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腐敗竜編
成長
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――レノは頭上に向かってくる刃に対し、攻撃速度は一年半前のフレイの斬撃に匹敵する。だが、彼女は細身の剣で斬り付けたのに対し、テンは相当な重量の大剣をこれほどの速度で振り落とす辺り、腕力は彼女よりも勝るだろう。
ズガァアアンッ!!
一歩だけ右に動くと、派手に刃がレノの左側の大理石製の地面に陥没し、周囲に砂埃が舞う。最小限の動きで回避したレノにテンは笑みを浮かべ、
「甘い!!」
そのまま大剣を地面に突き刺したまま、テンは両腕の筋肉を震わせ、勢いよく剣を引き抜く。刃が引き抜かれると同時に無数の瓦礫が盛り上がり、勢い良く空中に放たれる。
ドゴォオオンッ!!
「おっと」
ダァンッ!!
足の爪先に「嵐」を形成し、お得意の瞬脚でその場を避けると、瓦礫が派手に闘技場の下で観戦していたワルキューレ騎士団の女騎士達の元にまで放たれる。
「うわぁっ!?」
「ちょっ……団長!!」
「ふぎゅっ!?」
「ああっ!?ミルの顔に!?」
慌てて彼女達は瓦礫の流星群を避けるが、何人かは避け損ねて衝突してしまう。これが魔法による攻撃ならば彼女達の肉体に掛けられた「退魔武装」で威力も軽減するのだろうが、生憎とこの瓦礫は単純なテンの馬鹿力で生み出された残骸なので効果は無い。
「今当たった奴ら!!後で教会を10周してきな!!」
「は、はい!!」
ドォンッ!!
大剣を掲げ上げ、巨体でありながら地面を踏みつけて砲弾のように突進してくる。レノは大理石製の地面にクレーターを生み出した大剣を確認し、銀の鎖を絡めただけの左腕では防ぎきれない事を悟り、仮に左腕が健在だった場合でも防御は不可能だろう。
――レノの弱点、それは無数の魔物と戦い続けた事で「対人戦」が少ない。だから「黒狼」や「グリフォン」さらには「ハニーベアー」などの大型の魔物を倒しながらも、死霊使いが操作する「死人」などの人型の相手には予想外の苦戦を強いられる。相手が人間の場合は魔物にはない戦闘の「技術」を保有しており、兇悪な魔物と戦うよりも厄介である。
単純な話だがレノには戦闘経験が豊富でも、まともに武器を扱った経験は少ない。幼少の頃はフレイからは弓矢の基本を学んだり、盗賊時代は短刀術をバルから教わったぐらいだが、それ以後は銀の鎖や聖爪(ネイルリング)しか使用していない。
以前にアイリィから剣術も学んだ事はあったが、レノには剣の才能は持ち合わせていないことが発覚した。その代わりとして聖爪を与えられ、此方の方は山岳地帯での無数の獣と戦い続けたお蔭で、まるで自分に鋼鉄の爪が生えた様に自在に扱えた。
そんな聖爪も地下迷宮で甲冑の騎士との戦闘で壊れて以来、一度も使用していないため、相変わらず「武器」の類は扱えない。
――しかし、この1年半の間にレノは対人戦の弱点を克服した。地下迷宮には生きている人間など存在しないが、地下一階層には無数の死人が存在する。彼等はレノの所有していた聖爪を狙い、無数の騎士や兵士、または魔術師の死人と戦い続けた経験があった。
「何をぼ~っとしてんだい!!」
ブオンッ!!
今度は横薙ぎに大剣を放ち、レノの腹部に目掛けて放つ。豪快な動きだが、狙いは正確であり、嘗てのレノなら大袈裟に避けただろうが、
「ほい」
ズゥウンッ!!
「「「はっ!?」」」
全員の目が見開く。あろう事か、腹部に目掛けて放たれた「大剣」を肘と膝で刀身の部分を抑え込む(当然、刃の部分には触れないように注意する)。
「んなっ……!?」
一瞬だが、レノの行動に身体を硬直させたテンに隙が生まれ、それを見逃さずに右拳を握りしめると、刃から離れてその場で回転する。
ギュルルッ!!
