種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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テンペスト騎士団編

転移不可能

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全ての準備を終え、酒場には放浪島に向かう者たちが集合する。レノを筆頭にテンペスト騎士団の副団長であるリノン、その補佐として部隊長のカゲマルとポチ子とゴンゾウ、さらには黒猫酒場からバルとカリナが出向き、現在動かせる騎士団員も後続として島に送られる予定だった。

残りのメンバーに関しては黒猫酒場に待機し、色々と準備があるため出向くことは出来ない。既にこの酒場はエルフ達に知られているため、再び襲われる可能性も考慮し、拠点を変更する必要もある。

酒場に迷惑をかけたことにレノは謝罪するが、バルは特に気にした風も無く、また騎士団の方から謝罪金を受け取ったため、しばらくの間は店の経営は大丈夫らしい。彼女も深淵の森のエルフに今回の件の落とし前を付けさせない限り、引き下がるつもりは無かった。

そして、闘人都市に存在するテンペスト騎士団の駐留所に存在する「転移魔方陣」からバルトロス王国に帰還し、王城に存在する「転移の門」と呼ばれる特別な術式が埋め込まれた門を通して放浪島に出向く手筈だったが、予想外の出来事に見舞われる。


「……準備が終わっていない?」
「ああ……どういうわけか、転移魔方陣が不調を起こして上手く発動できないらしい」
「そんな事ってあるんですか?」


酒場に戻ってきたリノンから全員に闘人都市の王国軍の駐屯所の転移魔方陣が上手く発動しない事が伝えられる。彼女が駐屯所の転移魔方陣について調べ上げたところ、つい先日までは問題なく起動出来た魔方陣に異変が発見し、どういうわけか魔力を送り込んでも反応しない。

専門の魔術師が調べ上げた結果、どうやら外部から魔方陣の紋様に書き込みが行われており、術式が乱された事が原因らしい。だが、この駐留所は常に24時間見張られており、さらに言えば魔方陣がある建物内には外部の侵入を拒む防御魔方陣も張られているはずだが、実際に何者かが侵入して魔方陣に細工を施したのは間違いない。


「……間違いなく、エルフどもの仕業だね」
「エルフが……?」
「人間の生み出した魔法の結界なんてものは、あいつらにとっては鼻で笑う程度の物だってことだよ」
「そんな……」
「……反論はできないな」


この世界で最も魔法に優れているのは人間ではなく、森人族である。元々、魔法という概念は最初に誕生したのは彼らの種族と言われており、他の種族達は彼女達が扱う魔法を模倣したに過ぎないという説まで存在する。

人間が作り出す魔法よりも、森人族の魔法が優れているのは常識であり、現に森人族の血が流れているハーフエルフであるレノの魔法は他の魔術師とは比べ物にならない程に優れている。例え、駐屯所には人間が生み出した魔法の結界で守護されていたとしても、森人族の戦士たちならば容易く突破できる可能性は高い。


「それにしても……何で、俺達の行動を先読みしたように魔方陣を封じられたんだ?」
「まるで私達の行動を読み取ったようだねぇ……」
「わふっ……まさか、私達の近くにもう……?」
「いや、それはない。あたしは昔、傭兵として働いていたから分かる。あたしたちの周りに誰も付いていない」
「ほう……傭兵の勘というところでござるか?」


バルの発言にカゲマルがすぐに反応し、彼女は面倒そうに視線を向けると、カゲマルは顔を反らす。


「それよりも問題なのはあいつ等が魔方陣を発動させなくしたことだね……あたしたちをこの都市に閉じ込めたいのか、それともその放浪島とやらに行かせたくないのか……」
「……どっちも、正解の可能性がある」
「むう……」


どちらにしろ、魔方陣が破壊された以上は修復までの間、この都市に閉じ込められる事になる。レノの転移魔法では放浪島に戻ることは不可能であり、現状、何も出来ない。

王国側に連絡を取ろうにも、この都市には学園都市のような電話はないため、連絡するにも直接馬なので移動するしかない(魔法による肉体強化や風の魔法で移動する事も可能ではあるが、それだと疲労が激しく、どちらにしろ到達するまで時間が掛かり過ぎる)。


「魔方陣の修復には4日ほどかかるそうだ……一応は私の部隊を見張りに付けているから、再び壊される心配は無い」
「そうかい……にしても、4日とは長いねぇ……」
「仕方ないっすよ。皆、ここでのんびり過ごしましょうよ~」
「そういう訳には……」


確かに今の状況ではレノ達に出来る事は何もないため、魔方陣の専門知識を持っている者もいない以上、魔方陣の修復を手伝う作業も行えない。


「仕方ないね……あんたら、その調子だとまだ宿も決まってないんだろ?この人数分の部屋が余ってたかね……」
「あ、いや……私達は別に……」
「遠慮する必要はないよ。宿代だって馬鹿にならないしね、カリナ、案内しな」
「はいっす!!」
「……俺は、どうしたら?」
「……流石にあんたを泊められる部屋は無いね」


ゴンゾウの巨体を見上げ、バルは頭を搔く。仕方なく、彼には巨人族専用の宿屋でも紹介しようとした時、



――ズガァァアアアアアアアアンッ!!



「「「っ!!」」」



突如、酒場の外から凄まじい「破壊音」が響き渡り、全員の顔が引き締まる。すぐにレノは玄関から飛び出し、



「あいつ等……やりやがったな」



――闘人都市の外壁、正確には外門がある方向で激しい土煙が待っていた。
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