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聖痕回収編
鮮血のジャンヌ
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レノが自分の部屋に戻ると、服の中に隠し持った「液体瓶」を取り出し、そして机の上に置きっぱなしの放浪島から送り込まれた「鎖」を見る。
この鎖は放浪島に飛ばされた際に「アイリィ」がレノの身体に巻き付いていた物を回収した物であり、センチュリオンの「ヴァンパイア」が使用した黒い鎖だ。マドカの話によれば「ブラック・チェーン」と呼ばれる特殊な魔法金属で出来ている。
最初にアイリィと会った時に彼女がレノの身体に巻き付いていたセンチュリオンの「鎖」を回収した、特殊な加工を施してわざわざ黒猫酒場に送ってくれたのだ(小包と一緒にグリフォンの羽根らしき物も付属していた)。
小包みには子供の頃に使っていた「ナイフ」とアイリィの手紙も同封されており、鎖に掛けられていた呪いは解かれ、新しい「加護」が付与されているとの事。試しにレノは鎖を右腕で掴むと、
ジャラララッ!!
「うわっ……!?」
机に置いた時は反応しなかったが、今度は右腕にまるで蛇のごとく巻き付き、そのまま肘の部分まで覆ってしまう。だが、鎖の冷たさは感じられず、痛みも無い。少し外見が派手なため、どうにか長袖にでも隠せないかと考えた瞬間、
ボウッ――
「おおっ」
鎖を「隠したい」と頭に思い浮かんだ瞬間、銀色に光り輝く鎖が徐々に薄く消え、ついには完全に透明と化す。何かが巻き付いている感触は残っているが、左手で右腕を触れても特に違和感はない。相当に高度な隠蔽魔法が掛けられている。今度は鎖が元に戻るように念じると、瞬時に元の右腕に鎖が巻き付かれた状態に戻り、
「動け」
ジャラララッ!!
机の上に置かれた蝋燭に鎖が一瞬で巻き付き、危うく握りつぶしそうになるが、何とか調整して絡みつく程度に抑える。
どうやら自分の手足の如く動かせるようであり、これは「アイリィ」の魔法の加護というよりは、レノが無意識に自身の魔力を送り込んで操作しているに等しい。手紙の内容にはこう書かれていた。
『この鎖は所有者以外の魔術師の魔力を抑え込む力があります。それなりに頑丈な金属で造られていますので、手荒に扱っても構いません。攻撃能力は相手に絡みつく程度ですが、その気になれば魔力量によって鎖は延々と伸ばせますから盗賊行為にも役立ちますよ』
最後に余計なひと言が掛かれていたが、それなりに役立ちそうな代物に満足し、ナイフの方はミキから貰った「短刀」があるため、バルに返却する事にした。レノは鎖を再度透明化して外に出る準備を始める。
今回の「アイリィ」の頼まれ事は、ある女性が「剣乱武闘」に参加するらしく、その女性が「聖痕」持ちの可能性が高いという。
――名前は「鮮血のジャンヌ」元々は修道院を守る騎士団「ワルキューレ」に所属していた名のある女騎士だが「バルトロス王国」が聖導教会の助力を借りて「巨人族」との戦を制した時に彼女は変わったという。
今でも巨人族と人間の関係は良好とは言えないが、戦争を起こすほどではない。だが、巨人族の中には過激派も存在し、数百の巨人族が人間の村々に襲い掛かったという。
すぐに王国は兵を送り込もうとしたが、当時は「森人族」にも動きがあり、無闇に遠征への出兵は出来ぬ状態であり、彼らは教会に力を借り罪なき民を守るためにという名目で「ワルキューレ」の出動を頼み込む。
「聖導教会」は基本的に戦争に関与しないのが鉄則だが、当時の先代の巫女姫の指示で王国に貸しを作るため、ワルキューレ騎士団を派兵した。その中には「ジャンヌ」の姿もあり、まだ彼女は成人すらしていない少女だったが、その腕は当時の騎士団の中でも3指に入るほどであり、巫女姫(先代)からも目を掛けられていた。
――数百の巨人族との戦いに置いて彼女は聖導教会から与えられた聖剣「ジャイアントキリング(別名は「巨人殺し」と言われており、剣というよりは斧に近い形状の武器であり、元は「聖剣エクスカリバー」の欠片の大部分を使用されて作られた武器)」で彼らを薙ぎ倒す姿は誰もが圧倒された。
「聖剣」ではなく「聖斧」を与えられたジャンヌ(正確には彼女しか扱えなかったのだが)は無数の巨人を単独で撃破し、その力は周辺諸国(王国ほどの規模はないが、他にも幾つか国は存在する)を震え上がらせ、仲間である聖騎士団すらも彼女を恐れ、距離を取ったという。
それでもジャンヌは最後まで人々を守るために戦い続け、戦場で無数の巨人族の亡骸を作り出し、その姿は血塗れであったからこそ「鮮血のジャンヌ」という異名が生まれ、戦は早々に終結したという。
――しかし、戦が終わり次第に彼女は「聖斧」と共に姿を消し、3年ほど前から再び姿を現したという。現在は流浪の将として様々な土地に訪れては傭兵同然の生活を送り、金さえ受け取ればどんな者にでも仕えている。
聖騎士団は彼女を異端者として征伐する事を申し出たが、先代の巫女姫が頑固としてそれを拒み、巫女姫の権限を使ってジャンヌの脱走の罪を許し、以後は彼女は聖導教会とは無関係と宣言する。幸い彼女はあらゆる土地で揉め事を起こすが、聖導教会や王国に敵対する行為は行わず、仕方なく放置されている現状だった。
――だが、現在この「闘人都市」にジャンヌが訪れたという情報が入り、レノは彼女が聖痕持ちでないかをアイリィに探るように頼まれたのだ。
この鎖は放浪島に飛ばされた際に「アイリィ」がレノの身体に巻き付いていた物を回収した物であり、センチュリオンの「ヴァンパイア」が使用した黒い鎖だ。マドカの話によれば「ブラック・チェーン」と呼ばれる特殊な魔法金属で出来ている。
最初にアイリィと会った時に彼女がレノの身体に巻き付いていたセンチュリオンの「鎖」を回収した、特殊な加工を施してわざわざ黒猫酒場に送ってくれたのだ(小包と一緒にグリフォンの羽根らしき物も付属していた)。
小包みには子供の頃に使っていた「ナイフ」とアイリィの手紙も同封されており、鎖に掛けられていた呪いは解かれ、新しい「加護」が付与されているとの事。試しにレノは鎖を右腕で掴むと、
ジャラララッ!!
