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聖痕回収編
ギルドマスター
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「おい、姉ちゃん。誰かお探しかい?」
不意に声を掛けられ、振りかえると酒場の隅の方の席に1人の中年男性が酒を飲んで座り込んでいる。恐らくは人間だろうが、まるで巨人族のように巨体で筋肉質な男であり、禿げ頭に蝋燭の光が反射して眩しい。
ソフィアは一度だけ視線を向けるが、すぐに違和感を覚える。何故か全員が黒いフードで身体を覆い隠しているにもかかわらず、この男だけは堂々と姿をさらしている。もしかしたらこのギルド側の人間かも知れない。
「探し人の名前を言ってみな、金さえ払ってくれれば誰でも探してやるぜ」
「八百屋さんのみーちゃん」
「……生憎と、この街の八百屋にそんな可愛い名前の人間は居ねえな……」
「いや、猫の名前」
「分かるか!!たく、面白い嬢ちゃんだな」
軽いソフィアの冗談に豪快に笑いながら、男は手招きして呼び寄せる。別に無視してもいいが、一応は向い側の席に近寄ると、
「座りなよ……別に何もしねえ。この酒場では喧嘩はご法度だらかな……」
「へえ……」
特に警戒もせずに椅子に座り込み、
「で、あなたがギルドマスター?」
この言葉に一瞬だが男の眉が動いたのを見逃さず、ソフィアは黙って視線を向ける。彼はお腹を搔きながら、
「その通りだ……何故わかった?」
「態度が偉そう、堂々と姿をさらす、頭が禿げている……かな」
「前の二つは分からんでもないが、最後の余計な言葉は要らないだろ、おい?」
「そうでもない。知り合いの教師から大抵のギルドマスターは心労で頭がはげることが多いって聞いてるからね。特に男性が」
「くそう……否定しにくいことを、だが俺のは禿げじゃねえ!!スキンヘッドだ!!」
ドンッ!と机を叩き込み、ソフィアを睨み付けてくる。どうやら頭の事は気にしているようであり、これ以上は刺激しない様にする事にした。
「話を戻していい?」
「はあ……で、誰を探してるんだい?」
「……ギルドマスターが直々に調べてくれるの?」
「調査は部下の仕事だ。俺の仕事はここでこうして偉そうな態度で酒を飲み、依頼人の話を聞いたり、色々な書類に判子を押すだけだ」
「ギルドマスターの仕事ってそんなもんなの?」
少なくとも同じギルドマスターのバルは前線に立って身を危険に晒すことも多かったが、単にからかわれているだけだろう。ソフィアは手短に話を終わらせるため、率直に尋ねる。
「鮮血のジャンヌの居場所を知りたい」
「はっ……こりゃまた大胆な事を聞くな」
男はこの酒場にジャンヌが居ることを知っているのか、先ほどとは違う薄ら笑いを浮かべる。彼はジョッキ一杯のビールを一気に飲み干し、
「悪いがそいつは応えられねえな……この酒場内に居るのは知っているんだろ?自分で探して見な」
「なるほど……」
「だが下手な捜索はやめときな。ここでこれ以上、1人1人の顔を覗き込む行為はご法度だ」
確かにわざわざこんな場所にまで立ち寄り、暑苦しいフードで身体を隠しながら情報交換を行っているのだ。姿を隠しているにもかかわらず、正体を探られたら何の意味も無い。
ギルドとしてもこれ以上のソフィアの行動は控えて欲しいらしいが、このままでは折角見つけたジャンヌを見失ってしまうが、ここで闇ギルドを敵に回すような行為はできない。下宿中のバルの酒場にも迷惑をかける可能性が高い。
「分かった……なら他の情報を教えてくれる?」
「いいぜ、将来性の高い女の子には俺は優しいからな、特別料金で何でも答えるぜ」
「銀貨3枚ぐらいしか渡せないけど……」
「しょぼいなおい、まあいい……何が聞きたい?」
男の言葉にソフィアは考え込む。彼から何を聞くか、とりあえず「センチュリオン」の動向でも聞くのが妥当な気がしたが、1つ気にかかる事がある。
