種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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第四部隊編

バルの知人

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「あんたも覚えたいって言うのなら、仕込んでやろうか?」
「出来るの?」
「まあ……三日ぐらいは悶え苦しむだろうけどね」
「何をする気だ何を……」


バルは「にゃはははっ」と珍しく猫の獣人らしい笑い声を上げ、そのまま出て行こうとした時、


「あ、そう言えば」
「ん?」


ドアノブに手を伸ばした瞬間に何かを思い出したように彼女が振り返り、


「あ~……その、あんた格闘術に興味はあるかい?」
「格闘術……?」
「いや、あたしの知り合いがあんたを紹介しろってうるさくてね……」
「何で?」
「前に酔った勢いであんたが腐敗竜を討伐したことを喋っちまってね……その時に偉く興味を惹かれたみたいで……」
「おいこら」


レノが腐敗竜の討伐メンバーである事を知っているのは王国の関係者と、ワルキューレ騎士団と聖導教会の上層部(ヨウカやセンリ)だけであり、この闘人都市でレノの事を知っている人間は黒猫酒場の関係者しかいない。

王国側も正体を明かす事を厳重に注意しており、バルたちも口止め料として相当な額を頂いたはずだが、酔ったとは言え王国の機密事項を一般人に喋ったとなると色々と問題である。


「まあ、口は堅い奴だから問題ない、と思いたい……王国には絶対にバラすんじゃいよ」
「口止め料を使い果たしたな……」


最近、酒場内にどう考えても場違いなほどの高級な酒類が用意されており、毎晩バルが嬉々として飲んでいる姿を見かけた理由が判明する。レノは彼女を睨み付けると、彼女は罰が悪そうに「悪かったよ……」と呟きながら、


「で、でもあんたにとっても悪い話じゃないよ!!そいつは昔は剣乱武闘で決勝まで残ったこともあるからね!!」
「剣乱武闘にって……何歳だよ」


剣乱武闘は本来は10年単位で行われており、今回の場合は前回の大会がセンチュリオンの乱入で中止にされたからこそ早期に再開されたが、前回の決勝まで勝ち残った者達はジャンヌとアルトを除いてセンチュリオンに全員が攫われたているはず。そのため彼女が語る「格闘家」はそれ以前の「剣乱武闘」に出場した者になるが、


「さあね……あたしが子供の頃から姿形変わっていないからね……」
「……森人族(エルフ)?」
「いや、人間だよ。ただ、特別な格闘術を知っていてね。自分の寿命を延ばしているとか何とか……」
「人間が……?」


この世界の各種族の寿命は「人間(ヒューマン)」が70~80歳「森人族」は350~450歳(但し、寿命を終える前に狩猟や戦で命を落とす者が大半)「巨人族」は100~120歳「獣人族」は60~70歳「人魚族」は150~200歳「魔人族」に関しては個体差(サイクロプスは40年ほどだが、ハイ・ゴブリンは80年は生きる)がある。

バルの話によると彼女が子供の頃(だいたい20年ほど前)から容姿が変わっておらず、どのような方法で姿形を保っているのかが気にかかるらしいが、今はバルの知人が扱うという格闘術について問い質す。


「格闘術……って、どういう事だ?普通の武術とは違うものなのか?」
「確か『魔闘術』って言ってたね……いや、『魔鎧術』だっけ?まあ、あたしは才能が無いから完璧には習得できなかったけど、あいつは素手だけで戦場を渡り歩いていたそうだよ」
「傭兵?」
「正確に言えば格闘家だね。と言っても、教えるのは武術じゃなくて魔力を利用した戦闘方法だけだけどね」
「魔力を……?」


レノは首を傾げ、彼女が言う魔力を利用するという表現に「肉体強化(魔力による身体能力強化)」とどう違うのかと尋ねると、


「あいつが言うには肉体強化は内側から肉体を強める事らしい。だけど、あいつの使う『魔闘術』は外側に魔力を放出して「鎧」を作りだすって言ってたね」
「魔力の……鎧?」


レノは「撃雷」や「雷撃」の事を思いだし、この2つは腕全体に魔法を纏わせるが、彼女の語る「魔闘術(魔鎧術?)」の「魔力の鎧」というのがよく分からない。


「魔力で形成した鎧は防御の面だけでなく、攻撃にも利用できる……とか何とか言ってたような……けど、魔力量が少ない人間が試そうとしたら自殺行為に等しいらしいけどね」
「へえ……」


試しにレノは自分の右腕に自分の魔力だけを放出しようとしたが、思ったよりも上手くいかず、どの属性にも属さない純粋な魔力を生み出すのがこんなにも難しい事を初めて知った。今更ながら、ヨウカが聖導教会で水晶玉に向けて始めて聖属性の魔力を生み出す苦労が分かる。


「聞いただけで上手く言ったら苦労しないよ……けど、あんたはハーフエルフだから向いてるんじゃないかと思ってね」
「魔力量に関しては自信がある。よく、魔力切れを起こすけど」
「矛盾してないかいそれ……」


普通に魔力消費が多い無詠唱魔法を使用して戦う分には問題ないが、カラドボルグのような聖剣を扱う度に根こそぎ魔力を奪われるため、今の魔力量だけでは不安な点もある。最も、現時点でもレノの魔力容量は並の魔術師の数十倍はあり、普通のハーフエルフと比べても異常ではあるが。


「気になるなら会ってみたらどうだい?居場所は教えてやるからさ」
「何処に居る?」
「そうさね……今の時間帯なら中心街の「コウラン」ていう酒場に居ると思うよ」
「中心街か……」


レノはバルの知人が扱うという「魔闘術」に興味を沸き、取りあえずは大会に備えるためにも会う事を決意する。
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