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闘人都市編
水人華
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「貴重な最後の種なんですけど……出し惜しみする暇はないですね」
アイリィが取り出した種子の名前は「水人華」と呼ばれるこの世界でも希少の植物の種子であり、嘗て「森人族」と「人魚族」が共同で造りだした種である。
本来の目的は砂漠などの植物が育たない土地のために作り出された植物であり、ごく少量の肥料や日差しだけで簡単に育つ「種子」である。だが、製作方法はかなり困難な物であり、製造は途中で中止された一品だった。
一粒の種を作るだけでも魔力量が多いはずの「人魚族」と「森人族」の数百人分の魔力を必要とし、さらには成長力も遅く、繁殖力も非常に低い。どう考えても利益(メリット)よりも不利益(デメリット)が多いために開発は中止された。
だが、その植物の能力まではは馬鹿にできず、この「水人華」は1つの種子でどのような場所にも育ち、成長は遅いが生命力は非常に高く、人の世話も得ずに勝手に育つ。完全に水人華が成長した場合、特殊な果物を実らせる。
その名前は「水果(すいか)」と呼ばれ、1つ1つの大きさがバスケットボールほどがある美しい半透明な果物であり、外見はまるで果物の形を形成した水晶玉にしか見えない。その果汁は飲み水として扱われる事が多く、非常に美味である。
「行きますよ……そぉいっ!!」
青色の種子を一度握り締め、右手の「樹」の聖痕を発動させながらアイリィは天高く放り投げる。種子は光り輝きながら重力場が放たれている場所にまでたどり着くと、
ドォンッ!!
『……フンッ……』
瞬時に種子は重力に逆らえずに地面に衝突し、そのまま地中深くに潜り込む。それを見た甲冑は小馬鹿にしたような声を上げるが、
ズボッ……!!
『ナニ……?』
凄まじい重力が常時発動中のはずだが、種子が落下した地点に半透明に光り輝く植物の新芽らしき物が顔を出し、
ビキビキィッ……!!
新芽が徐々に成長し、やがては何十倍、何百倍にも成長して巨大化し、地面に激しい亀裂が生まれる。たった数秒足らずで巨大な水晶を思わせる「大木」が形成された。半透明な樹皮には内部に液体が流れているのも確認可能であり、神秘的な美しさを醸し出している。そして、その枝にはバスケットボール級の水晶の「果物」が無数に実り始める。
「……すごい……」
その水晶を思わせる樹木の美しさにレノは一瞬目が惹かれる。恐らく半分は「森人族」の血が流れているためであり、美しい植物に心惹かれるのは森人族の本能かも知れない。
「呆けている場合じゃないですよ。すぐに破裂します!」
アイリィに声を掛けられ、レノは慌てて準備を行う。重力を逆らって育ち続けた「水人華」だが、
ビキィイイイッ……!!
押しかかる重力に徐々に耐え切れず、やがては枝葉がが震えだし、水晶製の樹皮も罅割れ、
ドバァアアアアッ!!
『ナンダトッ!?』
最初に砕けたのは「水人華」に実った「水果(すいか)」であり、中身の大量の水分が放出され、雨のように広間に降り注ぐ。重力で加速された水滴が地面に散らばり、最早、スコールなどというレベルではなく、滝に等しい雨量だ。
『コンナモノッ……!?』
自分に降りかかる飛沫に苛立ちを抱きながらも、すぐにレノ達の意図に気が付く。重力によって円形に陥没した地面に堪る「水」、最早、それは池と言っても過言ではないほどの量と化している。
仮にどのような武具や魔法を放たれようが、上から押しかかる重力で圧せることは可能。しかし、仮に周囲一帯が水浸しの場合ならばどうなるか。既に陥没した地面一杯に巨大な水溜りが形成され、甲冑の騎士の胸元まで浸かっている。
この地下から下の階層までの地面は非常に硬く、万が一にも下の「悪魔」どもが階層を隔てる天井を突き破らない様に設計されており、甲冑の騎士の「重力」でも破壊は不可能な事が幸いした。
「行きますよ……タイミングは私が合わせます!!」
「了解!!」
ズドォォオオオオンッ!!
