435 / 1,095
剣乱武闘編
紅葉の森の族長
しおりを挟む
――翌日、レノは選手たちの集合時間に待合室に到着し、扉を開く。案の定、そこには殺気で満ちた森人族の戦士達の姿があり、既にレノ以外の全員が待合室で待機していたようだ。
「お~お~……来たぜ、問題児がよ」
「はっ……こいつが雷の英雄か」
「中々可愛い顔立ちじゃないかい?」
すぐに壁際で屯していたエルフの集団が、レノにわざと聞こえる声量で会話を行う。居心地の悪さを感じながらも、昨日の内に殴り飛ばしたエルフ達が壁の隅で大人しくしている姿を見かける。
「あっ……」
「ちっ……」
「くそっ……」
「ひぃいっ……」
視線が合うと深淵の森の刺客だと思われるエルフ達は顔を反らし、どうやら仕掛けては来る様子はない。この待合室にいるのは各地から集まった森人族であり、全員がレノに対して敵意を抱いているわけではなさそうだった。
「ねえねえ……君が噂のハーフエルフ君?」
「……子供?」
くいくいと袖を引かれ、下を向くと昔のポチ子並の大きさの少女が立っており、彼女は笑みを浮かべて、
「誰が子供だ、ああん?私はお前より年上だぞゴラァッ?」
「おおう……」
予想外の恐ろしい声音にレノは後退り、よくよく考えれば深淵の森の族長も外見は幼女だが、何百年も生きている。恐らく、この少女も見た目より相当な年齢の女性なのかもしれない。
「これが俗に言うロリバ……」
「それ以上、続きを言ったら殺すぞ……」
「すいやせん」
魔獣の眼孔を想像させる目つきにレノは頭を下げ、少女はやれやれと溜息を吐き、
「私は「赤葉の森」の族長、カレーネ。こう見えても君の数十倍は生きてるから、敬語を使うように」
「イエス・アイアム」
「意味はよく分からないけど、喧嘩売ってんのかおらぁっ?」
レノの袖に掴みかかるカレーネと名乗る少女(外見だけは)は、深いため息を吐いて彼を解放する。
「まあいいや……私は試合には参加しないけど、観客席で君の活躍を見ているからね」
「……参加しないのにここに入っていいの?」
「保護者は入場が許可されてるからね」
「保護者……」
間違ってはいないだろうが、こんな少女(外見だけは)が保護者というのが違和感を拭えない。彼女はレノを押しのけ、待合室の扉を開こうとした時、
「あ、そうそう……君の事に関しては大族長にも伝わってるから、近々報告が来るよ」
「大族長?」
「君、そんな事も知らないの?私達「森人族」の代表であるレフィーア様を……」
「代表……」
森人族の代表のレフィーア名前ぐらいは聞いたことはあるが、特に興味も持たなかったため、名前を言われても思い出すのに時間が掛かる。そんなレノの態度にカレーネは呆れた表情を浮かべ、
「……まあいい、君はどうせ大会の予選でうちの子たちにコテンパンにやられるだろうからね。失礼な態度を取ったことは許してあげるよ」
「うちの子って……どれ?」
「えっとね、あそこの方で机に座ってる子達だよ」
カレーネがある方向を指さし、視線を向けるとそこには5人ほどのエルフの戦士たちが中央の机に座り込んでおり、不敵な笑みを浮かべている。
「でかいお子さんですね……」
「そうだね~……小さい頃は可愛かったんだけど……って、私が産んだんじゃないよ!!」
「違うの?」
深淵の森の元族長であるムメイは長老であるムミョウを産んでいた事から、あの中にカレーネの実子が混じっているのかと予想したが、どうやら違うらしい。そのまま彼女は扉を開き、立ち去ろうとするが何かを思い出したように振り返り、
「ああ、忘れてた。深淵の森の問題ついては私達は関与しないよ。別に君が死のうが生きようが、どうでもいい事だしね」
「……どうも」
つまり、紅葉の森のエルフ達は深淵の森の者達と結託し、レノを襲撃する気は無いらしい。最も、大会で戦う以上は容赦はしないだろうが。
「他の森の子たちも君には色々と思う所はあるらしいけど、まあ、頑張ってね~」
バタンッ!
