種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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ヒナ編

今後の課題

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「……お帰り」
「ただいま……本当にいたよ」
「?」


皆と共に噴水広場から黒猫酒場に戻って早々、頭部に漫画のようなたんこぶを作ったコトミが出迎え、隣には頭を抑えたバルが立っていた。


「……な、何があったんですか?」
「その、あんた達が行ってから少し経った後、あたし達も心配だったからこっそり見に行こうとしたんだけどさ……その前にヒナの部屋を通りがかったときに人の気配を感じたから中に入ってみれば」
「猫の姐さんが普通にお昼寝してたっす」
「はあっ……なるほど」
「……いきなり怒られた」


コトミは不満そうな表情を浮かべるが、ヒナ達としては彼女が連れ去られたと思って心配していたため、一応は戻ってきたことに安堵する。とりあえずは彼女の頭を撫でやろうとし、たんこぶが邪魔で撫でられない事に気付く。


「この腫れ方……バルの必殺拳か」
「そんなたいそうなもんじゃないけど、しばらくは痛みは残るよ」
「……痛い」


自分の魔法では自分自身を回復できないため、痛そうにたんこぶを抑えるコトミだが、すぐにヒナの方に視線を向け、


「……誰?」
「ああ、そこから説明しないといけないのか……あれ、さっきいなかったっけ?」



――手短に彼女に事情を話すと、とりあえずは納得してくれ、すぐに酒場に全員が集結して今後の事の話し合いが始まった。



「とりあえず、王国側はこの都市の復興に支援を行う事を決定したが、問題は山積みだ……他の種族に関しては一度自分の領地に戻り、ロスト・ナンバーズの対策のために防備を見直す事が決まった」
「獣人族の獣王と巨人族のダンゾウ殿は……?」
「2人とも重傷で聖導教会の方でしばらくは入院する事になります。ですが、獣王さんは既に意識を取り戻しましたが、ダンゾウさんに関しては……正直、意識が目覚めるか分からない状態です」
「…………そうか」


ダンゾウが危篤状態にあるという言葉にゴンゾウは何か言いたげだが、黙って話を聞く。彼としても実の父親であるダンゾウの事が気にかかっているのは事実だが、今の自分にはどうしようも出来ない事は良く理解している。

ヒナ達はそんな彼にどう声を掛ければいいのか分からず、とりあえずは話を変えようとアルトに視線を向けると、


「そう言えばあんた……さり気なく混じってるけど、何でここにいるんだい?」
「ミラー・クリスタルに映ってた、大会で兄貴派手に敗れた人っすね」
「ぐっ……そ、その通りだ」


バルとカリナにちくちくと痛いところを突かれ、彼は深呼吸をして落ち着きながらも、


「僕がここに来たのは、この酒場に集まっている皆を呼び寄せるために来たんだ……テンペスト騎士団のジャンヌ団長、並びに副団長のリノン、第四部隊所属のポチ子、ゴンゾウ、そしてレノ……ヒナを王国に呼び寄せるために戻ってきた」
「テンペスト騎士団?」
「あの兄貴が所属している騎士団の事っすか?」


忘れがちだが、リノン達はバルトロス王国に仕えるテンペスト騎士団に所属しており、アルトも王子でありながら副団長の地位に点いている。


「テンペスト騎士団は一度王国の城塞都市に集結し、騎士団の訓練場にて待機が命じられている。僕は君たちの迎えに来たんだが……」
「そうでしたか……しかし、この状態の闘人都市を放って私達だけが王国に戻るというのは……」


ジャンヌ達としては闘人都市の復興の協力するために残りたいところだが、アルトは首を振り、


「……そうも言っていられない。ロスト・ナンバーズがこれほどの力を持つ以上、対策を取るためにも戦力を集結させて作戦を立てなければならない……この都市にも一応は大量の兵士を配置する手筈だが……」
「別にあんた達の手なんかいらないよ。ここは冒険者の国だからね」


この闘人都市は表向きは王国の管理下だが、実際は数多くの冒険者が作り上げた都市であり、無数の種族が入り乱れて住んでいる。「人間」「巨人」「獣人」の三種族が協力の下で造りだした都市だからこそ、種族間の対立は他の地域と比べて緩和している。


