種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
320 / 1,095
テンペスト騎士団編

深淵の森の罠

しおりを挟む
「嵌められた……って、どういう事だい?」
「言葉通りさ。僕達はこの結界内に誘導され、閉じこめられた」
「まさか……私達がここに入り込むのを読まれていたと言うんですか!?」


ホノカの発言に全員が驚愕し、すぐにバルが首を振って否定する。


「いくら何でもそれは考えすきじゃないかい?この場所に入るには、本来なら結界を解除する必要があるんだろう?さっき入ることが出来たのは、レノが聖剣を使ったお蔭で……」
「それが罠だとしたら?最初からレノ君自身もこの結界内におびき寄せ、バジリスクと共に封じ込める手筈だとしたら」
「そんな馬鹿な!?この場所にレノが入り込む確証なんて……」
「よく考えてくれ。最初にこの結界内に封じ込めようとしたのは誰だ?」


言われて全員が思い出す。森人族の結界にバジリスクをおびき寄せようと提案したのは「レノ」だ。


「彼がこの結界内に封じ込めようとしたのを提案したのは、この中で一番深淵の森の結界の内部に詳しいからだろう。幼い頃とはいえ、この結界の中で暮らしていた彼だからこそ、無意識にこの作戦を思い浮かべる事が出来たかもしれない」
「……それを読んで、相手が罠を仕掛けたというのですか?」
「可能性はある。元々、あの魔物を封印していたのはこの森に住む森人族(エルフ)だろう?ならば今まで何の対策も立てていないとは思えない」
「最初からこの場所を囮にレノとバジリスクの両方を封印するつもりだとでも言うきかい?」
「一石二鳥という奴だね」
「いや、いくら何でもそれは……けど」


ホノカの予測に全員が顔を見合わせ、どうにも信じがたいが、その可能性がある事は否定は出来ない。不審な点も幾つか存在し、この「深淵の森」に入る寸前に空間の「歪み」を発見できたにも関わらず、結界内部に突入してからは空間の「歪み」が確認できない。


「どちらにしろ、僕たちがあの化物と共にこの結界に閉じ込められたのは間違いない。結界の歪みを見つけて脱出しようにも、ここまで隠蔽されていたら正確な位置が掴めない」
「わぅっ……あの、さっき結界を壊した場所に引き返すことは出来ないんですか?」
「それは無理だろうね。後ろの奴を何とかしない限りは」



――シャアァアアアアアッ……!!



飛行船の後方からバジリスクが怒りの咆哮を上げながら追跡してくる。先ほど侵入した場所を引き戻すにしろ、あの化け物を素通りする事などできない。


「な、なら……あの蛇に襲われない位置にまで上昇して移動したら……」
「そうしたいところだが……結界が上空にまで展開されていた場合、下手に硬度を上げて結界に飛衝突したら墜落してしまう可能性が高いね」
「八方塞がりじゃないか……」


ホノカの言葉に全員が顔を暗くし、どうするべきか考え込む。結界の正確な位置さえ分かれば、レノから事前に教えて貰った情報で脱出する方法はあるのだが、


「……あの~」


全員が頭を悩ませる中、ヨウカがおずおずと手を上げ、彼女に視線が注がれると、


「結界って……もしかして、あの緑色に光っているあれの事?」
「「は?」」


ヨウカは飛行船の左方向を指さし、すぐに他の者たちは視線を向けるが、そこには何も見えない。延々と続く巨大な樹木と、雲一つない不自然な青空が広がっているだけだが、


「ほら、あそこの部分……少しだけ緑色だよ~」
「……何処だい?」
「何処って……あそこだってばもう!」


頬を膨らませながらヨウカはある方向を指さすが、全員の目には特に彼女が告げている物は見当たらない。この中にはヨウカよりも視力が優れた者が多く存在するが、彼女が言う「緑色」の光は確認できない。しかし、レミアだけは何か思い至ったように頷き、慌てて問い質す。


「もしかして……巫女姫様、あなたの年齢は?」
「え?えっと……17才だけど」
「やはり……あの、もしかしたら「魔力眼」が目覚めたのでは……」
「……そうか!!おめでとうヨウカ!!」
「「?」」


レミアの魔力眼という単語にホノカは納得したよう頷くが、他の者たちは一体何の話をしているのかを理解できずに首を傾げる。だが、ポチ子だけは何か心当たりがあるのか、犬耳と尻尾を立てる。


「……魔力眼……わぅんっ!!思い出しました!ミキさんが前に言ってました。一人前の巫女姫様は「魔力」の流れを刺客で捉えることが出来るって!!」
「魔力の流れ……そう言う事か!!」
「え?え?」


ポチ子の説明に何人かが納得し、当のヨウカは騒ぎ出した皆に困惑した表情を浮かべるが、


「魔力眼……普通の人間では捉えることが出来ない微弱の魔力を「色」で正確に識別できる能力です。成人を迎えた巫女姫様だけが習得できる能力と聞いています」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...