扉の向こう側で手を振りながら、カレーネがやっと立ち去り、レノは待合室をもう一度見渡す。
『…………』
カレーネがいなくなったことで、部屋中に重苦しい雰囲気が覆われている事に気が付き、それぞれが大会に備えて準備や対策を行っているようだ。
「あいつが聖剣の持ち主か……」
「まだガキじゃねえか」
「甘く見るな、あいつが昨日騒ぎを起こした張本人だぞ……」
「ふんっ……」
「調子に乗りやがって……」
待合室の中にいる森人族の多くの視線を感じながら、レノは大人しく扉のすぐ傍で待機する。この位置ならば何時でも逃走が可能であり、例えこの人数に襲われても対処できる。
予選が開始するまであと10分ほどの時間があり、大会の準備は昨日の内に終わらせているので大丈夫だが、念のために聖爪でも磨いておこうとした時、
「ん?」
「っ……!!」
位置的にはレノの反対側の壁際から異様な視線を感じ、視線を向けるとそこには昨日、通路で行き違ったフードの人物が立っており、彼女は慌てて身を隠すようにフードをより一層に深く被り込む。
「……怪しい奴だな」
気にはなるが、どうせこれから行われる第一次予選で戦うことになるため、レノは気にせずに聖爪を磨くことにした。
「お~お~……来たぜ、問題児がよ」
「はっ……こいつが雷の英雄か」
「中々可愛い顔立ちじゃないかい?」
すぐに壁際で屯していたエルフの集団が、レノにわざと聞こえる声量で会話を行う。居心地の悪さを感じながらも、昨日の内に殴り飛ばしたエルフ達が壁の隅で大人しくしている姿を見かける。
「あっ……」
「ちっ……」
「くそっ……」
「ひぃいっ……」
視線が合うと深淵の森の刺客だと思われるエルフ達は顔を反らし、どうやら仕掛けては来る様子はない。この待合室にいるのは各地から集まった森人族であり、全員がレノに対して敵意を抱いているわけではなさそうだった。
「ねえねえ……君が噂のハーフエルフ君?」
「……子供?」
くいくいと袖を引かれ、下を向くと昔のポチ子並の大きさの少女が立っており、彼女は笑みを浮かべて、
「誰が子供だ、ああん?私はお前より年上だぞゴラァッ?」
「おおう……」
予想外の恐ろしい声音にレノは後退り、よくよく考えれば深淵の森の族長も外見は幼女だが、何百年も生きている。恐らく、この少女も見た目より相当な年齢の女性なのかもしれない。
「これが俗に言うロリバ……」
「それ以上、続きを言ったら殺すぞ……」
「すいやせん」
魔獣の眼孔を想像させる目つきにレノは頭を下げ、少女はやれやれと溜息を吐き、
「私は「赤葉の森」の族長、カレーネ。こう見えても君の数十倍は生きてるから、敬語を使うように」
「イエス・アイアム」
「意味はよく分からないけど、喧嘩売ってんのかおらぁっ?」
レノの袖に掴みかかるカレーネと名乗る少女(外見だけは)は、深いため息を吐いて彼を解放する。
「まあいいや……私は試合には参加しないけど、観客席で君の活躍を見ているからね」
「……参加しないのにここに入っていいの?」
「保護者は入場が許可されてるからね」
「保護者……」
間違ってはいないだろうが、こんな少女(外見だけは)が保護者というのが違和感を拭えない。彼女はレノを押しのけ、待合室の扉を開こうとした時、
「あ、そうそう……君の事に関しては大族長にも伝わってるから、近々報告が来るよ」
「大族長?」
「君、そんな事も知らないの?私達「森人族」の代表であるレフィーア様を……」
「代表……」
森人族の代表のレフィーア名前ぐらいは聞いたことはあるが、特に興味も持たなかったため、名前を言われても思い出すのに時間が掛かる。そんなレノの態度にカレーネは呆れた表情を浮かべ、
「……まあいい、君はどうせ大会の予選でうちの子たちにコテンパンにやられるだろうからね。失礼な態度を取ったことは許してあげるよ」
「うちの子って……どれ?」
「えっとね、あそこの方で机に座ってる子達だよ」
カレーネがある方向を指さし、視線を向けるとそこには5人ほどのエルフの戦士たちが中央の机に座り込んでおり、不敵な笑みを浮かべている。
「でかいお子さんですね……」
「そうだね~……小さい頃は可愛かったんだけど……って、私が産んだんじゃないよ!!」
「違うの?」
深淵の森の元族長であるムメイは長老であるムミョウを産んでいた事から、あの中にカレーネの実子が混じっているのかと予想したが、どうやら違うらしい。そのまま彼女は扉を開き、立ち去ろうとするが何かを思い出したように振り返り、
「ああ、忘れてた。深淵の森の問題ついては私達は関与しないよ。別に君が死のうが生きようが、どうでもいい事だしね」
「……どうも」
つまり、紅葉の森のエルフ達は深淵の森の者達と結託し、レノを襲撃する気は無いらしい。最も、大会で戦う以上は容赦はしないだろうが。
「他の森の子たちも君には色々と思う所はあるらしいけど、まあ、頑張ってね~」
バタンッ!
扉の向こう側で手を振りながら、カレーネがやっと立ち去り、レノは待合室をもう一度見渡す。
『…………』
カレーネがいなくなったことで、部屋中に重苦しい雰囲気が覆われている事に気が付き、それぞれが大会に備えて準備や対策を行っているようだ。
「あいつが聖剣の持ち主か……」
「まだガキじゃねえか」
「甘く見るな、あいつが昨日騒ぎを起こした張本人だぞ……」
「ふんっ……」
「調子に乗りやがって……」
待合室の中にいる森人族の多くの視線を感じながら、レノは大人しく扉のすぐ傍で待機する。この位置ならば何時でも逃走が可能であり、例えこの人数に襲われても対処できる。
予選が開始するまであと10分ほどの時間があり、大会の準備は昨日の内に終わらせているので大丈夫だが、念のために聖爪でも磨いておこうとした時、
「ん?」
「っ……!!」
位置的にはレノの反対側の壁際から異様な視線を感じ、視線を向けるとそこには昨日、通路で行き違ったフードの人物が立っており、彼女は慌てて身を隠すようにフードをより一層に深く被り込む。
「……怪しい奴だな」
気にはなるが、どうせこれから行われる第一次予選で戦うことになるため、レノは気にせずに聖爪を磨くことにした。
0
お気に入りに追加
485
あなたにおすすめの小説
なりゆきで、君の体を調教中
星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。
黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。
実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。
父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。
まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。
そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。
しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。
いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。
騙されていたって構わない。
もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。
タニヤは商人の元へ転職することを決意する。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
結婚して5年、初めて口を利きました
宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。
ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。
その二人が5年の月日を経て邂逅するとき
猿以下の下半身野郎は要りません
ひづき
恋愛
夫の膝の上に、年若いメイドが乗っている。
鋼の女と揶揄される公爵夫人はこの時を待っていた。
離婚するのに必要な証拠が揃う、この時を。
貴方の人生に私が要らないように、私にも、我が家にも、貴方は要りません。
※設定ゆるゆるです
※男尊女卑社会
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる