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第四部隊編
魔鎧
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「あはは~そうかそうか~君がバルちゃんのとこの英雄君か~」
「声がでかい」
「……でも、身体はちっちゃい」
レノとコトミの目の前には予想以上に小さい女性が座り込んでおり、外見は10歳ぐらいの人間の少女と変わらない。ちなみにゴンゾウは先ほど騒ぎを起こしていた大男と話があるらしいので席を外している。
彼女の外見はこの世界では比較的に珍しい黒髪に黒眼であり、人形のように整った顔立ち、身長は130センチほどであり、体格は文字通りの幼児体型。これでバルよりも年上だというのだから驚きである。
名前は「レグ」と名乗り、子供のような外見をしているが今年で40代を迎えるらしく、純粋な人間のはずだが特殊な鍛錬方法で老化を遅らせているらしい。
「まさか冗談で言ったのに来てくれるなんて嬉しいよ。バルちゃんの話は大抵当てにならないからね~」
「冗談だったんかい」
「会いたいのは本当だったよ~?さて、と……私に会いに来たのは大会前に力を付けたいからだね?」
軽い態度ではあるが、レノの真意を一瞬で見抜き、彼女は目つきを細める。
「私の魔闘術はね、代々家に伝わる戦闘術でね~。元々はひ弱な人間が他の種族に対抗するために編み出した技なんだよ~」
「へえ……」
「本当の名前は「魔鎧術」って言ってね~私のお爺さんのお爺さんのお爺さんの代から伝わる由緒正しい殺人術だよ~」
「なるほど」
「……殺すの?」
「戦場ならね」
殺人術という言葉にコトミがレノの後ろに隠れるが、彼女はけらけらと笑いながら唐突に右手をレノ達の前に差し出すと、
「……これ、見える?」
先ほどのように腕の周りの空間に揺らぎが生じ、レノとコトミは顔を見合わせる。2人とも魔力感知は得意のため、彼女の右腕から魔力が放出しているのは感じ取れる。
「流石に2人とも感じ取れるみたいだね~。普通の人なら、私の腕の異変に気付かないのに~」
「へえ……そうなのか」
「……変わった魔力」
彼女が先ほどから右腕に纏わりついている「揺らぎ」はレグの身体から生み出されている純粋な魔力で間違いない。
レノも魔力を操作する方法は得意(魔力で止血など)としているが、彼女の用に腕の部分だけに魔力を常時纏わせることはできない。隣でコトミも真似しようと「……むぅ~」と唸っているが、特に変化は無い。
「この方法を覚えるのは才能がある人でも一週間ぐらいかかるからね~。でも、君達どっちもそれなりに魔力操作が出来るみたいだから、もっと早く覚えるかもね~」
「一週間か……」
「……私は良い」
完全に諦めたのか、コトミは両手を元に戻す。その一方でレノはどうするか考え込み、大会前に彼女から魔闘術を教わるべきか悩んでいると、
「……まあ、教わる教わらないにしても、コツぐらいは教えてあげるよ~」
「コツ?」
「えっとね~自分の身体に見えない鎧があると思い込む事、それがコツかな」
「……それだけ?」
「それだけ~おっちゃんおかわり~」
「あいよ」
話は終わりだとばかりにレグは深く椅子に座り込み、無愛想なマスターに酒のおかわりを頼み込む。机の上には彼女が飲み干したと思われる酒瓶の山があり、どうやら外見に似合わず相当な酒豪らしい。レノ達は顔を見合わせてレグに別れの挨拶を済ませると、そのまま酒場を抜け出して外でゴンゾウと話し合っている大男を確認する。
「久しぶりだな……ゴンダワラ」
「……ああ、お前も元気そうだな」
「どうして、騎士団を抜けた?」
「……あいつの下に居るのが嫌になったって言っただろ?」
先ほどよりも落ち着いたのか、大男(名前は「ゴンダワラ」というらしい)はゴンゾウと普通に会話しており、レノ達は少し隠れて会話を盗み聞きする事を決めた。
「お前は出世したな……聞いたぞ、腐敗竜殺しの英雄さんよ」
「俺……あの時はそれほど役に立てなかった」
「んな事はねえだろ?その怪力なら、何でも出来るじゃねえか……俺と違ってよ」
「そんな事は無い……俺もつい最近負けた」
「お前が!?」
ゴンゾウの言葉が意外だったのか、ゴンダワラは驚いた声を上げる。この2人の関係性はどうやら共に同じ騎士団に所属していたようであり、彼が語る「あいつ」という人物が気にかかる。
「そうか……お前さんがな。上には上がいるのか」
「……勇者の1人にやられて、気絶した。ジャンヌ団長とレノに助けられなかったら、死んでいた」
「そうなのか……くそ、また勇者かよ!!」
ゴンダワラは何かを思い出したのか、不機嫌そうに道場の小石を蹴り飛ばし、ゴンゾウは首を傾げる。
「何かあったのか?」
「……昨日、勇者の1人に喧嘩を吹っ掛けられてな……くそっ!!」
「勇者が?」
「お前も気を付けろよ……あいつが戻ってきた。あの中二病野郎がよ」
「ちゅうに……シゲルか?」
「ああ、お前の所の団長と副団長にも気を付けるように注意しておけよ……あいつ、とんでもなく腕を上げてやがる」
