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剣乱武闘編
影が薄い
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レノはリノンと共に大会側の兵士に地下通路の異変を伝えたが、シャドウの件に関しては伏せる。彼の死体は無く、さらに言えばホムラが殺害した証拠も無いため、ここで騒いだところで怪しまれるのは彼等の方である。
一応は大会側も地下通路を調べる事は約束したが、今現在も選手たちの試合は続行されているため、内密に通路内の異変を取り除く作業が行われる。松明が消された通路にはすぐに新しい灯りが用意され、シャドウが仕込んだと思われる死人の遺体は全て回収され、教会側に浄化を頼む。
地面に散らばった人型の灰に関しても回収されたが、このような状態では何も情報は得られず、共に教会側に送られて埋葬される手筈である。一応の事情聴取を受けた2人が解放されるときには、既に試合は「第18試合」のポチ子の番まで回っていた(既にレミアとジャンヌの試合は終了しており、両者ともに相手を瞬殺したという)。
『――それでは試合開始~』
『なんかだらけてない?』
『同じことを32回も言い続けるのは一種の拷問ですよ……やばっ、マイク入ってました』
いい加減に素が出てきたラビット(アイリィ)に対し、またもやアクアが隣で実況を行い、その間にも試合が始められる。
「わぅんっ!!」
「気が抜ける掛け声だな……ふんっ!!」
試合場にはテンペスト騎士団の服装ではなく、冒険者時代の服に着替えたポチ子が双剣を構え、相手はレノも良く知っている巨人族の男だった。
過去二回戦闘を経験しており、一度目は地下闘技場の一回戦目の相手として、二度目は盗賊に成り下がり、ハイ・ゴブリンの住処を強襲した相手であり、現在は真面目に炭鉱で働いているはずだが、彼も大会に参加していたらしい。名前は記憶が確かならばダイアという巨人族のはず。
「あのおっさん、参加してたのか……」
「知り合いなのか?」
「まあね……」
ダイアはナックルを両手に装備し、拳を合わせると駆けてくるポチ子に構える。
「犬牙流……一の太刀!!」
「むっ!?」
ダァンッ!!
レノの瞬脚を想像させる跳躍を行い、ポチ子は双剣を構え、ダイアに向けて飛びかかる。彼はあまりの速度に反応しきれず、両腕を交差させて防ごうとするが、
「せいりゃあっ!!」
「ごふっ!?」
剣で斬りつけるのではなく、ダイアのがら空きの腹部にドロップキックを放ち、そのまま彼を土台に跳躍して回転しながら着地する。獣人族ならではの身軽さであり、並の人間とは比べ物にならない身体能力だ。
「ぐふっ……ど、何処が太刀だ!!」
「レノさんが言ってました……戦いとはどんな手段を用いてでも負けない事、時には誇りを捨てて騙し手を使えと!!」
「そ、そうか……確かに間違っちゃいねえが……」
ポチ子の言葉にダイアは何故か納得し、観客席で特に耳が良いバルがレノに顔を向け、
「あんた……あの犬っ娘にそんな事教えていたのかい?」
「お前が最初に教えた事だろ」
「そう言えばそうだったね」
「えっと……あの2人は何を喋っているの?」
「僕たちには聞こえないな……こういう時は君たちが羨ましい」
人間であるヨウカ達には会話の内容までは聞こえず、リノンは肉体強化を行う事で聴覚を強化させる事は出来るが、それでも素で会話を聞き取れるレノ達と比べると高い集中力が必要とする。
「にしても……あの子が犬牙流の使い手とはね。30年の歴史を誇る獣人族特有の剣術の使い手とは……」
「なにその浅い歴史の剣法。というか、知ってるのかバル」
「あたしも習おうとしたけど、犬耳じゃないと駄目らしくてね」
