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剣乱武闘編
影
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「……お前の顔には見覚えがあるな」
「へえ?」
リノンは長剣の柄を握りしめながら前に出ると、男は面白そうに彼女に顔を向け、
「……10年前から各都市を行き渡り、無数の死人を従えて無差別殺人を繰り返す殺人狂……身元は不明、種族だけは人間と判明している。この10年でお前に手を掛けられたと思われる被害者の数は……314名」
「ふん……良く調べているな。だが、俺が直接手を下したことはねえよ。俺の僕どもがやった事だ」
「うああっ……」
「ぐぅうっ……」
周囲の死人と思われる集団が呻き声を上げ、間違いなく眼の前の男が操作しているのだろう。だが、少なくともレノ達の目の前には8人の死人が動いており、これだけの数をこの男1人が操っているとなると、相当な手練れである。
以前に地下迷宮で無数の死人を操っていた「グール」も存在したが、あのグールはあまりにも大勢の死人を作り出したため、死人の操作までは完全に出来ていなかった。だが、目の前の男は明らかに全ての死人を完全に支配下に置いており、現に8人の死人が大人しく生者であるレノ達を襲わずに待機している事が良い証拠だ。
「お前の名前は判明していないが……我々はシャドウと呼んでいる」
「くだらねえ……好きに呼べよ。名前なんざ、当の昔に捨てた」
「……何が目的で姿を現した?」
死霊使いの男、王国側は「シャドウ」と呼ぶ人物はレノの方に視線を向け、笑みを浮かべる。間近で観察すると、まだ20代後半の男であり、ここまで死人を操る事から優れた死霊魔術師であることは間違いない。
厄介な事にこの男が使役する「死人」は普通の死人よりも強力であり、現にビルドを操作して元聖天魔導士のミキを圧倒し、以前に戦ったレンとランも地下闘技場の時よりも優れた動きを見せた(あくまでも身体能力面が上昇していただけだったが)。
気にかかる事はこの男に対してレノの右腕の紋様が反応しており、聖痕が近くに存在するときの反応と酷似している。だが、正確に言えばこの男だけではなく、周囲に存在する死人達からも同様の反応を示しているのが気にかかるが。
「お前に用はねえ……俺の目的はそこの半端者のエルフだよ」
「……半端者?」
「ハーフエルフ、だろ?こっちも調べさせてもらったぜ……しっかし、女の姿は中々の別嬪だったが、男の方も可愛い顔をしているな」
「……下種が」
舌なめずりしてくる男にリノンが悪態を吐き、ゴンゾウは後方の死人に警戒を行いながら、ポチ子も武器を構える。挟み撃ちの形だが、相手の戦力が把握できない以上は下手に仕掛けられない。
「大会に参加したのはお前が目的だったが……良い素材が集まってたからな、それなりに補充させてもらったぜ」
「……魔水晶(クリスタル)?」
シャドウは懐から紫色の「魔水晶」を取り出し、この距離からでも分かるほどに相当な魔力が秘められている。以前にビルドが使用していた呪詛を封じ込めた杖を思いだし、あの時はヨウカの力で浄化に成功できたが、もしかしたらあの杖と同じ類の「呪具」かも知れない。
「さて……俺の目的はそのハーフエルフだ。お前の魔力は前々から狙っていたからな……それに聖剣とやらも興味がある」
「レノの魔力と聖剣が目的か!!」
「させん!!」
「レノさんは私達が守ります!!」
「いや、ちょっ……」
リノン達がレノを守るように囲み、シャドウは笑い声を上げ、
「なら……死ね」
ボウッ……!!
