種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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テンペスト騎士団編

教皇の異変

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闘人都市の聖導教会内に存在する特別な転移魔方陣を利用し、レノ達は再度聖導教会総本部に到着する。前回の時とは違い、今度は巫女姫であるヨウカも一緒のため、慌てて教会内の人間達が彼女を出迎える。


「こ、これは巫女姫様!!事前に連絡してくれればお迎えに上がりましたのに……!!」
「あ、別にいいよそういうの……それより、えっと……教皇さんは何処かな?」
「きょっ、教皇様ですか?今は確か光の精霊様の祈りの最中だと……」
「よし、行こう」
「じゃ、じゃあね~……」


それなりに地位が高そうな老人達を適当に相手をすると、レノ達は通路を移動する。以前にこの教会の聖堂の場所は教えられているため、道に迷うことはない。だが、コトミだけは訓練場にいるテン達と合流するために別行動を取る。

彼女がレノ達を離れるのはこれまでの任務の報告と、ジャンヌに関する情報をテン達が知らないのか問いただすためであり、コトミは報告とジャンヌの情報を尋ね次第、すぐに合流する事を約束する。


「……行ってくる」
「気を付けてね。知らない人にほいほい着いて行かないように」
「……いえっさー」


コトミはひらひらと掌を振りながらレノ達を一旦別れ、聖導教会総本部内のワルキューレ騎士団の訓練場に向い、レノ達も動く。


「わふっ……何だか可笑しいです」
「ああ……どうしてこんなに人が少ないんだ?」
「それでも兵士の数が多い」


聖導教会は以前に来た時よりも全体的に人が少なく感じられるが、確かに以前よりも兵士の数だけが多い気がする。教皇が襲われたのだから警備を強めていても可笑しくはないのかもしれないが、それでも雰囲気が可笑しい。


「……これは……」
「レノたん?」
「いや……何でもない」


教会内部の前回に訪れた時の変化に違和感を感じながらも、レノは右手の「紋様」が微妙に発熱している事に気が付く。以前に訪れた時は右手の紋様に異変は起きなかったが、これは近くに聖痕の所持者が存在している時の感覚と似ている。ただ、反応があまりにも弱すぎるため、既に立ち去った後かも知れない。


(……まさか、センチュリオンか?)


考えられる予想は何らかの聖痕所持者がここに訪れ、既に立ち去った事である。レノのアイリィから授かった紋様は聖痕を回収する度にその探知能力も強化され、以前と比べて聖痕の魔力の残滓を感じ取れるようになってる。

しかし、この聖導教会はあらゆる転移魔法の防衛を施しているはずだが、一体どのような方法で聖痕所持者が忍び込んだのかが気になる。教会側の人間に内通者が居るのか、それとも何らかの手段でこの教会にまで潜入したのかは分からない。


「あっ……教皇さんだ」
「え?」



聖堂に向けて移動中、前方の通路から老人が現れ、そこには疲れた表情を浮かべているが過去にレノが闘人都市の教会で見かけた老人の姿で間違いなかった。彼はこちらに視線を向け、不意に顔を顰め、そのまま何事もないようにヨウカ達の横を通り過ぎようとした。



「え……?」
「ちょっ、ちょっと待ってください!!」
「……何だ?」


リノンに声を掛けられて教皇は不機嫌そうに振り向くと、その態度にヨウカは困惑した表情を浮かべる。まるで「巫女姫」であるヨウカの事を知らないような反応であり、レノは以前に見かけた時と違う教皇の違和感に疑問を抱き、試しに会話を試みる。


「教皇……様、こちらの方をお忘れですか?」
「何……?」
「え、レノたん……?」


レノはヨウカの横に並び、リノン達も不思議そうな表情を浮かべるが、


「彼女はこの教会の最高権力者ですよ?その態度は無いんじゃないですか?」
「最高……そうか、これは失礼しました巫女姫様」


すぐに思い出したように慌てて教皇は頭を下げるが、その視線をレノは見逃さない。まるでヨウカの事を忘れていたような態度であり、少なくとも彼女を交易都市に追放したと言っても過言ではない張本人がヨウカの事を覚えていないなどあり得るはずがない。


「では私はこれで失礼します。戻りましょうか、ヨナウ様」
「えっ……う、うん」
「失礼しました……」


レノはわざとヨウカの名前を間違えて呼びかけ、そのまま教皇に背を向けて立ち去る。彼はそんなレノ達の後姿を見送るだけで引き留めもせず、その反応にレノは確信を抱く。


「……やっぱりおかしい」
「ぇ……ど、どういう事?」
「ヨウカの名前を間違えたのに……咎めもしなければ、まるでヨウカの事を知らないような反応だった……ヨウカは教皇とは面識があるよね」
「う、うん……何度か会ってるよ」
「……そんな馬鹿な……それならどうしてあんな態度を?」
「声を抑えろ……すぐにここから逃げよう」
「で、でも……」
「あの様子だとまだジャンヌが見つかっていない。上手く隠れている事は分かった……早くここから逃げないとこっちが危ない」
「……レノ」


ゴンゾウが背中の棍棒を握りしめ、周囲に気を配りながら話しかけてくる。予想よりも早く、レノ達の周囲の兵士たちの様子が微妙に変化し、彼らは何事もなく通路の見回りを行うように振る舞うが、明らかにこちらの様子を伺っている。

レノは内心舌打ちを行い、この場所で戦うのは不利だと悟る。聖導教会総本部内で戦闘を行う場合、ここに滞在している兵士たちの方が建物の構造に詳しく、レノ達が下手に暴れたらヨウカの立場が危うい。


(何に操られているのかは知らないが……厄介だな)


先ほどの教皇の様子から察するに、彼は完全に何者かに操られている。だが、問題なのは実質的に聖導教会を操る彼が敵に回ったことであり、これ以上にここにいるのは危険すぎる。


「……歩こう。仕掛けられる前に移動しないと……」
「れ、レノたん……」
「俺から離れるな……最悪の場合、お前を人質にして脱出しないといけない……」
「そんな事をしたらレノ……指名手配どころではないぞ」
「言ってる場合か……」


こんな時にレミアに憑依した「ナナ」の言葉を思いだし、レノも自分の行動次第でハーフエルフ全体に影響が出る事を重々承知している。ここで形だけとは言え、巫女姫のヨウカを人質にすればまたもやハーフエルフの世間の悪印象が強まってしまうかもしれない。
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