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闘人都市編
襲撃者
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――夜を迎え、酒場の中には既に人気は無い。あの後、ヨウカたちと適当な雑談で過ごすと、午後から仕事がある彼女達を見送ってから酒場の仕事に戻る。結局、今日は材料も切れたので、夕方までしか開くことは出来なかった。
バルは大儲けしたと喜んでいたが、それ以上に女部下たちの疲労は半端ではない。いつもは盗賊家業に勤しんでいた彼女たちが、不慣れな接客作業で疲れ果て、そんな彼女たちを寝かしつけるとレノは夜遅くを見計らって外に出かけることにした。
「……」
大会までに必要な物はジャンヌの情報と、自身の戦法の改善のみ。正直な話、聖痕所有者と戦闘する際に単身で挑んて勝てる保証は無い。実際、今までに戦った聖痕の使い手たちは1人1人が化け物じみており、単独で撃破するのは不可能だった。
雷天のゴウとの戦いではミキに協力してもらった部分が大きく、元「聖天魔導士」の彼女の協力があり、さらにはレノが雷属性と相性が良い乱属性を習得していたからこそゴウを撃破する事に成功した。
アルファに関しては論外であり、そもそも彼は聖痕と言っても、その効力は「半分」であり、植物を操る事は予想外だったが、その効果は上手く発揮していたとは思わない。森人族の血を半分受け継いでいるレノだからこそ、彼の操る植物の攻撃はそれほど脅威ではなかった。
ジャンヌとの戦闘ではそもそもレノは戦ってすらいない。最初から逃げる事を前提で仕掛け、結局は彼女の実力の全てを見抜くことは出来なかったが、先の2人よりも武力という点では強いのは確かである。
最後に先日の「死霊使い」は確かに何らかの聖痕の力を感じた。しかし、肝心の杖はヨウカに浄化された時点で聖痕らしき力の反応は消え去り、一体どんな聖痕なのかは分からないが、少なくとも最も危険な相手だろう。
――こうして考えると、レノがこれまでに生き残ったのは運や他者の力を借りた事が大きい。もしも聖痕の所有者に単独で戦闘を挑むとしたら、彼が勝てる保証は無い。
「……相手よりも優れた部分で戦え、か……」
以前にクズキから習った戦闘手段であり、自分よりも各上の相手と戦う際は、相手よりも優れている箇所を利用して戦えと言う話だ。確かに彼の言葉は正論だが、しかし、同時に詭弁にも思える。
現実世界の「ゲーム」の主人公はどんな劣勢な状況に立たされようが、危機的状況に陥るほどに何らかの力を発揮し、状況を覆すことが出来る。しかし、現実の世界でそんな事を出来る者などいるのだろうか。
確かにこの世界にも「勇者」という存在は実在する。この世界を漫画で例えるならば、彼らが主人公と言えるかと言うと、答えは否だろう。実際に過去の戦いの歴史で魔王に戦いを挑み、誰一人として打ち倒せなかった。
都合よく、戦う相手全員に何らかの分野で自分が優れているという状況など訪れるはずがない。全ての面に置いて、自分よりも勝る相手に巡り合う事も在るはずだ。だとしたらどう戦うか、答えは簡単だ。「自分の長所ではなく、相手の短所を突いて戦えばいい」だけだ。例え、相手の短所が自分の短所であろうと構わずに行う。
「……よし」
レノの目の前には人気の無い広場であり、実験するには都合がいい。警備兵や何処かの騎士団に見られたとしても、剣乱武闘の自主訓練とでも答えれば問題ない。
ゴォオオオオッ……!
すぐに左の掌に「嵐」を作りだし、実験を行う。放浪島でも何度か試したことはあるが、まだレノは「嵐属性」を極めたとは言えない。
全ての属性の中で、風属性は変幻自在と言われている。同時に「短所も無ければ、長所も無い」と暗に言われており、基本的に一番使いやすい属性魔法であり、数多くの種族が使用できる属性だ。
他の属性と比べれば「炎よりも威力は低く、水よりも燃費が激しく、雷よりも遅い」と言われる。が、逆に言えば「炎よりも早く展開が可能、水よりも使い勝手が良く、雷を振り払う力を有する」という考えもある。
ちなみに雷属性に対して風属性が相性が良いのは、この世界の魔法の雷というのは直線的な動きであり、対する風の魔法は常に流動的な動きを行う。直接ぶつかり合えば当然威力が高い雷の魔法が勝つが、風の魔法は常に乱気流のように入り乱れており、正面から来る力を他方向から受け流す性質に秀でている。
イメージ的には雷が「矢」と表現し、目標物に向かって弓で放つとする。しかし、横から強い風が吹かれた場合、射た矢は見当違いの方向に流され、目標物に到達する事は不可能。
逆に風属性に強い「火属性」こちらは単純に種火に少しばかり風を与えるだけで、種火は火力を増す事から有利と言われている。「水属性」に関しては賛否両論があるが、風属性と相容れぬ存在であり、合成する事は難しいと言われている。
「よし……」
掌に「嵐」を形成し、今度はアイリィの「紋様」を発動させてより一層に強化させる。その魔力は凄まじく、以前よりも威力が増している。それを確認するとレノは嵐を掻き消し、すぐに腰に装着した先日に購入した「ナイフ」に持ち替える。
クズキの魔石が自動的に魔石結合を行って以来、アイリィから与えられた紋様は力を増しており、転送と隠密の魔法が使えなくなったが、代わりにレノはクズキから学んだ無属性の魔法を発動させる。
「……ブレイド」
ビュンッ――!
