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第四部隊編
露天商の正体
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「さて……この指輪をどうするか」
「むぅっ……」
物欲しそうに露天商から頂いた指輪入りの袋を見続けるコトミに気付きながら、レノはこれ見よがしに彼女の目の前で袋を開き、自分の指に填め込む。
「ふむ……武器に使えそうだな」
「……そう」
「冗談だよ。ほら」
レノは指輪を外してコトミの手を取ると、彼女の右手の「人差し指」に填め込む。
「あっ……」
「うん……サイズもぴったりだ」
満足そうに頷きながら、レノはコトミが若干頬を赤くしている事に気付かず、そのまま前を向いて歩き出す。コトミはそんな彼の後姿を確認しながら、じっと自分の右手に填め込まれた指輪を確認し、恥ずかしそうに左手で覆い隠す。
――レノは知らなかったが、この世界で男性が女性の指輪に嵌める事は「告白」に等しい行為であり、しかも「人差し指」に填め込むのは結婚を前提に付き合ってほしいという意味もある。だからこそ、コトミが今までに見たことが無いほどに頬を赤く染めているにも関わらずにレノは気付かない。
「どうした?もう行くよ?」
「…………うん」
「……?」
いつも以上に反応が遅かったコトミに首を傾げるが、彼女は少しだけ距離を置いて後に続き、レノは気にせずに歩み始める。
――そんな後姿の2人を確認しながら、露天商の女主人は深く溜息を吐き、そのローブから顔を出す。
「ふうっ……まさか、ここで再会するとは……それにしても大きくなったなぁ」
それは放浪島からやっとの事で地上に帰還した深淵の森の森人族の戦士であり、レノの叔母でもある「フレイ」であり、彼女は森人族の掟で失われたはずの両目でしっかりと2人の後姿を見つめ、深い溜息を吐く。
「軽い資金稼ぎのために立ち寄っただけなのに……ばれずに済んでよかった」
「……ク~ンッ?」
不意に後ろから狼の声が聞こえ、フレイは振り向くとそこには首輪で繋がれたウルの姿があり、先ほどまで彼女の背中で毛布にくるまっていたため、何とかレノにばれずに済んだ。
「スンスンッ……ウォンッ!!」
「待て待て!!会いに行こうとするな!!」
懐かしのレノの匂いを嗅ぎ取り、ウルは一目散に駈け出そうとしたところを引き止め、フレイに唸り声を上げてくるが、彼女が左腕に刻まれた牙のようなタトゥーを見せつけると、
「お前は私と契約したんだぞ?たまには言う事を聞け!!」
「グルルルルッ……」
「従わないなら今日の餌は抜きだ」
「ウォンッ!?ク~ンック~ンッ……」
餌抜きという言葉にウルは大人しくなり、そんな態度にフレイは頭を撫でやりながら、既に見えなくなったレノ達の方向に視線を向け、先ほどの光景を思い出す。やたらと距離が近い騎士風の格好をした女を引き連れているのも驚きだが、白昼堂々とフレイが自作した「魔水晶の指輪」を彼女の右手に填め込んだときは、驚愕で声を上げそうになった。
まだレノは「森人族」としては子供の年齢だが、人間では成人の年齢に達しているため、指輪を女性に填める事の意味を理解しているはず(実際にはしていないが)であり、フレイは自分の子供が嫁(?)に行くような感覚に陥って感慨深げに涙を浮かべる。
「そういう所は姉貴に似なかったんだな……おめでとうレノ。でも、叔母さんは少し寂しく思えるよ……」
「ウォンッ?」
「何でもないよ……さて、戻ってきたら困るから、引き上げるとしようか」
フレイがこの都市に立ち寄ったのは、彼女も1か月後に開催される剣乱武闘に参加するためと、自分が消えた後の深淵の森がどうなっているかを確認するためであり、荷物を纏めるとすぐにウルと共にその場を早々に立ち去る。
