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第四部隊編
義手
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――翌朝、カゲマルの報告を受けたバルたちが救援に訪れたが、既にレノ達は枯葉の森のゴブリン達の集落(予定)に戻っており、ムミョウを紹介する。
色々と騒動はあったが、これからは彼もハイ・ゴブリンと共に暮らす事を告げ、ゴブリン達に農作物の指導を行う。元々は深淵の森の長老を勤めていただけはあり、人を引き付ける求心力、鋭い洞察力、高い説得力があり、ゴブリン達は彼の指示に素直に従う。
しばらくの間はこの森に滞在する予定だが、ゴブリン達が独り立ちする頃を見計らって森を出ると約束し、その後は姿を眩ました母親であるムメイを捜索する旅に出る事を告げる。
世界中を転移結晶で移動するセンチュリオンに所属している彼女を探し出すとしたら、並大抵の苦労ではないはずだが、彼もこのまま母親が歪んだ道を進む事は我慢できず、命を賭してでも止めなければならない。
今回、もしもレノが自分の元に戻ってくるつもりならば残りの余命を彼と共に平和に過ごす事を決めていたらしいが、彼としても母親とはもう一度ちゃんと話し合いたい思いもあった。
また、侵入者の対策として枯葉の森にはムミョウは自分の半生を費やして手に入れた魔水晶や魔石を使用した罠を設置する。深淵の森の罠ほどではないが、集落に近づこうとする魔獣や魔物を追い払う事ぐらいは出来るらしい。
少しずつではあるが枯葉の森にも生物達が出現し始め、半年もすれば森人族が住んでい頃のような美しい緑が復活するという。ムミョウが森の中に仕掛けた魔道具は罠用だけではなく、森林を活性化させる魔水晶も埋め込んでいるという。
森全体に特殊な魔水晶を埋め込んだため、彼が所持していたほぼ全ての魔水晶は使い果たしてしまったが、残りの魔水晶や魔石の類は全てレノ達に譲渡する。彼が言うには今後、世界中を旅する機会があったとしたら、地域によっては金銭ではなく、魔石を通貨として扱う村や街も存在するらしく、場合によっては必要となる可能性もあるので普段からある程度の魔石は所持して置く様に注意された。
彼は剣乱武闘にレノが参加する事に関しては最後まて反対したが、ここで大会参加を拒否すれば王国側に悪印象を与え、第四部隊その物が無くなる可能性もある。
取りあえずはほどほどに大会で好成績を残し、適当なところで負ける事を約束するとムミョウは渋々と納得し、レノ達は彼とハイ・ゴブリン達に見送られて闘人都市に帰還した。
――やがて、剣乱武闘が開催されるまであと10日にまで迫った頃、レノはソフィアの姿で黒根っこ酒場の自室に閉じこもって大会前の準備を行っていた。色々と考えた結果、この女性時の姿ならば誰もがレノの正体に気付くはずがなく、この都市に残っていたとしても問題は無い。
表向きは新しく酒場に入ったウエイトレスとして振る舞い、時間が空けばレグの元に赴き、彼女から直接「魔闘術」の指導を受ける。そして時間が空けば黒猫酒場の手伝いを行う生活を送る。そんな彼女にバルは呆れた表情を浮かべ、
「しっかし……あんた、何しにゴブリン達の元に戻ったんだい?」
「やかましい」
「ま、この時期にあんたが戻ってきたのは助かったけどね。ソフィアの木の実チャーハン定食は大人気だからね」
「いい加減に料理を覚え……ごめん、私が悪かった。うん、本当にごめんね?」
「何でそこで謝るんだい!?言っておくけど、少しは上達したんだからね!?」
部屋の中にわざわざお茶を運んできたバルがベッドに座り込み、ソフィアが銀の鎖を磨いている姿を確認しながら雑談を行う。ポチ子とゴンゾウはそれぞれ訓練で酒場を離れているが、コトミは自室で昼寝中である。
「しっかし……普段から何処にこんな物を隠してんだい」
「左腕」
