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剣乱武闘編
王の苦悩
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レノがコトミと再開した頃、闘人都市の最も有名な宿である「白帝」と呼ばれる建物には、剣乱武闘の観戦のために世界中の重要人が集まっており、その中には六種族の代表の1人である「バルトロス13世」も含まれていた。
彼は宿の中でも最高級の部屋を指定し、長年彼に仕えている大臣と共に書類を纏めていた。今回、この都市に訪れたのは剣乱武闘のためではあるが、一国の王である彼は常に多忙であり、書類の処理に明け暮れていた。
「ふうっ……」
「王……どうかお休みください。もう3日も真面に寝ておられないではないですか」
「ああ……いや、この分まで目を通してから休もう」
「そうですか……」
バルトロス国王は机の上に置かれた書類の山に目を通すが、どうにも疲労で頭が回らず、目頭を抑える。この疲労の原因は仕事だけではなく、自身の後継者である「アルト」と「リオ」が関係している。
――王位の第一位継承者と第二位継承者、この2人の「後継者」に対してバルトロス13世は平等に2人を扱っており、優秀なアルトには期待を抱き、我が娘であるリオには愛情を注いでいた。
しかし、つい最近になってこの2人との関係が狂い始め、アルトは日増しにリノンとの婚約を認めるように迫り、リオもふらふらと王城の外にふらついては新しい護衛を雇おうとする。特にアルトに関しては異常であり、彼は剣乱武闘で優勝する事で六種族の勢力図を「人間」に傾けると宣言し、その代わりにリノンとの婚約を認めてほしいとバルトロス13世に直訴してきた。
国王としては個人的にはリノンの事は気に入っており、彼女が没落貴族だからと言って差別はせず、リノンの実力を認めてテンペスト騎士団の副団長の座に付けている。だが、現実に彼女とアルトを結婚させることを認められるはずが無い。
自分も若い頃は普通の町娘の女性と恋に落ち、そして「カルト」が生まれた。その事に後悔は無いが、アルトも自分と同じ道を辿らせるわけには行かない。あの時、先代の王「バルトロス12世」は彼が途轍もない過ちを犯したと嘆き、血の繋がった自分の息子を殺そうとまでしてきた。だが、多くの家臣の反対と跡継ぎが1人だけしかいなかったのが功を差し、命だけは助かった。
――アルトが王位に付くことは既に周囲も認めていおり、唯一反対していたハナムラ侯爵家もセンチュリオンとの繋がりが発覚し、既に侯爵家は取り壊されている。だが、もしもアルトが平民であるリノンを王妃として迎える場合は流石に他の家臣達も黙っているはずがない。
国王はリノンを好ましく思っていても、王国貴族の大半は没落貴族の彼女の存在を快く思っておらず、もしも彼女がアルトと婚約などした場合、彼らもここぞとばかりに王位をリオに継がせるように国王に進言するだろう。
一応はリオ自身も王家の血を継いでおり、王位継承の権利は彼女にも存在する。母親は一般庶民の出自ではあるが、彼女の他に妥当な後継者はいないため、貴族達がこのままアルトがリノンとの決行を諦めなかった場合、彼女を後押しするのは目に見えている。
普通ならば没落したとはいえ、貴族の血筋を継いでいるリノンとアルトが結ばれる方が問題ないように思えるのかもしれないが、重要なのはリオがバルトロス国王の家系という事であり、古くから彼に仕えている家臣の間でも国王がどちらに愛情を深く注いでいるのかは理解出来た。
それに肝心の問題の中心となっているリノンに関しても、それとなくバルトロス国王がパーティの際に彼女と接触したが、アルトに対してどう思っているのか尋ねると、
『そうですね……一番付き合いも長く、信頼できる友人です』
とだけ返されてしまい、リノン自身は特にアルトに想いを抱いているわけではない。にも関わらず、どうしてアルトが唐突に彼女との婚約の話を持ち出したのか。
「……のう、ホルン大臣」
「はっ」
「最近のアルトが何をしているか知っておるか?」
「アルト様ですか……?はて、我々と共に外交に励んでいる以外は特に……」
「そうか……なら、少し探ってくれぬか?」
「王?」
バルトロス国王が何を言いたいのか分からず、ホルン大臣は不審げに彼に視線を向けると、王は随分と年老いたように感じられ、
「……調査の結果によっては、アルトを王位継承権から外す」
「そんな……国王!!」
「待て、あくまでも調査の後に判断する事だ。仮にアルトに不審な点が見つからなければ……奴の言い分も聞こう」
「それは……リノン嬢の事に関する事ですか?」
「そうだ。何故、彼女の気持ちも考えずに婚約等と言い張ったのか……以前のアルトならばもう少し冷静な判断が出来た。少なくとも、私を相手に取引を持ち込むような真似などしない……」
「という事は……」
「……アルトのこれまでの行動を調べ上げろ」
ドンッ!!
