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第四部隊編
友情に篤い男
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「何なんっすか?あの態度……王子様っていつもあんな感じなんすか?」
「わうっ……なんだか不機嫌でした」
「……疲れてた」
「いたのかコトミ……」
「……さっき起きた」
何時の間にか寝間着姿のコトミがレノの背中に抱き付き、眠たそうに瞼を擦りながらアルトが立ち去った玄関口を見やり、
「……あの人、何かに憑かれてるみたい」
「疲れてるのは見れば分かる」
「……むうっ……」
「いや、悪霊系の魔物か何かに憑かれているって言いたいんじゃないのかい?」
バルがツッコミを入れると、全員が視線を彼女に向け、コトミは首を傾げながらも、
「……嫌な気配は無かった。けど、何だか可笑しな雰囲気」
「ふ~ん……そうなのか」
「だ、大丈夫でしょうか……」
「……憑かれたら、私が浄化する」
「流石ワルキューレだね……ちなみに悪霊を浄化する方法って、具体的に何するんだい?」
「……ポンポンにパンチ」
「腹パン!?」
シュッシュッ!と、普段に見せ無いほどの素早い動きで拳を突き出し、全員が苦笑いを浮かべる。だが、レノだけは「聖属性」の魔力が微量ではあるが彼女の拳に纏われているのを確認し、恐らく彼女の語る浄化方法とは聖属性の魔力を帯びた攻撃を与える事らしい。
「意外と肉体派何だね……まさか、他の奴等もそんな方法で浄化してるんじゃ……」
「……私だけ」
「だよな……」
悪霊に憑りつかれた者達にミキやセンリ果てにはヨウカが腹パンする姿を想像し、何故かヨウカだけは嬉々として拳をめり込ませる姿が浮かぶ。ある意味笑える光景だが、憑りつかれた者に関しては冗談ではないだろう。
「しかし……あの王子、随分と顔色が悪かったね」
「色々と気苦労が絶えないんだろ……多分」
「あたし、王子ってもう少し愛想の良いイケメンだと思ってたんすけどねぇ……まあ、顔は良いですけど」
「おう?何だいカリナ、狙ってるのかい?だけど諦めなよ。獣人のあんたと人間の王子が付き合うのは色々と無理があるからね」
「それはないっすよ。私は兄貴一筋っすから!!」
「ドキッ……意外な相手から告白」
「むうっ……」
カリナの冗談に軽く返すと、コトミが少し不機嫌そうにレノに抱き付く力を強め、彼女の胸が押し付けられる。その感触に素直に気持ちいいと思いながらも、徐々に首に締め付けられる力が強まってきたので、仕方なくレノは彼女を引き剥がし、アルトから手渡された羊皮紙を再確認する。
「……これって場所の名前しか書かれていないな。地図も付いていないから、正確な位置が分からない」
「廃坑なら……ゴンゾウさんが何か知ってるかもしれません!」
「そっか。今、炭鉱に働きに出てるんだっけ」
彼ならば仕事の関係上、この羊皮紙に書かれている廃坑の場所を知っている可能性も高い。だが、彼が出向ている炭鉱はこの闘人都市から馬でも1日は必要とする距離であり、さらに言えば巨人族である彼を運べるほどの乗り物は滅多に存在しないため、徒歩で移動を行う分、余計に時間が掛かる。
そのため、レノがわざわざ彼のために仕事場に出向き、転移魔方陣をマーキングしてから彼を送り毎日送り迎えを行う。この方法ならば移動時間も短縮し、費用も掛からないため、ゴンゾウは彼に感謝しながら炭鉱でその有り余る腕力を発揮する。
炭鉱で発掘と言っても採掘するのは鉱石ではなく「魔石」の原石が主であり、金銭はそれなりに稼げるらしいが、ゴンゾウの場合は食費と装備品を整えるだけで給金の大半が消費し、他にも彼は家族にも仕送りを送っているため、手元にはほとんど残らない。
少し前までは腐敗竜やリュウケンの一件で活躍した彼に各国(王国に属さない小国も存在する)の騎士団や冒険者ギルドから引き抜きの誘いがあったが、彼はそれを全て断り、テンペスト騎士団で働くことを決意する。
――ゴンゾウは長年の親友であるリノン達の元から離れず、さらに言えば恩人であり戦友であるレノの部下である事に誇りを持っている。そのため、彼は炭鉱に出向いてまで尽してくれている。彼の友情にはレノも感謝しきれず、何としても第四部隊を他の部隊に負けないほどの規模に発展させてわざわざ彼に苦労させるような真似をしないようにしなければならないと常々思っていた。
「……今の時間帯は……寝てるかな」
「流石に起きてるんじゃないかい?炭鉱ってのは案外朝早くにやるからね」
「そうか……いや、急ぎの要件っていう訳でもないし、夜に尋ねるよ」
「いきなり呼び出したら、炭鉱の現場の人たちにも迷惑が掛かりますからね……」
「そうだな……なら、今日もいつも通りに働きますか」
「……メイド服、着る?」
「着ねえよ」