彼はそれだけを告げると、ゴンゾウに「じゃあな」と告げてその場を立ち去る。レノとコトミは顔を見合わせ、ゴンゾウの元に駆け寄った。
「声がでかい」
「……でも、身体はちっちゃい」
レノとコトミの目の前には予想以上に小さい女性が座り込んでおり、外見は10歳ぐらいの人間の少女と変わらない。ちなみにゴンゾウは先ほど騒ぎを起こしていた大男と話があるらしいので席を外している。
彼女の外見はこの世界では比較的に珍しい黒髪に黒眼であり、人形のように整った顔立ち、身長は130センチほどであり、体格は文字通りの幼児体型。これでバルよりも年上だというのだから驚きである。
名前は「レグ」と名乗り、子供のような外見をしているが今年で40代を迎えるらしく、純粋な人間のはずだが特殊な鍛錬方法で老化を遅らせているらしい。
「まさか冗談で言ったのに来てくれるなんて嬉しいよ。バルちゃんの話は大抵当てにならないからね~」
「冗談だったんかい」
「会いたいのは本当だったよ~?さて、と……私に会いに来たのは大会前に力を付けたいからだね?」
軽い態度ではあるが、レノの真意を一瞬で見抜き、彼女は目つきを細める。
「私の魔闘術はね、代々家に伝わる戦闘術でね~。元々はひ弱な人間が他の種族に対抗するために編み出した技なんだよ~」
「へえ……」
「本当の名前は「魔鎧術」って言ってね~私のお爺さんのお爺さんのお爺さんの代から伝わる由緒正しい殺人術だよ~」
「なるほど」
「……殺すの?」
「戦場ならね」
殺人術という言葉にコトミがレノの後ろに隠れるが、彼女はけらけらと笑いながら唐突に右手をレノ達の前に差し出すと、
「……これ、見える?」
先ほどのように腕の周りの空間に揺らぎが生じ、レノとコトミは顔を見合わせる。2人とも魔力感知は得意のため、彼女の右腕から魔力が放出しているのは感じ取れる。
「流石に2人とも感じ取れるみたいだね~。普通の人なら、私の腕の異変に気付かないのに~」
「へえ……そうなのか」
「……変わった魔力」
彼女が先ほどから右腕に纏わりついている「揺らぎ」はレグの身体から生み出されている純粋な魔力で間違いない。
レノも魔力を操作する方法は得意(魔力で止血など)としているが、彼女の用に腕の部分だけに魔力を常時纏わせることはできない。隣でコトミも真似しようと「……むぅ~」と唸っているが、特に変化は無い。
「この方法を覚えるのは才能がある人でも一週間ぐらいかかるからね~。でも、君達どっちもそれなりに魔力操作が出来るみたいだから、もっと早く覚えるかもね~」
「一週間か……」
「……私は良い」
完全に諦めたのか、コトミは両手を元に戻す。その一方でレノはどうするか考え込み、大会前に彼女から魔闘術を教わるべきか悩んでいると、
「……まあ、教わる教わらないにしても、コツぐらいは教えてあげるよ~」
「コツ?」
「えっとね~自分の身体に見えない鎧があると思い込む事、それがコツかな」
「……それだけ?」
「それだけ~おっちゃんおかわり~」
「あいよ」
話は終わりだとばかりにレグは深く椅子に座り込み、無愛想なマスターに酒のおかわりを頼み込む。机の上には彼女が飲み干したと思われる酒瓶の山があり、どうやら外見に似合わず相当な酒豪らしい。レノ達は顔を見合わせてレグに別れの挨拶を済ませると、そのまま酒場を抜け出して外でゴンゾウと話し合っている大男を確認する。
「久しぶりだな……ゴンダワラ」
「……ああ、お前も元気そうだな」
「どうして、騎士団を抜けた?」
「……あいつの下に居るのが嫌になったって言っただろ?」
先ほどよりも落ち着いたのか、大男(名前は「ゴンダワラ」というらしい)はゴンゾウと普通に会話しており、レノ達は少し隠れて会話を盗み聞きする事を決めた。
「お前は出世したな……聞いたぞ、腐敗竜殺しの英雄さんよ」
「俺……あの時はそれほど役に立てなかった」
「んな事はねえだろ?その怪力なら、何でも出来るじゃねえか……俺と違ってよ」
「そんな事は無い……俺もつい最近負けた」
「お前が!?」
ゴンゾウの言葉が意外だったのか、ゴンダワラは驚いた声を上げる。この2人の関係性はどうやら共に同じ騎士団に所属していたようであり、彼が語る「あいつ」という人物が気にかかる。
「そうか……お前さんがな。上には上がいるのか」
「……勇者の1人にやられて、気絶した。ジャンヌ団長とレノに助けられなかったら、死んでいた」
「そうなのか……くそ、また勇者かよ!!」
ゴンダワラは何かを思い出したのか、不機嫌そうに道場の小石を蹴り飛ばし、ゴンゾウは首を傾げる。
「何かあったのか?」
「……昨日、勇者の1人に喧嘩を吹っ掛けられてな……くそっ!!」
「勇者が?」
「お前も気を付けろよ……あいつが戻ってきた。あの中二病野郎がよ」
「ちゅうに……シゲルか?」
「ああ、お前の所の団長と副団長にも気を付けるように注意しておけよ……あいつ、とんでもなく腕を上げてやがる」
彼はそれだけを告げると、ゴンゾウに「じゃあな」と告げてその場を立ち去る。レノとコトミは顔を見合わせ、ゴンゾウの元に駆け寄った。
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