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第四部隊編
ゴブリン達の農作業
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レノはレグに今回の事情を伝えると、彼女からは魔鎧の形状変化の基礎まできっちりと教わり、今後は第三段階の「硬度変化」について訓練するように言い付けられる。丁度、これからの訓練はレグの指導も必要なかったようであり、これからは1人で訓練しても問題はないらしい。
その後、準備を整えてからコトミとカゲマルを護衛として同行させ、レノはテンペスト騎士団の訓練場ではなく、つい最近に転移魔方陣をマーキングして置いたハイ・ゴブリン達が住処としている枯葉の森に移動する事にした。
王国側が護衛を行うと言っても、レノはテンペスト騎士団の中では浮いた存在であり、それに少数ではあるが騎士団の中にも森人族(エルフ)は存在する。彼らを疑う訳ではないが、より確実な安全策を取るために聖導教会が保護しているハイ・ゴブリン達が住み家としている枯葉の森の方が安全で過ごしやすいと判断して訪れたのだが、
「――あれ、転移する場所間違えたかな?」
「これは……畑でござるが?」
「……すごい」
レノは転移魔方陣を枯葉の森の焼け崩れた洋館にマーキングを行っており、すぐに転移した直後に視界に入った光景に驚愕する。以前に訪れた時は洋館の周囲には枯れ果てた樹木がだけが広がっていたはずだが、どういうわけか洋館の周囲30メートルほどの樹木が掘り尽くされており、変わりに大きな「畑」が広がっていた。
その畑には無数のハイ・ゴブリン達が何処から調達したのか鍬で耕しており、少し離れた場所には以前には無かったはずの近くの川の水路まで設けられ、この短期間でどうやら彼らが自力で作り出したらしい。
「おおっ!!これはレノ様!!よくぞお越しになられました!!」
畑を耕していたハイ・ゴブリンの中から一番年長者の「カイ」がレノ達に気が付き、以前と比べて悠長な言葉遣いで話しかけてくる。これはセンリの指導のお蔭であり、最近は言葉遣いだけでなく文字も教わっており、ハイ・ゴブリンの知能の高さが伺える。
「ギギィッ!!」
「ギギギッ♪」
「ギィッ!?」
カイは嬉しげに近寄り、他のゴブリン達も喜色満面の笑みを浮かべてレノの元に集まってくる。外見は人間とよく似ているが、まだカイ以外のゴブリン達は言葉は話せないようだ。
「お~……久しぶり」
「れ、レノ殿!?」
「……ふふんっ」
一瞬で無数のハイ・ゴブリンに囲まれた事にカゲマルが驚愕の声を上げるが、コトミは何故か感心した風に頷く。
カイがレノの傍に跪き、他のハイ・ゴブリン達も習うように跪く。先の鉱山で盗賊を討伐した事と、住処を提供して以来、どうにも彼らはレノの事を「救世主」や「主人」と呼び慕っており、勝手に忠誠を誓っている。地下迷宮にいた「ミノタウロス」の件もあり、良い意味でも悪い意味でもレノは魔物に好かれる体質かも知れない。
「レノ様、今回はどのようなご用件で?」
「ちょっと事情が合ってね……ここでしばらく居候したいんだけど」
「そんな、恐れ多い……この土地の全てレノ様の物です!!遠慮なさらずに何時までもお過ごしください!!」
「厳密に言えば俺のじゃないけどね……」
この枯葉の森は正式に聖導教会がハイ・ゴブリン達のために各方面と交渉し、王国領土から特別に貸りている。近々、この焼け崩れた洋館も本格的に立て直し、聖導教会側の人間が住む予定になっている。聖堂教会はカイのように他のハイ・ゴブリンが「人語(共通言語)」を理解できるのか試しており、場合によっては彼らの力を利用して大きな「労働力」を得られないかを確かめている。
ハイ・ゴブリンはゴブリンの上位種であり、当然その腕力や知力は他の魔物とは一線を引く。さらに生命力と適応力も高いため、開墾が困難な土地でも彼等ならば苦も無く農作物を育てられる。
それにゴブリンが「魔石」を喰らえばハイ・ゴブリンに進化すると判明した以上、無闇に彼らを狩るのではなく、カイ達の様に魔石を食らわせて彼等を進化させ、友好関係を結ぶ事が出来ないか模索している。
「そう言えば、カイはセンリの所に勉強中じゃなかったの?」
「センリ様が剣乱武闘の件で色々とお忙しいとの事なので、一時的に私もここに戻る許可を得ました。大会終了後はすぐに教会に戻る予定ですが……」
「ほ、本当に喋っているでござる……」
「……ゴブリンさん達に失礼」
「あう……た、確かにそうでござるな……」
ゴブリンと平然と会話を続けるレノにカゲマルは冷や汗を流し、そんな彼女の態度にコトミはこつんと頭を小突く。レノは周囲を見渡し、辺り一面に広がる畑に首を傾げる。この枯葉の森は完全に植物が育たない土地だと思い込んでいたが、何故彼らが畑を耕しているのか。
「ああ……この畑ですか?実は先日から、樹木の変わりに食物が欲しいという者が続出しまして、聖導教会の方に相談して畑を作ってるんです」
「へえ……でも、ここで育つの?」
「我々も不安でしたが……教会の方に調べてもらったところ、理由は不明ですが土地が再び元気を取り戻しているとか……」
「元気を……?」