ソフィアの机の上には銀の鎖以外にも黒衣(左腕を形成するための包帯)と聖爪(ネイルリング)、さらにはカトレアから受け取った「十字架鍵」が置かれており、普段は全て左腕に収納している。
現在のソフィアの左腕は肘から先が存在しないため、普段は黒衣の包帯と銀の鎖で義手を作り出しており、本物の腕は「甲冑の騎士」との戦闘で消失している。
「あの巫女姫の嬢ちゃんに新しく生やして貰えないのかい?」
「流石に無理だって」
この世界の回復魔法は失った肉体の一部まで再生するほどの力は存在せず、傷口を癒す程度の事しか出来ない。だが、ある程度五体満足であれば一肉体の損傷部を完全に治療する事も出来る。
「このままその義手で続けるきかい?何なら、腕のいい鍛冶屋でも紹介しようか?」
「鍛冶屋?」
「あたしの知り合いに変わった鍛冶屋の男が居てね。馬鹿高い金を払えば便利な義手を作ってくれるよ」
「やたらと顔が広いな……けど、義手か」
今までは黒衣の包帯を使用してきたが、そろそろ本物の義手を取り付ける事も考えなければならない。黒衣で形成した左腕ならば中身は空洞のため、銀の鎖や聖爪などを収納できる点は便利だが、手を取り付けた場合はこれらの魔道具を収納できないのではないかと伝えると、
「……なら収納用の魔石でも取り付けたらどうだい?」
「収納用?」
――魔石の中には空間魔法の系統に存在する代物も存在し、その中には「異空間(何処に収納されるかは明確には判明されていない。だが、魔石の大きさによって収納する質量が決まる。また、食料品を入れた場合は変わらぬ鮮度を保つ)」に収納する魔石も存在し、それらを使えばどんな物でも自由に収納できるという。
「あんた……本当に魔術師の知識がないんだね。変なところで抜けてるね」
「うるさいなぁっ……何処かで売ってるかな?」
「魔道具店(マジック・ショップ)にでも行けばいいんじゃないのかい?最も、目が飛び出るほどの額だろうけどね」
「盗むか」
「流石はあたしの弟だね」
軽い冗談を告げたつもりだが、バルは目つきを鋭くさせて「やるなら一声を掛けなよ」と告げると、そのまま部屋を出ていく。
色々と騒動はあったが、これからは彼もハイ・ゴブリンと共に暮らす事を告げ、ゴブリン達に農作物の指導を行う。元々は深淵の森の長老を勤めていただけはあり、人を引き付ける求心力、鋭い洞察力、高い説得力があり、ゴブリン達は彼の指示に素直に従う。
しばらくの間はこの森に滞在する予定だが、ゴブリン達が独り立ちする頃を見計らって森を出ると約束し、その後は姿を眩ました母親であるムメイを捜索する旅に出る事を告げる。
世界中を転移結晶で移動するセンチュリオンに所属している彼女を探し出すとしたら、並大抵の苦労ではないはずだが、彼もこのまま母親が歪んだ道を進む事は我慢できず、命を賭してでも止めなければならない。
今回、もしもレノが自分の元に戻ってくるつもりならば残りの余命を彼と共に平和に過ごす事を決めていたらしいが、彼としても母親とはもう一度ちゃんと話し合いたい思いもあった。
また、侵入者の対策として枯葉の森にはムミョウは自分の半生を費やして手に入れた魔水晶や魔石を使用した罠を設置する。深淵の森の罠ほどではないが、集落に近づこうとする魔獣や魔物を追い払う事ぐらいは出来るらしい。
少しずつではあるが枯葉の森にも生物達が出現し始め、半年もすれば森人族が住んでい頃のような美しい緑が復活するという。ムミョウが森の中に仕掛けた魔道具は罠用だけではなく、森林を活性化させる魔水晶も埋め込んでいるという。
森全体に特殊な魔水晶を埋め込んだため、彼が所持していたほぼ全ての魔水晶は使い果たしてしまったが、残りの魔水晶や魔石の類は全てレノ達に譲渡する。彼が言うには今後、世界中を旅する機会があったとしたら、地域によっては金銭ではなく、魔石を通貨として扱う村や街も存在するらしく、場合によっては必要となる可能性もあるので普段からある程度の魔石は所持して置く様に注意された。
