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闘人都市編
黒衣の包帯
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「……さて」
眼の前の灰となったアイリィを確認し、その消し炭が風に吹かれて完全に消え去るまで確認すると、ダークエルフは今度は六芒星の魔方陣の上で眠りこけているレノに視線をやる。
完全に反魔紋が解かれた以上、彼は森人族だけではなく、全種族の中でも驚異的な存在へと変わり果てた。再び、魔王のような存在へと変わる可能性があるハーフエルフを純粋な森人族ならば見逃さないだろう。
だが、ダークエルフは目の前のレノに対してどうしても止めを刺せない。最初に出会った時は何の躊躇も無く突き刺したが、今の彼はどうしても「惜しい」ここで殺せば、自分を楽しませる存在が1つ消えてしまう。
現在のレノの傍にはカラドボルグが横たわっており、あの剣も回収する手筈だったが、彼女の目的はゲイ・ボルグだった。聖剣よりも呪われた魔槍の方が、彼女には自分に合っている気がした。
「……お互いに数奇な運命に生まれたな。そこだけは同情してやる」
「ハーフエルフ」に「ダークエルフ」どちらも純粋な森人族ではないという点は同じであり、境遇も似ている。違いがあるとすれば戦闘に特化したのが「ダークエルフ」魔法に才があるのは「ハーフエルフ」と言われている。
だが、目の前のレノは何かが可笑しい。普通のハーフエルフにしては魔力量も多く、何より先ほどの戦闘は彼女も見ていたが、異常なまでの身体能力だ。ダークエルフの血も流れているからという理由では説明がつかない。
――明らかに彼の身体には「何か」が混じっている。それが何なのかは分からないが、少なくとも興味をそそられた。
「命拾いしたな……」
ダークエルフは一言だけ告げると、踵を返して歩み出す。目指す場所は地下迷宮の最下層、魔王ですら手を出さなかった「悪魔」達の住処に向けて移動し、刃が欠けた薙刀を背中にしまい込むと、そのまま歩みだす――
ーー数時間後、レノは瞼を開き、すぐに異変に気が付く。まず、身体中に激痛が走り、すぐに苦しげな表情を浮かべるが、
「えっ……?」
左腕に違和感を感じ、見るとそこにはカラドボルグで撃ち落とされたはずの左腕ではなく、黒い包帯のような物が巻かれている。傷口を止血しているわけではなく、文字通りに包帯が「左腕」の形をしていた。
これが何なのかは分からないが、先の迷宮で目にした「黒衣の騎士」と同じ素材で作られているのは肌触りで分かる。しかし、何故こんなものが巻かれているのか。
「……左腕は……ないな」
黒衣の包帯で形成された「左腕」は、指や腕の部分を動かす事は出来るが、感覚は無い。試しに指の部分の包帯をずらしてみると、
「……風?」
指の部分の包帯を覗き見ると、黒衣の中には風属性の魔力が垣間見えるどうやらレノの身体から放たれる風の魔力が左腕を形作り、包帯が魔力を覆っているようだ。
レノはおぼろげながらに自分が「暴走」し、そしてあの「甲冑の騎士」を倒した時の状況を思い出す。記憶は曖昧だが、確かに「銀の鎖」を左腕代わりに巻き付かせ、鎖の先端の聖爪(ネイルリング)を掌代わりに扱っていたはず。
包帯を戻し、周囲を見渡すと何故か自分が地面の上に書き込まれた「六芒星」の魔方陣の上で寝ていたことを思いだし、
カランッ……
「……?」
すぐ傍に鞘に納められた「カラドボルグ」が転がっている事に気が付き、他にも「銀の鎖」や爪の部分が罅割れた聖爪も発見する。
だが、どちらも随分と酷いありさまであり、鎖に至っては所々が焼け焦げている。聖爪に関しては罅割れが激しく、これ以上の使用は不可能だろう。いつも通りに右腕に巻き付けようとするが、銀の鎖は魔力を送り込んでも反応を示さず、地面に横たわったままだ。
「アイリィ……?」
何とか立ち上がり、彼女の姿を探すが、どういう訳か姿が見当たらない。あの甲冑の騎士も見えないが、嫌な予感が振り払えない。
彼女の目的物である「カラドボルグ」が傍に放置されたまま、肝心のアイリィの姿が見えないことに異様な不安を感じる。周囲を何度も見渡すが、無数の武具が突き刺さった風景が広がっているだけだ。
先の戦闘で形成された地面の陥没や、アイリィが「樹」の聖痕を使用して生み出した巨大な樹木が倒木しているだけであり、他の生物の気配無い。だが、嫌な予感に駆られ、周囲の痕跡を詳しく調べると、
「……えっ……」
地面をみると、何らかの焦げ跡が延々と広がっており、ハーフエルフとして優れた嗅覚から何度か嗅ぎ覚えのある臭いが漂っていた。
――そう、生き物が焼失された臭いだ。
ドクンッ……!!