レノは周囲を確認し、確かに以前と比べて現在の森に違和感を感じる。森人族(エルフ)の本能なのか、以前に訪れた時よりも様子が森の様子が変化している気がしてならない。何となく、枯れ果てているはずの樹木から魔力を感じ取り、よくよく観察すると殆どの樹木の枝の方に「新芽」が生えている事に気付いた。
その後、準備を整えてからコトミとカゲマルを護衛として同行させ、レノはテンペスト騎士団の訓練場ではなく、つい最近に転移魔方陣をマーキングして置いたハイ・ゴブリン達が住処としている枯葉の森に移動する事にした。
王国側が護衛を行うと言っても、レノはテンペスト騎士団の中では浮いた存在であり、それに少数ではあるが騎士団の中にも森人族(エルフ)は存在する。彼らを疑う訳ではないが、より確実な安全策を取るために聖導教会が保護しているハイ・ゴブリン達が住み家としている枯葉の森の方が安全で過ごしやすいと判断して訪れたのだが、
「――あれ、転移する場所間違えたかな?」
「これは……畑でござるが?」
「……すごい」
レノは転移魔方陣を枯葉の森の焼け崩れた洋館にマーキングを行っており、すぐに転移した直後に視界に入った光景に驚愕する。以前に訪れた時は洋館の周囲には枯れ果てた樹木がだけが広がっていたはずだが、どういうわけか洋館の周囲30メートルほどの樹木が掘り尽くされており、変わりに大きな「畑」が広がっていた。
その畑には無数のハイ・ゴブリン達が何処から調達したのか鍬で耕しており、少し離れた場所には以前には無かったはずの近くの川の水路まで設けられ、この短期間でどうやら彼らが自力で作り出したらしい。
「おおっ!!これはレノ様!!よくぞお越しになられました!!」
畑を耕していたハイ・ゴブリンの中から一番年長者の「カイ」がレノ達に気が付き、以前と比べて悠長な言葉遣いで話しかけてくる。これはセンリの指導のお蔭であり、最近は言葉遣いだけでなく文字も教わっており、ハイ・ゴブリンの知能の高さが伺える。
「ギギィッ!!」
「ギギギッ♪」
「ギィッ!?」
カイは嬉しげに近寄り、他のゴブリン達も喜色満面の笑みを浮かべてレノの元に集まってくる。外見は人間とよく似ているが、まだカイ以外のゴブリン達は言葉は話せないようだ。
「お~……久しぶり」
「れ、レノ殿!?」
「……ふふんっ」
一瞬で無数のハイ・ゴブリンに囲まれた事にカゲマルが驚愕の声を上げるが、コトミは何故か感心した風に頷く。
カイがレノの傍に跪き、他のハイ・ゴブリン達も習うように跪く。先の鉱山で盗賊を討伐した事と、住処を提供して以来、どうにも彼らはレノの事を「救世主」や「主人」と呼び慕っており、勝手に忠誠を誓っている。地下迷宮にいた「ミノタウロス」の件もあり、良い意味でも悪い意味でもレノは魔物に好かれる体質かも知れない。
「レノ様、今回はどのようなご用件で?」
「ちょっと事情が合ってね……ここでしばらく居候したいんだけど」
「そんな、恐れ多い……この土地の全てレノ様の物です!!遠慮なさらずに何時までもお過ごしください!!」
「厳密に言えば俺のじゃないけどね……」
この枯葉の森は正式に聖導教会がハイ・ゴブリン達のために各方面と交渉し、王国領土から特別に貸りている。近々、この焼け崩れた洋館も本格的に立て直し、聖導教会側の人間が住む予定になっている。聖堂教会はカイのように他のハイ・ゴブリンが「人語(共通言語)」を理解できるのか試しており、場合によっては彼らの力を利用して大きな「労働力」を得られないかを確かめている。
ハイ・ゴブリンはゴブリンの上位種であり、当然その腕力や知力は他の魔物とは一線を引く。さらに生命力と適応力も高いため、開墾が困難な土地でも彼等ならば苦も無く農作物を育てられる。
それにゴブリンが「魔石」を喰らえばハイ・ゴブリンに進化すると判明した以上、無闇に彼らを狩るのではなく、カイ達の様に魔石を食らわせて彼等を進化させ、友好関係を結ぶ事が出来ないか模索している。
「そう言えば、カイはセンリの所に勉強中じゃなかったの?」
「センリ様が剣乱武闘の件で色々とお忙しいとの事なので、一時的に私もここに戻る許可を得ました。大会終了後はすぐに教会に戻る予定ですが……」
「ほ、本当に喋っているでござる……」
「……ゴブリンさん達に失礼」
「あう……た、確かにそうでござるな……」
ゴブリンと平然と会話を続けるレノにカゲマルは冷や汗を流し、そんな彼女の態度にコトミはこつんと頭を小突く。レノは周囲を見渡し、辺り一面に広がる畑に首を傾げる。この枯葉の森は完全に植物が育たない土地だと思い込んでいたが、何故彼らが畑を耕しているのか。
「ああ……この畑ですか?実は先日から、樹木の変わりに食物が欲しいという者が続出しまして、聖導教会の方に相談して畑を作ってるんです」
「へえ……でも、ここで育つの?」
「我々も不安でしたが……教会の方に調べてもらったところ、理由は不明ですが土地が再び元気を取り戻しているとか……」
「元気を……?」
レノは周囲を確認し、確かに以前と比べて現在の森に違和感を感じる。森人族(エルフ)の本能なのか、以前に訪れた時よりも様子が森の様子が変化している気がしてならない。何となく、枯れ果てているはずの樹木から魔力を感じ取り、よくよく観察すると殆どの樹木の枝の方に「新芽」が生えている事に気付いた。
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