さり気なくコトミが例のメイド服を持ち出し、彼女は何かとレノに黒猫酒場のウエイトレスの制服ではなく、メイド服を着せようとしてくる。
「わうっ……なんだか不機嫌でした」
「……疲れてた」
「いたのかコトミ……」
「……さっき起きた」
何時の間にか寝間着姿のコトミがレノの背中に抱き付き、眠たそうに瞼を擦りながらアルトが立ち去った玄関口を見やり、
「……あの人、何かに憑かれてるみたい」
「疲れてるのは見れば分かる」
「……むうっ……」
「いや、悪霊系の魔物か何かに憑かれているって言いたいんじゃないのかい?」
バルがツッコミを入れると、全員が視線を彼女に向け、コトミは首を傾げながらも、
「……嫌な気配は無かった。けど、何だか可笑しな雰囲気」
「ふ~ん……そうなのか」
「だ、大丈夫でしょうか……」
「……憑かれたら、私が浄化する」
「流石ワルキューレだね……ちなみに悪霊を浄化する方法って、具体的に何するんだい?」
「……ポンポンにパンチ」
「腹パン!?」
シュッシュッ!と、普段に見せ無いほどの素早い動きで拳を突き出し、全員が苦笑いを浮かべる。だが、レノだけは「聖属性」の魔力が微量ではあるが彼女の拳に纏われているのを確認し、恐らく彼女の語る浄化方法とは聖属性の魔力を帯びた攻撃を与える事らしい。
「意外と肉体派何だね……まさか、他の奴等もそんな方法で浄化してるんじゃ……」
「……私だけ」
「だよな……」
悪霊に憑りつかれた者達にミキやセンリ果てにはヨウカが腹パンする姿を想像し、何故かヨウカだけは嬉々として拳をめり込ませる姿が浮かぶ。ある意味笑える光景だが、憑りつかれた者に関しては冗談ではないだろう。
「しかし……あの王子、随分と顔色が悪かったね」
「色々と気苦労が絶えないんだろ……多分」
「あたし、王子ってもう少し愛想の良いイケメンだと思ってたんすけどねぇ……まあ、顔は良いですけど」
「おう?何だいカリナ、狙ってるのかい?だけど諦めなよ。獣人のあんたと人間の王子が付き合うのは色々と無理があるからね」
「それはないっすよ。私は兄貴一筋っすから!!」
「ドキッ……意外な相手から告白」
「むうっ……」
カリナの冗談に軽く返すと、コトミが少し不機嫌そうにレノに抱き付く力を強め、彼女の胸が押し付けられる。その感触に素直に気持ちいいと思いながらも、徐々に首に締め付けられる力が強まってきたので、仕方なくレノは彼女を引き剥がし、アルトから手渡された羊皮紙を再確認する。
「……これって場所の名前しか書かれていないな。地図も付いていないから、正確な位置が分からない」
「廃坑なら……ゴンゾウさんが何か知ってるかもしれません!」
「そっか。今、炭鉱に働きに出てるんだっけ」
彼ならば仕事の関係上、この羊皮紙に書かれている廃坑の場所を知っている可能性も高い。だが、彼が出向ている炭鉱はこの闘人都市から馬でも1日は必要とする距離であり、さらに言えば巨人族である彼を運べるほどの乗り物は滅多に存在しないため、徒歩で移動を行う分、余計に時間が掛かる。
そのため、レノがわざわざ彼のために仕事場に出向き、転移魔方陣をマーキングしてから彼を送り毎日送り迎えを行う。この方法ならば移動時間も短縮し、費用も掛からないため、ゴンゾウは彼に感謝しながら炭鉱でその有り余る腕力を発揮する。
炭鉱で発掘と言っても採掘するのは鉱石ではなく「魔石」の原石が主であり、金銭はそれなりに稼げるらしいが、ゴンゾウの場合は食費と装備品を整えるだけで給金の大半が消費し、他にも彼は家族にも仕送りを送っているため、手元にはほとんど残らない。
少し前までは腐敗竜やリュウケンの一件で活躍した彼に各国(王国に属さない小国も存在する)の騎士団や冒険者ギルドから引き抜きの誘いがあったが、彼はそれを全て断り、テンペスト騎士団で働くことを決意する。
――ゴンゾウは長年の親友であるリノン達の元から離れず、さらに言えば恩人であり戦友であるレノの部下である事に誇りを持っている。そのため、彼は炭鉱に出向いてまで尽してくれている。彼の友情にはレノも感謝しきれず、何としても第四部隊を他の部隊に負けないほどの規模に発展させてわざわざ彼に苦労させるような真似をしないようにしなければならないと常々思っていた。
「……今の時間帯は……寝てるかな」
「流石に起きてるんじゃないかい?炭鉱ってのは案外朝早くにやるからね」
「そうか……いや、急ぎの要件っていう訳でもないし、夜に尋ねるよ」
「いきなり呼び出したら、炭鉱の現場の人たちにも迷惑が掛かりますからね……」
「そうだな……なら、今日もいつも通りに働きますか」
「……メイド服、着る?」
「着ねえよ」
さり気なくコトミが例のメイド服を持ち出し、彼女は何かとレノに黒猫酒場のウエイトレスの制服ではなく、メイド服を着せようとしてくる。
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