種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
480 / 1,095
剣乱武闘編

黒蛇

しおりを挟む
「……う、くぅっ……」
「がはっ……」


凄まじい衝撃波に直撃したレノとアルトは、それぞれ反対方向に吹き飛ばされ、レノは地面に倒れ込み、アルトは噴水の中に身体が浸かる。


ザバァッ……


「げほっ……!!けほっ……レノォッ……!!」
「……まだ、やる気か?」


噴水から身体を起き上げ、アルトは全身を水浸しにしなりながらも武器を振りかざそうとするが、既にその手にデュランダルは存在せず、先ほどの衝撃で随分と離れた場所に落としている。

レノの方もカラドボルグは存在せず、何時の間にか紋様の中に引っ込んでしまったらしい。最も、既に魔力も尽き果ているため、これ以上の使用は出来ないが。


「くっ……」
「……ふうっ」


噴水から乗り出し、アルトが地面に降り立つが、先ほどのデュランダルの乱発で体力を既に使い果たしてしており、ふらふらと足取りが怪しい。レノの方は十分に動けるが、魔力切れで白髪と化しており、これ以上の魔法は使えない。

アルトは虚ろな瞳で手元から離れたデュランダルの位置を確認し、回収に向かおうとするが、その前にレノがゆっくりと歩み寄る。


バラァッ……


「……きっついなぁ……」


左腕の役割をしている黒衣が解除し、中身の銀の鎖と聖爪も落ちてしまう。魔力切れを起こしたため、もう黒衣や鎖で左腕を形成できない。だが、アルトはデュランダルを使用する可能性がある以上、先に動かなければならない。

今の彼は普通ではなく、明らかにレノに対して「殺意」を抱いている。一体、アルトに何が起きたのかは分からないが、今は何としても先に仕留めなければならない。


(……懐かしいな)


こんな状況だが、レノは魔力切れの感覚に苦笑いを浮かべる。地下迷宮にいた頃はよくカラドボルグの影響で魔力枯渇の状態になっており、何度も死にかけた思い出がある。

この世界の魔力とは言わば生物の「生命エネルギー」その物であり、普通の人間ならば魔力の消耗で白髪化する前に死亡しても可笑しくはない。だが、何度も死線を乗り越えたことにより、レノはこの状態でも動く事は出来る。


「……終わらせよう、アルト」
「……まだだ……まだっ……!!」


ドスンッ……


デュランダルの元まで3メートルにまで迫ったが、アルトはその場に跪いて倒れ込んでしまう。


「ぐっ……ううっ……!!」


それでも尚、彼は這いつくばって地面に転がったデュランダルの元に近寄り、必死に手を伸ばすが、


ガァンッ!!


「……ここまでだ」
「あっ……」



――アルトの右手が到達する前、デュランダルの刃にレノの右足が踏みつけ、彼を見下ろす。



「ぐっ……ううっ……!!」
「……そろそろ、こっちも限界……勝った方がメダルを貰うんだったな」
「まだだ……まだ、負けて……!!」
「……そう」


必死に立ち上がろうとアルトは両腕を地面に押し付けるが、既に下半身はぴくりともせず、誰がどう見てもこれ以上の戦闘は不可能だった。闘う意思はあったとしても、もう肉体は限界を迎えている。

レノは彼に対して色々と思う所はあったが、ゆっくりと右拳を握りしめ、最後の力を振り絞り、



「……じゃあな」



ドゴォンッ!!


「がぁっ……!?」


そのまま自分の身体が地面に倒れこむようにアルトの頭部に拳を叩き込み、完全に気絶させる。レノはそんな彼の上に倒れこむ形になり、深い溜息を吐く。

ここまで疲労したのは甲冑の騎士との戦闘以来であり、こんな所を誰かに襲われたら抵抗する事も出来ない。しかし、まだ予選は続いており、彼から何としてもメダルを回収して闘技場に移動しなければならない。


「……つうっ……」


何とか身体を起き上げ、アルトの身体を仰向けにさせると、彼の懐からメダルを取りだす。先ほどの衝撃波でも砕けていないところを見ると特殊な金属で形成されているのは間違いない。


「さて……と」


魔力が回復してない以上は転移魔方陣も使用できず、闘技場に移動する事は出来ない。また、このまま様子のおかしいアルトを放って置くのも心配であり、その場に座り込む。


「……ん?」


不意に隣で気絶しているアルトの首筋が視線が入り、すぐに違和感を覚える。戦闘中は気付かなかったが、首の後ろ側に黒蛇のような紋様が浮かんでおり、まるでバルの舌にある怨痕と似ている。疑問を抱き、レノはアルトの首に右手を回そうとした時、



――シャアァアアアアアッ!!



突如、アルトの首筋の蛇の紋様が鳴き声を上げ、まるで生き物のように動き始め、そのまま彼の身体から離れれるように「実体化」して飛びかかってくる。


「……やっぱりな」



――だが、直感でレノは飛びかかってくる蛇を交わし、すぐに鞄の中に右手を回すと、以前にセンリから受け取った「聖石」を掴んで掲げる。



カッ!!



レノの右手に握り締められた聖石が日光に晒された瞬間、激しく聖石が光り輝き、アルトの首筋から出てきた黒蛇に放たれる。



シャアァアアアアアアアッ……!?



悲鳴のような鳴き声を上げ、恐らくは以前に聖導教会に教皇に憑りついていた「黒色のスライム」と同類と思われる魔物はそのまま塵と化して浄化される。


「……呆気ないなっ」


聖石を鞄に戻すと、この石で黒蛇を浄化できる確信など無かったが、上手く行ったことに一安心する。


「あ~……疲れた」


バタンッ……


そのままアルトの横に倒れ込み、レノは今度こそ、安堵の溜息を吐いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なりゆきで、君の体を調教中

星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。

黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。 実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。 父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。 まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。 そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。 しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。 いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。 騙されていたって構わない。 もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。 タニヤは商人の元へ転職することを決意する。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

結婚して5年、初めて口を利きました

宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。 ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。 その二人が5年の月日を経て邂逅するとき

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

処理中です...