「そんな理由で?ていうか、あんた滅多に武器なんか使わないだろ」
「特定の武器は使わないだけさ、周囲にある物を利用して武器にするだけさ」
「まるで忍者のような戦い方だな……」
「呼んだでござるか?」
「あんたじゃないよ……というかいたのかいあんた?影が薄いから分からなかったよ」
「酷いでござる!?」
何時の間にかバルの隣にはカゲマルが座り込んでおり、いつもの黒装束では目立つため、全身を白いローブで覆っている。そちらの方がある意味目立つように思えるが、不自然なまでに周囲の雰囲気に溶け込んでいる。
「行けポチ子!!ゴンゾウの分も私達が頑張るんだ!!」
「わふっ!!」
「うおっ!?」
リノンの声援に反応し、ポチ子の動きが素早くなり、力でダイアに劣る分、身軽さで対抗する。
――ゴンゾウはホムラとの試合で重傷を負うが、すぐにアクアが応急処置を施し、救護室に運ばれた後は巫女姫のヨウカが治療を行い、何とか意識を取り戻す。心臓を握り締められたことで後遺症が無いのか心配だったが、ヨウカの強力の魔法によって損傷は完治した。
巫女姫であるヨウカの魔法は特殊な力を帯びており、普通の教会の人間が扱う聖属性少し勝手が違う。教会の魔導士治療法は魔力(生命エネルギー)を相手の体内に直接送り込み、自然治癒力を高める方法を取るのが一般的だが、彼女の場合は異なる。
ヨウカの場合は自分の魔力を「生命エネルギー」として相手の体内に送り込む所までは一緒だが、彼女の魔力は相手の体内に入り込んだ瞬間に身体全体に流れ込み、身体の悪い個所を全て治癒するのだ。
その効果は凄まじく、本来なら回復魔法では治療できない病気の類もヨウカの手に掛かればある程度の症状は治療可能である(但し、彼女自身にも大きな負担が掛かるし、重病患者は治せない)。
「たあぁっ!!わふっ、わぅんっ!!」
「だから、その、気の抜ける声はやめろ!!」
ガキィイインッ!!
――ウワァアアアアッ!!
ポチ子の双剣とダイアのナックルが衝突し、金属音が鳴り響く。その光景に観客達が湧き上がった。
一応は大会側も地下通路を調べる事は約束したが、今現在も選手たちの試合は続行されているため、内密に通路内の異変を取り除く作業が行われる。松明が消された通路にはすぐに新しい灯りが用意され、シャドウが仕込んだと思われる死人の遺体は全て回収され、教会側に浄化を頼む。
地面に散らばった人型の灰に関しても回収されたが、このような状態では何も情報は得られず、共に教会側に送られて埋葬される手筈である。一応の事情聴取を受けた2人が解放されるときには、既に試合は「第18試合」のポチ子の番まで回っていた(既にレミアとジャンヌの試合は終了しており、両者ともに相手を瞬殺したという)。
『――それでは試合開始~』
『なんかだらけてない?』
『同じことを32回も言い続けるのは一種の拷問ですよ……やばっ、マイク入ってました』
いい加減に素が出てきたラビット(アイリィ)に対し、またもやアクアが隣で実況を行い、その間にも試合が始められる。
「わぅんっ!!」
「気が抜ける掛け声だな……ふんっ!!」
試合場にはテンペスト騎士団の服装ではなく、冒険者時代の服に着替えたポチ子が双剣を構え、相手はレノも良く知っている巨人族の男だった。
過去二回戦闘を経験しており、一度目は地下闘技場の一回戦目の相手として、二度目は盗賊に成り下がり、ハイ・ゴブリンの住処を強襲した相手であり、現在は真面目に炭鉱で働いているはずだが、彼も大会に参加していたらしい。名前は記憶が確かならばダイアという巨人族のはず。
「あのおっさん、参加してたのか……」
「知り合いなのか?」
「まあね……」
ダイアはナックルを両手に装備し、拳を合わせると駆けてくるポチ子に構える。
「犬牙流……一の太刀!!」
「むっ!?」
ダァンッ!!