握られたナイフの刀身に魔力が通い、嘗てクズキがダークエルフとの戦闘の際に見せた「刃」の形状を変化する魔法を使用する。
バルは大儲けしたと喜んでいたが、それ以上に女部下たちの疲労は半端ではない。いつもは盗賊家業に勤しんでいた彼女たちが、不慣れな接客作業で疲れ果て、そんな彼女たちを寝かしつけるとレノは夜遅くを見計らって外に出かけることにした。
「……」
大会までに必要な物はジャンヌの情報と、自身の戦法の改善のみ。正直な話、聖痕所有者と戦闘する際に単身で挑んて勝てる保証は無い。実際、今までに戦った聖痕の使い手たちは1人1人が化け物じみており、単独で撃破するのは不可能だった。
雷天のゴウとの戦いではミキに協力してもらった部分が大きく、元「聖天魔導士」の彼女の協力があり、さらにはレノが雷属性と相性が良い乱属性を習得していたからこそゴウを撃破する事に成功した。
アルファに関しては論外であり、そもそも彼は聖痕と言っても、その効力は「半分」であり、植物を操る事は予想外だったが、その効果は上手く発揮していたとは思わない。森人族の血を半分受け継いでいるレノだからこそ、彼の操る植物の攻撃はそれほど脅威ではなかった。
ジャンヌとの戦闘ではそもそもレノは戦ってすらいない。最初から逃げる事を前提で仕掛け、結局は彼女の実力の全てを見抜くことは出来なかったが、先の2人よりも武力という点では強いのは確かである。
最後に先日の「死霊使い」は確かに何らかの聖痕の力を感じた。しかし、肝心の杖はヨウカに浄化された時点で聖痕らしき力の反応は消え去り、一体どんな聖痕なのかは分からないが、少なくとも最も危険な相手だろう。
――こうして考えると、レノがこれまでに生き残ったのは運や他者の力を借りた事が大きい。もしも聖痕の所有者に単独で戦闘を挑むとしたら、彼が勝てる保証は無い。
「……相手よりも優れた部分で戦え、か……」
以前にクズキから習った戦闘手段であり、自分よりも各上の相手と戦う際は、相手よりも優れている箇所を利用して戦えと言う話だ。確かに彼の言葉は正論だが、しかし、同時に詭弁にも思える。
現実世界の「ゲーム」の主人公はどんな劣勢な状況に立たされようが、危機的状況に陥るほどに何らかの力を発揮し、状況を覆すことが出来る。しかし、現実の世界でそんな事を出来る者などいるのだろうか。
確かにこの世界にも「勇者」という存在は実在する。この世界を漫画で例えるならば、彼らが主人公と言えるかと言うと、答えは否だろう。実際に過去の戦いの歴史で魔王に戦いを挑み、誰一人として打ち倒せなかった。
都合よく、戦う相手全員に何らかの分野で自分が優れているという状況など訪れるはずがない。全ての面に置いて、自分よりも勝る相手に巡り合う事も在るはずだ。だとしたらどう戦うか、答えは簡単だ。「自分の長所ではなく、相手の短所を突いて戦えばいい」だけだ。例え、相手の短所が自分の短所であろうと構わずに行う。
「……よし」
レノの目の前には人気の無い広場であり、実験するには都合がいい。警備兵や何処かの騎士団に見られたとしても、剣乱武闘の自主訓練とでも答えれば問題ない。
ゴォオオオオッ……!
すぐに左の掌に「嵐」を作りだし、実験を行う。放浪島でも何度か試したことはあるが、まだレノは「嵐属性」を極めたとは言えない。
全ての属性の中で、風属性は変幻自在と言われている。同時に「短所も無ければ、長所も無い」と暗に言われており、基本的に一番使いやすい属性魔法であり、数多くの種族が使用できる属性だ。
他の属性と比べれば「炎よりも威力は低く、水よりも燃費が激しく、雷よりも遅い」と言われる。が、逆に言えば「炎よりも早く展開が可能、水よりも使い勝手が良く、雷を振り払う力を有する」という考えもある。
ちなみに雷属性に対して風属性が相性が良いのは、この世界の魔法の雷というのは直線的な動きであり、対する風の魔法は常に流動的な動きを行う。直接ぶつかり合えば当然威力が高い雷の魔法が勝つが、風の魔法は常に乱気流のように入り乱れており、正面から来る力を他方向から受け流す性質に秀でている。
イメージ的には雷が「矢」と表現し、目標物に向かって弓で放つとする。しかし、横から強い風が吹かれた場合、射た矢は見当違いの方向に流され、目標物に到達する事は不可能。
逆に風属性に強い「火属性」こちらは単純に種火に少しばかり風を与えるだけで、種火は火力を増す事から有利と言われている。「水属性」に関しては賛否両論があるが、風属性と相容れぬ存在であり、合成する事は難しいと言われている。
「よし……」
掌に「嵐」を形成し、今度はアイリィの「紋様」を発動させてより一層に強化させる。その魔力は凄まじく、以前よりも威力が増している。それを確認するとレノは嵐を掻き消し、すぐに腰に装着した先日に購入した「ナイフ」に持ち替える。
クズキの魔石が自動的に魔石結合を行って以来、アイリィから与えられた紋様は力を増しており、転送と隠密の魔法が使えなくなったが、代わりにレノはクズキから学んだ無属性の魔法を発動させる。
「……ブレイド」
ビュンッ――!
握られたナイフの刀身に魔力が通い、嘗てクズキがダークエルフとの戦闘の際に見せた「刃」の形状を変化する魔法を使用する。
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