種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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テンペスト騎士団編

リュウケンの過去

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――放浪島に監獄されていた最強の囚人「リュウケン」彼は決して生まれながらにこのような暴力的な性格ではなかった。彼は「巨人族」の母親に「人間」の父親を持つ世界でも非常に珍しいハーフだった。

巨人族と人間が結ばれるというのはこの世界でも非常に稀であり、ある意味では「ハーフエルフ」よりも希少な存在と言える。彼の母親は巨人族と言えど、未熟児として生まれて小柄な体格(それでも2メートルはある)であり、父親はリュウケン同様に大柄な身体(人間としては)であり、2人は戦場で何度も死闘を繰り広げた。

お互いを宿敵のように思いながらも、同時に戦いを通して2人の心は惹かれあう。まるでドラマのような展開だが、2人が結ばれた先にはあまりにも過酷な現実が待っていた。

当時はまだ巨人族と人間は戦争状態であり、2人は人里離れた山奥の中でひっそりと暮らすしかなかった。やがて数年の時が経ち、2人の間に「リュウケン」が生まれた。2人は生まれてきた子供が「人間」でも「巨人族」でもない事に罪悪感を覚える。彼は外見は人間だったが、生まれながらに恐ろしい腕力を持っており、赤ん坊の時ですら抱き上げた父親の指をへし折ってしまうほどだった。

それでも2人はリュウケンに対して惜しみなく愛情を注ぎ、やがて彼が11歳の誕生日を迎えたとき、外界の世界に憧れて人里に下りたいと懇願する。2人はそれに断固として反対したが、リュウケンはたった1人で山を降りてしまう。



――人里に下りたリュウケンは、自分の今までの暮らしぶりと街に住む一般人たちとのあまりの貧富の差に驚愕し、同時に何故自分たち親子だけがこのような暮らしを強いられなければならないのかと激怒する。



子供ながらに鬱憤晴らしに人里で大暴れしたリュウケンは武装した兵士たちに追い込まれ、何とか自分の住む山に逃げ延びるが、彼の後を追跡してきた兵士達を両親がやむを得ず撃退する。


しかし、この一件で完全に巨人族と人間側にリュウケン親子の居場所が知れ渡り、3人はやがて訪れるであろう無数の兵士たちに恐れ、両親はせめてリュウケンだけでも生き残らせようと無理やり拘束して、唯一の知人に頼み込んで山の外へ送り込む。

だが、その知人も既に王国側に雇われた人間であり、両親を裏切ってリュウケンを王国側に売り飛ばそうとしたが、子供と侮っていた彼に逆に絞殺された。



――すぐにリュウケンは両親が待っている山奥に戻ったが、そこには自分が慣れ親しんだ家が焼き払われ、無数の兵士に取り囲まれて全身に槍を突きさされた両親の姿を確認し、彼の理性がそこで失われた。



意識を取り戻した時には、100人を越える人間の兵士たちが首をあらぬ方向に曲げた状態で地面に横たわっており、全身が血塗れの自分に気が付き、リュウケンは自分がした行為に身体を震わせる。


この事件が彼が初めて犯した「殺人」であり、後々に成長した彼は放浪島に送りこまれ、ハナムラ侯爵に買収される。だが、そんな彼も裏切って彷徨っていところを「センチュリオン」に拾われ、自分の身体に「嵐の聖痕」が刻み込まれた。


そして、組織から闘人都市を攻め込むように指示を出され、リュウケンは東門でリノン達との戦闘にまで至った。



――ゴォオオオオオオッ!!



「わふっ!?」
「……あれは?」


リノンに遅れて都市の城門に向かっていたポチ子とゴンゾウは、前方の街中で発生した竜巻を発見し、驚愕する。周囲の人々もその光景に悲鳴を上げ、凄まじい混乱が起きる。竜巻はこちらの方角に向けて突き進んでおり、一目散に民衆は建物の中や都市の中心部の方に避難を開始する。


「ど、退け!!邪魔だ!!」
「早く逃げろ!!」
「お、おい!!立ち止まってんじゃねぇ!!」


民衆は我先にと逃れようとするが、竜巻は規模を徐々に増して移動速度を速めており、ポチ子とゴンゾウも逃げ惑う者たちの邪魔にならない様に路地裏に隠れる。


「な、何が起きてるんでしょうか……!?」
「……分からない」


路地裏からでも確認できる竜巻を観察し、間違いなくリノンが向かった東門の方角から発生したのは間違いない。恐らく「敵」が生み出したもので間違いないが、ここまで規格外の事を起こすなど想像さえできなかった。

ちなみに先行したはずのポチ子がゴンゾウが共に行動しているのは、最初は先に走っていたポチ子だが、彼女は途中で道に迷ってしまい、迷子中の所をゴンゾウが発見して共に行動していた。


「わぅんっ……どんどん近づいてきます」
「……俺にしがみ付け」
「はいっ!!」


ゴンゾウはポチ子を抱え上げ、まるで子供を抱っこするような形だが、特に身体を密着させても2人に大きな反応は無い。男女というよりは、親子のような関係性に近い。


ビュオォオオオオオッ……!!


「わ、わうぅううううっ……!!」
「ぐっ……!!」


竜巻の暴風が遂に2人の元まで辿り着き、ゴンゾウは必死に片手でポチ子を支えながら、吹き飛ばされない様に壁にしがみ付く。彼女も必死に彼の胸元に抱き付くが、想像以上の風量に今にも剥がれ落ちかねない。さらに風圧は加速度的に強まり、遂にはゴンゾウの巨体ですら浮かび上がる。


「まずい……!!」
「と、飛んじゃいますぅっ!?」


一層に暴風が路地裏に流れ込まれ、遂にはゴンゾウの手が壁から剥がれ落ちようとした時、


「……全く、無粋な風だな」
「はわわわっ……!!」



2人の後方から女性の声が聞こえた瞬間、



ボフゥッ!!



「「えっ(むっ)!?」」



2人の背中から一瞬だけ、凄まじい追い風が通り過ぎたと思うと、先ほどまでの暴風が嘘のように消え去り、ゴンゾウの浮かび上がった身体が地面に着地する。

慌ててポチ子とゴンゾウは声のした方角に振り向くと、そこには白いフードで全身を覆い隠す2人組が立っており、1人の手元には「日本刀」を思わせる武器が掲げられ、恐らくは先ほどの暴風をかき消した人物で間違いないだろう。


「……もう少しだけ様子を見るつもりだったが……仕方がない。これ以上の被害が出る前に終わらせるしかないな」
「お、お前等は……?」
「……あれ、もしかして……ポチ子ちゃん!?」
「わふ?」


もう一人のフードの人物がポチ子の顔を見た瞬間に声を上げ、彼女が首を傾げると、すぐにフードから顔を出し、


「やっぱりポチ子ちゃんだ!!私だよ~ヨウカだよ~!!」
「巫女姫様!?」


そこには久しぶりの再会を果たすヨウカの姿が会った。
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