レノの瞬脚を想像させる跳躍を行い、ポチ子は双剣を構え、ダイアに向けて飛びかかる。彼はあまりの速度に反応しきれず、両腕を交差させて防ごうとするが、
「せいりゃあっ!!」
「ごふっ!?」
剣で斬りつけるのではなく、ダイアのがら空きの腹部にドロップキックを放ち、そのまま彼を土台に跳躍して回転しながら着地する。獣人族ならではの身軽さであり、並の人間とは比べ物にならない身体能力だ。
「ぐふっ……ど、何処が太刀だ!!」
「レノさんが言ってました……戦いとはどんな手段を用いてでも負けない事、時には誇りを捨てて騙し手を使えと!!」
「そ、そうか……確かに間違っちゃいねえが……」
ポチ子の言葉にダイアは何故か納得し、観客席で特に耳が良いバルがレノに顔を向け、
「あんた……あの犬っ娘にそんな事教えていたのかい?」
「お前が最初に教えた事だろ」
「そう言えばそうだったね」
「えっと……あの2人は何を喋っているの?」
「僕たちには聞こえないな……こういう時は君たちが羨ましい」
人間であるヨウカ達には会話の内容までは聞こえず、リノンは肉体強化を行う事で聴覚を強化させる事は出来るが、それでも素で会話を聞き取れるレノ達と比べると高い集中力が必要とする。
「にしても……あの子が犬牙流の使い手とはね。30年の歴史を誇る獣人族特有の剣術の使い手とは……」
「なにその浅い歴史の剣法。というか、知ってるのかバル」
「あたしも習おうとしたけど、犬耳じゃないと駄目らしくてね」
「そんな理由で?ていうか、あんた滅多に武器なんか使わないだろ」
「特定の武器は使わないだけさ、周囲にある物を利用して武器にするだけさ」
「まるで忍者のような戦い方だな……」
「呼んだでござるか?」
「あんたじゃないよ……というかいたのかいあんた?影が薄いから分からなかったよ」
「酷いでござる!?」
何時の間にかバルの隣にはカゲマルが座り込んでおり、いつもの黒装束では目立つため、全身を白いローブで覆っている。そちらの方がある意味目立つように思えるが、不自然なまでに周囲の雰囲気に溶け込んでいる。
「行けポチ子!!ゴンゾウの分も私達が頑張るんだ!!」
「わふっ!!」
「うおっ!?」
リノンの声援に反応し、ポチ子の動きが素早くなり、力でダイアに劣る分、身軽さで対抗する。
――ゴンゾウはホムラとの試合で重傷を負うが、すぐにアクアが応急処置を施し、救護室に運ばれた後は巫女姫のヨウカが治療を行い、何とか意識を取り戻す。心臓を握り締められたことで後遺症が無いのか心配だったが、ヨウカの強力の魔法によって損傷は完治した。
巫女姫であるヨウカの魔法は特殊な力を帯びており、普通の教会の人間が扱う聖属性少し勝手が違う。教会の魔導士治療法は魔力(生命エネルギー)を相手の体内に直接送り込み、自然治癒力を高める方法を取るのが一般的だが、彼女の場合は異なる。
ヨウカの場合は自分の魔力を「生命エネルギー」として相手の体内に送り込む所までは一緒だが、彼女の魔力は相手の体内に入り込んだ瞬間に身体全体に流れ込み、身体の悪い個所を全て治癒するのだ。
その効果は凄まじく、本来なら回復魔法では治療できない病気の類もヨウカの手に掛かればある程度の症状は治療可能である(但し、彼女自身にも大きな負担が掛かるし、重病患者は治せない)。
「たあぁっ!!わふっ、わぅんっ!!」
「だから、その、気の抜ける声はやめろ!!」
ガキィイインッ!!
――ウワァアアアアッ!!
ポチ子の双剣とダイアのナックルが衝突し、金属音が鳴り響く。その光景に観客達が湧き上がった。
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