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テンペスト騎士団編
侵入困難
しおりを挟む「そっちの坊やがいないとなると、結構きついんじゃないかい?」
「坊や……」
確かにゴンゾウはまだ巨人族としては大人とは言えない(彼等の成人年齢は19才)が、今までに一度も子ども扱いされたことが無いゴンゾウは少し照れた風に頭を搔く。
バルの言う通り、ゴンゾウがいないとなると相当な戦力低下である。何気に彼の実力はテンペスト騎士団の中ではジャンヌ、アルトに続く三番手であり、そんな彼が居ない状態で兇悪な魔物が眠っているという遺跡が存在する深淵の森に向かうのは危険すぎる。
今回の封印されている魔物が仮に腐敗竜クラスだと仮定した場合、ゴンゾウがいないのは正直に言えば辛い。しかし、彼の巨体で木々を跳躍するなどという荒業は出来ない。
「そうだ!!ゴンゾウさんに皆さんを投げて貰えば上から侵入できるんじゃ……」
「それはあたし達が死ぬだろうが!?」
「ふむっ……投擲には、自信がある」
「意外と乗り気!?」
「するな!!」
「拙者は忍法ムササビの術で飛べなくもないでござるが……」
「……それって風呂敷みたいので両手両足を縛りつけて、上から滑空するみたいな奴?」
「何と!?何故、知っているのでござるレノ殿!?」
「何だいそれ……少し、面白そうだね」
「興味を持つな興味を……どのみちそんな方法じゃ、下からエルフ達に撃ち落とされるのが落ちだろ……」
「どちらにしろ、本当にあいつらが木の上を駆け巡っているのなら、動けるのはあたしたち獣人と、半分は森人族のレノだけだろうね……」
「肉体強化を行えば私も着いて行けると思いますが……」
「そうは言ってもね……あの森は無駄に広いからね。数分単位なら問題ないだろうけど、何時間も肉体を継続的に強化させる事は出来るのかい?」
「……無理ですね」
レミアは首を振り、リノンも頷く。人間である2人には肉体強化の長時間の使用は大きな負担が掛かり、仮に一流の戦士であろうと肉体強化を発動できる時間はせいぜい30分が限界である。闘いに置いては彼等は必要な場面でしか肉体強化を行わず、攻撃や防御の瞬間のみに肉体強化を発動させる方法が主流である。
この酒場にいる面々で森人族並に身体能力が高いのは獣人賊であるバルたち黒猫盗賊団のメンバーとポチ子、森人族の血が流れるレノ(ソフィア)のみであり、あとは忍者であるカゲマルも問題は無いだろうが、実力はともかく、人間であるホノカやレミアには着いて行けない。
これだけの人数で魔物が眠っているという遺跡にまで辿り着き、さらには深淵の森の多数の森人族と戦闘になる可能性も高く、どう考えてもこちら側が不利である。だが、何らかの手段を考える時間はもう無い。
「罠自体を無効化出来ればなんとでもなるのに……」
「それは難しいと思うな。話を聞く限り、深淵の森の中に存在する魔水晶は単体ではなく、無数に存在するんだろう?1つの魔水晶を無効化するだけも解除用の魔道具が必要になるだろうからね」
魔水晶のような魔道具を無効化する道具も確かに存在する。だが、あの森に埋め込まれた全ての魔水晶を全て無効化するほどの解除用の魔道具を掻き集める事は不可能に近い。相当な費用が掛かるし、第一に深淵の森の中にどれほどの魔水晶が埋め込まれているのかすらも把握していない。
「もう面倒くさいっすね……姉貴の魔法で瞬間移動出来ないんすか?」
「ああ、それはいい考えかも」
「え?マジっすか?」
よくよく考えれば別に全員で行動する必要はなく、レノ(ソフィア)が単独で遺跡が存在する場所に辿り着ければ「転移魔方陣」を使用して他の者たちを呼び出せる事も可能なのだ。むしろ、最初からその方法が最善策のように思えるが。
