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テンペスト騎士団編
ハーフエルフとしての自覚
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吸魔石は翡翠型の白い魔石であり、鉱山から入手できる鉱石である。この吸魔石を人体に触れた場合にどういう現象が起きるかというと、体内の魔力が吸魔石に吸い上げられ、常人ならば10分も肌に触れていたら肉体がミイラになるほどに魔力(生命エネルギー)が吸い尽くされる。
奴隷商は捕獲したハーフエルフ達にこの吸魔石で魔力を搾り取り、魔力を十分に吸い上げた吸魔石を特殊な技術で中身の魔力を抽出し、ただの飲料水と組み合わせる事で「魔力水」と呼ばれる回復薬を生み出す。この方法で世界各地の奴隷商はハーフエルフ達を利用して大量の魔力水を造り上げ、世界中に販売している。
この奴隷商が作り上げた「魔力水」と、聖導教会が販売している「マナ・ポーション」は回復効果は後者の方が圧倒的に上ではあるが、魔力水の方がマナ・ポーションよりも遥かに安価で売買されているため、魔術師たちに人気がある。
また、奴隷商は魔力水のお蔭で入手した大金を利用して吸魔石を買占め、奴隷のハーフエルフ達を更に苦しめながら魔力を搾り取り、新たな魔力水を生み出す。
悪循環の繰り返しだが、当然ながらに毎日のように魔力を吸い上げられるハーフエルフにも限界が訪れる。魔力を吸収され過ぎて魔力枯渇を起こして死亡する者も多数出現し、それでも奴隷商人たちは彼等から魔力を吸い上げて魔力水を作り続ける。
世界的にも数少ない種族のため、1人でも多くハーフエルフを持っている奴隷商人が大金を手に出来る事になり、各地の奴隷商人たちは血眼でハーフエルフを拘束、もしくは他の奴隷商から強奪を繰り返し得ているのが現状である。
「……話は分かった。けど、それがどうしたってんだい?全部の責任がこいつにあるって言いたいのなら、それはただの暴論だよ!!」
「そうですよ!!あの時、レノさんがいなかったら私達全員死んでましたし、大勢の人たちが巻き込まれていました!!」
「レノがいたからこそ、あの戦いは勝てた」
「拙者はその場にいなかったから詳しい事は分かりませぬが……それでもレノ殿が居なかったら腐敗竜によって大勢の被害が出たのは間違いないと思うでござる」
「わ、私もそう思うよ!!」
「……同じく」
ナナの話を聞き終え、全員がレノを庇う様に発言するがナナは首を振り、
「別に私はその子を責めているわけではありません。ですが、これからのハーフエルフという種族の扱いはその者の行動に大きく左右されるのは事実です」
「……私が大きな失敗をしたら、他のハーフエルフにも迷惑が掛かるって事?」
「そうです。現時点で貴女が世界で最もハーフエルフという種の影響力が一番強い存在に当たるお方なのですから」
「なるほど」
ソフィアとしては実感が沸かないが、確かに聞いていて気分のいい話ではない。自分の知らないところで大勢の同族が殺されているかもしれないと聞かされて落ち着くはずがないが、
「それでもここを離れる事は出来ない。こっちも色々と因縁を終わらせたい相手がいるからね」
この状況で自分だけが逃げることは出来ない。今回の任務は深淵の森が大きく関わっており、封印が存在する場所はソフィアにとっても因縁のある故郷であり、既にバルたち黒猫盗賊団も巻き込んでしまった以上は退けるはずがない。
「そうですか……ですが、これだけは忘れない様に。貴女がもし、下手な行動を犯したら会ったことも無い同族たちが苦しむことを――」
ブゥンッ――!
一瞬、ナナの身体が激しく発光したと思うと、瞬時に元の大将軍のレミアの姿に戻り、彼女は額から汗を流しながら息を乱す。
「……す、すいません、ナナが失礼な真似を……」
「あ、いえ……」
すぐに彼女は申し訳なさそうに頭を下げてくるが、先ほどの発言は全て彼女の身体に乗り移った「ナナ」の言葉のはずだが、どうやらナナが憑依中の記憶も彼女には残っているらしい。レミアはソフィアに視線を向けると、何故か頬を赤くして彼女の掌を掴んでくる。
ガシッ!
