種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘編

紅葉の森の族長

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――翌日、レノは選手たちの集合時間に待合室に到着し、扉を開く。案の定、そこには殺気で満ちた森人族の戦士達の姿があり、既にレノ以外の全員が待合室で待機していたようだ。


「お~お~……来たぜ、問題児がよ」
「はっ……こいつが雷の英雄か」
「中々可愛い顔立ちじゃないかい?」


すぐに壁際で屯していたエルフの集団が、レノにわざと聞こえる声量で会話を行う。居心地の悪さを感じながらも、昨日の内に殴り飛ばしたエルフ達が壁の隅で大人しくしている姿を見かける。


「あっ……」
「ちっ……」
「くそっ……」
「ひぃいっ……」


視線が合うと深淵の森の刺客だと思われるエルフ達は顔を反らし、どうやら仕掛けては来る様子はない。この待合室にいるのは各地から集まった森人族であり、全員がレノに対して敵意を抱いているわけではなさそうだった。


「ねえねえ……君が噂のハーフエルフ君?」
「……子供?」


くいくいと袖を引かれ、下を向くと昔のポチ子並の大きさの少女が立っており、彼女は笑みを浮かべて、


「誰が子供だ、ああん?私はお前より年上だぞゴラァッ?」
「おおう……」


予想外の恐ろしい声音にレノは後退り、よくよく考えれば深淵の森の族長も外見は幼女だが、何百年も生きている。恐らく、この少女も見た目より相当な年齢の女性なのかもしれない。


「これが俗に言うロリバ……」
「それ以上、続きを言ったら殺すぞ……」
「すいやせん」


魔獣の眼孔を想像させる目つきにレノは頭を下げ、少女はやれやれと溜息を吐き、


「私は「赤葉の森」の族長、カレーネ。こう見えても君の数十倍は生きてるから、敬語を使うように」
「イエス・アイアム」
「意味はよく分からないけど、喧嘩売ってんのかおらぁっ?」


レノの袖に掴みかかるカレーネと名乗る少女(外見だけは)は、深いため息を吐いて彼を解放する。


「まあいいや……私は試合には参加しないけど、観客席で君の活躍を見ているからね」
「……参加しないのにここに入っていいの?」
「保護者は入場が許可されてるからね」
「保護者……」


間違ってはいないだろうが、こんな少女(外見だけは)が保護者というのが違和感を拭えない。彼女はレノを押しのけ、待合室の扉を開こうとした時、


「あ、そうそう……君の事に関しては大族長にも伝わってるから、近々報告が来るよ」
「大族長?」
「君、そんな事も知らないの?私達「森人族」の代表であるレフィーア様を……」
「代表……」


森人族の代表のレフィーア名前ぐらいは聞いたことはあるが、特に興味も持たなかったため、名前を言われても思い出すのに時間が掛かる。そんなレノの態度にカレーネは呆れた表情を浮かべ、


「……まあいい、君はどうせ大会の予選でうちの子たちにコテンパンにやられるだろうからね。失礼な態度を取ったことは許してあげるよ」
「うちの子って……どれ?」
「えっとね、あそこの方で机に座ってる子達だよ」


カレーネがある方向を指さし、視線を向けるとそこには5人ほどのエルフの戦士たちが中央の机に座り込んでおり、不敵な笑みを浮かべている。


「でかいお子さんですね……」
「そうだね~……小さい頃は可愛かったんだけど……って、私が産んだんじゃないよ!!」
「違うの?」


深淵の森の元族長であるムメイは長老であるムミョウを産んでいた事から、あの中にカレーネの実子が混じっているのかと予想したが、どうやら違うらしい。そのまま彼女は扉を開き、立ち去ろうとするが何かを思い出したように振り返り、


「ああ、忘れてた。深淵の森の問題ついては私達は関与しないよ。別に君が死のうが生きようが、どうでもいい事だしね」
「……どうも」


つまり、紅葉の森のエルフ達は深淵の森の者達と結託し、レノを襲撃する気は無いらしい。最も、大会で戦う以上は容赦はしないだろうが。


「他の森の子たちも君には色々と思う所はあるらしいけど、まあ、頑張ってね~」


バタンッ!


扉の向こう側で手を振りながら、カレーネがやっと立ち去り、レノは待合室をもう一度見渡す。


『…………』


カレーネがいなくなったことで、部屋中に重苦しい雰囲気が覆われている事に気が付き、それぞれが大会に備えて準備や対策を行っているようだ。


「あいつが聖剣の持ち主か……」
「まだガキじゃねえか」
「甘く見るな、あいつが昨日騒ぎを起こした張本人だぞ……」
「ふんっ……」
「調子に乗りやがって……」


待合室の中にいる森人族の多くの視線を感じながら、レノは大人しく扉のすぐ傍で待機する。この位置ならば何時でも逃走が可能であり、例えこの人数に襲われても対処できる。

予選が開始するまであと10分ほどの時間があり、大会の準備は昨日の内に終わらせているので大丈夫だが、念のために聖爪でも磨いておこうとした時、


「ん?」
「っ……!!」


位置的にはレノの反対側の壁際から異様な視線を感じ、視線を向けるとそこには昨日、通路で行き違ったフードの人物が立っており、彼女は慌てて身を隠すようにフードをより一層に深く被り込む。


「……怪しい奴だな」


気にはなるが、どうせこれから行われる第一次予選で戦うことになるため、レノは気にせずに聖爪を磨くことにした。
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