種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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闘人都市編

弾撃

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地下闘技場の最終試合、レノは決勝戦の闘技場に上がると、対戦相手の姿を見て溜息を吐きたくなる。先ほどのレンと同様に因縁深い相手であり、まさか一日に二度も自分と関わりのあるエルフと戦う事になるとは思わなかった。


「貴様……穢れた血の分際で、よくもレンを侮辱したな!!」
「あんたか……」


そこにはレンと同じく、レノを追放した族長の護衛を勤める「ラン」が立っていた。前々から疑問に思っていたが、2人は兄弟なのか体格も顔立ちもよく似ている。

彼はレンのような双剣ではなく、拳に鋼鉄製のベアナックルらしき物を装着している。どうやら近接格闘を得意とするようだが、傍から見たらいい年をした、ただの不良ぶったおっさんにしか見えない。

レノは短剣を抜き取ると、彼はあざ笑うかのように指を立ててくる。先ほどのレンのように素手で来いと言うアピールでもしているのかもしれないが、いちいちそんな事に付き合う暇はない。


「よし……始めるぞ!!開始ぃいいいいっ!!」


カインが決勝戦のせいか、やたらとテンション高く試合開始の合図を行うと、ランはボクサーのピーカブースタイルらしき状態で向かってくる。よく観察しないと分からないが、その拳には「風」の魔力を纏わせており、試合開始前からずっと魔力を練り込んでいたらしい。レノは短剣を構え、手始めとばかりに右ストレートを放とうとするランに対し、


ズドォオオオッ!!


「ごはぁっ!?」
「がら空きだよ」


ピーカブースタイルの弱点である「腹部の防御が薄い」という点を着き、容赦なく右足の踵を喰いこませる。まさか、レノが先手を取るなど思いもしなかったのか、彼は苦悶の表情で片膝をつく。隙だらけだが調子に乗らずに一歩後ろに下がると案の定、顔をまるでトマトのように赤くさせながらも彼は立ち上がる。


「この、ガキィっ……!!」
「はっ……威勢がいいのは結構だけど、いい加減に諦めたらどうだい!?」
「実力差が分からないでもないでしょうに……」
「えっと……レノ君頑張れ~!!」


聞き慣れた声の野次と声援を耳にしながら、レノは短剣を仕舞い込む。別に彼に敬意を払って肉弾戦を挑むわけではないが、このような手合いは初めてではない。


――放浪島の北部山岳を歩き回っていたころ、奇妙な魔獣と出会う。それはカンガルーを思わせる姿だが、その両拳は明らかに「ボクシンググローブ」そのものであり、レノの姿を見かけた瞬間に襲い掛かってきたのだ。


最初は防戦一方だったが、何度も交戦する事で相手の動きを見抜き、長年の研究で自分の物にすると、小柄な肉体でも効率よく勢いのある打撃を生み出す方法を手にした。


「よっと!!」


右足を強く踏みつけ、嵐の魔力を爪先から爆発させる瞬脚で高速にランに接近する。まだ彼は腹部を抑えており、慌てて構えるが、


「遅い!」


足の裏、膝、股関節、腹部、胸、肩、肘、腕、拳といった順番で全身を「回転」させながら、先ほどの比ではない回転を加えた右拳をランの腹筋に向け、同時に「嵐」も纏わせながら、


「弾撃(だんげき)ぃ!!」
「ぶぎぇええええええっ――!?」


勢いよく体重と回転、そして嵐の魔力が込められた右拳はまるで内臓破裂を引き起こしかねないほどの威力であり、



――ガシャアァアアアアアンッ!!



次の瞬間、試合場を取り囲む鉄柵にまでランの身体が吹っ飛び、そのまま体を喰いこませ、誰が見ても明らかに戦闘続行は不可能な状態に陥り、カインが試合を止める。


「そこまで!!」


傍で確認するまでも無く、ランは白目を向いて泡を吹きながら鉄柵から外れて地面に倒れ込む。それを確認したカインはレノの股座に顔を突っ込み、そのまま彼を肩車すると、


「勝者ぁあああああああっ!!一般冒険者、レノォおおおおおおおおおっ!!」
「「「うわぁあああああああああああっ!!」」」


地下の闘技場が活気に満ち溢れ、優勝したレノを褒め称えるように凄まじい歓声が湧き上がる――







「――いやぁ……よくやったね!!レノ!!」
「流石……としか言いようがありませんね」
「格好良かったよレノたん!!」
「ど、どうも」


優勝賞品の銀貨と「剣乱武闘」の「参加証」を頂くと、レノは机に上で山ほどの酒を飲みほした状態のバル達の元に戻る。全員が酒を飲酒した訳ではなく、流石に聖職者のミキとヨウカは酒を飲んではいないようだが、バルの顔色は赤い。


「いや~……あんたに掛けたお蔭で、まさかの倍率50倍になっちゃったよ。お蔭さんですぐに店を開けられる目途が立ちそうだよ」
「へえ……そんなに儲かったのか」
「こんな事なら、へそくりの銀貨も賭けておくべきだったかねぇ……まあいいや、飲もう飲もう!!」


バルは完全に出来上がっているのか、次々とグラスにビールを注ぎ込み、一気に飲み干す。それを呆れた風に見るミキと雰囲気に流されて「あはは~」と笑みを浮かべるヨウカ。

レノは手元の銀貨は明日渡すことにした。こんな状態では、すぐに彼女は稼いだ銀貨を使い切ってしまうだろう。こういった裏の酒場の商品は決して安くは無い。必ず勝ち取った賭け金の大半を使わせるまで逃がすことは無いだろう。


「改めて……おめでとうございますレノさん」
「レノたんおめでと、格好良かったよ~」
「あはは……はあっ」


2人に祝福されながら、帰り道は酔いつぶれたバルを背負う事に成りそうななので、優勝したにもかかわらず、レノは深いため息を吐いた。
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