思いもしなかったが。


「……あ、えっと確か……シノンさん?」
「いや、リノンですけど……」


アルトに抱き付きながらミカはリノンの存在に気が付き、明らかに敵意を向けてくるが、彼女は気付いた様子も無く普通に否定する。ミカは他の面子も確認し、初めて見るヒナに訝しげに視線を向けると、


「あ、えっと……どちら様でしたっけ?」
「ヒナです。新入りです」
「ああ、なるほど……1つ気になる事があるんですが、アルト様とはどういうご関係で?」
「関係……」


改まってアルトとの関係性を尋ねられると、ヒナとしては非常に答えにくい。彼とは学園都市の頃からの中だが、特に幼馴染や友達と言えるほどの親しい間柄ではなく、かと言って他人とも言えない。強いて言うならば同じ騎士団の同僚だが、ここは仲間という表現が一番だろう。

だが、どうもミカが尋ねたいのは2人の具体的な関係のようであり、仲間と答えるだけでは納得してくれないかもしれない。ならば、ヒナは素直彼に対して抱いている気持ちを告げればいいと判断した。


「えっと……宿敵(ライバル)扱いされて困ってるかな」
「ライバル!?」
「らいば……?」


どうやら「ライバル」の意味が通じなかったのかアルトは首を傾げるが、ミカは訝しげに視線を向けながらも、


「ま、まあいいです。アルト様を狙わないのなら、私も何も言いません」
「あ、大丈夫。それは絶対にないから」
「そ、そうですか」


ぶんぶんと手首を振りながらあっさり否定すると、ミカは拍子抜けしたように肩の力を抜き、改めて自分の自己紹介を行う。


「初めまして、元勇者のミカです。今は聖導教会で修業中ですが、いずれはアルト様の側室になるために頑張っています」
「み、ミカ!!だからその件は……!?」
「ああ、これはどうも……え、側室……?」


握手を求められてヒナはそれに応じると、すぐに彼女が今しがたとんでもない発言をした事に気付き、説明を求めるようにアルトに視線を向けると、彼は頭を抑えながらどう説明するか思い悩む。


「……ヒナ殿ヒナ殿」


後ろから声を掛けられ、振り返るとカゲマルが何時の間にか接近しており、ヒナの耳元に口を近づけ、


「実はミカ殿は先日の聖導教会の件以来、ずっとアルト殿にお熱でござる。前々から顔が良い男性には自分から近づいていたでござるが、今回は本気なのかアルト殿の力になるために真面目に仕事に取組み、勇者という身分を捨ててまで聖導教会の聖天魔導士殿に弟子入りを志願したようでござる」
「へえ……」
「まあ、魔法の訓練の際に詠唱を最後まで覚えきれかったり、暴発させて建物を崩壊させたりなど、色々と仕出かしているようでござるが……」
「マジで?」


勇者であるミカはこの世界の魔法使いと違い、彼女達だけに得られるステータスという加護の力で魔法を習得している。このステータスは魔物との戦闘によって経験値を蓄積させることでレベルが上昇し、自動的に魔法(スキル)を覚えられる仕組みだった。

また、全ての勇者は魔法(スキル)を扱う際は常に「無詠唱」であり、使用したい魔法名を口にするだけで魔法を発現できる。だが、逆に言えば彼らは魔法名を口にしなければ魔法その物を発現できず、口を封じられた場合は当然魔法を扱えない。

この世界の魔術師は基本的に「詠唱」を行い魔法を発現させるが、中にはレノのように膨大な魔力を所持する者は「無詠唱」で魔法が使用可能であり、さらに極一部の熟練の魔術師は「完全無詠唱」と呼ばれる魔法名さえ口にせずに魔法を生み出せる者もいる(レノの瞬脚もこれに含まれる)。

「無詠唱」と「完全無詠唱」の違いは、例えるならレノが無詠唱で魔法を発現させる際、まずは相手の居場所を認識し、掌を向けて魔法名と口にする事で魔法が発現する。だが、完全無詠唱の場合は掌を相手に向けた途端、レノが意識を向けた直後に魔法を発現できるようになる。分かりやすく言えば「魔法名を詠唱」という手順を1つ抜いて攻撃が可能となる。

だが、勇者であるミカの場合はレベルによって彼女が習得した魔法は全て無詠唱魔法としてしか扱えず、どれほどの鍛錬を積もうと完全無詠唱は習得出来ないらしい。


「けど、側室がどうのってどういう事?」
「拙者も直に見た訳ではないでござるが……大分前からミカ殿はアルト殿に告白してるでござるよ。しかし、知っての通りアルト殿は既にその……ある方にご執心でござるから、毎度の如く断っているでござる」
「だろうね」
「けど、それでもミカ殿は諦めずに告白し続け、つい先日、様子がおかしかった頃のアルト殿にこう言われたでござる……『弱い女に興味は抱かない。もう少し強くなれば、側室なら考えないでもない』と」
「「うわぁっ……」」


話を聞いていた全員がアルトから距離を取り、慌てて彼は否定するように「違うんだ!!」と叫ぶ。


「あの時の僕はどうかしてたんだ!!あの任務の時以来、自分でも何を言っているのか理解できない時があったんだ!!」
「言い訳がましいな……」
「わうっ……アルトさん」
「幾ら何でもこれは……」
「……アルト」


ゴンゾウが黙って彼に歩み寄り、アルトの肩を掴むと、


「責任は取れ」
「だから、違うんだ!?」
「アルト様!!私、もっともっと強くなりますから!!その時はよろしくお願いします!!」


深々とミカは頭を下げると、そのまま扉を押し開き、部屋を後にする。慌てて彼は彼女を引き止めようとしたが、既に扉を締め切った後だった。


「ああ……何故、こんな事に」
「まあ……頑張れ」


アルトが例の「リーリス」の分身に精神を支配され、正常な判断を下せなかったのは事実だが、それを知っているのはレノだけであり、彼に同情をしながらも、いい加減に話を進める。


「それで?どうやって私達は聖導教会の総本部に戻るの?」
「あ、ああ……僕たちは特別に王国の転移魔方陣から移動できる。既に許可は取ってあるから、先に……」



バタァンッ!!



アルトが言葉を言い終える前に再び扉が派手に開かれ、今度は何事かと全員が視線を向けると、そこには意外な人物が立っていた。



「――アルトお兄様!!」



扉からは1人の金髪ドリルの少女が現れ、以前にレノが一度だけ合ったことがある相手であり、アルトに次ぐ「王国第二位継承権」を持ち、そして血筋を辿れば彼女こそが本来のバルトロス王国の継承者に相応しいとも言える。

バルトロス13世の孫娘であるリオは力強く歩み寄り、そして困惑しているアルトの前に立つと、




「――貴方に決闘を申し込みますわ!!」
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