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剣乱武闘編
休息日その2
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「ギギッ!!ニイチャッ!!ニイッ!!」
「ん、どうした?」
「……侵入者が現れたと言ってますな」
器の洗浄を終え、集落に戻ると頭身が低いハイ・ゴブリンがレノの前に群がり、くいくいと服の袖を引っ張る。外見は人間に近いため、子供達に囲まれている気分に陥る。
「侵入者?」
「この子等はまだハイ・ゴブリンになったばかりなので……仕事は与えておらず、森の中で遊ばせておりましたが……どうやら森の中に見知らぬ者が入り込んだようですな」
「この森に?」
枯葉の森が徐々に緑が戻っているのを知っているのは一部の者達だけであり、一般人がこの森に立ち寄るとは思えないが、
「ギギギッ!!」
「ふむふむ……どうやら人ではないようですな」
「人じゃない?他の種族?」
「いえ、魔獣です。ですが、どうやら普通の魔獣とは違うようですな……」
群がる子供ゴブリンの前にカイが座り込み、話を詳しく聞くと、どうやら角が生えた「黒馬」が現れたらしく、ゴブリン達が近寄ろうとした瞬間に咆哮を上げて襲い掛かってきたらしい。
「角が生えた……黒馬?ユニコーンの亜種?」
「いえ、ユニコーンはこの世界で一種しか存在しませんが……はて、黒馬とは……」
レノは赤ん坊の頃にフレイが飼育しているユニコーンと出会っており、美しい白毛の馬だったはずだが、
「ギギギッ……」
「ギギッ?」
「ギィギッ……」
「ふむ……ギギ、ギギィッ」
「いや、ゴブリン語で言われても分かんないだけど……」
「ああ、これはすいません!!えっとですな……どうやら近づいただけで気分が悪くなり、さらに黒馬の周囲には一切の動物が見かけなかったと言っています。恐らく、呪詛に侵されたユニコーンではないかと……」
「ユニコーンが……呪いを?」
この世界に置けるユニコーンは生まれたときから額に「聖属性」の力を宿した一本角を生やしており、魔獣の中では相当に強力な力を誇る。無闇に近づかなければ人を襲うことは無いため、危険種としては指定されておらず、彼らの血肉は万能薬として重宝されるという。
だが、生まれたときから聖属性を宿しているユニコーンが呪詛に侵された話しなど聞いたことも無く、だからといって絶対に有り得ない話と断定することは出来ない。現に聖導教会で教皇やセンリが呪詛の塊とも言える黒色のスライムに乗っ取られた事を思い出し、すぐに確かめる必要がある。
「その黒馬以外に人は居た?」
「ギギッ?」
「……いなかったそうです。馬だけが森を移動していたと……」
「そうか……」
全身を呪詛で覆われた生物が徘徊するなど、せっかく緑が戻ってきた枯葉の森も再び枯渇してしまう可能性があり、放置は出来ない。
「しゃーない……何処にいるのか教えてくれ」
「レノ様?」
「浄化できるかは分からないけど……一先ず姿だけでも確認してくる」
「ならば我々も……」
「いや、集落に誰も居ないのは不味いから、案内役とカイだけでいい」
「分かりました。ギギッ!!」
「「ギギッ!!」」
カイの言葉に子供ゴブリン達が敬礼を行い、すぐにレノの手を引っ張って移動を始める。無数のゴブリンに囲まれながら森を移動すると、後々に考えれば「ワルキューレ騎士団」であるコトミも連れて来るべきかと思い至った時、
「……ギギッ」
「見つけた、と言ってます」
「ああ……というか、見えてる」
木陰に身を隠しながら、レノは前方に見える巨大な馬を発見し、冷や汗を流す。
バキバキッ!!
―ーヒヒィイイイインッ!!
そこには枯れ果てた樹木に被り付く巨大なユニコーンの姿があり、予想よりも遥かに大きい。全長は5メートルはあり、想像以上に呪詛の波動が強い。黒馬の周囲の植物が異様に枯果てており、せっかく復活した自然がこのままでは台無しになってしまう。
だが、いつもなら森人族の血が自然を破壊する事を許さないはずだが、不思議とレノは黒馬に対して恨みも怒りも抱かず、むしろ哀れみの感情を抱く。何故だか、あの黒馬には同情さえしている事に気付く。
「……苦しんでいるな」
「え?」
「ギギッ……?」
――ヒヒィイイイインッ!!