「この都市に関してはあんまり気にしなくていいよ。時間はかかるけど、あたし達だけで何とかなるさ」
「実際、被害の割には結構な人数が生き残れましたからね。もう復興作業に入っている人もいるみたいっすよ」


カリナが罅割れた窓を指差すと、そこには破壊された建物の瓦礫を運び込む巨人族の姿があり、彼等の力を借りれば崩壊した建物の撤去作業も進むだろう。


「こっちの事はあんまり心配しないでいいよ。あたしたちの都市はあたし達だけで何とかするさ」
「そうっすよ!!兄貴……あ、今は姉貴っすね、姉貴達も気にせずに仕事に集中してください!!」


ビシッ!と親指を向けてくるバルとカリナに全員が顔を見合わせ、確かに彼女達の言う通り、冒険者で構成されていると言っても過言ではない。この闘人都市は他の都市にはない「逞しさ」が存在し、これならば本当にヒナ達の支援は必要ないかも知れない。


「……ヨウカ様、我々も一度聖導教会の方に戻りましょう。我々としてもロスト・ナンバーズの対策を行う必要があります」
「え、で、でも……」
「大丈夫ですよ巫女姫様!!私と、ワルキューレ騎士団もこの都市に残りますよ!!怪我の治療には不得手な奴等ばっかですけど、あんなクズやろう共には遅れは取りませんから!!」


テンが頼もしく胸元を叩き、彼女はどうやら他の団員たちと共にこの都市の警護のために残るらしく、センリもそれに賛同するように頷く。バルとカリナは平気だとばかりに視線を向けるが、ロスト・ナンバーズが剣乱武闘の闘技場に存在する聖遺物を狙い、この場所に戻ってくる事は確実であり、最低限の戦力を残さなければならない。


「あの……私達はどうしたらいいんだ?」
「私は……?」
「あ、いたんですか貴方達」
「ウォンッ!!」


フレイとカイが自分たちを指差し、忘れるなとばかりにウルが鳴き声をあげ、彼女達の前にはアイリィが歩み寄ってヒナに頷く。一応はムメイの伝言を枯葉の森で待っているムミョウに伝える事を頼んでおり、現在は魔法が扱えないヒナの変わりにアイリィが彼女達を枯葉の森まで誘導してくれる事を約束してくれた。


「貴方達は私が送り届けますよ。役に立つのかどうか分からないフレイさんはともかく、カイさんとウルさんは頼りにしてますよ~」
「どういう意味だ!?私はそれなりに腕は立つぞ!!」
「どれだけ腕が立とうと、肝心な時に役立たないなら意味ないって事ですよ。ほら、行きますよ」
「は、はい!!」
「ウォンッ!!」


憤るフレイを軽く流しながら、アイリィはカイとウルを連れて酒場の外に移動し、扉を開く直前に思い出したように振り返り、


「あ、そうそう。ヒナさんにはこれを渡しておきますね」
「えっ……わっと」


唐突に彼女が懐から掌大の赤色の魔水晶を取り出し、ヒナに投げ渡す。慌ててそれを受け止めると、かなり昔だが学園都市でクズキに受け取った特別な魔石を想像させる色合いであり、


「その状態でも魔鎧は使えますよね?でも、それ以外の魔法が使えないのは不便そうなんで、それを体内に埋め込めばいつでも私と念話が出来るようになりますから。でも、あんまり遠いと通じないのが難点ですけど」
「へえ……」
「あと一応、銀の鎖と聖爪の変わりにこれも渡して置きますね」


そう告げると、アイリィは今度は自分の右耳に取り付けた銀色の「ピアス」を外し、再びヒナに向けて投げ渡す。何とかそれも掴み取ると、まるで羽根のような重量に若干驚きを隠せない。


「それは私専用の魔道具(マジック・アイテム)です。耳に取り付ければ、魔力を抑える役割を持ってますから」


最後にそれだけを告げると、今度こそ彼女はフレイたちを連れて酒場の外に移動し、全員がそれを見送る。


「……それじゃあ、僕たちも戻ろう。王国へ」


アルトの言葉にリノン達が頷き、ヒナも「王城」が存在する「城塞都市」へ戻る事を決意した。
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