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テンペスト騎士団編
動き出す物語
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――レノ達が聖導教会総本部に教皇の弔問に訪れている頃、天空に浮かぶ放浪島の北部山岳には異変が起きていた。それは放浪島の主である「白狼」の子供の「ウル」の前に1人の森人族の女性が立っていたのだ。
「グルルルルッ……!!」
この1年半の間に大きく成長し、ウルは既に普通の狼程度の体格になっており、親譲りの鋭い牙に爪、そして身体全身には無数の傷跡が存在し、これらは全て北部山岳の魔物達に負わされた証である。まだ完全に成熟していないが、それでも相当な修羅場を潜り抜けたことが一目で分かる。
ウルの目の前に立つ「赤髪のエルフ」は、両目を紅色の眼帯で塞ぎ、周囲が雪原で覆われていながらも、まるで下着のような薄着に足元は靴の代わりなのか蔓を巻き付けただけの格好だった。まるで野生児のような姿ではあるが、その腰元には紐で括り付けた長剣が存在した。
「こいつがあいつの言っていた狼か……たく、こき使いすぎだよ」
「ガァアアアアッ!!」
ウルは威嚇の唸り声をあげてエルフを警戒するが、相手は闘う意思は無いとばかりに両手を大きく上げ、
「落ち着きなよ。あ~……あんたの友達の家族だよ」
「ウガァッ!!」
ブォンッ!!
エルフの言葉など聞く耳持たず(言葉は通じない可能性の方が高いが)、ウルは距離があるにも関わらずに爪を大きく振るい上げ、親同様に爪先から小規模の衝撃波が発生する。
「おっと!!」
両目が塞がれているにも関わらず、エルフは軽快な動きで向かってくる衝撃波を回避し、そのまま腰に差している剣を握り締めると、
「仕方ない……行くよ!!」
――眼帯を取り外し、両目の「赤眼」ではっきりとウルの姿を捉え、剣を引き抜く。
「ガァアアアッ!!」
「はぁあああっ!!」
ウルと「フレイ」が同時に動き出し、派手に雪煙が舞い散る――
――同時刻「深淵の森」に封印された「バジリスク」の方にも異変が起きていた。
「シャァアアアアアアアッ!!」
ズガァアアアアアンッ!!
巨大な樹木をなぎ倒しながら、バジリスクはその巨体を高速移動し、森の中を疾走していた。だが、その巨大な体型が逆に仇となり、大木に阻まれて速度が遅い。ここ何日も空腹状態が続き、体力が尽きかけているのも原因である。
――ズドォオオオオンッ……!!
「シャァッ!?」
バジリスクの前方の一際巨大な大樹が薙ぎ倒され、倒れ込んだ大木の上には1人の「ダークエルフ」が立ち尽くしていた。
「……どこまで行く気だ?」
「シャァアッ……!?」
自分の数百分の一にも満たぬ「ダークエルフ」の登場にバジリスクは明らかに動揺し、硬直してしまう。真っ直ぐに自分に視線を向けるてくる女に対し、バジリスクは動けない。
「少しは期待したんだがな……やはり、この程度か」
「シャギャァアアアッ……!!」
言葉は通じないが侮辱されている事は伝わり、バジリスクは恐怖から一変して激怒する。だが、興奮しながらも野生の「勘」がこの眼の前の女と決して戦ってはならないと告げる。バジリスクの単純な戦闘力は腐敗竜を上回り、間違いなく世界中のあらゆる魔物達の中でも「最強」の部類に入るだろうが、眼の前のダークエルフは更にそれ以上の存在だと思い知らされる。
「面倒だ……そろそろ終わらわせるぞ」
――ダークエルフは握りしめた「真紅の槍」を構え、バジリスクに向ける。その刀身は赤黒く、異様な赤色の魔力が迸る。あの槍に少しでも傷つけられたら、途轍もない事が起こる事はバジリスクも「知っている」遥か昔、まだ大蛇が子供の頃に実際に何度もあの槍の恐ろしさを目の当たりにしている。
だが、既に逃げ場は閉ざされており、例え逃げ続けたところでダークエルフは先回りを行い、バジリスクが戦う意思を見せるまで追い続けるだろう。
「シャアァアアアァアアッ!!」
ジュワァアアアアッ!!
バジリスクは発狂したように大きく口を開き、その牙から紫色の液体を放出させる。その雫が地面に触れた途端、まるで硫酸のように土砂を溶解させながら地中に沈んでいく。強力な溶解性の「毒液」であり、ダークエルフもそれを見て笑みを浮かべ、
「そうだ……少しは楽しませろ。でないと、つまらないからな」
「シャギャァアアアアアアアアアッ!!
ドゴォオオオオンッ――!!
バジリスクはその顎を大きく開かせ、そのまま地面に立つダークエルフに向けて猛毒の牙を放つ。一方でダークエルフも槍を振り翳し、
「穿て」
――ズドォオオオオオオンッ!!
