種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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聖導教会総本部編

勇者達の異変

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勇者達が部屋の中で雑談をしていると、扉がゆっくりと開かれ、両手に飲み物が乗せられたトレイを握り締める加藤が現れる。その姿に全員が少し驚いた表情を浮かべ、彼はそのまま部屋の中に入り込む。


ガチャッ……


「お、おう……お帰り。随分と早かったな」
「何ですかそれ?わざわざ飲み物貰いに行ったんですか?珍しく気が利きますね……」
「……ああ」


加藤は机の上にトレイを置くと、そのまま人数分のグラスに飲み物を注ぎ、彼等の方に手渡す。いつもより妙に優しい彼の態度に全員が顔を見合わせ、様子が可笑しいことに疑問を抱く。


「あの……どうかしたんですか?顔色悪いですよ」
「何かあったのか」
「別に……」


そのまま彼は壁に背中を預けて黙り込む。そんな彼に不審に思いながら勇者達は彼が注いだグラスを手に取り、口に含む。だが、この葬式にアルトが参加していると聞いて駆け付けた「ミカ」だけは不審に思い、グラスを口元の直前で止める


「ん?」
「あれ……」
「まずっ!」


すぐに美香以外の全員が飲み物を口に含んだ瞬間に苦い表情を浮かべ、トレイを運んできた加藤に視線を向け、彼が水差しの飲料に何か仕組んだのではないかと疑う。


「ちょっと先輩!!何を貰ってきたんですか?」
「……飲んだか?」
「は?」
「何を言って……ぅえっ?」


ぼたぼたっ……


ミカ以外の男達の鼻から鼻血が溢れ、妙に身体が熱く感じる。その様子を加藤は確認すると、笑みを浮かべて扉の向こう側に声を掛ける。


「……もういいです」
『はいは~い』


バタンッ……


「え……」


すぐにも加藤が扉を開くと向こう側からミカにも見覚えのある少女が姿を現す。しかし、何故ここに彼女が居るのかと疑問を抱く。


「……ジャンヌ……さん?」
「あれ?」


ミカの言葉にジャンヌと瓜二つの容姿であるカトレアは意外そうな声を上げ、すぐに壁際にいる加藤に視線を向けて溜息を吐き出す。


「もう……女の子も居るのなら先に教えてよ~」
「申し訳、ありません……」
「まあ、いっか。それじゃあ、皆ぁ?私の目を見てね~」
「え、え?」


前回に会った時とは別人のような態度を取るジャンヌ(実際はカトレア)にミカは困惑の表情を浮かべるが、他の面々は声を掛けられて彼女に視線を向ける。



「――私のお願い聞いてくれるよね?」



ボウッ……!!


彼女の紅い瞳が怪しく光り、同時に男たちに異変が起きる。まるで立ち尽くしたまま意識が途切れた様に硬直し、ミカは何が起きているのかが理解できなかった。


「え、何……どういう事……?」
「う~ん……やっぱり、女の子には効きにくいな~」


ミカだけは他の面々と違い、特に何の反応も起こさない事にカトレアは困った風に腕を組むと、すぐに何かを思いついたように両の掌を合わせ、



「――なら、死んでもらおうかな」



ドンッ!!


「えっ……!?」


ミカの目の前で一瞬にしてカトレアの姿が掻き消えたと思うと、そのまま彼女が体勢を低くして自分の足元にまで接近している事に気が付き、


「とりゃっ」
「げふっ!?」


ズゥンッ!!


カトレアの右手の貫手がミカの腹部に刺しこまれ、彼女は激痛が走って防衛魔法が発動できない。勇者達は魔法を発動させるための詠唱を行わずに魔法を発動できる無詠唱魔法を扱えるが、あくまでも魔法名を口にしない限りは彼等も魔法を発動できない。

この世界では事前に「詠唱」を行い、魔法を発現させる通常の方法。もしくは詠唱を抜きに魔法の名前だけで発動させる「無詠唱魔法(レノが得意とする魔法もこれに含まれる)」さらには口に出さず動作だけで魔法を生み出す「完全無詠唱」の三つに分かれている。

勇者達は召喚された段階でこの「無詠唱魔法」を行えるが、彼等の場合は「スキル(魔法)」を口にする事で魔法を発現する。だからこそ、カトレアはミカが何らかの魔法(スキル)を発動させる前に口を封じたのだ。


「げほっ!!ごふっ……!!」
「ごめんね~……出来れば女の子には優しくしたいけど、これも任務だから~」
「な、にを……がはっ!?」


バキィッ!!


そのまま跪いたミカの横っ面にカトレアは平手を喰らわし、彼女が倒れるのを確認すると、同時に男たちが虚ろな瞳でゆっくりと動き出す。部屋の中に残っていた三人の男たちも加藤のように彼女に付き添い、倒れ込んだミカに視線を注ぐ。


(この女……!!一体何を……!?)


この部屋に案内される際に杖以外の所持品の類は回収されているため、今のミカは回復薬も転移結晶も所持していない。


「あん、だめだよ~?抵抗しちゃね」
「あうっ!?」


ドンッ!!


杖を使って立ち上がろうとした美香にカトレアは容赦なく背中に右足を押し付け、床に這いつくばらせる。


「あ、そうだった。ねえ君ぃ」
「はい!!」


思い出したようにカトレアが加藤に顔を向け、何事か命令を与える。ミカは必死に逃れようともがいていため、何を話しているかまでは聞こえなかった。


「あとはお願い」
「はっ!!」


加藤はカトレアの言葉に返事を返すと、そのまま勢いよく部屋の外に飛び出す。彼を見送るとカトレアはミカの方に顔を向け、掌を向ける。


「じゃあね~」
「ひっ……!?」


ボウッ……!!


カトレアの掌から風属性の魔力で形成された球体が出現し、ミカは恐怖の表情を浮かべる。すぐに助けを求めるように他の勇者達に視線を向けるが、彼らは冷たい視線を向けるだけで黙って見下ろしてくるだけだった。

カトレアに何かをされたのか分からないが、このままでは殺されてしまう。ミカは「魔法(スキル)」を発動しようとするが、まだ腹部を貫かれた痛みで上手く発音できない。


「い、やぁっ……!!」
「ばいば~い」


カッ!!



そして、一際カトレアの掌の魔力が拡散し、部屋の中に強風が舞い込んだ――
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