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テンペスト騎士団編
洋服屋
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「ところで……今、私達は何処に向かってるのかな?」
「知らずに付いてきてたの……?」
前方を歩くソフィアにホノカが尋ねると、彼女は面倒気に自分の服装を見せつける。現在ソフィアが着用しているのはテンペスト騎士団の男性用の制服であり、ソフィアの状態でこの服装では流石に目立つ。
男性の姿に戻ればいいだけの話だが、流石に「強化術」で無理をし過ぎたせいか上手くレノの姿に戻る事が出来ない。今の状態では肉体強化しか使用できないが、それでも戦えないことは無いが。
「この状態の服を買いに行かないと……」
「……私の服、貸してあげる」
「コトミのは胸がぶかぶか何だよ……」
コトミの服を借りようかと考えたが、彼女の大きすぎる胸を見て断念する。それなりに自分の胸が大きいことは自覚しているが、それでもコトミのメロンには勝てない。何故か少しだけ敗北感を味わい、他にもバルや女部下たちの服を借りてみたが、よくよく考えれば彼女達は全員獣人のため、尻尾の部分に穴が開いており、そのまま着る事は出来ない。
「人間用の服を買わないと……男女両用の服を売っている店を聞いておいた」
「君……今狙われている自覚はあるのかい?」
「この面子で襲われるとは思えないけどね」
「なるほど」
エルフ30人を叩き潰したハーフエルフ、ワルキューレの女騎士、悪名高い盗賊王、例え100人規模の森人族の戦士が送り込まれても十分に迎撃できる。一応は酒場の周囲にもカゲマルが残した部下たちが待機しており、常に刺客を警戒している。
警戒を怠る事は出来ないが、一時の油断も許されない放浪島の北部山岳や地下迷宮を生き抜いてきたソフィアだからこそ、この程度の状況で焦ることは無い。
「君は緊張感が無いというよりは……常に余裕を保っているな。頼もしいよ」
「リラックスは大事だよ」
「りら……?まるで勇者君のような言葉を言うね」
「勇者達の事を知ってるの?」
ソフィアが振り返ると、ホノカは考え込む素振りを行い、
「私の国にもよく勇者達が訪れるからね。彼等は私の都市を転移結晶で自由に行き来できるから。羨ましい事だ」
「ああ……自分自身は転移できないんだっけ?」
彼女が所持している「転移の聖痕」は「生物」の転移は不可能のため、彼女自身が遠方の土地へ移動する場合は乗り物を使うか、それとも自分の能力以外の方法で転移魔法を使用しなければならない。
「全く……面倒な物だね。色々と便利ではあるが、万能ではない」
「ああ……何となく分かる」
今まで出会った聖痕所持者は確かに強者揃いではあるが、決して無敵という訳ではない。ゴウにしろ、アルファにしろ、甲冑の騎士にしろ、ジャンヌにしろ、決して弱点が無かったわけではない。
仮に全ての聖痕を集めた場合、アイリィはその力を完全に使いこなせるのかが気になる。もしも今後、複数の聖痕の力を得た者が敵に存在した場合は非常に厄介な相手となるだろう。
「君が何故、聖痕を集めているのかは知らないが……私の聖痕を狙うなら最後にした方がいいよ」
「参考にしとくよ……着いた」
「……ここ?」
3人の前には大きな建物があり、でかでかと洋服屋と書かれている。何のひねりも無い看板の名前に顔をしかめるが、一応はこの都市唯一の洋服屋らしいので、洋服屋と尋ねられたら都市の人間はこの場所を紹介するらしい。
店の外で飾られているガラスケースの中には明らかに勇者達から影響を受けたと思われる現実世界の服装が並んでおり、スクール水着、体操服、果てには巫女服まで存在した。一応は男性用の服も存在するが、ほとんどが女性用の服であり、やたらとデザインがアニメや漫画などでしか見たことが無い物が多く、これも召喚された勇者達の影響なのだろう。
「……本当にこの店で買わないといけないのか?」
「まあ、他に店が無いのだからね」
「……大丈夫。似合うよ」
親指を立てるホノカとコトミにソフィアは冷や汗を搔き、出来れば踵を返して酒場に戻りたいが、このままこの服装で過ごすわけにもいかない。
「……そうだ、財布を忘れた」
「安心しろ、盗賊王の異名は伊達ではない」
ジャラララッ!!
ホノカが両手を掲げた途端、転移魔方陣が空中に生み出され、無数の金貨が取りだされる。それを見てソフィアは嫌な顔を浮かべ、
「あ、ポチ子の餌の用意を思い出したから……」
「……大丈夫、出掛ける前に用意してきた」
ガシッ!
