種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
280 / 1,095
テンペスト騎士団編

酒場内での戦闘

しおりを挟む
バリィイイイインッ!!


闘人都市の城門の方角から土煙が舞い起きてから数秒後、黒猫酒場の全ての窓が破壊される音が響き渡り、全員がそれぞれの方角に視線を向けると、複数の戦士装束を纏ったエルフ達が現れ、長剣を握りしめて全員がレノに向けて駆けだす。


「半端物がぁああああっ!!」
「死ねぇえええええっ!!」


エルフ達は他の者たちを全員無視してレノに駆け寄ろうとするが、


「うちの酒場に何すんだい!!」
「弁償しろっす!!」
「わふっ!!」
「せいっ!!」
『げふっ!?』


途中で激昂したバル達に遮られ、顔面を蹴られたり、剣の柄で腹部を突かれたり、中には股間を蹴りあげられた者もいる。それでも尚、襲撃者達の方が圧倒に多いので、彼女達を潜り抜けた者たちがレノに突進を仕掛けるが、


「雷伝」


バチィィイイイッ……!!


彼は既に左腕から銀の鎖を射出しており、電流を流しこみながら鞭の要領で振り回す。


「痺れろ!!」
「「ぎゃあぁあああああっ!?」」


そのまま鎖に絡めとられた襲撃者達は感電し、床に倒れこむ。その隙を逃さずに周囲の者たちが彼等を取り押さえる。


「く、くそ……!!」
「ほら!!大人しくしろっす!!」
「うちの店を荒らしやがって……覚悟は出来ているだろうね」
「拙者たちを舐めないで頂きたい!!」


天井から降り立ち、カゲマルは鎖から逃れた1人にクナイを向け、そのまま一閃する。


「鉄(くろがね)流……一の太刀」
「ぐあっ!?」


カゲマルが通り過ぎた瞬間にエルフの身体に一筋の斬撃が生まれ、そのまま倒れこむ。それを尻目にリノンも長剣を抜き放ち、新たに窓から現れたエルフ2人組に向けて、


「火炎剣!!」
「うおっ!?」
「くっ!!」


ズバァアアアアッ!!


炎を纏わせた刀身を振り払い、エルフ達が慌てて回避すると、彼女は剣を振り抜いた後を狙って攻撃を仕掛けてくる。流石に相手も手練れ揃いであり、そのままリノンに向けて刃を突き刺そうとするが、


「火針(ひばり)!!」
「ぐあっ!?」
「いぎゃあっ!?」


人差し指と中指を合わせ、いわゆる「ピストル」の形に変えると、リノンは無詠唱で火の魔弾を放出する。そのまま火属性の弾丸はエルフ達の身体を貫き、前のめりに倒れこむ。


「ふんっ!!」
「「ごはぁっ!?」」


酒場の中で身体を縮こませていたゴンゾウが片腕を振るい、そのまま酒場に残っていた三人組を吹き飛ばし、壁に強かに打ち付けて気絶させる。これで一応は酒場内のエルフ達は全て倒した事になるが、レノはすぐに破壊された窓から外を確認し、


「……やばいな」



予想通りの光景が広がっており、舌打ちをする。すぐに他の者達も破壊された窓に駆け寄り、外の光景に唖然とする。



「出て来い!!ここに立て籠もっているのは分かっているぞ!!半端者であるレノ!!そして裏切り者のフレイめ!!」



そこには30人を越えるエルフ達の戦士の姿があり、酒場の正面で待ち構えていた。それぞれが弓矢の類を向けており、この調子ではこの酒場は完全に囲まれているのだろう。ここまでの人数が既に都市内部に侵入し、酒場の外にまで接近してきた事に気が付かなかったのはこちら側の不覚であり、これではテンペスト騎士団や警備兵に連絡を伝える暇が無い。


「たくっ……こりゃやばいね」
「……先手を打たれたか……」
「わふっ……すごい数です」
「むうっ……」
「うわ~……こりゃ、マジで逃げた方がいいんじゃないすか?」
「……抜け道があります。そこから逃げましょう」
「何故、普通の酒場の中に抜け道などがあるのが気になるでござるが……拙者も賛成でござる」


他の者たちも外の様子に気が付き、すぐに冷汗を流す。一流の森人族の戦士がこれだけ勢ぞろいし、さらには酒場に向けて今にも火矢を射かねない。普通に考えればここは逃げる事が正解だろう。酒場は下手をしたら焼き落とされるだろうが、それでも生き残る方が重要だ。


「出てくる」
「「えっ?」」


バタンッ……!


だが、レノだけは玄関口を抜け、そのまま外に飛び出す。全員が彼の行動に呆気にとられ、反応に遅れてしまう。


「……素直に出て来るとは感心だな。だが、相方はどうした!!」
「知らんがな」


外に出たレノは堂々とエルフ達の元に歩み寄り、エルフ達はそんな彼に忌々しげ顔を歪ませながら弓矢を構える。


(……こいつらもフレイの居場所は知らないのか)


先ほどの口振りから、深淵の森のエルフ達も「フレイ」の事を知らないようであり、もしかしたら1年半前の剣乱武闘の際、アイリィに放浪島に連れて行かれた後、フレイが森に戻らなかったことからエルフ達はフレイが裏切ったと判断した可能性も考えられる。


「まあいい……さあ、首を差し出せ。従わなければ他の者たちがどうなるかは分かるな?」


嫌な笑みを浮かべてくる年長のエルフに対し、レノは面倒気に周囲を見渡す。30人のエルフが1人残らず彼に視線を向けており、弓矢を構えている。普通に考えれば絶望的な状況なのだろうが、


「馬鹿馬鹿しい」
「何だと?」


これぐらいの状況など放浪島の北部山岳や地下迷宮で何度も味わってきた。周囲は敵で覆われ、頼れる者は自分だけ。だが、どんな時でも生き残るためにやる方法は1つしかない。それは「逃げる」ことではなく、死ぬ事から抗うために戦うことだけだ。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...