脚の爪先に力を込め、そのまま体をテンに向けて接近させると、全身を勢いよく回転させる。爪先、足の裏、膝、股関節、腹部、胸、肩、肘、腕、拳と言った順に回転を加え、この1年半でより精度が増した「弾撃」を解き放つ。
ズドォオオオオンッ!!
「ぐはっ……!?」
テンの割れた腹筋に拳がめり込み、衝撃が走る。普通の人間の攻撃なら鍛え抜かれた彼女の身体には通じないだろう。生半可な肉体強化の魔法を使用したとしても、テンも同様に肉体強化を施しているため、過去に未熟な女騎士が鍛錬で彼女の腹筋に拳を当てた際に逆に粉砕骨折を起こしたほどでもある。
だが、レノの一撃は大型の魔物を相手に開発された唯一の技術であり、幾ら歴戦の強者であろうと耐えきれる威力ではない。
ドオォンッ!!
「げほっ……!!ごほっ!!」
彼女は片膝を着き、レノが見下ろす形となる。腹部を見るとくっきりと彼の拳の跡が残っており、想像以上の威力だ。間違いなく、肋骨の何本か罅割れ、完全に勝負は決した。
「だ、団長!!」
「団長が負けた!?」
「嘘でしょ……有り得ない!!」
「れ、レノが……勝った!?」
「す、すごいです……」
「流石!!」
闘技場の下で女騎士が騒ぎ出し、リノンたちも驚愕の表情を浮かべる。まさかレノが勝つとは誰もが思っていなかったのだ。すぐに全員が大理石の闘技場に上がり込み、テンを抱える。
「うぐっ……げほっ……くっそ、久しぶりに血を吐いた」
テンは掌を口に押え、血が付着している事を確認すると、悔しげな声を出す。まさか自分が一撃で負けるなど思いもしなかったのだろう。
「はあ……認めるよ、あんたがあの人に認められた奴だって……」
「そりゃどうも……」
そして、一度溜息を吐いた後、レノに向けて苦笑を浮かべた。
ズガァアアンッ!!
一歩だけ右に動くと、派手に刃がレノの左側の大理石製の地面に陥没し、周囲に砂埃が舞う。最小限の動きで回避したレノにテンは笑みを浮かべ、
「甘い!!」
そのまま大剣を地面に突き刺したまま、テンは両腕の筋肉を震わせ、勢いよく剣を引き抜く。刃が引き抜かれると同時に無数の瓦礫が盛り上がり、勢い良く空中に放たれる。
ドゴォオオンッ!!
「おっと」
ダァンッ!!
足の爪先に「嵐」を形成し、お得意の瞬脚でその場を避けると、瓦礫が派手に闘技場の下で観戦していたワルキューレ騎士団の女騎士達の元にまで放たれる。
「うわぁっ!?」
「ちょっ……団長!!」
「ふぎゅっ!?」
「ああっ!?ミルの顔に!?」
慌てて彼女達は瓦礫の流星群を避けるが、何人かは避け損ねて衝突してしまう。これが魔法による攻撃ならば彼女達の肉体に掛けられた「退魔武装」で威力も軽減するのだろうが、生憎とこの瓦礫は単純なテンの馬鹿力で生み出された残骸なので効果は無い。
「今当たった奴ら!!後で教会を10周してきな!!」
「は、はい!!」
ドォンッ!!