「それだとソフィア殿にだけ危険が迫るでござるな」
「あんた、あいつらに目の敵にされてるんだよ?確実に待ち構えているに決まってんだろうが」
「そうだよね……」
この作戦の難点は深淵の森に済むエルフ達がソフィアを狙っている事であり、仮に他の面子も連れて森の中に侵入したとしても、大勢の森人族の戦士たちが待ち構えているのは間違いない。一度戦闘に入れば転移魔方陣を作り出す暇も無い。
「それに転移魔方陣はソフィア殿が傍にいないと転移できないでござる。誰かを呼び出すという行為は不可能でござるな」
――レノの「転移魔方陣」は事前にマーキングした場所にしか転移出来ない。例えるなら、転移魔方陣「A地点」と「B地点」の二つがあるとする。「A地点」にレノがいる場合、彼は何時でも「B地点」に転移可能だ。その逆の「A地点」から「B地点」に転移も当然できる。
しかし、仮に「A地点」にレノが1人「B地点」にバル達が待機していたとする。レノは「A地点」から「B地点」に転移できるが、彼女達は「B地点」から「A地点」に転移は出来ない。どうしても転移をする場合は「B地点」に訪れたレノと行動を共にして一緒に「A地点」に転移しなければ不可能。つまり、バル達だけではレノが作り出した転移魔方陣を使用出来ず、「A地点」と「B地点」どちらにも自力では転移出来ないのだ。他人が作り出した魔方陣を他の人間が使用することができないのがこの世界の法則である。
「いい作戦だと思うけどな……」
「……危ないことはだめ」
「いたのかコトミ……」
何時の間にか自分の腕に抱き付いてくるコトミにソフィアは頭を撫でやり、他に作戦が無いかと周囲の者たちを見渡すと、
「……いっその事、空から行くというのはどうだい?」
「「「は?」」」
ホノカの発言に全員が彼女に視線を向け、
「私の飛行船で空から侵入するというのはどうかな?」
「坊や……」
確かにゴンゾウはまだ巨人族としては大人とは言えない(彼等の成人年齢は19才)が、今までに一度も子ども扱いされたことが無いゴンゾウは少し照れた風に頭を搔く。
バルの言う通り、ゴンゾウがいないとなると相当な戦力低下である。何気に彼の実力はテンペスト騎士団の中ではジャンヌ、アルトに続く三番手であり、そんな彼が居ない状態で兇悪な魔物が眠っているという遺跡が存在する深淵の森に向かうのは危険すぎる。
今回の封印されている魔物が仮に腐敗竜クラスだと仮定した場合、ゴンゾウがいないのは正直に言えば辛い。しかし、彼の巨体で木々を跳躍するなどという荒業は出来ない。
「そうだ!!ゴンゾウさんに皆さんを投げて貰えば上から侵入できるんじゃ……」
「それはあたし達が死ぬだろうが!?」
「ふむっ……投擲には、自信がある」
「意外と乗り気!?」
「するな!!」
「拙者は忍法ムササビの術で飛べなくもないでござるが……」
「……それって風呂敷みたいので両手両足を縛りつけて、上から滑空するみたいな奴?」
「何と!?何故、知っているのでござるレノ殿!?」
「何だいそれ……少し、面白そうだね」
「興味を持つな興味を……どのみちそんな方法じゃ、下からエルフ達に撃ち落とされるのが落ちだろ……」
「どちらにしろ、本当にあいつらが木の上を駆け巡っているのなら、動けるのはあたしたち獣人と、半分は森人族のレノだけだろうね……」
「肉体強化を行えば私も着いて行けると思いますが……」
「そうは言ってもね……あの森は無駄に広いからね。数分単位なら問題ないだろうけど、何時間も肉体を継続的に強化させる事は出来るのかい?」
「……無理ですね」