「うわっ……!?」
机に置いた時は反応しなかったが、今度は右腕にまるで蛇のごとく巻き付き、そのまま肘の部分まで覆ってしまう。だが、鎖の冷たさは感じられず、痛みも無い。少し外見が派手なため、どうにか長袖にでも隠せないかと考えた瞬間、
ボウッ――
「おおっ」
鎖を「隠したい」と頭に思い浮かんだ瞬間、銀色に光り輝く鎖が徐々に薄く消え、ついには完全に透明と化す。何かが巻き付いている感触は残っているが、左手で右腕を触れても特に違和感はない。相当に高度な隠蔽魔法が掛けられている。今度は鎖が元に戻るように念じると、瞬時に元の右腕に鎖が巻き付かれた状態に戻り、
「動け」
ジャラララッ!!
机の上に置かれた蝋燭に鎖が一瞬で巻き付き、危うく握りつぶしそうになるが、何とか調整して絡みつく程度に抑える。
どうやら自分の手足の如く動かせるようであり、これは「アイリィ」の魔法の加護というよりは、レノが無意識に自身の魔力を送り込んで操作しているに等しい。手紙の内容にはこう書かれていた。
『この鎖は所有者以外の魔術師の魔力を抑え込む力があります。それなりに頑丈な金属で造られていますので、手荒に扱っても構いません。攻撃能力は相手に絡みつく程度ですが、その気になれば魔力量によって鎖は延々と伸ばせますから盗賊行為にも役立ちますよ』
最後に余計なひと言が掛かれていたが、それなりに役立ちそうな代物に満足し、ナイフの方はミキから貰った「短刀」があるため、バルに返却する事にした。レノは鎖を再度透明化して外に出る準備を始める。
今回の「アイリィ」の頼まれ事は、ある女性が「剣乱武闘」に参加するらしく、その女性が「聖痕」持ちの可能性が高いという。
――名前は「鮮血のジャンヌ」元々は修道院を守る騎士団「ワルキューレ」に所属していた名のある女騎士だが「バルトロス王国」が聖導教会の助力を借りて「巨人族」との戦を制した時に彼女は変わったという。
今でも巨人族と人間の関係は良好とは言えないが、戦争を起こすほどではない。だが、巨人族の中には過激派も存在し、数百の巨人族が人間の村々に襲い掛かったという。
すぐに王国は兵を送り込もうとしたが、当時は「森人族」にも動きがあり、無闇に遠征への出兵は出来ぬ状態であり、彼らは教会に力を借り罪なき民を守るためにという名目で「ワルキューレ」の出動を頼み込む。
「聖導教会」は基本的に戦争に関与しないのが鉄則だが、当時の先代の巫女姫の指示で王国に貸しを作るため、ワルキューレ騎士団を派兵した。その中には「ジャンヌ」の姿もあり、まだ彼女は成人すらしていない少女だったが、その腕は当時の騎士団の中でも3指に入るほどであり、巫女姫(先代)からも目を掛けられていた。
――数百の巨人族との戦いに置いて彼女は聖導教会から与えられた聖剣「ジャイアントキリング(別名は「巨人殺し」と言われており、剣というよりは斧に近い形状の武器であり、元は「聖剣エクスカリバー」の欠片の大部分を使用されて作られた武器)」で彼らを薙ぎ倒す姿は誰もが圧倒された。
「聖剣」ではなく「聖斧」を与えられたジャンヌ(正確には彼女しか扱えなかったのだが)は無数の巨人を単独で撃破し、その力は周辺諸国(王国ほどの規模はないが、他にも幾つか国は存在する)を震え上がらせ、仲間である聖騎士団すらも彼女を恐れ、距離を取ったという。
それでもジャンヌは最後まで人々を守るために戦い続け、戦場で無数の巨人族の亡骸を作り出し、その姿は血塗れであったからこそ「鮮血のジャンヌ」という異名が生まれ、戦は早々に終結したという。
――しかし、戦が終わり次第に彼女は「聖斧」と共に姿を消し、3年ほど前から再び姿を現したという。現在は流浪の将として様々な土地に訪れては傭兵同然の生活を送り、金さえ受け取ればどんな者にでも仕えている。
聖騎士団は彼女を異端者として征伐する事を申し出たが、先代の巫女姫が頑固としてそれを拒み、巫女姫の権限を使ってジャンヌの脱走の罪を許し、以後は彼女は聖導教会とは無関係と宣言する。幸い彼女はあらゆる土地で揉め事を起こすが、聖導教会や王国に敵対する行為は行わず、仕方なく放置されている現状だった。
――だが、現在この「闘人都市」にジャンヌが訪れたという情報が入り、レノは彼女が聖痕持ちでないかをアイリィに探るように頼まれたのだ。
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