種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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聖痕回収編

闇ギルド

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この世界の「ギルド」にはいくつかの種類がある。冒険者が集う「冒険者ギルド」商団が管理する「商業ギルド」他にもレノが所属していた「盗賊ギルド」バルが一時期在中していた「傭兵ギルド」または魔術師が管理する「魔術師ギルド」などが存在する。

だが、どのギルドにも所属しない「闇ギルド」と呼ばれる国家には認められていない非公式のギルドも存在する。ソフィアもバルやクズキからよく話は聞き、付き添いで出入口付近までは付いてきたことは何度かあるが、単独で闇ギルドが経営する店に入るのは初めてだった。


――闇ギルドは一体いつごろから誕生したのかは不明だが、一説によれば原初のギルドと呼ばれるほどに古い歴史を持っているという。その活動内容は時代によって変化し、戦時中は「暗殺」や「情報操作」などの裏の仕事を行い、現在では主に「情報収集」に力を入れているらしい。


80年ほど前に「バルトロス王国」の宰相が「獣人族」に暗殺された際、彼の情報を獣人族に売り渡したのが「闇ギルド」と発覚した。当時の宰相の一族はこれに激怒し、王の許可も無く騎士団を動かして闇ギルドの拠点に殴り込みをかけたという。

だが、拠点の人間の多くを捕縛する事に成功したが、その後にとんでもない事態が陥る。当時の王国の重要人物達の「横領」や「不正」が民衆に流れ、さらには他の種族に王国の経済情報や軍の内部機密が渡り、一時期に王国崩壊の危機が噂された。

しかも厄介な事に流れた「噂」は全て真実であり、王国側は問題を起こしたとはいえ、有能な家臣たちの多くを懲戒免職、及び辺境の土地に異動させ、混乱が起きる。さらには他の種族が侵攻しようとする動きもあり、仕方なく国王は捕縛した「闇ギルド」の人間達との交渉の末、彼らに莫大な謝礼金と国の機密情報を明かすことで和解を求める。

結果として闇ギルドは今回の一件を引き起こした宰相一族を内密に処刑させ、今後二度と自分たちに刃を向けない様に王国側と約束を交わし、情報漏洩を封じた。



――この事があって以来、例え大陸有数の大国だろうと彼らの機嫌を損ねることは国を亡ぼすことに等しいと噂される。この時に「威張り散らす大国、されど闇には抗えぬ」という皮肉の言葉が生まれた。



「何してんだい?早く入りな」
「……ああ」


女店主に声を掛けられ、ソフィアは彼女に連れられて店の奥に案内される。階段を降りると、地下に鋼鉄製の扉で塞がれている。


「……ここから先は命の保証は無いよ。例えあんたが助けを乞いても、誰も助けないよ」
「良いから開けて」
「ふふん、あんたみたいな威勢のいい嬢ちゃんは久しぶりだね」


放浪島で異形の怪物共と戦い続けたソフィアにとって、そのような脅しで恐怖を抱くことは無い(少しばかりの不安はあるが)。


ギィイイイッ……


「ようこそ、日の当たらぬ楽園へ……」
「それ、自分で言ってて恥ずかしくない?」
「……生意気な娘だね。ほら、これを被りな」


頬を赤くした女から黒いフードを渡され、身体を覆和される。これで身を隠せという事だろう。そのまま女に見送られて扉を抜けると、地下は周囲を蝋燭で灯らせただけの酒場やカフェを思わせる造りであり、思ったよりも人が多い。

ほとんどの人間がソフィアのように黒いフードで身を隠し、これではジャンヌの見分けがつかないことに内心呻く。取りあえずは正面の円卓の席に座り込むと、すぐにバーテンダーが声を掛けてくる。


「お飲み物はいかがですか?」
「いや……なら、葡萄酒を1つ」
「かしこまりました」


すぐにバーテンダーの男が棚から葡萄酒のワインを取り出し、グラスに注ぎ込んでソフィアに渡す。臭いを嗅いでみたが、中々に上等な物らしい。あとでお金を支払えるのかが気にかかるが。

グラスを片手にちびちびと飲みながら、周囲に視線をやる。黒いフードの集団がそれぞれ話し合う様子は見えるが、やはりジャンヌを特定することは出来ない。

聴覚が発達しているハーフエルフならば彼女の声を聞き分けることも出来るかもしれないと思ったが、どうもこの空間に何らかの魔法でも張られているのか、何か話をしている事は分かるが、詳しい内容は聞き取れない。


「誰かをお探しですか?」
「……人を探している」


ソフィアの行動に不信に思ったのか、またもやバーテンダーが話しかけてくる。彼女は面倒気に答えると、わざとらしい笑みを浮かべながらバーテンダーは語り掛ける。


「人探しですか……失礼ですがどのような人物ですか?」
「鮮血のジャンヌ」
「ああ……彼女ならここに居ますよ。他のお客様に迷惑にならない程度に探してみたらどうでしょうか?」


ド直球に答えると、バーテンダーは何事も無いように答える。この場に居ることは事実だが、自分で探せと暗に伝えているらしく、あちらも面倒事は避けたいのだろう。仕方なく、葡萄酒を飲み干してから席を立つことにする。代金を払おうとしたが「初回サービスです」と受け取ってくれなかった。


(……見られているな)


何人かの黒フードがこちらに視線を向け、恐らくはソフィアの行動に不信に思ったのだろう。自然に振る舞ったつもりだが、やはり初めての事なので不自然な動作を行ったのかもしれない。これでは下手な行動は出来ないが、このまま彼女を見逃すわけには行かない。地下をぐるりと一周する事に決めると、


「……聞きましたか?あの巫女姫がまたもや儀式を成功させたようですよ」
「まあ……随分と時間が掛かりましたが、やっとあの方も一人前になったのかしら」
「ハニーベアーの燻製が売り出されたようですな……あんな不気味な肉の何が良いのか」
「最近、奇妙な果物が市中に回ってるようですな……確か、林檎(リンゴ)という名の食感が堪らない果実でしたな」
「ほう……森人族の品ですかな?」
「それが、何と人間の手で作り出されたようなのですよ」


――何処かで聞いたような噂話を耳にし、ソフィアは苦笑しながらも歩き回る。
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