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腐敗竜編
最期の難関
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「……また行き止まりか……」
「……ポチ子、臭いは感じないか?」
「すんすんっ……魔獣の臭いがしますけど、近くから気配は感じられません」
「迷宮の番人ミノタウロスに出会わない事を祈ろう……」
「はあっ……もう疲れましたよぉ……休みましょうよぉ」
その場にへたり込むミカに対し、全員が疲れた視線を向ける。例え肉体的にきつくても、今は一刻も早くこの迷宮から抜け出さなければならない。アルトが何とか彼女を説得し、渋々と言った感じで立ち上がらせる。
既に全員が魔物の連戦や一日中歩き続けで疲労が蓄積され、一番体力のあるゴンゾウでさえも休憩の度に寝息を立てて身体を壁に預ける。魔物達と遭遇しないのは幸いだが、この状態で戦闘に入ればただでは済まない。
こんな状況にも関わらず、レノは眠りを覚ます気配は見せない。その事にアルトはもどかしく思い、同時に苛立ちを抱く。彼に対する仲間たちの評価が異様なまでに高いことに嫉妬する反面、こんな状況で1人だけ意識を取り戻さない彼に何とも言えない感情が湧き上がる。
付き合いだけならばレノよりも自分の方が長い仲間達が1人残らず彼に対して信頼を寄せている。特にリノンは約5年ぶりだというにも関わらず、移動の最中も彼に対して心配げに視線を向け、その事がアルトにとってはより一層に心を乱す。
「……この壁を乗り越えるか、もしくは破壊出来れば……」
「それは無理でしょう……特殊な鉱石で作り出されています。魔法に対する耐性が異常に高く、非常に頑丈に出来ています」
「そうだな……それに無闇に壁を破壊するのは危険だろう?」
「分かっている……くそっ、またか」
再び前方の通路が塞がれており、アルトは悪態を吐く。そんな彼にリノンたちは心配げに見つめる。どうにもこの迷宮内に入ってから、彼の様子がおかしい。特にレノと再会して以来、やたらと彼に突っかかって来る気がしてならない。さらに言えばレノがハーフエルフと発覚した途端に彼の処遇に対して話し始め、明らかに様子がおかしい。
「……ジャンヌ、戻ってこない僕たちに捜索隊が編成されて迷宮内に入っている可能性は考えられるか?」
「可能性は低いでしょうね……他の出入口から侵入した部隊も、恐らくは撤退しているはずです」
「この迷宮の危険度は既に外に知れ渡っているという事か……」
ジャンヌたちの救助隊が編成されて迎えに来てくれる可能性は低い。この危険極まりない地下迷宮に下手に救助隊を送り込んだとしても、無闇に犠牲者を増やすだけだ。最悪の場合、既に王国側はジャンヌたちを死亡したと判断し、聖剣の回収を諦めて大勢の犠牲を覚悟で腐敗竜の討伐に向かっている可能性もある。
もしも、聖剣が無い状態で腐敗竜を討伐した場合は広範囲に「呪詛」が蔓延する可能性が高く、その場合は無数のアンデットが生産され、凄まじい被害が予想される。それだけは何としても避けねばならない。
しかし、この迷宮に迷い込んでから既に何日も経過するが、未だに出入口らしき場所は発見できない。よくよく考えれば簡単に脱出できる場所ならば、レノがあの地下二階層の大広間に住処を作り出すはずがないのだが。
「……あれっ……?」
「どうしたポチ子?」
「ちょっと待ってください……」
突如、一番後方を移動していたポチ子が立ち止まり、鼻を鳴らす。何かの匂いでも嗅ぎつけたのかと全員が視線を向けると、彼女はすぐ傍の壁に鼻を近づけ、首を傾げる。
「……どうした?」
「わうっ……この壁から変な臭いがします」
「この壁にだけ?」
「はい……他の場所は平気ですけど、この部分だけが腐ったお肉のような臭いがします」
「腐ったお肉……?」
すぐにネクロマンサーが操作する「死人」や「アンデット(死人とは違い、彼らは生物に対して異常な殺意を抱く)」を思い浮かべるが、それにしても壁の一部分にだけに臭いが残っているというのは可笑しな話だ。リノンが壁際に近づき、何らかの痕跡でも残っていないかと調べようとした時、
「っ……!?危ない!!」
「「えっ」」
突然、ジャンヌが大声を上げて動き出し、遅れてアルトも2人の頭上の壁の異変に気が付き、長剣を握り締めて走り出す。ポチ子とリノンは眼の前の壁に顔を見上げると、すぐに自分たちの真上に奇妙な光景が広がっている事に気が付く。
「ウァアアアァアアッ……!!」
――それは壁の中から黒衣で覆われた人影が、真っ直ぐに彼女たちに向けて手を伸ばす。その身体は下半身が完全に壁に埋もれており、上半身の部分だけが露出していた。
「下がって!!」
「くっ!!」
「わうっ!?」
咄嗟にリノンはポチ子を引き寄せ、そのまま後ろに下がって回避する。すぐにジャンヌが聖斧を引き抜いて振りかざすが、
「アアッ……」
ガキィィイインっ!!