「……にしても、なんだか可笑しな雰囲気だな……」
「グルルルッ……」
荷物を背中に抱えながらも、フレイは街に行き交う人間達を観察し、そのほとんどが剣乱武闘が目的で訪れた冒険者と思われるが、奇妙な気配を漂わせるローブの集団をよく見かける。
「あの女……面倒事を押し付けたまま消えやがって……」
「ウォオンッ」
――1年半前にレノが「地下迷宮(ロスト・ラビリンス)」に潜り込む前、フレイはアイリィからある術式を施され、完全に失明していたはずの両目が元通りとなり、彼女からある指示を言い渡される。
それは今後、陰ながらレノの手助けを行うように言い渡され、決して自分の正体をばらさない様に行動せよという内容だった。フレイ本人としてはすぐにもレノと合流し、共に行動するのが一番だと思うが、一応は命の恩人であるアイリィに従う。
どうやって放浪島からウルを引き連れて地上に戻ったかというと、彼女は転移魔法は使えないため、頭部監獄に居たアイリィと繋がりのある老人から特殊な転移結晶を受け取り、それを使用してやっと戻ってきたのだ。
現在はレノの所在を掴み、この都市にまでやってきたのは良いが、武人の血が騒ぎ、どうしても「剣乱武闘」に参加したくなったため、参加証を得るために金銭を稼いでいる最中だった。
「あと金貨10枚……やったらぁっ!!」
本来の目的も忘れがちに、フレイは金を稼ぐために冒険者ギルドに向かった――
※後日談
「ポチ子~首……じゃなくて、チョーカーあげる」
「わうっ!?」
犬型の獸人に対し、「首輪(チョーカーも含む)」を渡すことは婚約を求めることを意味して……(以下省略)。
「ゴンちゃんも似合いそうな腕輪も買ってきたよ」
「おおっ……」
巨人族の間では親しい者に「腕輪」を渡すことは「義兄弟」の契りを交わすことに等しく……(以下省略)
「むぅっ……」
物欲しそうに露天商から頂いた指輪入りの袋を見続けるコトミに気付きながら、レノはこれ見よがしに彼女の目の前で袋を開き、自分の指に填め込む。
「ふむ……武器に使えそうだな」
「……そう」
「冗談だよ。ほら」
レノは指輪を外してコトミの手を取ると、彼女の右手の「人差し指」に填め込む。
「あっ……」
「うん……サイズもぴったりだ」
満足そうに頷きながら、レノはコトミが若干頬を赤くしている事に気付かず、そのまま前を向いて歩き出す。コトミはそんな彼の後姿を確認しながら、じっと自分の右手に填め込まれた指輪を確認し、恥ずかしそうに左手で覆い隠す。
――レノは知らなかったが、この世界で男性が女性の指輪に嵌める事は「告白」に等しい行為であり、しかも「人差し指」に填め込むのは結婚を前提に付き合ってほしいという意味もある。だからこそ、コトミが今までに見たことが無いほどに頬を赤く染めているにも関わらずにレノは気付かない。
「どうした?もう行くよ?」
「…………うん」
「……?」
いつも以上に反応が遅かったコトミに首を傾げるが、彼女は少しだけ距離を置いて後に続き、レノは気にせずに歩み始める。
――そんな後姿の2人を確認しながら、露天商の女主人は深く溜息を吐き、そのローブから顔を出す。
「ふうっ……まさか、ここで再会するとは……それにしても大きくなったなぁ」
それは放浪島からやっとの事で地上に帰還した深淵の森の森人族の戦士であり、レノの叔母でもある「フレイ」であり、彼女は森人族の掟で失われたはずの両目でしっかりと2人の後姿を見つめ、深い溜息を吐く。
「軽い資金稼ぎのために立ち寄っただけなのに……ばれずに済んでよかった」
「……ク~ンッ?」
