種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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テンペスト騎士団編

盗賊王の威圧

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「な、何をしやがったてめぇええええっ!!」
「ご、郷田殿!!落ち着いて下さい!!」


自分の手元にあった「転移結晶」を破壊された郷田は、仲間たちの制止の言葉を振り切ってホノカが立っている場所に向けて走り出す。


「おっと」
「うわっ!?」


しかし、ホノカが手元に握りしめる拳銃(ハンドガン)の銃口を向けられた瞬間、彼は慌てて立ち止まり、怯えた表情を浮かべる。現実世界で生きているからこそ、ホノカが装備している武器の恐ろしさはよく理解している。彼は顔を青ざめながら、銃口を向けるホノカに視線をやり、彼女は面倒気に拳銃を仕舞い込む。


「やれやれ……この「ジュウ」というのは使い勝手が悪いね。たった数発撃つだけで弾丸を装填しなければならない。まあ、弓矢よりも簡単に連射出来るという点は優れているかな」
「な、何なんだよお前!!一体誰だ!!」
「ゆ、勇者様!!その金髪に派手な恰好……噂に聞く交易都市の砂漠王です!!口を慎んでください!!」
「はあっ!?」


郷田は目を見開き、彼が驚いたのは目の前に立つ女性が「盗賊王」と呼ばれる存在だと知ったからではなく、勇者である自分が「口を慎め」と注意されたからだ。

この世界に来てから彼は誰が相手であろうと口調を正したことは無く、相手がバルトロス王国の国王であろうと傲慢な態度を貫いてきた。彼にとっていちいち「NPC」を相手にするのに礼儀も何もないというのが彼の考えだった。



――郷田を含め、大勢の勇者達はこの世界がある「オンラインゲーム」の中の世界観だと思い込んでいる。実際、彼らが現実世界で体験した「MSW(マジック・スキル・ワールド)2」と呼ばれるゲームの世界観と大部分が共通しており、勇者として召喚された彼らにはこの世界の人間には扱えない「ステータス」という魔法が扱える。



彼ら勇者には特殊な力が宿り、まるで「ゲーム」のようにステータス画面が空中に表示されている(他の人間には見えないが)。そして「レベル」という項目もステータスに組み込まれており、ゲームの時と同じように魔物を倒す事で経験値を蓄積し、レベルを上げる事で身体能力や新しい魔法を覚えることが出来た。

だからこそ、この世界に住む者をゲーム上に出てくる「NPC(ノンプレイヤーキャラクター)」と思い込み、郷田はいちいちゲーム上のキャラクターを相手に礼儀を正すなど馬鹿馬鹿しいと考えており、そんな彼等に口調を慎めと言われたことが信じられない。


「別に気にしていないさ。まあ、説明の途中に逃げようとした事は感心しないけどね」


特に気分を害した様子も見せず、ホノカは空中に「転移魔方陣」を展開し、そのまま拳銃を魔方陣の中に沈める。


(……つうっ……!?)


その様子を遠目で確認したレノは、すぐに右手の紋様が発熱する。間違いなく、聖痕が近くにある時の反応だ。

恐らくは盗賊王が所持していると思われる「聖痕」の力に反応したのだろう。先ほどの予想では残された聖痕の所有者は全て「センチュリオン」の手に渡っていると思ったが、どうにも目の前の彼女は彼等とは違う気がする。

今までのセンチュリオンの行動は隠密行動を主としており、表だって人前で姿を現す行為は「剣乱武闘」の闘技場で乱入した時だけであり、他の場面では決して人前に姿を現さないはず。それに周囲の反応から察するに彼女が「盗賊王」と呼ばれる存在に間違いないだろう。その名前は良くバル達からも聞いており、彼女達にとっては同じ盗賊として、年若いとはいえ尊敬できる相手だと聞いていた。


「な、何なんだよ……盗賊王?そんなキャラがいたのか……」
「あ、頭を下げてください!!相手は暴虐の限りを尽くしたという人の形をした悪魔なんですよ!?」
「悪魔……」


慌てて郷田の取り巻きが彼の態度を改めるように進言するが、むしろ彼よりも取り巻きの1人が告げた「悪魔」という単語に若干ホノカは傷つく。だが、すぐに気を取り直したように彼女は長い髪の毛をなびかせ、そのまま郷田の元に移動する。既に他の種族の代表たちも集り、それぞれ出現したホノカに対して別々の表情を浮かべていた。

バルトロス国王は何か言いたげだが口を閉ざし、巨人族の王ダンゾウは腕を組んで無表情で彼女を様子を伺い、その隣には空中に浮かぶ金魚鉢の中で身体を預ける人魚族の姫アクアが面白そうに彼女を見つめながら手を振る。


「……これはホノカ殿、お早い到着ですな」
「盗賊王か……」
「やっほ~ホノカちゃんっ」
「すまない、遅くなった」


ホノカが到着すると、3人の種族の代表が集まった事で周囲の者たちが圧倒され、すぐに4人は郷田に視線を送り、流石の彼もこの4人が相手では気圧されて黙り込む。


「それで……状況はどうなっている?」
「そこの勇者が腐敗竜以外の脅威的な存在がいると喚き立て、そのまま逃げ去ろうとした」
「なるほど……しかし、折角格好つけたにも関わらず、既に討伐されていたのは衝撃的だったろうね。本当にこれが勇者なのかい?」


元々、腐敗竜討伐にはホノカも参戦する予定だったが、連合軍が到着する前にレノ達が腐敗竜を討伐したため、出番を奪われた形になる。彼女が転移できるのは無機物だけであり、自分自身を転移することは出来ない(但し、他者が施した転移魔法ならば移動可能)。


「さて……では勇者とやら、説明の続きを聞こうか」
「うっ……」
「逃がさん」
「素直に吐いちゃおうか~」
「郷田殿……説明を願おう」


何時の間にか取り巻きの姿も無く、郷田は4人に見下ろされる形になり、彼は視線を反らそうとしたが、


「「話せ」」
「ひいっ……!?」


ダンゾウとホノカに挟まれ、2人の威圧に耐え切れず、怯えながらも口を開く。
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