種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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闘人都市編

甲冑の最期

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「ガァアアアアアッ!!」
『ギィガァアアアアッ!!』


ブォンッ――!!


レノは「銀の鎖」で形成された左腕の先端、鋭利に研ぎ澄まされた鍵爪を振りかざし、甲冑の騎士は「カラドボルグ」を振り落とそうとしたが、


バチィイイイッ!!


『グゥアッ!?』


刀身から電流が鎧に流し込まれ、その場に硬直する。その隙を見逃すはずがなく、


ガキィィイインッ!!


『ガァアアッ!?』


がら空きの甲冑の左腕をレノが一撃で破壊する。レノが使用している聖爪は斬るのではなく、破壊する事に特化しており、頑丈な甲冑の鎧をいとも容易く破壊し、しかも通常状態の肉体強化の比ではないほどの腕力であり、最早ソフィアの状態での「強化術」に匹敵するほどの途轍もない力だった。




「ガァアッ!!」


ズガァアアアッ!!


『ググゥッ……!?』


甲冑の左腕を薙ぎ落した直後、即座に今度は甲冑の胸元に大きな傷を与える。その威力は半端ではなく、そのまま甲冑は後方に弾き飛ばす。


『ウウッ……アァアアアアアッ!!』


ビシャァアアアアアッ!!


「カラドボルグ」を握り締める右腕に刀身から迸る電流が暴れ狂う。どうやら完全に聖剣を制御しているわけでは無さそうだが、それでも力ずくで甲冑の騎士は聖剣を抑えつけようとし、刃先を地面に四つん這いになったレノに刃を差し出す。


『アガァアアアァアアッ!!』


カッ!!


刀身が金色に光り輝き、刃先が眩く発光した瞬間、


――ズドォオオオンッ!!


先端から一筋の雷光が放たれ、真っ直ぐにレノの身体に向けて放たれる。それは最早、光線と言っても過言ではない代物だ。


ドォオオオンッ!!


「ガァッ……!?」


咄嗟に避けようと立ち上がるが、レノの腹部を貫き、大きな傷穴を生み出す。それを見て、甲冑の騎士は声を上げようとしたが、すぐに異変に気付く。


シュウゥウウウッ……!


レノの傷口から赤い煙が発つと、傷口が以前にエリクサー飲んだときのように治癒を始め、数秒どころか一瞬で時間が巻戻ったように塞いでしまう。彼はすぐに塞がれた傷口部分の血を右手で拭い取り、


「フゥウッ……」


バチィイイイッ!!


一息つくと、自信の右腕に雷が迸らせ、掌に付着した血液に反応する。レノの奥の手である「血液雷伝」であり、付着した血液に帯電した右の掌の指を開かせ、


ゴキゴキィッ……!


「ハアァッ……」


まるで狼の爪、いや「牙」を思わせるように血で染まった鋭利な爪を向け、四つん這いの体勢に戻る。


『……レノォオオオオオッ!!』


甲冑の騎士はカラドボルグを振り上げ、刀身からさらに電流を迸らせる。それは以前に「雷」の聖痕を持っていたゴウよりも激しく、徐々に刀身が金色に光り輝く。アイリィはすぐに甲冑が「カラドボルグ」の力を全力で解放する気だと気が付き、顔色を変える。


(あの「女」……この迷宮ごと吹き飛ばす気ですか!?)


先ほどのレノの身体を貫いた雷光にせよ、池の中から放った攻撃にせよ、カラドボルグの真の力の数百分の一に満たない攻撃なのだ。仮に甲冑が自滅を覚悟でカラドボルグの真の力を解放した場合、迷宮内が崩壊し兼ねないが、今のアイリィには止める術はなかった。




ゴォオオオオオオオオッ――!!





カラドボルグから凄まじい衝撃波が放たれ、大広間に突き刺さっている無数の武具が震えだす。今のアイリィでは逃げる事も出来ず、かと言ってレノを救い出せることもできない。彼h何を考えているのか、力を溜めている甲冑に対して黙って見つめているだけであり、行動を起こさない。


(……やれやれ、心中何て柄じゃないですけどね……)


自分が死んでも「やり直せばいい」が、レノはそういう訳にいかない。自分の身体を取り戻せる可能性がある、やっと巡り会えた「希望」なのだ。

アイリィは掌をレノに向けて、彼が掲げている「銀の鎖」に視線をやる。あの鎖には特殊な術式を埋め込んでおり、もしも彼が危機の際には助けになるように仕向けている。迷宮内でレノの身体に巻き付き、聖魔法を施したのは彼女の指示だ。だが、現在の「銀の鎖」は完全にレノの制御下になり、最早アイリィでは操作は出来ない。


(……まだ、契約は切れてませんね)


だが、地面に落ちたままの撃ち落とされたレノの本物の「左腕」を確認し、未だに左手の甲に光り輝く「紋様」を見つめ、


(……一度きりのチャンスですが……やってみますか)


――ドォオオオンッ!!


アイリィは掌を「紋様」に向けた瞬間、眩い光が周囲を覆い尽くし、直後に凄まじい衝撃波が一瞬だけ走ると、


『アァアアアアアアッ……!!』
「グルルルッ……」


ゴウッ!!