黒馬は樹木を噛み締め、口に合わなかったのか吐きだすと、咆哮を上げる。だが、その声音がどうも悲しみを含んでいるようにレノは思えた。
「……どうしますか?」
「取りあえずはカイは下がってて……そこの子供が前に出ない様に気を付けてね」
「は、はい……」
「ギギッ?」
カイは子供のゴブリンを抱き上げ、木陰に身を隠す。レノはそれを確認した後に移動を始める。
「よっ」
「ブルルルッ……!?」
レノはごく普通に、まるで友達に会話をするような気軽さで黒色のユニコーンに声を掛けると、黒馬はじろりと睨み付ける。だが、その瞳には大粒の涙を流していた。
「苦しいのか?」
「…………」
沈黙を肯定と判断し、レノは黒馬を間近で確認する。戦闘の意思は無いのか、目の前にまで移動しても何もしてこない。
「ん、どうした?」
「……侵入者が現れたと言ってますな」
器の洗浄を終え、集落に戻ると頭身が低いハイ・ゴブリンがレノの前に群がり、くいくいと服の袖を引っ張る。外見は人間に近いため、子供達に囲まれている気分に陥る。
「侵入者?」
「この子等はまだハイ・ゴブリンになったばかりなので……仕事は与えておらず、森の中で遊ばせておりましたが……どうやら森の中に見知らぬ者が入り込んだようですな」
「この森に?」
枯葉の森が徐々に緑が戻っているのを知っているのは一部の者達だけであり、一般人がこの森に立ち寄るとは思えないが、
「ギギギッ!!」
「ふむふむ……どうやら人ではないようですな」
「人じゃない?他の種族?」
「いえ、魔獣です。ですが、どうやら普通の魔獣とは違うようですな……」
群がる子供ゴブリンの前にカイが座り込み、話を詳しく聞くと、どうやら角が生えた「黒馬」が現れたらしく、ゴブリン達が近寄ろうとした瞬間に咆哮を上げて襲い掛かってきたらしい。
「角が生えた……黒馬?ユニコーンの亜種?」
「いえ、ユニコーンはこの世界で一種しか存在しませんが……はて、黒馬とは……」
レノは赤ん坊の頃にフレイが飼育しているユニコーンと出会っており、美しい白毛の馬だったはずだが、
「ギギギッ……」
「ギギッ?」
「ギィギッ……」
「ふむ……ギギ、ギギィッ」
「いや、ゴブリン語で言われても分かんないだけど……」
「ああ、これはすいません!!えっとですな……どうやら近づいただけで気分が悪くなり、さらに黒馬の周囲には一切の動物が見かけなかったと言っています。恐らく、呪詛に侵されたユニコーンではないかと……」
「ユニコーンが……呪いを?」
この世界に置けるユニコーンは生まれたときから額に「聖属性」の力を宿した一本角を生やしており、魔獣の中では相当に強力な力を誇る。無闇に近づかなければ人を襲うことは無いため、危険種としては指定されておらず、彼らの血肉は万能薬として重宝されるという。
だが、生まれたときから聖属性を宿しているユニコーンが呪詛に侵された話しなど聞いたことも無く、だからといって絶対に有り得ない話と断定することは出来ない。現に聖導教会で教皇やセンリが呪詛の塊とも言える黒色のスライムに乗っ取られた事を思い出し、すぐに確かめる必要がある。
「その黒馬以外に人は居た?」
「ギギッ?」
「……いなかったそうです。馬だけが森を移動していたと……」
「そうか……」
全身を呪詛で覆われた生物が徘徊するなど、せっかく緑が戻ってきた枯葉の森も再び枯渇してしまう可能性があり、放置は出来ない。
「しゃーない……何処にいるのか教えてくれ」
「レノ様?」
「浄化できるかは分からないけど……一先ず姿だけでも確認してくる」
「ならば我々も……」
「いや、集落に誰も居ないのは不味いから、案内役とカイだけでいい」
「分かりました。ギギッ!!」
「「ギギッ!!」」
カイの言葉に子供ゴブリン達が敬礼を行い、すぐにレノの手を引っ張って移動を始める。無数のゴブリンに囲まれながら森を移動すると、後々に考えれば「ワルキューレ騎士団」であるコトミも連れて来るべきかと思い至った時、
「……ギギッ」
「見つけた、と言ってます」
「ああ……というか、見えてる」
木陰に身を隠しながら、レノは前方に見える巨大な馬を発見し、冷や汗を流す。
バキバキッ!!
―ーヒヒィイイイインッ!!
そこには枯れ果てた樹木に被り付く巨大なユニコーンの姿があり、予想よりも遥かに大きい。全長は5メートルはあり、想像以上に呪詛の波動が強い。黒馬の周囲の植物が異様に枯果てており、せっかく復活した自然がこのままでは台無しになってしまう。
だが、いつもなら森人族の血が自然を破壊する事を許さないはずだが、不思議とレノは黒馬に対して恨みも怒りも抱かず、むしろ哀れみの感情を抱く。何故だか、あの黒馬には同情さえしている事に気付く。
「……苦しんでいるな」
「え?」
「ギギッ……?」
――ヒヒィイイイインッ!!
黒馬は樹木を噛み締め、口に合わなかったのか吐きだすと、咆哮を上げる。だが、その声音がどうも悲しみを含んでいるようにレノは思えた。
「……どうしますか?」
「取りあえずはカイは下がってて……そこの子供が前に出ない様に気を付けてね」
「は、はい……」
「ギギッ?」
カイは子供のゴブリンを抱き上げ、木陰に身を隠す。レノはそれを確認した後に移動を始める。
「よっ」
「ブルルルッ……!?」
レノはごく普通に、まるで友達に会話をするような気軽さで黒色のユニコーンに声を掛けると、黒馬はじろりと睨み付ける。だが、その瞳には大粒の涙を流していた。
「苦しいのか?」
「…………」
沈黙を肯定と判断し、レノは黒馬を間近で確認する。戦闘の意思は無いのか、目の前にまで移動しても何もしてこない。
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