大剣を掲げ上げ、巨体でありながら地面を踏みつけて砲弾のように突進してくる。レノは大理石製の地面にクレーターを生み出した大剣を確認し、銀の鎖を絡めただけの左腕では防ぎきれない事を悟り、仮に左腕が健在だった場合でも防御は不可能だろう。
――レノの弱点、それは無数の魔物と戦い続けた事で「対人戦」が少ない。だから「黒狼」や「グリフォン」さらには「ハニーベアー」などの大型の魔物を倒しながらも、死霊使いが操作する「死人」などの人型の相手には予想外の苦戦を強いられる。相手が人間の場合は魔物にはない戦闘の「技術」を保有しており、兇悪な魔物と戦うよりも厄介である。
単純な話だがレノには戦闘経験が豊富でも、まともに武器を扱った経験は少ない。幼少の頃はフレイからは弓矢の基本を学んだり、盗賊時代は短刀術をバルから教わったぐらいだが、それ以後は銀の鎖や聖爪(ネイルリング)しか使用していない。
以前にアイリィから剣術も学んだ事はあったが、レノには剣の才能は持ち合わせていないことが発覚した。その代わりとして聖爪を与えられ、此方の方は山岳地帯での無数の獣と戦い続けたお蔭で、まるで自分に鋼鉄の爪が生えた様に自在に扱えた。
そんな聖爪も地下迷宮で甲冑の騎士との戦闘で壊れて以来、一度も使用していないため、相変わらず「武器」の類は扱えない。
――しかし、この1年半の間にレノは対人戦の弱点を克服した。地下迷宮には生きている人間など存在しないが、地下一階層には無数の死人が存在する。彼等はレノの所有していた聖爪を狙い、無数の騎士や兵士、または魔術師の死人と戦い続けた経験があった。
「何をぼ~っとしてんだい!!」
ブオンッ!!
今度は横薙ぎに大剣を放ち、レノの腹部に目掛けて放つ。豪快な動きだが、狙いは正確であり、嘗てのレノなら大袈裟に避けただろうが、
「ほい」
ズゥウンッ!!
「「「はっ!?」」」
全員の目が見開く。あろう事か、腹部に目掛けて放たれた「大剣」を肘と膝で刀身の部分を抑え込む(当然、刃の部分には触れないように注意する)。
「んなっ……!?」
一瞬だが、レノの行動に身体を硬直させたテンに隙が生まれ、それを見逃さずに右拳を握りしめると、刃から離れてその場で回転する。
ギュルルッ!!
脚の爪先に力を込め、そのまま体をテンに向けて接近させると、全身を勢いよく回転させる。爪先、足の裏、膝、股関節、腹部、胸、肩、肘、腕、拳と言った順に回転を加え、この1年半でより精度が増した「弾撃」を解き放つ。
ズドォオオオオンッ!!
「ぐはっ……!?」
テンの割れた腹筋に拳がめり込み、衝撃が走る。普通の人間の攻撃なら鍛え抜かれた彼女の身体には通じないだろう。生半可な肉体強化の魔法を使用したとしても、テンも同様に肉体強化を施しているため、過去に未熟な女騎士が鍛錬で彼女の腹筋に拳を当てた際に逆に粉砕骨折を起こしたほどでもある。
だが、レノの一撃は大型の魔物を相手に開発された唯一の技術であり、幾ら歴戦の強者であろうと耐えきれる威力ではない。
ドオォンッ!!
「げほっ……!!ごほっ!!」
彼女は片膝を着き、レノが見下ろす形となる。腹部を見るとくっきりと彼の拳の跡が残っており、想像以上の威力だ。間違いなく、肋骨の何本か罅割れ、完全に勝負は決した。
「だ、団長!!」
「団長が負けた!?」
「嘘でしょ……有り得ない!!」
「れ、レノが……勝った!?」
「す、すごいです……」
「流石!!」
闘技場の下で女騎士が騒ぎ出し、リノンたちも驚愕の表情を浮かべる。まさかレノが勝つとは誰もが思っていなかったのだ。すぐに全員が大理石の闘技場に上がり込み、テンを抱える。
「うぐっ……げほっ……くっそ、久しぶりに血を吐いた」
テンは掌を口に押え、血が付着している事を確認すると、悔しげな声を出す。まさか自分が一撃で負けるなど思いもしなかったのだろう。
「はあ……認めるよ、あんたがあの人に認められた奴だって……」
「そりゃどうも……」
そして、一度溜息を吐いた後、レノに向けて苦笑を浮かべた。
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