「くっ……」
刀身が触れる前に相手は壁の中に吸い込まれる様に消え去り、刃は壁に弾かれる。全員が今の光景に目を見開く中、ミカだけは慌てて壁際から離れ、
「まさか……ネクロマンサー・グール!?」
「……ネクロマンサー?」
アルトたちの頭には「死人」を操る裏家業を営む「黒魔術師」が思い浮かぶが、先ほど姿を現した者はどちらかというと「死人」や「アンデット」に近い異形の姿だ。一瞬だったため、よく確認は出来なかったが、少なくとも肌は腐り、不快な匂いを漂わせている。とても「ネクロマンサー」には見えないが、
「嘘でしょ……レベル90相当のグールが居るなんて……」
「グール……?」
彼女の言葉に首を傾げる。死人やアンデットという単語は聞いたことはあるが、「グール」という言葉は聞いたことは無い。しかし、ジャンヌは心当たりがあるのか、周囲に警戒気味に斧を構え、油断せずに攻撃に備える。
「なるほど……これが「喰人(グール)」なのですね。ミキから聞いてはいましたが……こんな時に出て来るとは……」
「……ポチ子、臭いは感じないか?」
「すんすんっ……魔獣の臭いがしますけど、近くから気配は感じられません」
「迷宮の番人ミノタウロスに出会わない事を祈ろう……」
「はあっ……もう疲れましたよぉ……休みましょうよぉ」
その場にへたり込むミカに対し、全員が疲れた視線を向ける。例え肉体的にきつくても、今は一刻も早くこの迷宮から抜け出さなければならない。アルトが何とか彼女を説得し、渋々と言った感じで立ち上がらせる。
既に全員が魔物の連戦や一日中歩き続けで疲労が蓄積され、一番体力のあるゴンゾウでさえも休憩の度に寝息を立てて身体を壁に預ける。魔物達と遭遇しないのは幸いだが、この状態で戦闘に入ればただでは済まない。
こんな状況にも関わらず、レノは眠りを覚ます気配は見せない。その事にアルトはもどかしく思い、同時に苛立ちを抱く。彼に対する仲間たちの評価が異様なまでに高いことに嫉妬する反面、こんな状況で1人だけ意識を取り戻さない彼に何とも言えない感情が湧き上がる。
付き合いだけならばレノよりも自分の方が長い仲間達が1人残らず彼に対して信頼を寄せている。特にリノンは約5年ぶりだというにも関わらず、移動の最中も彼に対して心配げに視線を向け、その事がアルトにとってはより一層に心を乱す。
「……この壁を乗り越えるか、もしくは破壊出来れば……」
「それは無理でしょう……特殊な鉱石で作り出されています。魔法に対する耐性が異常に高く、非常に頑丈に出来ています」
「そうだな……それに無闇に壁を破壊するのは危険だろう?」
「分かっている……くそっ、またか」
再び前方の通路が塞がれており、アルトは悪態を吐く。そんな彼にリノンたちは心配げに見つめる。どうにもこの迷宮内に入ってから、彼の様子がおかしい。特にレノと再会して以来、やたらと彼に突っかかって来る気がしてならない。さらに言えばレノがハーフエルフと発覚した途端に彼の処遇に対して話し始め、明らかに様子がおかしい。
「……ジャンヌ、戻ってこない僕たちに捜索隊が編成されて迷宮内に入っている可能性は考えられるか?」
「可能性は低いでしょうね……他の出入口から侵入した部隊も、恐らくは撤退しているはずです」
「この迷宮の危険度は既に外に知れ渡っているという事か……」