レミアは首を振り、リノンも頷く。人間である2人には肉体強化の長時間の使用は大きな負担が掛かり、仮に一流の戦士であろうと肉体強化を発動できる時間はせいぜい30分が限界である。闘いに置いては彼等は必要な場面でしか肉体強化を行わず、攻撃や防御の瞬間のみに肉体強化を発動させる方法が主流である。
この酒場にいる面々で森人族並に身体能力が高いのは獣人賊であるバルたち黒猫盗賊団のメンバーとポチ子、森人族の血が流れるレノ(ソフィア)のみであり、あとは忍者であるカゲマルも問題は無いだろうが、実力はともかく、人間であるホノカやレミアには着いて行けない。
これだけの人数で魔物が眠っているという遺跡にまで辿り着き、さらには深淵の森の多数の森人族と戦闘になる可能性も高く、どう考えてもこちら側が不利である。だが、何らかの手段を考える時間はもう無い。
「罠自体を無効化出来ればなんとでもなるのに……」
「それは難しいと思うな。話を聞く限り、深淵の森の中に存在する魔水晶は単体ではなく、無数に存在するんだろう?1つの魔水晶を無効化するだけも解除用の魔道具が必要になるだろうからね」
魔水晶のような魔道具を無効化する道具も確かに存在する。だが、あの森に埋め込まれた全ての魔水晶を全て無効化するほどの解除用の魔道具を掻き集める事は不可能に近い。相当な費用が掛かるし、第一に深淵の森の中にどれほどの魔水晶が埋め込まれているのかすらも把握していない。
「もう面倒くさいっすね……姉貴の魔法で瞬間移動出来ないんすか?」
「ああ、それはいい考えかも」
「え?マジっすか?」
よくよく考えれば別に全員で行動する必要はなく、レノ(ソフィア)が単独で遺跡が存在する場所に辿り着ければ「転移魔方陣」を使用して他の者たちを呼び出せる事も可能なのだ。むしろ、最初からその方法が最善策のように思えるが。
「それだとソフィア殿にだけ危険が迫るでござるな」
「あんた、あいつらに目の敵にされてるんだよ?確実に待ち構えているに決まってんだろうが」
「そうだよね……」
この作戦の難点は深淵の森に済むエルフ達がソフィアを狙っている事であり、仮に他の面子も連れて森の中に侵入したとしても、大勢の森人族の戦士たちが待ち構えているのは間違いない。一度戦闘に入れば転移魔方陣を作り出す暇も無い。
「それに転移魔方陣はソフィア殿が傍にいないと転移できないでござる。誰かを呼び出すという行為は不可能でござるな」
――レノの「転移魔方陣」は事前にマーキングした場所にしか転移出来ない。例えるなら、転移魔方陣「A地点」と「B地点」の二つがあるとする。「A地点」にレノがいる場合、彼は何時でも「B地点」に転移可能だ。その逆の「A地点」から「B地点」に転移も当然できる。
しかし、仮に「A地点」にレノが1人「B地点」にバル達が待機していたとする。レノは「A地点」から「B地点」に転移できるが、彼女達は「B地点」から「A地点」に転移は出来ない。どうしても転移をする場合は「B地点」に訪れたレノと行動を共にして一緒に「A地点」に転移しなければ不可能。つまり、バル達だけではレノが作り出した転移魔方陣を使用出来ず、「A地点」と「B地点」どちらにも自力では転移出来ないのだ。他人が作り出した魔方陣を他の人間が使用することができないのがこの世界の法則である。
「いい作戦だと思うけどな……」
「……危ないことはだめ」
「いたのかコトミ……」
何時の間にか自分の腕に抱き付いてくるコトミにソフィアは頭を撫でやり、他に作戦が無いかと周囲の者たちを見渡すと、
「……いっその事、空から行くというのはどうだい?」
「「「は?」」」
ホノカの発言に全員が彼女に視線を向け、
「私の飛行船で空から侵入するというのはどうかな?」
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