不意に後ろから狼の声が聞こえ、フレイは振り向くとそこには首輪で繋がれたウルの姿があり、先ほどまで彼女の背中で毛布にくるまっていたため、何とかレノにばれずに済んだ。
「スンスンッ……ウォンッ!!」
「待て待て!!会いに行こうとするな!!」
懐かしのレノの匂いを嗅ぎ取り、ウルは一目散に駈け出そうとしたところを引き止め、フレイに唸り声を上げてくるが、彼女が左腕に刻まれた牙のようなタトゥーを見せつけると、
「お前は私と契約したんだぞ?たまには言う事を聞け!!」
「グルルルルッ……」
「従わないなら今日の餌は抜きだ」
「ウォンッ!?ク~ンック~ンッ……」
餌抜きという言葉にウルは大人しくなり、そんな態度にフレイは頭を撫でやりながら、既に見えなくなったレノ達の方向に視線を向け、先ほどの光景を思い出す。やたらと距離が近い騎士風の格好をした女を引き連れているのも驚きだが、白昼堂々とフレイが自作した「魔水晶の指輪」を彼女の右手に填め込んだときは、驚愕で声を上げそうになった。
まだレノは「森人族」としては子供の年齢だが、人間では成人の年齢に達しているため、指輪を女性に填める事の意味を理解しているはず(実際にはしていないが)であり、フレイは自分の子供が嫁(?)に行くような感覚に陥って感慨深げに涙を浮かべる。
「そういう所は姉貴に似なかったんだな……おめでとうレノ。でも、叔母さんは少し寂しく思えるよ……」
「ウォンッ?」
「何でもないよ……さて、戻ってきたら困るから、引き上げるとしようか」
フレイがこの都市に立ち寄ったのは、彼女も1か月後に開催される剣乱武闘に参加するためと、自分が消えた後の深淵の森がどうなっているかを確認するためであり、荷物を纏めるとすぐにウルと共にその場を早々に立ち去る。
「……にしても、なんだか可笑しな雰囲気だな……」
「グルルルッ……」
荷物を背中に抱えながらも、フレイは街に行き交う人間達を観察し、そのほとんどが剣乱武闘が目的で訪れた冒険者と思われるが、奇妙な気配を漂わせるローブの集団をよく見かける。
「あの女……面倒事を押し付けたまま消えやがって……」
「ウォオンッ」
――1年半前にレノが「地下迷宮(ロスト・ラビリンス)」に潜り込む前、フレイはアイリィからある術式を施され、完全に失明していたはずの両目が元通りとなり、彼女からある指示を言い渡される。
それは今後、陰ながらレノの手助けを行うように言い渡され、決して自分の正体をばらさない様に行動せよという内容だった。フレイ本人としてはすぐにもレノと合流し、共に行動するのが一番だと思うが、一応は命の恩人であるアイリィに従う。
どうやって放浪島からウルを引き連れて地上に戻ったかというと、彼女は転移魔法は使えないため、頭部監獄に居たアイリィと繋がりのある老人から特殊な転移結晶を受け取り、それを使用してやっと戻ってきたのだ。
現在はレノの所在を掴み、この都市にまでやってきたのは良いが、武人の血が騒ぎ、どうしても「剣乱武闘」に参加したくなったため、参加証を得るために金銭を稼いでいる最中だった。
「あと金貨10枚……やったらぁっ!!」
本来の目的も忘れがちに、フレイは金を稼ぐために冒険者ギルドに向かった――
※後日談
「ポチ子~首……じゃなくて、チョーカーあげる」
「わうっ!?」
犬型の獸人に対し、「首輪(チョーカーも含む)」を渡すことは婚約を求めることを意味して……(以下省略)。
「ゴンちゃんも似合いそうな腕輪も買ってきたよ」
「おおっ……」
巨人族の間では親しい者に「腕輪」を渡すことは「義兄弟」の契りを交わすことに等しく……(以下省略)
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