「2年前に召喚された勇者達の……問題を聞きたい」
「ああ……あの厄介者達の事か?」
厄介者という言葉に、やはり先日の「ハニーベアー」以外にもこの世界に来て問題を起こしているらしい。男は「少しばかり話しが長くなるな……」と、部下から新しいジョッキを持ってくるように指示を出し、
「最近の問題なら、王都で起こしたパーティーでの醜態が一番だな。何をとち狂ったのか、勇者の1人が侯爵家の令嬢に手を出して、令嬢の婚約者である王家の王子に婚約破棄を申し出たとよ」
「婚約破棄?王家の王子って……」
ソフィアの脳裏に「アルト」の顔が浮かび、彼が婚約者が居たことは特に驚きもしないが、まさか勇者に婚約者を奪われている事態など思いつきもしない。以前に会った時は特に変わった様子は無かったが、
「勇者がどれだけ大切な存在と言っても、流石に王国の第一位継承者の婚約者に手を出したのは不味かったな。しかも、婚約を申し出たのは婚約者側の親にも関わらずだ」
「婚約者と勇者が何でそんな関係に……」
「女好きで有名な勇者だったんだよ。自分の立場を利用して、旅先で無数の女に手を出してやがったそうだ。王子様の婚約者もその中の1人ってわけさ」
「それで?どうなった?」
「当然、婚約者の侯爵家令嬢は身分を剥奪、平民へ格落ちだ。王国に恥をかかした結果になったからな。勇者と王国の関係も今回の一件で罅が入っちまったのは間違いないな」
「問題を起こした勇者は?」
「普通なら処刑か、良くても国外追放ぐらいの罪なんだが……勇者ってのが厄介なもんでな。こっちの都合で呼び出したこと件もあるし、結局は平民に落ちた女と籍を入れるように強要されたんだよ。大々的に民衆にも発表されたから、もう気軽に女に手を出せなくなって半泣きだとよ」
表向きは「身分の差を乗り越えての結婚」として、問題を起こした勇者は元公爵令嬢と結婚し、現在では辺境の土地へ送り込まれたらしい。幾ら世界を救う存在と言えど、現実にまだ魔物の活性化は止まる様子は無く、勇者だからと言って何でも好きにできるはずがないとの事。
不意に声を掛けられ、振りかえると酒場の隅の方の席に1人の中年男性が酒を飲んで座り込んでいる。恐らくは人間だろうが、まるで巨人族のように巨体で筋肉質な男であり、禿げ頭に蝋燭の光が反射して眩しい。
ソフィアは一度だけ視線を向けるが、すぐに違和感を覚える。何故か全員が黒いフードで身体を覆い隠しているにもかかわらず、この男だけは堂々と姿をさらしている。もしかしたらこのギルド側の人間かも知れない。
「探し人の名前を言ってみな、金さえ払ってくれれば誰でも探してやるぜ」
「八百屋さんのみーちゃん」
「……生憎と、この街の八百屋にそんな可愛い名前の人間は居ねえな……」
「いや、猫の名前」
「分かるか!!たく、面白い嬢ちゃんだな」
軽いソフィアの冗談に豪快に笑いながら、男は手招きして呼び寄せる。別に無視してもいいが、一応は向い側の席に近寄ると、
「座りなよ……別に何もしねえ。この酒場では喧嘩はご法度だらかな……」
「へえ……」
特に警戒もせずに椅子に座り込み、
「で、あなたがギルドマスター?」
この言葉に一瞬だが男の眉が動いたのを見逃さず、ソフィアは黙って視線を向ける。彼はお腹を搔きながら、
「その通りだ……何故わかった?」
「態度が偉そう、堂々と姿をさらす、頭が禿げている……かな」
「前の二つは分からんでもないが、最後の余計な言葉は要らないだろ、おい?」
「そうでもない。知り合いの教師から大抵のギルドマスターは心労で頭がはげることが多いって聞いてるからね。特に男性が」
「くそう……否定しにくいことを、だが俺のは禿げじゃねえ!!スキンヘッドだ!!」
ドンッ!と机を叩き込み、ソフィアを睨み付けてくる。どうやら頭の事は気にしているようであり、これ以上は刺激しない様にする事にした。
「話を戻していい?」
「はあ……で、誰を探してるんだい?」
「……ギルドマスターが直々に調べてくれるの?」