次の瞬間、「深淵の森」に衝撃音が響き渡った――
「グルルルルッ……!!」
この1年半の間に大きく成長し、ウルは既に普通の狼程度の体格になっており、親譲りの鋭い牙に爪、そして身体全身には無数の傷跡が存在し、これらは全て北部山岳の魔物達に負わされた証である。まだ完全に成熟していないが、それでも相当な修羅場を潜り抜けたことが一目で分かる。
ウルの目の前に立つ「赤髪のエルフ」は、両目を紅色の眼帯で塞ぎ、周囲が雪原で覆われていながらも、まるで下着のような薄着に足元は靴の代わりなのか蔓を巻き付けただけの格好だった。まるで野生児のような姿ではあるが、その腰元には紐で括り付けた長剣が存在した。
「こいつがあいつの言っていた狼か……たく、こき使いすぎだよ」
「ガァアアアアッ!!」
ウルは威嚇の唸り声をあげてエルフを警戒するが、相手は闘う意思は無いとばかりに両手を大きく上げ、
「落ち着きなよ。あ~……あんたの友達の家族だよ」
「ウガァッ!!」
ブォンッ!!
エルフの言葉など聞く耳持たず(言葉は通じない可能性の方が高いが)、ウルは距離があるにも関わらずに爪を大きく振るい上げ、親同様に爪先から小規模の衝撃波が発生する。
「おっと!!」
両目が塞がれているにも関わらず、エルフは軽快な動きで向かってくる衝撃波を回避し、そのまま腰に差している剣を握り締めると、
「仕方ない……行くよ!!」
――眼帯を取り外し、両目の「赤眼」ではっきりとウルの姿を捉え、剣を引き抜く。
「ガァアアアッ!!」
「はぁあああっ!!」
ウルと「フレイ」が同時に動き出し、派手に雪煙が舞い散る――
――同時刻「深淵の森」に封印された「バジリスク」の方にも異変が起きていた。
「シャァアアアアアアアッ!!」
ズガァアアアアアンッ!!
巨大な樹木をなぎ倒しながら、バジリスクはその巨体を高速移動し、森の中を疾走していた。だが、その巨大な体型が逆に仇となり、大木に阻まれて速度が遅い。ここ何日も空腹状態が続き、体力が尽きかけているのも原因である。
――ズドォオオオオンッ……!!
「シャァッ!?」
バジリスクの前方の一際巨大な大樹が薙ぎ倒され、倒れ込んだ大木の上には1人の「ダークエルフ」が立ち尽くしていた。
「……どこまで行く気だ?」
「シャァアッ……!?」
自分の数百分の一にも満たぬ「ダークエルフ」の登場にバジリスクは明らかに動揺し、硬直してしまう。真っ直ぐに自分に視線を向けるてくる女に対し、バジリスクは動けない。
「少しは期待したんだがな……やはり、この程度か」
「シャギャァアアアッ……!!」
言葉は通じないが侮辱されている事は伝わり、バジリスクは恐怖から一変して激怒する。だが、興奮しながらも野生の「勘」がこの眼の前の女と決して戦ってはならないと告げる。バジリスクの単純な戦闘力は腐敗竜を上回り、間違いなく世界中のあらゆる魔物達の中でも「最強」の部類に入るだろうが、眼の前のダークエルフは更にそれ以上の存在だと思い知らされる。
「面倒だ……そろそろ終わらわせるぞ」
――ダークエルフは握りしめた「真紅の槍」を構え、バジリスクに向ける。その刀身は赤黒く、異様な赤色の魔力が迸る。あの槍に少しでも傷つけられたら、途轍もない事が起こる事はバジリスクも「知っている」遥か昔、まだ大蛇が子供の頃に実際に何度もあの槍の恐ろしさを目の当たりにしている。
だが、既に逃げ場は閉ざされており、例え逃げ続けたところでダークエルフは先回りを行い、バジリスクが戦う意思を見せるまで追い続けるだろう。
「シャアァアアアァアアッ!!」
ジュワァアアアアッ!!
バジリスクは発狂したように大きく口を開き、その牙から紫色の液体を放出させる。その雫が地面に触れた途端、まるで硫酸のように土砂を溶解させながら地中に沈んでいく。強力な溶解性の「毒液」であり、ダークエルフもそれを見て笑みを浮かべ、
「そうだ……少しは楽しませろ。でないと、つまらないからな」
「シャギャァアアアアアアアアアッ!!
ドゴォオオオオンッ――!!
バジリスクはその顎を大きく開かせ、そのまま地面に立つダークエルフに向けて猛毒の牙を放つ。一方でダークエルフも槍を振り翳し、
「穿て」
――ズドォオオオオオオンッ!!
次の瞬間、「深淵の森」に衝撃音が響き渡った――
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