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テンペスト騎士団編
聖導教会の異変
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――ジャンヌに変装したカトレアが起こした教皇殺害未遂、更にはデュランダルの紛失の件は瞬く間に教会中に広がり、半日もせずに世界中の教会に彼女の「罪状」が伝えられる。
教皇の指示により、聖天魔導士であるセンリはワルキューレ騎士団と聖導教会所属の上位魔導士を引き連れてジャンヌ(本当はカトレアが仕出かしたのだが)の捜索を開始する。彼女がどのような方法で聖導教会の地下室に忍び込んだのは不明だが、何としても捕まえなければならない。
この総本部内では聖導教会側の転移魔方陣を除き、外界に通じる転移は封じられているはずだが、何故かセンリの前に姿を現したカトレアが転移を使用出来たのか不明である。だが、最も問題なのはカトレアがジャンヌに変装した状態でヴァンパイアの正体を明かした事であり、聖導教会にとって彼女の種族はハーフエルフ同様に許される存在ではない。
――「ハーフエルフ」と「ヴァンパイア」この二つの種族は聖導教会にとっても因縁深く、どちらも討伐の対象として定めている。基本的には救いを求める者はどんな種族だろうが受け入れる聖導教会ではあるが、この二つの種族だけは交わりを結ぶことはかたく禁じられている。
今回の一件で教皇は必ずジャンヌを生かしたまま拘束し、聖剣(デュランダル)の回収を行なければならない事を通告する。いくら腐敗竜を打倒した英雄であろうと、教会が保管していた聖剣を盗難した罪は重い。
聖導教会は全種族(魔人族を除く)に対して友好的な関係を築いており、あの森人族でさえも親交がある。当然ながらにバルトロス王国にも伝えられ、彼女が聖剣を盗み出した大罪を犯した報告に誰もが驚愕した。
「――そんな馬鹿な!!有り得ない!!」
「わふっ!!ジャンヌさんがそんな事をするはずありません!!」
「……団長は、悪人じゃない」
「そ、そう申されましても……私にはどうしようもありませんっ……」
バジリスクを深淵の森に封じ込めてから3日後、飛行船の修理も完了して黒猫酒場に戻っていたレノ達にも聖導教会によるジャンヌの指名手配の件が伝えられた。
大将軍であるレミアは既に王国側に収集され、カゲマルも隠密部隊を引き連れてジャンヌの捜索に行うように強要される。テンペスト騎士団に所属しているレノ達の元にも王国に戻るように帰還を促す伝令兵が送り込まれ、全員があのジャンヌが聖剣を盗み出したという情報に耳を疑う。だが、現実にテンペスト騎士団の団員達にも団長である「ジャンヌ」を捕縛しろという命令が正式に降りていた。
リノンは報告に赴いた兵士に掴みかかるが、彼は怯えきった表情で他の者たちに助けを求めるように視線を向ける。彼としても、王国から彼女に報告するように伝えられただけであり、決して悪気はないのでレノが彼女の肩に手を置く。
「落ち着けって……この人に言い寄っても仕方ないだろ」
「しかし……!!」
「こ、これは王命です……拒否する事は反逆罪に値する行為ですので……ご賢明な判断を!!」
バタンッ!!
報告を一方的に告げると兵士はそのまま玄関口から飛び出し、全速力で走り去る。残されたリノンたちは顔を見合わせ、酒場の椅子に座り込む。一体何が起きているのかは不明だが、1つだけ言える事はジャンヌが今危機に晒されている事は確かだ。
「……次から次へと問題が……今度は聖導教会か」
「何が起きてるって言うんだい?私達にも話して見な」
「そうっすよ!!力になれるかもしれませんよ?」
「いや、それは……」
王国の機密事項のため、流石にバルたちに伝える事に躊躇するが、ここまで行動を共にした彼女達を信頼してリノンは事情を話す。
「……そうかい、あの鮮血のジャンヌが盗みねぇ……そう言えば前に何度かこの店に来たことあるね」
「あの人が犯罪者?何だか全然似合わないっすね」
「犯罪者じゃない!!」
「ひっ!?す、すいません……」
「あ、いや……怒鳴って悪かった」
カリナの軽口にリノンが激しく否定し、どうやら自分でも気づいていないのか相当に興奮している。彼女としては上司であると同時に親友に等しい存在のジャンヌが聖導教会の教皇暗殺未遂と、聖剣の盗難を犯したなど信じられるはずがない。
だが、レノだけは盗みに入った時点のジャンヌが「ヴァンパイア」に正体を現したという情報を聞いた瞬間、すぐに今回の件がジャンヌではなく、彼女の妹の「カトレア」の仕業だと悟る。そして、レノから事情を知らされたリノンたちもすぐに彼女が嵌められたことに気が付く。
しかし、聖導教会側はあくまでも「ジャンヌ」が教皇に対して無礼を働いたと宣言しており、彼女の捜索を行っている。
「教会の行動の意味が分からない……彼等とて、あのジャンヌが教皇の暗殺なんて行う筈がないことを知っているはず……」
「……問題はそこじゃない、重要なのは目撃者がいる事」
「それに教皇自身が頑としてジャンヌの仕業だと言い張っている事か……」
今回の聖導教会の一件はどうにも不審な点が多く、何か作為的な行動を感じられ、まずはジャンヌの救出が最優先である事は間違いない。最も、現在の彼女の行方は不明であり、もしかしたら聖導教会総本部に残っている可能性が高い。