彼は剣乱武闘にレノが参加する事に関しては最後まて反対したが、ここで大会参加を拒否すれば王国側に悪印象を与え、第四部隊その物が無くなる可能性もある。
取りあえずはほどほどに大会で好成績を残し、適当なところで負ける事を約束するとムミョウは渋々と納得し、レノ達は彼とハイ・ゴブリン達に見送られて闘人都市に帰還した。
――やがて、剣乱武闘が開催されるまであと10日にまで迫った頃、レノはソフィアの姿で黒根っこ酒場の自室に閉じこもって大会前の準備を行っていた。色々と考えた結果、この女性時の姿ならば誰もがレノの正体に気付くはずがなく、この都市に残っていたとしても問題は無い。
表向きは新しく酒場に入ったウエイトレスとして振る舞い、時間が空けばレグの元に赴き、彼女から直接「魔闘術」の指導を受ける。そして時間が空けば黒猫酒場の手伝いを行う生活を送る。そんな彼女にバルは呆れた表情を浮かべ、
「しっかし……あんた、何しにゴブリン達の元に戻ったんだい?」
「やかましい」
「ま、この時期にあんたが戻ってきたのは助かったけどね。ソフィアの木の実チャーハン定食は大人気だからね」
「いい加減に料理を覚え……ごめん、私が悪かった。うん、本当にごめんね?」
「何でそこで謝るんだい!?言っておくけど、少しは上達したんだからね!?」
部屋の中にわざわざお茶を運んできたバルがベッドに座り込み、ソフィアが銀の鎖を磨いている姿を確認しながら雑談を行う。ポチ子とゴンゾウはそれぞれ訓練で酒場を離れているが、コトミは自室で昼寝中である。
「しっかし……普段から何処にこんな物を隠してんだい」
「左腕」
ソフィアの机の上には銀の鎖以外にも黒衣(左腕を形成するための包帯)と聖爪(ネイルリング)、さらにはカトレアから受け取った「十字架鍵」が置かれており、普段は全て左腕に収納している。
現在のソフィアの左腕は肘から先が存在しないため、普段は黒衣の包帯と銀の鎖で義手を作り出しており、本物の腕は「甲冑の騎士」との戦闘で消失している。
「あの巫女姫の嬢ちゃんに新しく生やして貰えないのかい?」
「流石に無理だって」
この世界の回復魔法は失った肉体の一部まで再生するほどの力は存在せず、傷口を癒す程度の事しか出来ない。だが、ある程度五体満足であれば一肉体の損傷部を完全に治療する事も出来る。
「このままその義手で続けるきかい?何なら、腕のいい鍛冶屋でも紹介しようか?」
「鍛冶屋?」
「あたしの知り合いに変わった鍛冶屋の男が居てね。馬鹿高い金を払えば便利な義手を作ってくれるよ」
「やたらと顔が広いな……けど、義手か」
今までは黒衣の包帯を使用してきたが、そろそろ本物の義手を取り付ける事も考えなければならない。黒衣で形成した左腕ならば中身は空洞のため、銀の鎖や聖爪などを収納できる点は便利だが、手を取り付けた場合はこれらの魔道具を収納できないのではないかと伝えると、
「……なら収納用の魔石でも取り付けたらどうだい?」
「収納用?」
――魔石の中には空間魔法の系統に存在する代物も存在し、その中には「異空間(何処に収納されるかは明確には判明されていない。だが、魔石の大きさによって収納する質量が決まる。また、食料品を入れた場合は変わらぬ鮮度を保つ)」に収納する魔石も存在し、それらを使えばどんな物でも自由に収納できるという。
「あんた……本当に魔術師の知識がないんだね。変なところで抜けてるね」
「うるさいなぁっ……何処かで売ってるかな?」
「魔道具店(マジック・ショップ)にでも行けばいいんじゃないのかい?最も、目が飛び出るほどの額だろうけどね」
「盗むか」
「流石はあたしの弟だね」
軽い冗談を告げたつもりだが、バルは目つきを鋭くさせて「やるなら一声を掛けなよ」と告げると、そのまま部屋を出ていく。
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