種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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闘人都市編

聖剣の解放

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「……終わったのか?」
「だと言いですけどね……まだ生きてますよ」


アイリィは何かを確かめるように左手の掌を見つめ、水の底に沈んだ甲冑の騎士を見下ろす。重力によって形成された穴に水人華の水果の果汁である水が溜まり、大広間の中心に大きな池が形成されたようにも見える。最も、地面の土や突き刺された防具の錆が混じってしまったので泥水と化しており、池というより沼に近い。

こんな泥水の中から「カラドボルグ」を探すとなると苦労しそうだが、その前に帯電している電流の方を何とかしなければならない。普通の電気ならば勝手に消えるだろうが、生憎と泥水に浸かっているのは魔力で形成された雷のため、しばらくの間は帯電し続けたままだろう。

自分の魔法は自分の肉体を傷つけない法則があるとしても、この泥水に帯電しているのはレノ以外にアイリィや聖剣の魔力も混じっている。少しでも触れれば一瞬で黒焦げになる可能性もあるため、迂闊には近づけない。


「……まさか……」
「え?」


レノはどうするべきかとアイリィに視線を向けると、彼女は唐突に大きく目を見開き、血相を変えてレノに顔を向けると、


「避け――っ!!」



――ズドォオオオンッ!!



「……えっ……?」


まず、最初に目にしたのは空中に飛来した「左腕」であり、その手の甲には見慣れた「紋様」が浮かんでいる。

そして、次に左肩から途轍もない激痛が走り、最早それは「痛み」などという生易しい物ではなく、まるで炎でも直接押し付けられたような焼ける感覚が広がる。一番最初にダークエルフの薙刀に腹部を貫かれた時と同じ感覚だ。

ゆっくりとレノは首を向けると、そこには自分の左肩の下、つまり肘から先の部分は存在せず、先ほど視界に入った「腕」が自分の物だと気が付いた時には、


ドサァッ……


地面に何かが落ちる音を耳にし、下を見下ろすとそこには予想通りの光景が広がっていた。見間違う筈のない自分の肘から先の左腕が転がっていたのだ。


「レノさん!!」


すぐにもアイリィはレノに駆け付けようとしたが、


ズドォオオオンッ!!


「くっ……!?」
「何……」


2人の間にまるで「雷」を思わせる一筋の黄色い光線が放たれ、咄嗟にアイリィはその場から離れ、レノはその場に尻もちをつく。

残された左腕を抑えながら、地面に落ちた肘から先の部分に視線をやり、レノは妙な事に気が付く。これほどの大怪我を負いながら、地面に血液が一献たりとも広がっていない。確認してみると、撃ち落とされた左肩の断面は酷い火傷を負っており、一瞬で焼き焦がされていた。そのため、皮肉にも傷口が塞がれて出血を免れている。


「くっ……」


これでは聖魔法でも治療することは難しいだろう。何より、あの紋様が無ければ「聖痕」を回収できず、アイリィとの約束を果たせない。



――約束を果たさなければ、あのダークエルフには決して届かない。自分からいつも大切な者を奪うあの女の元に辿り着けない。



「腕……」
「レノさん!!落ち着いて!!それはもう……!!」


呆然自失としながらも、レノはゆっくりと地面に転がった左腕に右手を伸ばした時、



――ザバァアアッ……



不意に耳元から水飛沫の音が聞こえ、顔を向けると、


『……ォオオオオオッ……!!』


そこには全身の鎧が融解しながらも、甲冑の騎士が泥水の中から姿を現し、その左手には場違いなほどに美しい刀身の剣が握られていた。


――完全に死に絶える前、ただの金属のオブジェになり果てた後も、甲冑の騎士は水中で「カラドボルグ」を掴み取り、その真の力を解放した。


先ほどのレノの左腕の半分を奪い、そしてアイリィとレノを分断した黄色い閃光を放ったのはあの剣で間違いない。


「……本当にしつこい……」


忌々しげに甲冑の騎士を見下ろしながら、アイリィは冷や汗を流す。ここまでの戦闘で疲労しているのはレノも自分も同じであり、聖痕の連発でアイリィ自身も体力の限界が近い。

だが、それよりも危険なのはレノ自身だ。左腕を抑えながらも甲冑の騎士に視線をやるが、このままでは戦えないだろう。あの紋様はレノの魔力を高める一方で、彼の魔力の制御を行っていた。レノ本人は気付いていなかったが「紋様」にはハーフエルフであるレノの膨大な魔力を抑える役割を持っていた。

あの紋様は「聖痕」を吸収する能力以外にも、魔力を高める能力を持っている。しかし、同時に魔力を強化し過ぎない様にブレーキの役割も存在した。



――そんな「紋様」が刻み込まれた左腕を撃ち落とされたレノは、一時的に体内の魔力が掻き乱され、最早「風雷」の魔法をを形成する事は出来ない。十分な治療と休息を行わない限りは「魔法」は使用不可能なのは間違いない。つまり、今現在の2人の状況は絶望的と言える。


「……逃げる手段もありませんか」


ここまで来るのに随分と体力と魔力を使用し、既に聖痕を発動させる魔力も残っていない。アイリィは跪き、動く様子がないレノを見て彼が戦えない事を悟り、


「仕方有りませんね……本当に。貴方はよく頑張りました……今回の出来事は私の油断です」


この状況に陥ったのはアイリィの責任でもある。油断なく、泥水に浸かった甲冑の騎士に止めを刺せばよかったのだ。本当に一瞬の油断がここまでの状況を引き起こし、アイリィは諦める事を決意した。だが、自分は「やり直せばいい」だけだが、ここでレノまでを失うのは少し寂しい。


「レノさっ……」


最期に彼の顔を見ようと振り向いた時、すぐに異変に気が付く。彼は顔を下に向け、何かを囁いている。


「レノ……?」


聞き耳を立てながら、彼に近づこうとした時、



――グルルルッ……



まるで狼のような唸り声が、彼女の耳に届いた。
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