種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘編

人魚の歌唱劇

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森人族の第一次予選開始から30分が経過し、闘技場はこれ以上無いほどに盛り上がっていた。試合場には疲れ果てた森人族と、たった1匹にまで減らされたサンド・ゴーレムに対し、レノが止めの一撃を与える。


「らぁっ!!」


ズガァンッ!!


「「「うおぉおおおおっ!!」」」


サンド・ゴーレムの頭部に水弾を纏わせた拳を叩き込み、相手は見事に崩れ落ち、その際に体内に移動していた核も摘み取って握り潰す。


バキィンッ!


『ウォオオッ……!?』


ズザァアアアッ……!


最後の一体が崩れ去り、観客達が歓声を上げる。何しろ、彼が倒したゴーレムは合計で3体目であり、残りの三体のサンド・ゴーレムは森人族の戦士たちが共同して倒したのに対して、レノはたった1人で討伐したのだ。

だが、流石に森人族側も大会に参加するだけはあり、最初の内は戸惑いと悪環境のせいで実力を出し切れなかった戦士たちだが、時間が経つにつれてサンド・ゴーレムの特性を理解し、彼らなりに砂の巨人を倒す事に成功する。

レノが硬貨が高い水属性を使用したのに対し、エルフ達は風属性の攻撃だけを繰り返し、中には砂の身体を吹き飛ばして体内の「核」を見つけ出し、そのまま破壊した戦士もいる。

しかし、観客達の死線の殆どがレノだけに集まっており、サンドフィッシュやサンド・ゴーレムを打ち倒す姿はまさに「腐敗竜殺しの英雄」の1人に相応しい活躍ぶりだった。


「ふわぁっ……やっと終わったのかい?」
「兄貴大活躍っすね……けど、あのエルフの奴等、何だか妙な動きじゃなかったすか?」
「そうだね……だが、レノ君もそれに気づいていたようだね」
「どうせ吹き矢でも仕込んでたんだろ?まあ、そんな物がレノに通じるとは思えないけどね」
「しかし……意外と人数が減ったな、半分も残っていないじゃないかい」


観戦席から見える限り、砂漠に残っているのはレノを除いても「21人」であり、最初の参加者人数の既に4分の1にまで減少している。


『試合終了~お疲れ様でした~!!』


実況席のラビットの声が闘技場に響き渡り、どうやら今度こそ本当に「第一次予選」が終了したようであり、試合場のエルフ達は堪らずにその場に崩れ去り、レノも疲れた様子で座り込む。


『いや~……もう少し減ると思ったんですけどね。どうですかゲストのアクアさん』
『ん~そうだね、思ったよりもやるね~』


何時の間にか実況席にはアクアの姿があり、ラビットと共に解説を行っている。2人の美少女が並んでいるため、試合観戦よりも彼女達に視線を向ける輩も少なくない。やがて、試合場の四方に存在する「門(ゲート)」が開かれ、残された選手たちがよろよろと移動する。


『あ、言い忘れてましたけど、予選を勝ち残った皆さんには特別個室を用意していますから、ゆっくり休んでくださいね。怪我を負った人は大会専属の治癒魔導士に頼めば治療を行ってもらいますので、ごゆっくり~』
『試合場の改装が終了するまで、うちの子たちの唄を楽しんでね~』
「「「おぉおおおおおおっ!!」」」


アクアの言葉に観客達が湧き上がり、人魚族の「歌」を聞ける機会など滅多にない。彼女達の美声は種族に関係なく聞き惚れてしまい、心が安らぐ。


『ラビットちゃんも一曲どう?』
『私は実況一筋ですから……あ、マイク使います?』
『平気平気~』


空中に浮かぶ金魚鉢を浮揚させながら移動を行い、そして観客席の人魚族の元に辿り着くと、彼女達の水槽に潜り込む。


ザバァンッ!!


「ぷはっ……それじゃあ皆、私に合わせてね~!!」
「「「は~いっ♪」」」


人魚たちはアクアを中心に円陣を組み、会場中に不思議と響き渡る「歌声」を披露した――




――その一方で「門(ゲート)」を通り過ぎたレノは、周囲に疲れ果てた表情の森人族の戦士に囲まれながら移動していた。


「……何だか外が騒がしいな」
「……人魚の声がする。どうせ、歌唱劇でも始めたんだろう」
「へえ……」


森人族は聴覚が優れているため、会場で行われている歌声を察知し、不思議と心惹かれる声音であることは間違いない。だが、レノは周囲のエルフ達に囲まれている以上、会場に戻ってゆっくりと観賞するのは難しそうだが。


「さてと……で、どうするの?」
「……ちっ……」
「生意気な小僧だ……」


ジャキィッ……


ある程度の距離で立ち止まり、エルフ達がレノに向けて武器を構え、明らかに敵意を向けてくる。試合場では人の目があったが、この通路には大会側の見張りも見えず、絶好の好機と言えるだろう。


「あんた達は……深淵の森のエルフ?」
「違う。だが……貴様の存在を許すわけには行かない」
「紅葉の森の奴等は賛同しなかったが、我々はお前を見逃せん……」
「悪く思うな……恨みは無いが、貴様に子を産ませるわけにはいかん」
「……第二の魔王か」


以前にミキから聞いた話を思いだし、アイルとフォルムという双子の「ハーフエルフ」が争い、アイルが悪魔と呼ばれる存在を身に宿したことで強大な力を持つ「魔王」という存在が生まれた。森人族と聖導教会はハーフエルフという存在を異常なまでに恐れており、現にあのミキですらも最初はレノを警戒して距離を取った。


「……安心しろ、貴様をここで殺すつもりはない。それは依頼に入っていないからな」
「依頼?」
「我らは青葉の森の民……深淵の森のエルフ達とは古き間柄であり、ムメイ殿の最後の依頼として貴様を拘束する」
「ムメイ……?」


何故、ここで深淵の森の族長の名前が出てくるのか首を傾げると、


「その依頼内容は……貴様をなんとしても深淵の森へ連れ帰す事だ」
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