「は?」
「まさか……こんな美しい方があの時の凛々しいお方だったとは……感激です」
「は!?」
若干、興奮した様子で詰め寄ってくるレミアにレノは気圧されるが、すぐに手を離して距離を取る。
「ハーフエルフと伺っていましたが……成程、女性に変化して身分を隠されていたのですね。流石は竜殺しの英雄の1人………!!」
「ちょっと待て、竜殺しの英雄てどういう事?」
「わふっ……レノさん知らなかったんですか?」
「……陰でよく呼ばれている」
「マジで!?」
ポチ子とゴンゾウ曰く、腐敗竜討伐の際に参加したメンバー(ワルキューレを除く)は全員が「竜殺しの英雄」と祟られており、特に「ジャンヌ」は「鮮血のジャンヌ」から「巨竜殺しのジャンヌ」と噂され、最も人気が高い。王国の男性陣が積極的にアプローチしてくるが、誰も相手にされない事から同性愛者の疑いが掛けられているほどである。
「腐敗竜との戦闘に参加できなかったのは残念でしたが……ここでお会いできるなんて光栄です!!」
「そ、そう……」
先ほどの真逆の反応にきらきらとした目つきで見つめてくるレミアにどう反応すればいいのか分からず、ソフィアは苦笑いを浮かべるしかなかった。
奴隷商は捕獲したハーフエルフ達にこの吸魔石で魔力を搾り取り、魔力を十分に吸い上げた吸魔石を特殊な技術で中身の魔力を抽出し、ただの飲料水と組み合わせる事で「魔力水」と呼ばれる回復薬を生み出す。この方法で世界各地の奴隷商はハーフエルフ達を利用して大量の魔力水を造り上げ、世界中に販売している。
この奴隷商が作り上げた「魔力水」と、聖導教会が販売している「マナ・ポーション」は回復効果は後者の方が圧倒的に上ではあるが、魔力水の方がマナ・ポーションよりも遥かに安価で売買されているため、魔術師たちに人気がある。
また、奴隷商は魔力水のお蔭で入手した大金を利用して吸魔石を買占め、奴隷のハーフエルフ達を更に苦しめながら魔力を搾り取り、新たな魔力水を生み出す。
悪循環の繰り返しだが、当然ながらに毎日のように魔力を吸い上げられるハーフエルフにも限界が訪れる。魔力を吸収され過ぎて魔力枯渇を起こして死亡する者も多数出現し、それでも奴隷商人たちは彼等から魔力を吸い上げて魔力水を作り続ける。
世界的にも数少ない種族のため、1人でも多くハーフエルフを持っている奴隷商人が大金を手に出来る事になり、各地の奴隷商人たちは血眼でハーフエルフを拘束、もしくは他の奴隷商から強奪を繰り返し得ているのが現状である。
「……話は分かった。けど、それがどうしたってんだい?全部の責任がこいつにあるって言いたいのなら、それはただの暴論だよ!!」
「そうですよ!!あの時、レノさんがいなかったら私達全員死んでましたし、大勢の人たちが巻き込まれていました!!」
「レノがいたからこそ、あの戦いは勝てた」
「拙者はその場にいなかったから詳しい事は分かりませぬが……それでもレノ殿が居なかったら腐敗竜によって大勢の被害が出たのは間違いないと思うでござる」
「わ、私もそう思うよ!!」
「……同じく」
ナナの話を聞き終え、全員がレノを庇う様に発言するがナナは首を振り、
「別に私はその子を責めているわけではありません。ですが、これからのハーフエルフという種族の扱いはその者の行動に大きく左右されるのは事実です」
「……私が大きな失敗をしたら、他のハーフエルフにも迷惑が掛かるって事?」
「そうです。現時点で貴女が世界で最もハーフエルフという種の影響力が一番強い存在に当たるお方なのですから」
「なるほど」
ソフィアとしては実感が沸かないが、確かに聞いていて気分のいい話ではない。自分の知らないところで大勢の同族が殺されているかもしれないと聞かされて落ち着くはずがないが、
「それでもここを離れる事は出来ない。こっちも色々と因縁を終わらせたい相手がいるからね」
この状況で自分だけが逃げることは出来ない。今回の任務は深淵の森が大きく関わっており、封印が存在する場所はソフィアにとっても因縁のある故郷であり、既にバルたち黒猫盗賊団も巻き込んでしまった以上は退けるはずがない。
「そうですか……ですが、これだけは忘れない様に。貴女がもし、下手な行動を犯したら会ったことも無い同族たちが苦しむことを――」
ブゥンッ――!
一瞬、ナナの身体が激しく発光したと思うと、瞬時に元の大将軍のレミアの姿に戻り、彼女は額から汗を流しながら息を乱す。
「……す、すいません、ナナが失礼な真似を……」
「あ、いえ……」
すぐに彼女は申し訳なさそうに頭を下げてくるが、先ほどの発言は全て彼女の身体に乗り移った「ナナ」の言葉のはずだが、どうやらナナが憑依中の記憶も彼女には残っているらしい。レミアはソフィアに視線を向けると、何故か頬を赤くして彼女の掌を掴んでくる。
ガシッ!
「は?」
「まさか……こんな美しい方があの時の凛々しいお方だったとは……感激です」
「は!?」
若干、興奮した様子で詰め寄ってくるレミアにレノは気圧されるが、すぐに手を離して距離を取る。
「ハーフエルフと伺っていましたが……成程、女性に変化して身分を隠されていたのですね。流石は竜殺しの英雄の1人………!!」
「ちょっと待て、竜殺しの英雄てどういう事?」
「わふっ……レノさん知らなかったんですか?」
「……陰でよく呼ばれている」
「マジで!?」
ポチ子とゴンゾウ曰く、腐敗竜討伐の際に参加したメンバー(ワルキューレを除く)は全員が「竜殺しの英雄」と祟られており、特に「ジャンヌ」は「鮮血のジャンヌ」から「巨竜殺しのジャンヌ」と噂され、最も人気が高い。王国の男性陣が積極的にアプローチしてくるが、誰も相手にされない事から同性愛者の疑いが掛けられているほどである。
「腐敗竜との戦闘に参加できなかったのは残念でしたが……ここでお会いできるなんて光栄です!!」
「そ、そう……」
先ほどの真逆の反応にきらきらとした目つきで見つめてくるレミアにどう反応すればいいのか分からず、ソフィアは苦笑いを浮かべるしかなかった。
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