机を叩き付け、書類を周囲に振るい落としながらも、バルトロス国王は大臣に指示を出す。その姿は先ほどまでとは打って違い、覇気に満ちていた。
彼は宿の中でも最高級の部屋を指定し、長年彼に仕えている大臣と共に書類を纏めていた。今回、この都市に訪れたのは剣乱武闘のためではあるが、一国の王である彼は常に多忙であり、書類の処理に明け暮れていた。
「ふうっ……」
「王……どうかお休みください。もう3日も真面に寝ておられないではないですか」
「ああ……いや、この分まで目を通してから休もう」
「そうですか……」
バルトロス国王は机の上に置かれた書類の山に目を通すが、どうにも疲労で頭が回らず、目頭を抑える。この疲労の原因は仕事だけではなく、自身の後継者である「アルト」と「リオ」が関係している。
――王位の第一位継承者と第二位継承者、この2人の「後継者」に対してバルトロス13世は平等に2人を扱っており、優秀なアルトには期待を抱き、我が娘であるリオには愛情を注いでいた。
しかし、つい最近になってこの2人との関係が狂い始め、アルトは日増しにリノンとの婚約を認めるように迫り、リオもふらふらと王城の外にふらついては新しい護衛を雇おうとする。特にアルトに関しては異常であり、彼は剣乱武闘で優勝する事で六種族の勢力図を「人間」に傾けると宣言し、その代わりにリノンとの婚約を認めてほしいとバルトロス13世に直訴してきた。
国王としては個人的にはリノンの事は気に入っており、彼女が没落貴族だからと言って差別はせず、リノンの実力を認めてテンペスト騎士団の副団長の座に付けている。だが、現実に彼女とアルトを結婚させることを認められるはずが無い。
自分も若い頃は普通の町娘の女性と恋に落ち、そして「カルト」が生まれた。その事に後悔は無いが、アルトも自分と同じ道を辿らせるわけには行かない。あの時、先代の王「バルトロス12世」は彼が途轍もない過ちを犯したと嘆き、血の繋がった自分の息子を殺そうとまでしてきた。だが、多くの家臣の反対と跡継ぎが1人だけしかいなかったのが功を差し、命だけは助かった。
――アルトが王位に付くことは既に周囲も認めていおり、唯一反対していたハナムラ侯爵家もセンチュリオンとの繋がりが発覚し、既に侯爵家は取り壊されている。だが、もしもアルトが平民であるリノンを王妃として迎える場合は流石に他の家臣達も黙っているはずがない。
国王はリノンを好ましく思っていても、王国貴族の大半は没落貴族の彼女の存在を快く思っておらず、もしも彼女がアルトと婚約などした場合、彼らもここぞとばかりに王位をリオに継がせるように国王に進言するだろう。
一応はリオ自身も王家の血を継いでおり、王位継承の権利は彼女にも存在する。母親は一般庶民の出自ではあるが、彼女の他に妥当な後継者はいないため、貴族達がこのままアルトがリノンとの決行を諦めなかった場合、彼女を後押しするのは目に見えている。
普通ならば没落したとはいえ、貴族の血筋を継いでいるリノンとアルトが結ばれる方が問題ないように思えるのかもしれないが、重要なのはリオがバルトロス国王の家系という事であり、古くから彼に仕えている家臣の間でも国王がどちらに愛情を深く注いでいるのかは理解出来た。
それに肝心の問題の中心となっているリノンに関しても、それとなくバルトロス国王がパーティの際に彼女と接触したが、アルトに対してどう思っているのか尋ねると、
『そうですね……一番付き合いも長く、信頼できる友人です』
とだけ返されてしまい、リノン自身は特にアルトに想いを抱いているわけではない。にも関わらず、どうしてアルトが唐突に彼女との婚約の話を持ち出したのか。
「……のう、ホルン大臣」
「はっ」
「最近のアルトが何をしているか知っておるか?」
「アルト様ですか……?はて、我々と共に外交に励んでいる以外は特に……」
「そうか……なら、少し探ってくれぬか?」
「王?」
バルトロス国王が何を言いたいのか分からず、ホルン大臣は不審げに彼に視線を向けると、王は随分と年老いたように感じられ、
「……調査の結果によっては、アルトを王位継承権から外す」
「そんな……国王!!」
「待て、あくまでも調査の後に判断する事だ。仮にアルトに不審な点が見つからなければ……奴の言い分も聞こう」
「それは……リノン嬢の事に関する事ですか?」
「そうだ。何故、彼女の気持ちも考えずに婚約等と言い張ったのか……以前のアルトならばもう少し冷静な判断が出来た。少なくとも、私を相手に取引を持ち込むような真似などしない……」
「という事は……」
「……アルトのこれまでの行動を調べ上げろ」
ドンッ!!
机を叩き付け、書類を周囲に振るい落としながらも、バルトロス国王は大臣に指示を出す。その姿は先ほどまでとは打って違い、覇気に満ちていた。
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