「……嘘だ……ありえるはずがない」
普通に考えれば彼女がここに居るはずがない、しかし、不気味な確信を抱く。ここには間違いなく、あのダークエルフが立ち寄ったのだ。アイリィの姿が見えないことが急速に不安と恐怖を覚え、彼女を探し出そうと魔方陣の外に飛び出そうとした瞬間、
ジャララララッ!!
「あぐっ……!?」
地面に倒れていた「銀の鎖」がレノの身体に巻き付き、魔方陣の中に押しとどめる。無理やり外そうとしたが、どうしても引き剥がせない。
「離せ……離せ!!」
無理やり外そうとしたが、この鎖の頑丈さはよく知っている。力ずくでどうにかなるものではなく、かと言って魔法を使用にも、どうにも上手く発動できない。消えたアイリィに、先ほどまで居たと思われる「ダークエルフ」何としても追跡をしようと足掻くが、鎖が解かれる様子はない。
「離せぇええええええええっ!!」
レノの咆哮は虚しく大広間に響き渡るだけだった――
眼の前の灰となったアイリィを確認し、その消し炭が風に吹かれて完全に消え去るまで確認すると、ダークエルフは今度は六芒星の魔方陣の上で眠りこけているレノに視線をやる。
完全に反魔紋が解かれた以上、彼は森人族だけではなく、全種族の中でも驚異的な存在へと変わり果てた。再び、魔王のような存在へと変わる可能性があるハーフエルフを純粋な森人族ならば見逃さないだろう。
だが、ダークエルフは目の前のレノに対してどうしても止めを刺せない。最初に出会った時は何の躊躇も無く突き刺したが、今の彼はどうしても「惜しい」ここで殺せば、自分を楽しませる存在が1つ消えてしまう。
現在のレノの傍にはカラドボルグが横たわっており、あの剣も回収する手筈だったが、彼女の目的はゲイ・ボルグだった。聖剣よりも呪われた魔槍の方が、彼女には自分に合っている気がした。
「……お互いに数奇な運命に生まれたな。そこだけは同情してやる」
「ハーフエルフ」に「ダークエルフ」どちらも純粋な森人族ではないという点は同じであり、境遇も似ている。違いがあるとすれば戦闘に特化したのが「ダークエルフ」魔法に才があるのは「ハーフエルフ」と言われている。
だが、目の前のレノは何かが可笑しい。普通のハーフエルフにしては魔力量も多く、何より先ほどの戦闘は彼女も見ていたが、異常なまでの身体能力だ。ダークエルフの血も流れているからという理由では説明がつかない。
――明らかに彼の身体には「何か」が混じっている。それが何なのかは分からないが、少なくとも興味をそそられた。
「命拾いしたな……」
ダークエルフは一言だけ告げると、踵を返して歩み出す。目指す場所は地下迷宮の最下層、魔王ですら手を出さなかった「悪魔」達の住処に向けて移動し、刃が欠けた薙刀を背中にしまい込むと、そのまま歩みだす――
ーー数時間後、レノは瞼を開き、すぐに異変に気が付く。まず、身体中に激痛が走り、すぐに苦しげな表情を浮かべるが、
「えっ……?」
左腕に違和感を感じ、見るとそこにはカラドボルグで撃ち落とされたはずの左腕ではなく、黒い包帯のような物が巻かれている。傷口を止血しているわけではなく、文字通りに包帯が「左腕」の形をしていた。