ジャンヌたちの救助隊が編成されて迎えに来てくれる可能性は低い。この危険極まりない地下迷宮に下手に救助隊を送り込んだとしても、無闇に犠牲者を増やすだけだ。最悪の場合、既に王国側はジャンヌたちを死亡したと判断し、聖剣の回収を諦めて大勢の犠牲を覚悟で腐敗竜の討伐に向かっている可能性もある。
もしも、聖剣が無い状態で腐敗竜を討伐した場合は広範囲に「呪詛」が蔓延する可能性が高く、その場合は無数のアンデットが生産され、凄まじい被害が予想される。それだけは何としても避けねばならない。
しかし、この迷宮に迷い込んでから既に何日も経過するが、未だに出入口らしき場所は発見できない。よくよく考えれば簡単に脱出できる場所ならば、レノがあの地下二階層の大広間に住処を作り出すはずがないのだが。
「……あれっ……?」
「どうしたポチ子?」
「ちょっと待ってください……」
突如、一番後方を移動していたポチ子が立ち止まり、鼻を鳴らす。何かの匂いでも嗅ぎつけたのかと全員が視線を向けると、彼女はすぐ傍の壁に鼻を近づけ、首を傾げる。
「……どうした?」
「わうっ……この壁から変な臭いがします」
「この壁にだけ?」
「はい……他の場所は平気ですけど、この部分だけが腐ったお肉のような臭いがします」
「腐ったお肉……?」
すぐにネクロマンサーが操作する「死人」や「アンデット(死人とは違い、彼らは生物に対して異常な殺意を抱く)」を思い浮かべるが、それにしても壁の一部分にだけに臭いが残っているというのは可笑しな話だ。リノンが壁際に近づき、何らかの痕跡でも残っていないかと調べようとした時、
「っ……!?危ない!!」
「「えっ」」
突然、ジャンヌが大声を上げて動き出し、遅れてアルトも2人の頭上の壁の異変に気が付き、長剣を握り締めて走り出す。ポチ子とリノンは眼の前の壁に顔を見上げると、すぐに自分たちの真上に奇妙な光景が広がっている事に気が付く。
「ウァアアアァアアッ……!!」
――それは壁の中から黒衣で覆われた人影が、真っ直ぐに彼女たちに向けて手を伸ばす。その身体は下半身が完全に壁に埋もれており、上半身の部分だけが露出していた。
「下がって!!」
「くっ!!」
「わうっ!?」
咄嗟にリノンはポチ子を引き寄せ、そのまま後ろに下がって回避する。すぐにジャンヌが聖斧を引き抜いて振りかざすが、
「アアッ……」
ガキィィイインっ!!
「くっ……」
刀身が触れる前に相手は壁の中に吸い込まれる様に消え去り、刃は壁に弾かれる。全員が今の光景に目を見開く中、ミカだけは慌てて壁際から離れ、
「まさか……ネクロマンサー・グール!?」
「……ネクロマンサー?」
アルトたちの頭には「死人」を操る裏家業を営む「黒魔術師」が思い浮かぶが、先ほど姿を現した者はどちらかというと「死人」や「アンデット」に近い異形の姿だ。一瞬だったため、よく確認は出来なかったが、少なくとも肌は腐り、不快な匂いを漂わせている。とても「ネクロマンサー」には見えないが、
「嘘でしょ……レベル90相当のグールが居るなんて……」
「グール……?」
彼女の言葉に首を傾げる。死人やアンデットという単語は聞いたことはあるが、「グール」という言葉は聞いたことは無い。しかし、ジャンヌは心当たりがあるのか、周囲に警戒気味に斧を構え、油断せずに攻撃に備える。
「なるほど……これが「喰人(グール)」なのですね。ミキから聞いてはいましたが……こんな時に出て来るとは……」
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