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テンペスト騎士団編
切札
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「怯むな!!相手は1人だぞ!!」
「あ、ああ……」
「はぁあああっ!!」
一気に10人近くの同胞を倒したレノに深淵の森の戦士達に動揺が走るが、彼らは冷静さを取り戻す。流石に戦士として戦い続けてきたからこそ、不測の事態の対処法も心得ている。
彼等の反応に素直に感心しながらも、レノは一気に襲い掛かってくる刺客にどう対処すべきか考え込む。嵐属性の魔法があまり効果がない以上、肉体強化や雷属性の魔法を頼りに戦うしかないのは分かっているが、眼の前のエルフたち以外にも伏兵が隠れている可能性は高い。そのため、下手にここで大幅に魔力を消費するわけにはいかない。
だが、出来るだけ節約しながら闘える余裕がない相手である事も事実であり、ここで切り札を使うしかないのかと迫られる。
(……あれだけは使いたくは無いけどな……)
レノにとっての切り札は決して「カラドボルグ」だけではない。魔力消費が激しく、威力は凄まじいが、いちいち使用する度に身体が動かなくなる聖剣だけでは放浪島の地下迷宮は生き残れない。そのため、彼はこの一年半の間にある方法を生み出した。
それは魔力が男性時よりも高い「ソフィア」の姿でしか使用できず、一時的にだが驚異的な身体能力が得られる。その反面に反動も激しいが、一日に一回程度なら使用は可能である。
(躊躇う暇も無いな……)
あまり時間を掛け過ぎると、酒場からリノンたちが飛び出してくる。まだ彼女達はレノとエルフ達の戦闘に見入っているようだが、お人よしの彼女達がこのまま黙って見ているはずがない。
(……頼む……)
紋様に視線を通し、一瞬だが兎耳の少女が頭に思い浮かぶ。苦笑いを浮かべながらも、レノは準備を行う。
プツンッ……
腰元にまで届きそうな長い黒髪を纏めていた「紐」を指で引きちぎり、その光景にエルフ達は訝し気な視線を向けてくるが、
「――ソフィア」
ボウッ……!!
「何……!?」
「……何のつもりだ?」
眼の前で「女性」の身体に変化するレノに一瞬呆気にとられ、エルフ達は立ち止まってしまう。それが彼女に功を差し、完全な肉体の変化を終えたとき、
「……白髪?」
誰かが呟き、全員の視線がソフィアに集まる。
――そこには以前のような青い髪の毛ではなく、まるで雪のように真っ白な色へと変わり果てた髪の毛、それ相応の膨れた胸に臀部、見惚れるほどに整った顔立ち、その瞳の色は宝石のように碧く煌めいている。
「行くよ……死にたくなかったら、今のうちに逃げなよ」
ジャララララッ!!
左腕から聖爪(ネイルリング)を生み出し、失われた左手の部分に装着する。鎖と連結して聖爪が掲げられ、ソフィアはゆっくりと息を吐くと、
「暴れろ……!!」
自分の体内に眠る「白狼」の血液に声を掛けると、直後に異変が起きる。
「……何だ、あれは?」
酒場の窓から見ていたリノンが声を上げ、同じく他の面々も目を見開く。そこには無数のエルフに囲まれながら、ゆっくりと両手を大きく広げるソフィアの姿があり、
「――ガァアアアアアアアアアアッ!!」
周囲一帯に「狼」を想像させる咆哮が響き渡り、即座にエルフ達の敏感な聴覚が反応して彼らは堪らずに耳を抑えようとする。その隙にもソフィアが動き出し、彼女の瞳が虚ろになり、そのまま一瞬でエルフ達の視界から姿を消したと思うと、
ドガァアアアアンッ!!
「「えっ……?」」
何かが吹き飛ばされる音が響き渡り、すぐに4、5人のエルフが空中に放り出される。吹き飛ばされた彼等全員が呆然とした表情を浮かべたまま、すぐに苦痛に歪ませる。あまりにも速過ぎて、自分達が吹き飛ばされた事に気付くのに理解が遅れたようだ。
ドォオオオンッ!!
「「ぐぶぅっ!?」」
今度は地面に叩き伏せられるエルフ達が続出し、既に半数以上のエルフがやられた。だが、
「ど、何処だ……何処にいる!?」
「隠密……うわぁああああっ!?」
ズバァアアッ!!
エルフ達は周囲を見渡し、姿を消したソフィアを探すが、その間にも1人がまるで狼の爪に斬られたように胸元に鮮血が走り、激しい出血を起こしながら倒れる。残された者たちが周囲の異変の原因を理解し、ソフィアは魔法の類で姿を消したのではなく、単純な高速移動で動き続けているのだ。
「ば、馬鹿な……こんな事が……!!」
最も運動能力に長けている獣人よりも何十倍もの速さで動く彼女に対し、エルフ達は無我夢中に魔法や剣を周囲に振るうが、相手の居場所が正確に掴めない以上は効果はない。
「ぐはっ!!」
「ぎゃああっ!?」
ドォンッ!!ズバァンッ!!
打撃、斬撃、衝撃、そのどれもがエルフだけを標的にしており、彼らは次々と倒される。残された者たちは恐怖で怯え、身体を縮こませる事しか出来ない。
「た、助け……!!」
「許して……!!」
「いや、やめ……うぁあああっ!!」
ドゴォオオオオッ!!
最後のエルフ達の身体が浮き上がった瞬間、
ズザザザッ……!!
激しい摩擦音を生み出しながら、足元に血を流しながらも地面に跪くソフィアの姿が出現し、
「……終わり」
ドサッ……!!
