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闘人都市編
迷宮攻略編3
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「くっ……」
「キュロロロロロロッ!!」
前方を塞ぐようにサイクロプスは両手を広げ、レノに向けて血走った巨大な目で威嚇を取る。通常、サイクロプスは知能が高いが大人しい生物であり、自分の縄張りを侵さない限りは滅多に自分から襲い掛かることは無い。
だが、目の前のサイクロプスはレノが知っている孤児院の頃に共に住んでいた「ロプス」よりも巨体で色違いであり、異様なまでに両腕の筋肉が発達している。
ズルッ……ズルッ……
後方からはスライムが地面を這いずる音が聞こえ、後退は出来ない。ならば、眼前のサイクロプスをどうにかするしかないのだが、
「キュルルルルッ!!」
サイクロプスは巨大な右腕を振り上げ、大振りながらに凄まじい速度でレノに目掛けて拳を振り下ろす。咄嗟に瞬脚の応用で右の壁側に避けると、
ズガァアアアアアンッ!!
「くっ……」
拳が地面にめり込み、頑丈な地面が割れ、巨大なクレーターが生み出される。そのあまりの威力を目の当たりにし、腕力だけならば白狼に匹敵するのは間違いない。
「キュロォオオオオッ!!」
ブォンッ――!!
サイクロプスはそのまま今度は右足を振りかぶり、レノに向けて回し蹴りを放つが、右腕と比べても速度はかなり遅い。これならば十分に対応可能であり、
「だぁっ!!」
すぐに「肉体強化(アクセル)」を発動し、身体能力を底上げするのと同時に右足で瞬脚を発動させ、そのまま向い来る右脚に向けて下から足刀を放つ。
ドオオンッ!!
「ギュロッ!?」
予想外の反撃にサイクロプスの右足は浮き上がり、レノの頭上ぎりぎりを通り過ぎると、そのまま壁に目掛けて足を振り抜く。
ドゴォオオオンッ!!
「ギュラァアアアッ!?」
先ほどの地面と違い、壁に目掛けて振り抜いた右足は跳ね返され、どうやら地面よりも硬度が高いのか罅すら入っていない。そのまま体勢を大きく崩し、サイクロプスはその場で尻もちを付く。その隙を逃さず、レノはサイクロプスの身体を飛び越えて暗闇の中を疾走する。
「ギュロォオオオッ……!?」
すぐにサイクロプスは追いかけようと立ち上がった瞬間、
ドバァアアアアッ!!
「ギュルァアアアアアッ!?」
後方から現れた赤いスライムが、そのままサイクロプスの巨体にのしかかり、赤い煙が噴き上げる。悲鳴を上げてサイクロプスはスライムを引き剥がそうとするが、相手は液体であり、触れた手が逆に呑み込まれていき、やがては身体全体が吸収される。
スライムの体内でもがき苦しむサイクロプスだが、徐々にスライムの中で身体が融解されていき、やがては30秒ほど経過したときには跡形も無くなっており、骨一つ残さず消滅させていた。
ジュルルッ……!
残されたスライムは満腹と言った様子で来た道を引き返し、ゆっくりと暗闇の中に姿を消していく――
――その一方、化け物同士の戦闘から一目散に離れたレノの目の前には、随分と開けた広間に辿り着いた。
「……これは?」
広間はの中心には噴水のような台座が置かれており、その噴水を中心に周囲に5つの通路が広がっている。先ほど自分が来た通路を除くと、残る通路は4つ。アイリィがどこにいるのかさえも分からず、それどころかこのままでは帰る事もできない。道を覚えていたとしても、あの赤い「スライム」をどうにかしない限りは引き返すことも不可能だろう。
「先に進むしかない、か」
広間を調べてみるが、特にこれと言って気になる物は無い。何の装飾もない壁と地面が広がっており、真ん中の噴水らしき台座も気になるが特徴らしい特徴は無い。先ほどのスライムが居る通路を除けば進める道は4つだけ、どの通路からも嫌な予感しかしないが、適当に決めて進むしかない。
「……?」
不意に1つの道の方から何か物音が聞こえ、気になってそちらの通路を選んで慎重に進むと、金属同士を衝突しあう音が聞こえる。
「アイリィか?」
こんな場所で金属音が聞こえるなど、この迷宮内にレノとアイリィ以外に人がいるとは思えず、先行したアイリィがいるのかと走り出そうとしたが、すぐに何らかの罠の可能性を想定し、レノは周囲を注意しながらも先に進む。念のために「銀の鎖」に取り付けられた「聖爪(ネイルリング)」を装着し、通路を移動すると、
(……あれは……!?)