――恐らくは以前にビルドが使用していた杖型の呪具を構え、その皺だらけの右手には「人型」の黒い痣が浮かんでいた。
「聖痕……?」
「ん?何だ、お前……これを知ってるのか?」
不意に呟いた言葉にシャドウが反応し、レノは右手の反応が一層に強まったことに間違いなく、あの黒い痣に反応しているのは間違いなく、だがアイリィから聞いた残りの「聖痕」の種類は「転移」「炎」「水」「磁力」のみのはずであり、先の2つは既に所持者が判明しているため除外したとしても、男が所持している聖痕は「水」と「磁力」のどちからのはずだが、どうにも違和感を拭えない。
間違いなく、この周囲を取り囲む死人達はあの「人型の痣」の力を使用して生み出されており、普通の死人と比べて車道が生み出す死人が強力な力を持つ事と何か関係があるのだろう。だが、どう考えても水と磁力の聖痕のどちらかの能力とは思えない。
「こいつは生まれたときから身に付いた能力でな……お前も同類だろ?その変な紋様の事、教えろよ」
最初は殺す気だったのだろうが、相手もレノが紋様を持っている事に興味を抱いており、会話できる余地はある。
「……お前の痣、生まれたときから身に付いていたのか?」
「ああ……まあ、こいつのせいで良くも悪くも今の俺があるんだがな」
シャドウは右手を摩り、自分の人型の痣を確認すると、
「こいつのお蔭で実の親から気味悪がれて……村を追い出され、こんな姿に成り果てちまった。だが、後悔はねえ……こんな能力が芽生えたからな!!」
ドンッ!!
右の掌を地面に押し付けると、シャドウの「影」が異様に変化し、そのまま形を変えて両隣の死人の影と接合する。
「ぐぅうううっ……!?」
「あがぁああああああっ!?」
バサァッ!!
突然、影が繋がった2人の死人がフードを翻し、その姿に全員が驚愕する。何しろ、腐敗した肌に壊れかけた王国の騎士が身にまとう鎧、どちらも生前は屈強な騎士だったのだろうが、頭部には彼等の死因と思われる棍棒か何かで叩き込まれた「窪み」が存在した。
「最近入荷したばかりだが……惜しくはねえ、やれ」
「「がぁああああっ!!」」
シャドウの指示に死人の騎士達が動き出し、真っ直ぐにレノ達に向かってきた。
「へえ?」
リノンは長剣の柄を握りしめながら前に出ると、男は面白そうに彼女に顔を向け、
「……10年前から各都市を行き渡り、無数の死人を従えて無差別殺人を繰り返す殺人狂……身元は不明、種族だけは人間と判明している。この10年でお前に手を掛けられたと思われる被害者の数は……314名」
「ふん……良く調べているな。だが、俺が直接手を下したことはねえよ。俺の僕どもがやった事だ」
「うああっ……」
「ぐぅうっ……」
周囲の死人と思われる集団が呻き声を上げ、間違いなく眼の前の男が操作しているのだろう。だが、少なくともレノ達の目の前には8人の死人が動いており、これだけの数をこの男1人が操っているとなると、相当な手練れである。
以前に地下迷宮で無数の死人を操っていた「グール」も存在したが、あのグールはあまりにも大勢の死人を作り出したため、死人の操作までは完全に出来ていなかった。だが、目の前の男は明らかに全ての死人を完全に支配下に置いており、現に8人の死人が大人しく生者であるレノ達を襲わずに待機している事が良い証拠だ。
「お前の名前は判明していないが……我々はシャドウと呼んでいる」
「くだらねえ……好きに呼べよ。名前なんざ、当の昔に捨てた」
「……何が目的で姿を現した?」
死霊使いの男、王国側は「シャドウ」と呼ぶ人物はレノの方に視線を向け、笑みを浮かべる。間近で観察すると、まだ20代後半の男であり、ここまで死人を操る事から優れた死霊魔術師であることは間違いない。
厄介な事にこの男が使役する「死人」は普通の死人よりも強力であり、現にビルドを操作して元聖天魔導士のミキを圧倒し、以前に戦ったレンとランも地下闘技場の時よりも優れた動きを見せた(あくまでも身体能力面が上昇していただけだったが)。