逃走を図ろうとした瞬間、コトミが今までにない力強さでソフィアの身体を抱きしめる。無理やりにでも彼女から逃れようとしたが、ホノカが転移魔方陣から鎖やら縄やらを取りだしたのを見て、大きなため息を吐いて諦める。
「くっ……こうなったらお前らも道連れだ!!」
「おおう?」
「……わあっ?」
ソフィアはホノカとコトミの腕を掴み、そのまま洋服屋の中へと入り込む。
「知らずに付いてきてたの……?」
前方を歩くソフィアにホノカが尋ねると、彼女は面倒気に自分の服装を見せつける。現在ソフィアが着用しているのはテンペスト騎士団の男性用の制服であり、ソフィアの状態でこの服装では流石に目立つ。
男性の姿に戻ればいいだけの話だが、流石に「強化術」で無理をし過ぎたせいか上手くレノの姿に戻る事が出来ない。今の状態では肉体強化しか使用できないが、それでも戦えないことは無いが。
「この状態の服を買いに行かないと……」
「……私の服、貸してあげる」
「コトミのは胸がぶかぶか何だよ……」
コトミの服を借りようかと考えたが、彼女の大きすぎる胸を見て断念する。それなりに自分の胸が大きいことは自覚しているが、それでもコトミのメロンには勝てない。何故か少しだけ敗北感を味わい、他にもバルや女部下たちの服を借りてみたが、よくよく考えれば彼女達は全員獣人のため、尻尾の部分に穴が開いており、そのまま着る事は出来ない。
「人間用の服を買わないと……男女両用の服を売っている店を聞いておいた」
「君……今狙われている自覚はあるのかい?」
「この面子で襲われるとは思えないけどね」
「なるほど」
エルフ30人を叩き潰したハーフエルフ、ワルキューレの女騎士、悪名高い盗賊王、例え100人規模の森人族の戦士が送り込まれても十分に迎撃できる。一応は酒場の周囲にもカゲマルが残した部下たちが待機しており、常に刺客を警戒している。
警戒を怠る事は出来ないが、一時の油断も許されない放浪島の北部山岳や地下迷宮を生き抜いてきたソフィアだからこそ、この程度の状況で焦ることは無い。
「君は緊張感が無いというよりは……常に余裕を保っているな。頼もしいよ」
「リラックスは大事だよ」
「りら……?まるで勇者君のような言葉を言うね」
「勇者達の事を知ってるの?」
ソフィアが振り返ると、ホノカは考え込む素振りを行い、
「私の国にもよく勇者達が訪れるからね。彼等は私の都市を転移結晶で自由に行き来できるから。羨ましい事だ」
「ああ……自分自身は転移できないんだっけ?」
彼女が所持している「転移の聖痕」は「生物」の転移は不可能のため、彼女自身が遠方の土地へ移動する場合は乗り物を使うか、それとも自分の能力以外の方法で転移魔法を使用しなければならない。
「全く……面倒な物だね。色々と便利ではあるが、万能ではない」
「ああ……何となく分かる」
今まで出会った聖痕所持者は確かに強者揃いではあるが、決して無敵という訳ではない。ゴウにしろ、アルファにしろ、甲冑の騎士にしろ、ジャンヌにしろ、決して弱点が無かったわけではない。
仮に全ての聖痕を集めた場合、アイリィはその力を完全に使いこなせるのかが気になる。もしも今後、複数の聖痕の力を得た者が敵に存在した場合は非常に厄介な相手となるだろう。
「君が何故、聖痕を集めているのかは知らないが……私の聖痕を狙うなら最後にした方がいいよ」
「参考にしとくよ……着いた」
「……ここ?」
3人の前には大きな建物があり、でかでかと洋服屋と書かれている。何のひねりも無い看板の名前に顔をしかめるが、一応はこの都市唯一の洋服屋らしいので、洋服屋と尋ねられたら都市の人間はこの場所を紹介するらしい。
店の外で飾られているガラスケースの中には明らかに勇者達から影響を受けたと思われる現実世界の服装が並んでおり、スクール水着、体操服、果てには巫女服まで存在した。一応は男性用の服も存在するが、ほとんどが女性用の服であり、やたらとデザインがアニメや漫画などでしか見たことが無い物が多く、これも召喚された勇者達の影響なのだろう。
「……本当にこの店で買わないといけないのか?」
「まあ、他に店が無いのだからね」
「……大丈夫。似合うよ」
親指を立てるホノカとコトミにソフィアは冷や汗を搔き、出来れば踵を返して酒場に戻りたいが、このままこの服装で過ごすわけにもいかない。
「……そうだ、財布を忘れた」
「安心しろ、盗賊王の異名は伊達ではない」
ジャラララッ!!
ホノカが両手を掲げた途端、転移魔方陣が空中に生み出され、無数の金貨が取りだされる。それを見てソフィアは嫌な顔を浮かべ、
「あ、ポチ子の餌の用意を思い出したから……」
「……大丈夫、出掛ける前に用意してきた」
ガシッ!
逃走を図ろうとした瞬間、コトミが今までにない力強さでソフィアの身体を抱きしめる。無理やりにでも彼女から逃れようとしたが、ホノカが転移魔方陣から鎖やら縄やらを取りだしたのを見て、大きなため息を吐いて諦める。
「くっ……こうなったらお前らも道連れだ!!」
「おおう?」
「……わあっ?」
ソフィアはホノカとコトミの腕を掴み、そのまま洋服屋の中へと入り込む。
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