甲冑の騎士は右腕のみで聖剣を上空に掲げ、既に刀身は金色の光で満たされている。その光は直視するのも難しく、レノは瞼を閉じる。この状態ならば視覚は重要ではく、優れた嗅覚や聴覚が相手の居場所を教えてくれる。


「ガゥウッ……」


レノは両腕に魔力を送り込み、両脚には竜巻を纏わせ、いつでも「瞬脚」の用意を行う。狙いはただ一つ、甲冑の騎士を八つ裂きにするだけ。攻撃を行うのは甲冑が攻撃を仕掛ける瞬間、タイミングを間違えれば聖剣の雷撃で消し飛ばされるだろう。だが、レノに残された手段はそれだけだった。



『ウアァアアアアアアアッ!!』



――ブオッ!!


甲冑の騎士が勢いよく、カラドボルグを振り下ろそうとした瞬間、


(――単細胞ですね!!)


アイリィは地面に落ちた「紋様」に向かって魔力を送り込み、肉片と化した本物のレノの左腕を浮き上がらせ、掌を甲冑に向けさせ、


(嵐弾っ……でしたっけ)


ズドォンッ!!


掌から、レノが初めて生み出した「無詠唱」の魔法を放ち、嵐の弾丸は真っ直ぐに甲冑の顔面に衝突する。


ボフッ!!


『ヌグゥッ――!?』


威力は大したことは無いが、一瞬だが甲冑を怯ませる程度は可能。



「――ウオォオオオオオオッ!!」



ドォオオオンッ!!


その隙を逃すはずがなく、レノは最大限の嵐を解放させ、人間砲弾と化して真っ直ぐに両腕を掲げながら突進し、甲冑はすぐさま聖剣を振り落そうとするが、


「ァアアアアアアアッ!!」
『レノォオオオオオッ!!』



――ズガァアアアアアアアアアンッ!!



凄まじい轟音が大広間に響き渡り、レノの身体が地面に横たわる。


「あぐっ……」


その身体は既に銀髪から黒髪に戻っており、瞳の色も碧眼に変色し、右手の先は完全に潰れていた。


バリィィイインッ!!


残された「銀の鎖」で形成された左腕は役割を終えたとばかりに鎖が地面に横渡り、先端の「聖爪」は砕けはしなかったが無数の罅が生じる。レノの意識は完全に途絶えたのか、動く気配は無い。


『……グゥッ……』


ドスンッ!!


一方で、棒立ちしたままの甲冑の騎士は大きな地響きを起こして跪き、その手に握られている「カラドボルグ」の刀身は徐々に光を失っていく。


バキィィイインッ!!


甲冑の胸元から亀裂が入り、すぐに周囲に破片を飛び散らせ、罅割れは全身に広がる。


『まさか……この私が……』


意識を完全に取り戻したのか、伝わってくる思念は最初の頃のように妙に耳に響く「女」の声に戻り、


「……手こずらせましたね」


何時の間にか甲冑の背後に移動していたアイリィが現れ、甲冑の背中の部分に手を翳し、


「うぐっ……」


ジュウゥウウッ……!!


彼女の左手の掌に鉄球を思わせる黒い円形の「聖痕」が現れ、無事に「重力」の聖痕を回収したことを示す。その瞬間、甲冑の崩壊は一気に早まり、徐々に足先から鎧は粉末状へと変わり果て、ゆっくりと崩壊を始める。


『私は……ついに……』
「ええ……死にますよ」
『そうか……やっと……か』


甲冑はゆっくりと首を曲げ、倒れ込んだレノに向けて視線をやり、


『……レノッ……』
「……言い残すことはありますか」
『……いや……』


ドオオンッ……!!


右腕の部分が崩壊し、そのまま地面に落ちた瞬間に黒い粉と化す。あと数秒ほどの猶予しかないだろうが、甲冑は最後までレノから視線を外さず、


『生きろ』


ブワァッ――!


ただ、一言だけそう告げると、甲冑の騎士は完全に粉みじんと化し、風に吹かれて消え去る。


「……最後の最後で、それだけですか。味気ないにもほどがありますよ」


アイリィは呆れた風に声を上げ、地面に横たわったままの「カラドボルグ」に視線をやり、


「よっと」


普通に何事も無く、その聖剣を拾い上げると空中に翳して「転移魔方陣」を発動させる。そして、魔方陣から出現した黒塗りの「鞘」を取り上げると、


「……やっと取り戻しましたよ」


鞘にカラドボルグの刀身を収め、腰に掲げる。やっとの事で「聖痕」よりも重要な目的を果たし、笑みを浮かべる。そして、一番の功労者であるレノの方に振り返り、彼が地面に気絶したままの状態だと知ると、慌てて走り寄って治療を始めようとした時、


「――ほうっ……少しは成長したか」


その声を聞いた瞬間、アイリィは身体を硬直させ、背後から聞こえてくる「女」の声に振り返った瞬間、


「……久しぶりだな兎?随分と可愛らしい姿に戻ったじゃないか?」


――そこには、刃が潰れた薙刀を背中に掲げる「ダークエルフ」の姿が合った。
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