気にかかる事はこの男に対してレノの右腕の紋様が反応しており、聖痕が近くに存在するときの反応と酷似している。だが、正確に言えばこの男だけではなく、周囲に存在する死人達からも同様の反応を示しているのが気にかかるが。
「お前に用はねえ……俺の目的はそこの半端者のエルフだよ」
「……半端者?」
「ハーフエルフ、だろ?こっちも調べさせてもらったぜ……しっかし、女の姿は中々の別嬪だったが、男の方も可愛い顔をしているな」
「……下種が」
舌なめずりしてくる男にリノンが悪態を吐き、ゴンゾウは後方の死人に警戒を行いながら、ポチ子も武器を構える。挟み撃ちの形だが、相手の戦力が把握できない以上は下手に仕掛けられない。
「大会に参加したのはお前が目的だったが……良い素材が集まってたからな、それなりに補充させてもらったぜ」
「……魔水晶(クリスタル)?」
シャドウは懐から紫色の「魔水晶」を取り出し、この距離からでも分かるほどに相当な魔力が秘められている。以前にビルドが使用していた呪詛を封じ込めた杖を思いだし、あの時はヨウカの力で浄化に成功できたが、もしかしたらあの杖と同じ類の「呪具」かも知れない。
「さて……俺の目的はそのハーフエルフだ。お前の魔力は前々から狙っていたからな……それに聖剣とやらも興味がある」
「レノの魔力と聖剣が目的か!!」
「させん!!」
「レノさんは私達が守ります!!」
「いや、ちょっ……」
リノン達がレノを守るように囲み、シャドウは笑い声を上げ、
「なら……死ね」
ボウッ……!!
――恐らくは以前にビルドが使用していた杖型の呪具を構え、その皺だらけの右手には「人型」の黒い痣が浮かんでいた。
「聖痕……?」
「ん?何だ、お前……これを知ってるのか?」
不意に呟いた言葉にシャドウが反応し、レノは右手の反応が一層に強まったことに間違いなく、あの黒い痣に反応しているのは間違いなく、だがアイリィから聞いた残りの「聖痕」の種類は「転移」「炎」「水」「磁力」のみのはずであり、先の2つは既に所持者が判明しているため除外したとしても、男が所持している聖痕は「水」と「磁力」のどちからのはずだが、どうにも違和感を拭えない。
間違いなく、この周囲を取り囲む死人達はあの「人型の痣」の力を使用して生み出されており、普通の死人と比べて車道が生み出す死人が強力な力を持つ事と何か関係があるのだろう。だが、どう考えても水と磁力の聖痕のどちらかの能力とは思えない。
「こいつは生まれたときから身に付いた能力でな……お前も同類だろ?その変な紋様の事、教えろよ」
最初は殺す気だったのだろうが、相手もレノが紋様を持っている事に興味を抱いており、会話できる余地はある。
「……お前の痣、生まれたときから身に付いていたのか?」
「ああ……まあ、こいつのせいで良くも悪くも今の俺があるんだがな」
シャドウは右手を摩り、自分の人型の痣を確認すると、
「こいつのお蔭で実の親から気味悪がれて……村を追い出され、こんな姿に成り果てちまった。だが、後悔はねえ……こんな能力が芽生えたからな!!」
ドンッ!!
右の掌を地面に押し付けると、シャドウの「影」が異様に変化し、そのまま形を変えて両隣の死人の影と接合する。
「ぐぅうううっ……!?」
「あがぁああああああっ!?」
バサァッ!!
突然、影が繋がった2人の死人がフードを翻し、その姿に全員が驚愕する。何しろ、腐敗した肌に壊れかけた王国の騎士が身にまとう鎧、どちらも生前は屈強な騎士だったのだろうが、頭部には彼等の死因と思われる棍棒か何かで叩き込まれた「窪み」が存在した。
「最近入荷したばかりだが……惜しくはねえ、やれ」
「「がぁああああっ!!」」
シャドウの指示に死人の騎士達が動き出し、真っ直ぐにレノ達に向かってきた。
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