「調査は部下の仕事だ。俺の仕事はここでこうして偉そうな態度で酒を飲み、依頼人の話を聞いたり、色々な書類に判子を押すだけだ」
「ギルドマスターの仕事ってそんなもんなの?」
少なくとも同じギルドマスターのバルは前線に立って身を危険に晒すことも多かったが、単にからかわれているだけだろう。ソフィアは手短に話を終わらせるため、率直に尋ねる。
「鮮血のジャンヌの居場所を知りたい」
「はっ……こりゃまた大胆な事を聞くな」
男はこの酒場にジャンヌが居ることを知っているのか、先ほどとは違う薄ら笑いを浮かべる。彼はジョッキ一杯のビールを一気に飲み干し、
「悪いがそいつは応えられねえな……この酒場内に居るのは知っているんだろ?自分で探して見な」
「なるほど……」
「だが下手な捜索はやめときな。ここでこれ以上、1人1人の顔を覗き込む行為はご法度だ」
確かにわざわざこんな場所にまで立ち寄り、暑苦しいフードで身体を隠しながら情報交換を行っているのだ。姿を隠しているにもかかわらず、正体を探られたら何の意味も無い。
ギルドとしてもこれ以上のソフィアの行動は控えて欲しいらしいが、このままでは折角見つけたジャンヌを見失ってしまうが、ここで闇ギルドを敵に回すような行為はできない。下宿中のバルの酒場にも迷惑をかける可能性が高い。
「分かった……なら他の情報を教えてくれる?」
「いいぜ、将来性の高い女の子には俺は優しいからな、特別料金で何でも答えるぜ」
「銀貨3枚ぐらいしか渡せないけど……」
「しょぼいなおい、まあいい……何が聞きたい?」
男の言葉にソフィアは考え込む。彼から何を聞くか、とりあえず「センチュリオン」の動向でも聞くのが妥当な気がしたが、1つ気にかかる事がある。
「2年前に召喚された勇者達の……問題を聞きたい」
「ああ……あの厄介者達の事か?」
厄介者という言葉に、やはり先日の「ハニーベアー」以外にもこの世界に来て問題を起こしているらしい。男は「少しばかり話しが長くなるな……」と、部下から新しいジョッキを持ってくるように指示を出し、
「最近の問題なら、王都で起こしたパーティーでの醜態が一番だな。何をとち狂ったのか、勇者の1人が侯爵家の令嬢に手を出して、令嬢の婚約者である王家の王子に婚約破棄を申し出たとよ」
「婚約破棄?王家の王子って……」
ソフィアの脳裏に「アルト」の顔が浮かび、彼が婚約者が居たことは特に驚きもしないが、まさか勇者に婚約者を奪われている事態など思いつきもしない。以前に会った時は特に変わった様子は無かったが、
「勇者がどれだけ大切な存在と言っても、流石に王国の第一位継承者の婚約者に手を出したのは不味かったな。しかも、婚約を申し出たのは婚約者側の親にも関わらずだ」
「婚約者と勇者が何でそんな関係に……」
「女好きで有名な勇者だったんだよ。自分の立場を利用して、旅先で無数の女に手を出してやがったそうだ。王子様の婚約者もその中の1人ってわけさ」
「それで?どうなった?」
「当然、婚約者の侯爵家令嬢は身分を剥奪、平民へ格落ちだ。王国に恥をかかした結果になったからな。勇者と王国の関係も今回の一件で罅が入っちまったのは間違いないな」
「問題を起こした勇者は?」
「普通なら処刑か、良くても国外追放ぐらいの罪なんだが……勇者ってのが厄介なもんでな。こっちの都合で呼び出したこと件もあるし、結局は平民に落ちた女と籍を入れるように強要されたんだよ。大々的に民衆にも発表されたから、もう気軽に女に手を出せなくなって半泣きだとよ」
表向きは「身分の差を乗り越えての結婚」として、問題を起こした勇者は元公爵令嬢と結婚し、現在では辺境の土地へ送り込まれたらしい。幾ら世界を救う存在と言えど、現実にまだ魔物の活性化は止まる様子は無く、勇者だからと言って何でも好きにできるはずがないとの事。
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