通路の先にはまた新たな広場が広がっており、今度は闘人都市の地下闘技場を想像させる造りだった。
広場の中央に石畳が並んでおり、四方にはボクシングを思わせる鉄柱とロープ代わりの植物の棘が付いた蔓が無数に囲まれており、触れるだけで傷がつくだろう。そんな「闘技場」らしき台座の上で、剣をぶつけ合う物が2人の人間の姿が見えた。いや、正確には「人間だった存在」が戦闘を繰り広げていた。
(まさか……嘘だろ?)
眼の前に移る光景はとても信じられないが、それでも現実に闘技場の上では驚くべき存在がお互いに相対し、手元を握る剣を操り、幾重ものを剣戟を繰り返していた。
――レノの目の前には闘技場の上で剣を交わせる二人の「死人」の姿が移り、以前に地下闘技場からの帰路の最中、レノ達に襲い掛かった「ビルド」と同じ存在だった。
どちらも腐敗化した肉体でありながら、立派な黄金と銀で装飾された鎧を着ており、恐らくは生前は高名な騎士だったのかもしれない。だが、今では身体は腐り果てており、眼球は既に抜け落ちて骨が剥き出しになっていた。
「がァアアッ!!」
「うあァアアッ!!」
ガキィイインッ!!
腐りきった腕から繰り出されるとは思えぬほど、激しく、凄まじく、勢い良く剣戟を放つ死体達にレノは目を奪われる。
「キュロロロロロロッ!!」
前方を塞ぐようにサイクロプスは両手を広げ、レノに向けて血走った巨大な目で威嚇を取る。通常、サイクロプスは知能が高いが大人しい生物であり、自分の縄張りを侵さない限りは滅多に自分から襲い掛かることは無い。
だが、目の前のサイクロプスはレノが知っている孤児院の頃に共に住んでいた「ロプス」よりも巨体で色違いであり、異様なまでに両腕の筋肉が発達している。
ズルッ……ズルッ……
後方からはスライムが地面を這いずる音が聞こえ、後退は出来ない。ならば、眼前のサイクロプスをどうにかするしかないのだが、
「キュルルルルッ!!」
サイクロプスは巨大な右腕を振り上げ、大振りながらに凄まじい速度でレノに目掛けて拳を振り下ろす。咄嗟に瞬脚の応用で右の壁側に避けると、
ズガァアアアアアンッ!!
「くっ……」
拳が地面にめり込み、頑丈な地面が割れ、巨大なクレーターが生み出される。そのあまりの威力を目の当たりにし、腕力だけならば白狼に匹敵するのは間違いない。
「キュロォオオオオッ!!」
ブォンッ――!!
サイクロプスはそのまま今度は右足を振りかぶり、レノに向けて回し蹴りを放つが、右腕と比べても速度はかなり遅い。これならば十分に対応可能であり、
「だぁっ!!」
すぐに「肉体強化(アクセル)」を発動し、身体能力を底上げするのと同時に右足で瞬脚を発動させ、そのまま向い来る右脚に向けて下から足刀を放つ。
ドオオンッ!!
「ギュロッ!?」
予想外の反撃にサイクロプスの右足は浮き上がり、レノの頭上ぎりぎりを通り過ぎると、そのまま壁に目掛けて足を振り抜く。
ドゴォオオオンッ!!
