種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘編

審判員

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「あ、あの……貴方が審判員の方ですか?」
「はあ……そうですが、何か?」
「良かったです!まだメダルを持ってますか?」
「参加者の方ですか?なら、先に木札の方を渡してください」


白いローブを纏った青年が手を伸ばし、レノはリノンと顔を見合わせ、それぞれの木札を集める。


「10Pでメダルと交換だよね?まだ誰とも交換してない?」
「はい。ここに着たのは貴方達が初めてですよ」


木札を受け取るために手を伸ばしてきた青年に対し、レノは木札を収めた袋を渡そうとし、直前で動きを止め、


「その前に紫電」
「はっ……あががががっ!?」


バチィイイイッ!!


指先から紫色の雷を放出し、青年の身体に電流が走る。数秒ほど痙攣すると、その場に崩れ落ちる。その光景にポチ子は犬耳と尻尾を逆立て、驚いた表情を浮かべる。


「れ、レノさん!?一体何を……」
「落ち着けポチ子、お座り」
「わんっ!」
「……よく調教されているな」


慌てて倒れ込んだ青年を心配して駆け込もうとしたポチ子を引き止め、そのまま座り込ませる。その間にもレノは青年が落としたメダルを拾い上げ、右手に微量の電流を放出させてメダルに近づけると、


「……やっぱり偽物か」


すぐに電流によって表面の銀メッキが溶解し、銅貨が露わになる。予想通り、この青年は審判員を装った偽物であり、恐らくは参加者の1人だろう。


「な、何故……ばれた?」
「勘」
「嘘つけっ……!!」
「半分は本当だけど……」


紫電を受けて身体全体を麻痺させながらも、顔だけを動かして話しかける青年にリノンが剣を向け、彼から奪い取ったメダルを見せつけ、


「さっき本物のメダルを見たからね。これは表面の魔方陣の種類が違う」


先ほどデュラハンが所持していたメダルには複雑な図形の魔方陣が刻み込まれていたが、彼が先ほど落としたメダルには五芒星の魔方陣が刻まれており、明らかに別物だった。

また、仮に彼が本当の審判員だったとしても1つ疑問が浮かぶ。この剣乱武闘の大会は腕利きの冒険者が集まっており、彼らの中には律儀に規則を守らず、力ずくで審判員からメダルを奪おうと考える輩もいるだろう。



この大会は全種族の協同で行われており、格種族から大会側に腕利きの人材が用意されていると考えるのが妥当。ならば大会側の審判員も相当な実力者で統一されていても可笑しくはない。いくら不意打ちと言えど、こうもあっさりと攻撃が通るとは思えない。



「大方、審判員を装って他の参加者から木札を受け取って、偽物のメダルを渡して逃げるつもりだったんだろ」
「ぐっ……」
「図星らしいな……」
「な、何て卑怯な……酷い人です!!」
「いや、これも一つの作戦じゃない?まあ、相手が悪かったと諦めろ」


元盗賊としてはこのような姑息な手を責める事は出来ず、レノとしても勝つためならどんなに卑怯な手を使うという思考は否定しない。実際、今までに自分自身も小狡い手を使用してきた。

ごそごそと倒れ込んだ青年の所持品を漁り、彼の木札を回収する。他の参加者よりも高めの2Pであり、これで一応は3人分のPが集まった事になる。


「くそ……覚えていろ……俺は必ず……!!」
「やかましい」
「あぎゃっ!?」


ズドォンッ!


レノが優しく当身を行うと、青年はそのまま白目に変わって倒れ込み、今度こそ完全に気絶する。先の紫電を受けても意識を保っていたところ、それなりに魔法耐性はあったようだが、物理対策は怠っていたようである。


「全く……だが、これで後は本物の審判員を見つけるだけだな」
「そうだね。けど、この調子じゃ偽物が続出しているだろうな……」
「デュラハンさんに特徴を聞いておけば良かったですね……」
「……本格的に行き詰ったな」


屋上から周囲を見渡すが、審判員どころか参加者の姿も確認できず、このままでは他の参加者たちに抜け駆けされてしまう。


――ピンポンパンポンッ!


――ピンポンパンポンッ!


「おっ……2回?」
「続けてメダルを受け取った者が出たようだな……」
「あとどれくらいの人が残ってるんでしょうか……」


立て続けに闘技場の方面から警告音が鳴り響き、どんどんと審判員からメダルを受け取る者が続出している。だんだんと警戒音の間隔が短縮され、時間が経ったことで他の参加者を打ち倒し、必要な木札を入手した者も増えてきたのだろう。

この調子では3人の審判員を探し出す前に合格者が既定の人数を満たす可能性もあるため、何としても他の参加者を出し抜いて彼らを発見しなければならない。


「ここからどうするか……何処に隠れて居るんだ?」
「屋外にいるのは確かだろう。あの解説者の話しぶりだと、彼らは参加者たちの暴走を抑止する役割を持っているはず」
「でも……ここから見る限りはそれらしい人は……」


周囲の状況を確かめるためには高所から見渡すのが一番だが、この建物の屋上から確認する限り、人影は見当たらない。一体何処に隠れて居るのか捜索しなければならないが、手がかりが1つも無いのが痛いが、


「にしても……他の奴等はどうやって見つけ出しているのか……」
「確かに……この警戒音のペースを考えると、案外見つけやすい場所に隠れて居るのかもしれないな」
「あの……レノさんレノさん」
「どうしたポチ子」
「あそこに誰かいますよ?」
「「え?」」


ポチ子が指差す方向を確認すると、そこには異様な光景が広がっていた。



「ふぁあああっ……暇だな~」



この建物の下に広がっている広場に明らかに場違いなほど、まるで「アクア」のように空中に浮揚する金魚鉢に入り込んだ人魚族が移動しており、彼女は暇そうに欠伸をしながらふよふよと移動していた――
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