これが何なのかは分からないが、先の迷宮で目にした「黒衣の騎士」と同じ素材で作られているのは肌触りで分かる。しかし、何故こんなものが巻かれているのか。
「……左腕は……ないな」
黒衣の包帯で形成された「左腕」は、指や腕の部分を動かす事は出来るが、感覚は無い。試しに指の部分の包帯をずらしてみると、
「……風?」
指の部分の包帯を覗き見ると、黒衣の中には風属性の魔力が垣間見えるどうやらレノの身体から放たれる風の魔力が左腕を形作り、包帯が魔力を覆っているようだ。
レノはおぼろげながらに自分が「暴走」し、そしてあの「甲冑の騎士」を倒した時の状況を思い出す。記憶は曖昧だが、確かに「銀の鎖」を左腕代わりに巻き付かせ、鎖の先端の聖爪(ネイルリング)を掌代わりに扱っていたはず。
包帯を戻し、周囲を見渡すと何故か自分が地面の上に書き込まれた「六芒星」の魔方陣の上で寝ていたことを思いだし、
カランッ……
「……?」
すぐ傍に鞘に納められた「カラドボルグ」が転がっている事に気が付き、他にも「銀の鎖」や爪の部分が罅割れた聖爪も発見する。
だが、どちらも随分と酷いありさまであり、鎖に至っては所々が焼け焦げている。聖爪に関しては罅割れが激しく、これ以上の使用は不可能だろう。いつも通りに右腕に巻き付けようとするが、銀の鎖は魔力を送り込んでも反応を示さず、地面に横たわったままだ。
「アイリィ……?」
何とか立ち上がり、彼女の姿を探すが、どういう訳か姿が見当たらない。あの甲冑の騎士も見えないが、嫌な予感が振り払えない。
彼女の目的物である「カラドボルグ」が傍に放置されたまま、肝心のアイリィの姿が見えないことに異様な不安を感じる。周囲を何度も見渡すが、無数の武具が突き刺さった風景が広がっているだけだ。
先の戦闘で形成された地面の陥没や、アイリィが「樹」の聖痕を使用して生み出した巨大な樹木が倒木しているだけであり、他の生物の気配無い。だが、嫌な予感に駆られ、周囲の痕跡を詳しく調べると、
「……えっ……」
地面をみると、何らかの焦げ跡が延々と広がっており、ハーフエルフとして優れた嗅覚から何度か嗅ぎ覚えのある臭いが漂っていた。
――そう、生き物が焼失された臭いだ。
ドクンッ……!!
「……嘘だ……ありえるはずがない」
普通に考えれば彼女がここに居るはずがない、しかし、不気味な確信を抱く。ここには間違いなく、あのダークエルフが立ち寄ったのだ。アイリィの姿が見えないことが急速に不安と恐怖を覚え、彼女を探し出そうと魔方陣の外に飛び出そうとした瞬間、
ジャララララッ!!
「あぐっ……!?」
地面に倒れていた「銀の鎖」がレノの身体に巻き付き、魔方陣の中に押しとどめる。無理やり外そうとしたが、どうしても引き剥がせない。
「離せ……離せ!!」
無理やり外そうとしたが、この鎖の頑丈さはよく知っている。力ずくでどうにかなるものではなく、かと言って魔法を使用にも、どうにも上手く発動できない。消えたアイリィに、先ほどまで居たと思われる「ダークエルフ」何としても追跡をしようと足掻くが、鎖が解かれる様子はない。
「離せぇええええええええっ!!」
レノの咆哮は虚しく大広間に響き渡るだけだった――
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