「ギュラァアアアッ!?」
先ほどの地面と違い、壁に目掛けて振り抜いた右足は跳ね返され、どうやら地面よりも硬度が高いのか罅すら入っていない。そのまま体勢を大きく崩し、サイクロプスはその場で尻もちを付く。その隙を逃さず、レノはサイクロプスの身体を飛び越えて暗闇の中を疾走する。
「ギュロォオオオッ……!?」
すぐにサイクロプスは追いかけようと立ち上がった瞬間、
ドバァアアアアッ!!
「ギュルァアアアアアッ!?」
後方から現れた赤いスライムが、そのままサイクロプスの巨体にのしかかり、赤い煙が噴き上げる。悲鳴を上げてサイクロプスはスライムを引き剥がそうとするが、相手は液体であり、触れた手が逆に呑み込まれていき、やがては身体全体が吸収される。
スライムの体内でもがき苦しむサイクロプスだが、徐々にスライムの中で身体が融解されていき、やがては30秒ほど経過したときには跡形も無くなっており、骨一つ残さず消滅させていた。
ジュルルッ……!
残されたスライムは満腹と言った様子で来た道を引き返し、ゆっくりと暗闇の中に姿を消していく――
――その一方、化け物同士の戦闘から一目散に離れたレノの目の前には、随分と開けた広間に辿り着いた。
「……これは?」
広間はの中心には噴水のような台座が置かれており、その噴水を中心に周囲に5つの通路が広がっている。先ほど自分が来た通路を除くと、残る通路は4つ。アイリィがどこにいるのかさえも分からず、それどころかこのままでは帰る事もできない。道を覚えていたとしても、あの赤い「スライム」をどうにかしない限りは引き返すことも不可能だろう。
「先に進むしかない、か」
広間を調べてみるが、特にこれと言って気になる物は無い。何の装飾もない壁と地面が広がっており、真ん中の噴水らしき台座も気になるが特徴らしい特徴は無い。先ほどのスライムが居る通路を除けば進める道は4つだけ、どの通路からも嫌な予感しかしないが、適当に決めて進むしかない。
「……?」
不意に1つの道の方から何か物音が聞こえ、気になってそちらの通路を選んで慎重に進むと、金属同士を衝突しあう音が聞こえる。
「アイリィか?」
こんな場所で金属音が聞こえるなど、この迷宮内にレノとアイリィ以外に人がいるとは思えず、先行したアイリィがいるのかと走り出そうとしたが、すぐに何らかの罠の可能性を想定し、レノは周囲を注意しながらも先に進む。念のために「銀の鎖」に取り付けられた「聖爪(ネイルリング)」を装着し、通路を移動すると、
(……あれは……!?)
通路の先にはまた新たな広場が広がっており、今度は闘人都市の地下闘技場を想像させる造りだった。
広場の中央に石畳が並んでおり、四方にはボクシングを思わせる鉄柱とロープ代わりの植物の棘が付いた蔓が無数に囲まれており、触れるだけで傷がつくだろう。そんな「闘技場」らしき台座の上で、剣をぶつけ合う物が2人の人間の姿が見えた。いや、正確には「人間だった存在」が戦闘を繰り広げていた。
(まさか……嘘だろ?)
眼の前に移る光景はとても信じられないが、それでも現実に闘技場の上では驚くべき存在がお互いに相対し、手元を握る剣を操り、幾重ものを剣戟を繰り返していた。
――レノの目の前には闘技場の上で剣を交わせる二人の「死人」の姿が移り、以前に地下闘技場からの帰路の最中、レノ達に襲い掛かった「ビルド」と同じ存在だった。
どちらも腐敗化した肉体でありながら、立派な黄金と銀で装飾された鎧を着ており、恐らくは生前は高名な騎士だったのかもしれない。だが、今では身体は腐り果てており、眼球は既に抜け落ちて骨が剥き出しになっていた。
「がァアアッ!!」
「うあァアアッ!!」
ガキィイインッ!!
腐りきった腕から繰り出されるとは思えぬほど、激しく、凄まじく、勢い良く剣戟を放つ死体達にレノは目を奪われる。
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