種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘編

白角

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黒馬を中心に黒色化した地面が広がっており、以前に腐敗竜が支配していた村と同じく、呪詛と呼ばれる闇属性の魔力が侵食している。前回の時は聖導教会から聖属性の魔石を受け取り、一時的に呪詛に対する対抗力を身に着けていたが、今回のレノは何も対策を施していない分、近づくだけで身体がきつい。

だが、それでも歩みを止めずに黒馬の傍に近づき、左腕の中に収納している銀の鎖を確認する。以前にこの鎖はアイリィの仕掛けで自動的に動き出し、レノの身体に巻き付いて聖属性の力を放った。この鎖は最早、カトレアが使用していたブラック・チェーンではなく、特別な聖属性の魔道具に等しい。

レノが右手の紋様に封じ込めた聖痕と大聖剣(カラドボルグ)の力を使用すれば、一時的にではあるが聖属性の能力を身に着ける事が出来る。だが、普通に右腕を使用するだけではこの黒馬を浄化は出来ない。


「……今、楽にしてやるからな」
「ブルルッ……」


ユニコーンの額に生えている角を確認すると、まだ角の部分だけは呪詛に侵されておらず、以前にフレイからユニコーンの力の源はこの「白角」である事を聞いたことがある。

つまり、この白角こそが彼等の聖属性の魔力の源に等しく、この角に聖属性を送り込めばより効果を発揮できるはず。身体全体を一気に浄化するには銀の鎖で身体を拘束する必要がある。


「……苦しみから解放されたいか?」


レノの言葉が理解できたのか、黒馬はゆっくりと頷き、その両目には血の涙を流していた。


「そうか……なら、行くぞ」


ジャララララッ!!


黒衣の左腕から銀の鎖を射出し、一瞬で黒馬の身体に絡みつく。その瞬間、鎖に呪詛が流れ込み、徐々に黒色化していく。


「うぐっ……!!」


ジュウゥッ……!!


銀の鎖が異様に発熱し、レノは顔を歪めるが、それでも構わずに右手をユニコーンの白角に伸ばして掴む。


ガシッ!!


「……あぁああああああっ!!」
「ッ……!?」


右手の紋様が光り輝き、白い魔力が放出される。そのままユニコーンの白角に紋様の魔力が流れ込み、黒馬の身体に異変が起きる。額の角を中心に、徐々に白い肌が復活を果たしていく。



――ヒヒィイイイインッ!!



ドスンッ!!ドスンッ!!


黒馬が苦しみ悶えるように暴れ出すが、銀の鎖が全身を拘束しているため、レノから離れることは出来ない。また、呪詛によって黒色化していた鎖も徐々に元の銀色に光り輝き、レノの身体を通して聖属性の魔力が流れ込む。


「がぁあああああああっ!!」


まるで獣のような咆哮を上げながら、紋様から更にカラドボルグの金色の雷が出現し、ユニコーンの白角を伝って何倍にも増幅された聖属性の魔力が溢れる。黒馬の肉体が徐々に完全な白色に変化を果たし、同時に苦しみで暴れ狂っていたユニコ―ンにも徐々に大人しくなる。



――そして、完全にユニコーンの肉体から呪詛が抜けきったのか、レノの目の前には美しい白馬が横たわっていた。



「……ふうっ……」


ジャララララッ……


レノは左腕の銀の鎖を回収し、ユニコーンの白角を手放そうとした時、


バキィッ……!!


「あっ」
「あっ!?」
「ギギッ?」



手を離そうとした時にユニコーンの白角が折れてしまい、地面に落ちてしまう。レノは顔色を青くする。ユニコーンにとって額に一本しか存在しない角は非常に大切な物であり、命に等しいと言っても過言ではない。レノは恐る恐る自分の握りしめている角に視線を向け、間違いなく自分が追ってしまった。



「……えっと、その……ごめん」
「ブルルルッ……」


恐る恐る顔を上げると、予想に反してユニコーンは穏やかな表情を浮かべ、


ドスンッ!!


「えっ!?」


その場に勢いよく倒れこみ、慌ててレノが白馬の頭を抱えると、直に触れて異変に気付く。先ほどと比べてもユニコーンの肉体がやせ細っており、体内から感じ取れる魔力も弱々しい。ユニコーンの白角を外したことが原因かと思ったが、様子がおかしい。


「ブルルッ……」
「えっ……?」


白馬が何かを伝えるように喉を鳴らすと、そのままゆっくりと瞼を閉じ、動かなくなる。


「……どうして」
「……レノ様」
「ギギィッ……」


何時の間にかカイと子供ゴブリンが後方に立っており、すぐに振り返るとカイはレノの方に手を置いて首を振り、


「ユニコーンは白角が外れたとき、その命が潰えた事を意味します……レノ様せいではありません。恐らく、既に寿命だったのでしょう」
「寿命……」
「詳しくは分かりませんが……どうやらあの禍々しい魔力によって無理やり生かされていたようですな」
「……死霊使いか」


レノは今まで「呪詛」という存在を孟毒の類のように思い込んでいたが、実際には毒よりも質が悪く、命を弄ぶ力と再認識される。レノは自分が握りしめた目の前のユニコーンの白角を見つめ、ユニコーンが死亡したにも関わらずに角からは強い魔力を感じとれる。


「これは……」
「それはお前の物だ」



――前方から声が聞こえ、見るとそこには神妙な表情を浮かべたムミョウが立っており、彼は倒れ伏したユニコーンに近づいて悲し気な表情を浮かべる。



「……このユニコーンは何者かに使役され、無理やりに生き永らされていたのだ。何故、この森に訪れたのかは分からないが……生の苦しみから解放してくれたお前のために白角を託してくれたのだろう」
「俺に……?」
「その角はもうお前の物……大切にするがいい」
「……そうか」


掌から感じ取れる聖属性の魔力が秘められた白角を確認し、レノは鞄の中に仕舞い込む。中にはムミョウから頂いたブルークリスタル、カトレアの十字架鍵、センリから受け取った聖石が入っており、どれも金銭には換えられない大切な物ばかりだ。


「さて……このユニコーンを埋葬しよう」
「ああ……」
「我々も手伝います」
「ギギッ!!」


レノ達はユニコーンのために墓標を作るため、その場を離れた――
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