バチィイイイイイイッ!!
アイリィは何処から取り出したのか、やたらと刀身が長い長剣を上空に構え、何時の間にか形成した黒雲から雷を振り落す。一方でレノは左腕の紋様を輝かせ、最大限の「雷」を形成し、凄まじい電流を周囲一帯に放電させる。
「あばばばばっ……!!は、早くしてくださいぃっ……」
「え、感電すんの!?」
髪の毛をハリネズミのように尖がるアイリィに突っ込みながらも、レノは鉄製の槍を拾い上げ、
「喰らえ!!」
ドヒュンッ!!
上空に飛び上がり、最大限の「雷」を付与させた「槍」を投擲する。同時にアイリィも長剣を振りかざし、二つの投擲物は高速に重力場に放たれ、
――ズズゥウウウウウンッ!!
二つの雷と化した金属物が、甲冑が浸かる「池」に叩き込まれ、
ビシャァアアアアアアアアンッ!!
『グァアアアアアアアアアアアアッ!?』
水中に凄まじい雷が一瞬にして全体に浸透し、当然、甲冑の騎士の全身に数千万ボルトに匹敵する電流が全身に流される。いくら魔法を無力化できると言っても、金属製の鎧であることに変わりはなく、完全な意味での無効化は出来ない。
さらに言えば「カラドボルグ」の聖剣も既に電流を帯びており、間近に居る「甲冑の騎士」に影響を与える。この聖剣の放つ電流は特殊な魔力であり、どんな物質だろうと無効化する事は不可能。
流石に耐え切れないのか、それとも集中が途切れたのか周囲に押しかかる重力が解除され、甲冑は池の中で暴れ狂い、その際に掌から聖剣を池の中に零れ落としてしまう。
『ウグァアアアァアアッ……!!』
バシャバシャッ!!
何とか池から這い上がろうと移動を開始するが、その動きはだんだんと鈍くなり、やがては膝を着くと、そのまま水中の中に沈んでいく。そして、後に残されたのは陥没した地面に形成された濁った水だまりだけだった。
アイリィが取り出した種子の名前は「水人華」と呼ばれるこの世界でも希少の植物の種子であり、嘗て「森人族」と「人魚族」が共同で造りだした種である。
本来の目的は砂漠などの植物が育たない土地のために作り出された植物であり、ごく少量の肥料や日差しだけで簡単に育つ「種子」である。だが、製作方法はかなり困難な物であり、製造は途中で中止された一品だった。
一粒の種を作るだけでも魔力量が多いはずの「人魚族」と「森人族」の数百人分の魔力を必要とし、さらには成長力も遅く、繁殖力も非常に低い。どう考えても利益(メリット)よりも不利益(デメリット)が多いために開発は中止された。
だが、その植物の能力まではは馬鹿にできず、この「水人華」は1つの種子でどのような場所にも育ち、成長は遅いが生命力は非常に高く、人の世話も得ずに勝手に育つ。完全に水人華が成長した場合、特殊な果物を実らせる。
その名前は「水果(すいか)」と呼ばれ、1つ1つの大きさがバスケットボールほどがある美しい半透明な果物であり、外見はまるで果物の形を形成した水晶玉にしか見えない。その果汁は飲み水として扱われる事が多く、非常に美味である。
「行きますよ……そぉいっ!!」
青色の種子を一度握り締め、右手の「樹」の聖痕を発動させながらアイリィは天高く放り投げる。種子は光り輝きながら重力場が放たれている場所にまでたどり着くと、
ドォンッ!!
『……フンッ……』
瞬時に種子は重力に逆らえずに地面に衝突し、そのまま地中深くに潜り込む。それを見た甲冑は小馬鹿にしたような声を上げるが、
ズボッ……!!
『ナニ……?』
凄まじい重力が常時発動中のはずだが、種子が落下した地点に半透明に光り輝く植物の新芽らしき物が顔を出し、
ビキビキィッ……!!