「取りあえず、ヨウカに頼み込んで聖導教会に赴くしかないだろうね」
教皇の指示により、聖天魔導士であるセンリはワルキューレ騎士団と聖導教会所属の上位魔導士を引き連れてジャンヌ(本当はカトレアが仕出かしたのだが)の捜索を開始する。彼女がどのような方法で聖導教会の地下室に忍び込んだのは不明だが、何としても捕まえなければならない。
この総本部内では聖導教会側の転移魔方陣を除き、外界に通じる転移は封じられているはずだが、何故かセンリの前に姿を現したカトレアが転移を使用出来たのか不明である。だが、最も問題なのはカトレアがジャンヌに変装した状態でヴァンパイアの正体を明かした事であり、聖導教会にとって彼女の種族はハーフエルフ同様に許される存在ではない。
――「ハーフエルフ」と「ヴァンパイア」この二つの種族は聖導教会にとっても因縁深く、どちらも討伐の対象として定めている。基本的には救いを求める者はどんな種族だろうが受け入れる聖導教会ではあるが、この二つの種族だけは交わりを結ぶことはかたく禁じられている。
今回の一件で教皇は必ずジャンヌを生かしたまま拘束し、聖剣(デュランダル)の回収を行なければならない事を通告する。いくら腐敗竜を打倒した英雄であろうと、教会が保管していた聖剣を盗難した罪は重い。
聖導教会は全種族(魔人族を除く)に対して友好的な関係を築いており、あの森人族でさえも親交がある。当然ながらにバルトロス王国にも伝えられ、彼女が聖剣を盗み出した大罪を犯した報告に誰もが驚愕した。
「――そんな馬鹿な!!有り得ない!!」
「わふっ!!ジャンヌさんがそんな事をするはずありません!!」
「……団長は、悪人じゃない」
「そ、そう申されましても……私にはどうしようもありませんっ……」
バジリスクを深淵の森に封じ込めてから3日後、飛行船の修理も完了して黒猫酒場に戻っていたレノ達にも聖導教会によるジャンヌの指名手配の件が伝えられた。
大将軍であるレミアは既に王国側に収集され、カゲマルも隠密部隊を引き連れてジャンヌの捜索に行うように強要される。テンペスト騎士団に所属しているレノ達の元にも王国に戻るように帰還を促す伝令兵が送り込まれ、全員があのジャンヌが聖剣を盗み出したという情報に耳を疑う。だが、現実にテンペスト騎士団の団員達にも団長である「ジャンヌ」を捕縛しろという命令が正式に降りていた。
リノンは報告に赴いた兵士に掴みかかるが、彼は怯えきった表情で他の者たちに助けを求めるように視線を向ける。彼としても、王国から彼女に報告するように伝えられただけであり、決して悪気はないのでレノが彼女の肩に手を置く。
「落ち着けって……この人に言い寄っても仕方ないだろ」
「しかし……!!」
「こ、これは王命です……拒否する事は反逆罪に値する行為ですので……ご賢明な判断を!!」
バタンッ!!
報告を一方的に告げると兵士はそのまま玄関口から飛び出し、全速力で走り去る。残されたリノンたちは顔を見合わせ、酒場の椅子に座り込む。一体何が起きているのかは不明だが、1つだけ言える事はジャンヌが今危機に晒されている事は確かだ。
「……次から次へと問題が……今度は聖導教会か」
「何が起きてるって言うんだい?私達にも話して見な」
「そうっすよ!!力になれるかもしれませんよ?」
「いや、それは……」
王国の機密事項のため、流石にバルたちに伝える事に躊躇するが、ここまで行動を共にした彼女達を信頼してリノンは事情を話す。
「……そうかい、あの鮮血のジャンヌが盗みねぇ……そう言えば前に何度かこの店に来たことあるね」
「あの人が犯罪者?何だか全然似合わないっすね」
「犯罪者じゃない!!」
「ひっ!?す、すいません……」
「あ、いや……怒鳴って悪かった」
カリナの軽口にリノンが激しく否定し、どうやら自分でも気づいていないのか相当に興奮している。彼女としては上司であると同時に親友に等しい存在のジャンヌが聖導教会の教皇暗殺未遂と、聖剣の盗難を犯したなど信じられるはずがない。
だが、レノだけは盗みに入った時点のジャンヌが「ヴァンパイア」に正体を現したという情報を聞いた瞬間、すぐに今回の件がジャンヌではなく、彼女の妹の「カトレア」の仕業だと悟る。そして、レノから事情を知らされたリノンたちもすぐに彼女が嵌められたことに気が付く。
しかし、聖導教会側はあくまでも「ジャンヌ」が教皇に対して無礼を働いたと宣言しており、彼女の捜索を行っている。
「教会の行動の意味が分からない……彼等とて、あのジャンヌが教皇の暗殺なんて行う筈がないことを知っているはず……」
「……問題はそこじゃない、重要なのは目撃者がいる事」
「それに教皇自身が頑としてジャンヌの仕業だと言い張っている事か……」
今回の聖導教会の一件はどうにも不審な点が多く、何か作為的な行動を感じられ、まずはジャンヌの救出が最優先である事は間違いない。最も、現在の彼女の行方は不明であり、もしかしたら聖導教会総本部に残っている可能性が高い。
「取りあえず、ヨウカに頼み込んで聖導教会に赴くしかないだろうね」
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