彼女ははっきりとその言葉を告げた瞬間、最後のエルフ達の身体が地面に衝突した。
「あ、ああ……」
「はぁあああっ!!」
一気に10人近くの同胞を倒したレノに深淵の森の戦士達に動揺が走るが、彼らは冷静さを取り戻す。流石に戦士として戦い続けてきたからこそ、不測の事態の対処法も心得ている。
彼等の反応に素直に感心しながらも、レノは一気に襲い掛かってくる刺客にどう対処すべきか考え込む。嵐属性の魔法があまり効果がない以上、肉体強化や雷属性の魔法を頼りに戦うしかないのは分かっているが、眼の前のエルフたち以外にも伏兵が隠れている可能性は高い。そのため、下手にここで大幅に魔力を消費するわけにはいかない。
だが、出来るだけ節約しながら闘える余裕がない相手である事も事実であり、ここで切り札を使うしかないのかと迫られる。
(……あれだけは使いたくは無いけどな……)
レノにとっての切り札は決して「カラドボルグ」だけではない。魔力消費が激しく、威力は凄まじいが、いちいち使用する度に身体が動かなくなる聖剣だけでは放浪島の地下迷宮は生き残れない。そのため、彼はこの一年半の間にある方法を生み出した。
それは魔力が男性時よりも高い「ソフィア」の姿でしか使用できず、一時的にだが驚異的な身体能力が得られる。その反面に反動も激しいが、一日に一回程度なら使用は可能である。
(躊躇う暇も無いな……)
あまり時間を掛け過ぎると、酒場からリノンたちが飛び出してくる。まだ彼女達はレノとエルフ達の戦闘に見入っているようだが、お人よしの彼女達がこのまま黙って見ているはずがない。
(……頼む……)
紋様に視線を通し、一瞬だが兎耳の少女が頭に思い浮かぶ。苦笑いを浮かべながらも、レノは準備を行う。
プツンッ……
腰元にまで届きそうな長い黒髪を纏めていた「紐」を指で引きちぎり、その光景にエルフ達は訝し気な視線を向けてくるが、
「――ソフィア」
ボウッ……!!
「何……!?」
「……何のつもりだ?」
眼の前で「女性」の身体に変化するレノに一瞬呆気にとられ、エルフ達は立ち止まってしまう。それが彼女に功を差し、完全な肉体の変化を終えたとき、
「……白髪?」
誰かが呟き、全員の視線がソフィアに集まる。
――そこには以前のような青い髪の毛ではなく、まるで雪のように真っ白な色へと変わり果てた髪の毛、それ相応の膨れた胸に臀部、見惚れるほどに整った顔立ち、その瞳の色は宝石のように碧く煌めいている。
「行くよ……死にたくなかったら、今のうちに逃げなよ」
ジャララララッ!!
左腕から聖爪(ネイルリング)を生み出し、失われた左手の部分に装着する。鎖と連結して聖爪が掲げられ、ソフィアはゆっくりと息を吐くと、
「暴れろ……!!」
自分の体内に眠る「白狼」の血液に声を掛けると、直後に異変が起きる。
「……何だ、あれは?」
酒場の窓から見ていたリノンが声を上げ、同じく他の面々も目を見開く。そこには無数のエルフに囲まれながら、ゆっくりと両手を大きく広げるソフィアの姿があり、
「――ガァアアアアアアアアアアッ!!」
周囲一帯に「狼」を想像させる咆哮が響き渡り、即座にエルフ達の敏感な聴覚が反応して彼らは堪らずに耳を抑えようとする。その隙にもソフィアが動き出し、彼女の瞳が虚ろになり、そのまま一瞬でエルフ達の視界から姿を消したと思うと、
ドガァアアアアンッ!!
「「えっ……?」」
何かが吹き飛ばされる音が響き渡り、すぐに4、5人のエルフが空中に放り出される。吹き飛ばされた彼等全員が呆然とした表情を浮かべたまま、すぐに苦痛に歪ませる。あまりにも速過ぎて、自分達が吹き飛ばされた事に気付くのに理解が遅れたようだ。
ドォオオオンッ!!
「「ぐぶぅっ!?」」
今度は地面に叩き伏せられるエルフ達が続出し、既に半数以上のエルフがやられた。だが、
「ど、何処だ……何処にいる!?」
「隠密……うわぁああああっ!?」
ズバァアアッ!!
エルフ達は周囲を見渡し、姿を消したソフィアを探すが、その間にも1人がまるで狼の爪に斬られたように胸元に鮮血が走り、激しい出血を起こしながら倒れる。残された者たちが周囲の異変の原因を理解し、ソフィアは魔法の類で姿を消したのではなく、単純な高速移動で動き続けているのだ。
「ば、馬鹿な……こんな事が……!!」
最も運動能力に長けている獣人よりも何十倍もの速さで動く彼女に対し、エルフ達は無我夢中に魔法や剣を周囲に振るうが、相手の居場所が正確に掴めない以上は効果はない。
「ぐはっ!!」
「ぎゃああっ!?」
ドォンッ!!ズバァンッ!!
打撃、斬撃、衝撃、そのどれもがエルフだけを標的にしており、彼らは次々と倒される。残された者たちは恐怖で怯え、身体を縮こませる事しか出来ない。
「た、助け……!!」
「許して……!!」
「いや、やめ……うぁあああっ!!」
ドゴォオオオオッ!!
最後のエルフ達の身体が浮き上がった瞬間、
ズザザザッ……!!
激しい摩擦音を生み出しながら、足元に血を流しながらも地面に跪くソフィアの姿が出現し、
「……終わり」
ドサッ……!!
彼女ははっきりとその言葉を告げた瞬間、最後のエルフ達の身体が地面に衝突した。
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