新芽が徐々に成長し、やがては何十倍、何百倍にも成長して巨大化し、地面に激しい亀裂が生まれる。たった数秒足らずで巨大な水晶を思わせる「大木」が形成された。半透明な樹皮には内部に液体が流れているのも確認可能であり、神秘的な美しさを醸し出している。そして、その枝にはバスケットボール級の水晶の「果物」が無数に実り始める。
「……すごい……」
その水晶を思わせる樹木の美しさにレノは一瞬目が惹かれる。恐らく半分は「森人族」の血が流れているためであり、美しい植物に心惹かれるのは森人族の本能かも知れない。
「呆けている場合じゃないですよ。すぐに破裂します!」
アイリィに声を掛けられ、レノは慌てて準備を行う。重力を逆らって育ち続けた「水人華」だが、
ビキィイイイッ……!!
押しかかる重力に徐々に耐え切れず、やがては枝葉がが震えだし、水晶製の樹皮も罅割れ、
ドバァアアアアッ!!
『ナンダトッ!?』
最初に砕けたのは「水人華」に実った「水果(すいか)」であり、中身の大量の水分が放出され、雨のように広間に降り注ぐ。重力で加速された水滴が地面に散らばり、最早、スコールなどというレベルではなく、滝に等しい雨量だ。
『コンナモノッ……!?』
自分に降りかかる飛沫に苛立ちを抱きながらも、すぐにレノ達の意図に気が付く。重力によって円形に陥没した地面に堪る「水」、最早、それは池と言っても過言ではないほどの量と化している。
仮にどのような武具や魔法を放たれようが、上から押しかかる重力で圧せることは可能。しかし、仮に周囲一帯が水浸しの場合ならばどうなるか。既に陥没した地面一杯に巨大な水溜りが形成され、甲冑の騎士の胸元まで浸かっている。
この地下から下の階層までの地面は非常に硬く、万が一にも下の「悪魔」どもが階層を隔てる天井を突き破らない様に設計されており、甲冑の騎士の「重力」でも破壊は不可能な事が幸いした。
「行きますよ……タイミングは私が合わせます!!」
「了解!!」
ズドォォオオオオンッ!!
バチィイイイイイイッ!!
アイリィは何処から取り出したのか、やたらと刀身が長い長剣を上空に構え、何時の間にか形成した黒雲から雷を振り落す。一方でレノは左腕の紋様を輝かせ、最大限の「雷」を形成し、凄まじい電流を周囲一帯に放電させる。
「あばばばばっ……!!は、早くしてくださいぃっ……」
「え、感電すんの!?」
髪の毛をハリネズミのように尖がるアイリィに突っ込みながらも、レノは鉄製の槍を拾い上げ、
「喰らえ!!」
ドヒュンッ!!
上空に飛び上がり、最大限の「雷」を付与させた「槍」を投擲する。同時にアイリィも長剣を振りかざし、二つの投擲物は高速に重力場に放たれ、
――ズズゥウウウウウンッ!!
二つの雷と化した金属物が、甲冑が浸かる「池」に叩き込まれ、
ビシャァアアアアアアアアンッ!!
『グァアアアアアアアアアアアアッ!?』
水中に凄まじい雷が一瞬にして全体に浸透し、当然、甲冑の騎士の全身に数千万ボルトに匹敵する電流が全身に流される。いくら魔法を無力化できると言っても、金属製の鎧であることに変わりはなく、完全な意味での無効化は出来ない。
さらに言えば「カラドボルグ」の聖剣も既に電流を帯びており、間近に居る「甲冑の騎士」に影響を与える。この聖剣の放つ電流は特殊な魔力であり、どんな物質だろうと無効化する事は不可能。
流石に耐え切れないのか、それとも集中が途切れたのか周囲に押しかかる重力が解除され、甲冑は池の中で暴れ狂い、その際に掌から聖剣を池の中に零れ落としてしまう。
『ウグァアアアァアアッ……!!』
バシャバシャッ!!
何とか池から這い上がろうと移動を開始するが、その動きはだんだんと鈍くなり、やがては膝を着くと、そのまま水中の中に沈んでいく。そして、後に残されたのは陥没した地面に形成された濁った水だまりだけだった。
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