種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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聖痕回収編

白昼夢

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――気が付けばレノの視界は真っ白な空間で覆われており、以前にも覚えがある光景だ。すぐにレノの「精神」だけをこの世界に連れ込んだと思われる女性が目の前に現れる。


『どうも~』


わざとらしい笑顔を浮かべながら、「アイリィ」は掌を振りながら姿を現す。恐らくはアルファの件で姿を現したのだろうが、彼女は最初に会った時は別人と思えるほどに妙に上機嫌でレノに笑いかけてくる。心なしか、かなり若返っているようにも見えた。


『いや~……思ったよりもレノさんのお蔭で身体が楽になりましたよ。ほんの少しとは言え、「樹」の聖痕も取り返してくれましたしね』


彼女は自分の右掌に浮かぶ「緑色」の聖痕を見せつける。間違いなく、エルフの森で対峙した「アルファ」の首元に刻まれていた「聖痕」だ。

あの時は上手く「聖痕」を回収できたのか不安を抱いていたが、どうやら成功はしていたらしい。だが、どうにも「雷」の聖痕と比べても、緑色の「樹」という聖痕の紋様は随分と小さい。レノの疑問を感じ取り、アイリィは説明を始める。


『……ええっと、アルファさんでしたっけ?まあ、その男から回収したこの聖痕は本物ですよ。但し、半分だけですけどね』


半分という言葉にレノは合点がいく。どうやら彼の頭に浮かんだ予想が当たっているのか、アイリィも頷く。


『察しが良いですね……そうです。これは本物の「樹」の聖痕の半分ほどの力しか持っていません。あの男の他に、最低でももう1人の「樹」の聖痕を持った人間が居ますよ』


つまり、レノが回収した「樹」の聖痕は本物でもあり、同時に「半分」ほどの力しか持ち合わせていないらしい。そう考えれば、自分がアルファに勝てたのも納得できる。彼は「聖痕」の力を半分程度しか扱えず、しかも周囲の木々から魔力を得ていたレノだからこそ勝てたのだ。

しかし、彼も「センチュリオン」だとしたら、あのまま森の中に放って置いたのは少しまずいかと頭に浮かんだ途端、


『あ~大丈夫ですよ。あの人は森人族の掟とやらで、十字架に干されて火あぶりの刑にされ、最後は火傷だらけの顔を切り落とされて打ち首でしたよ。えげつないですね~』


まるで見てきたように語る彼女に疑問を浮かぶが、すぐに魔術の中には遠方の景色を見通すという「千里眼」と呼ばれる特殊な魔法があることを思いだし、そこまで疑問を抱くほどではない。


『さてと……それより面白い催し物が合ってますね。「剣乱武闘」ですか……私も若い頃はこっそり観戦してましたよ。今でも十分に若いですが』


反応に困るが、レノはこれからどうすればいいのかを直接問いただす。


『そうですね……今回の「剣乱武闘」でそれなりの「聖痕」の所持者が参加しそうですが……勇者も参加するとなると面倒なことになりそうですね。あの人たちは何時の時代も厄介者ですからねぇ……』


勇者という単語にレノは「ハニーベアー」に襲われた村の事を思いだし、そこで見かけた勇者たちの姿を思い出す。彼女が勇者の事を知っている口振りから、もしかしたら「ハニーベアー」の村で勇者達が起こした「出来事」も知っているのではないかとアイリィに問うてみると、



『ああ……はいはい、気になりますか?別に対して面白い話ではないですよ』



彼女曰く、半年前にあの村に訪れた勇者たちは村人の依頼である「ハニーベアー」の討伐を行う際、レノが始末したハニーベアーの両親の魔獣は間違いなく討伐したらしいが、まだ子供で体も小さく、愛嬌のあるハニーベアーを見た瞬間に勇者たちは見逃すことを決めたという。

レノにとっては信じられない話だ。幾ら可愛いと言っても、相手は魔獣なのだ。引き取って人間の監視下の元で育て上げるならともかく、まさか野生に逃がしたまま放置するなど考えられない。普通の冒険者ならば例えどのような理由があろうと、人間に害を成す魔獣は始末(絶滅危惧種は除くが)するのが常識なのだ。

しかし、異世界人である勇者たちはそんな常識も持ち合わせておらず、ただ身体も小さく(当時はせいぜい1メートルほどの体長)愛らしい「ハニーベアー」に勇者パーティーの女性陣が心を打たれ、すぐに村から離れた山奥に連れ込み、そこに離したという。

だが、結果として半年足らずで数倍の巨体に育った「ハニーベアー」は山を降り、再び村に姿を現して途轍もない被害を与えた。少なくともあの村が再興するには随分と時間がかかるだろう。死傷者も出ていても可笑しくはなかった。


『異世界人の方々は、どうも常識知らずというか……甘い部分があるんですよね。魔物を放置するなんてふつう考えられませんね』


お前も人の事を言えないだろ、という単語が頭に浮かぶが、レノの思考を読み取れなかったのか、それとも敢えて無視をしたのかは分からないが、アイリィは話を切り替える。


『まあ、あの村の話についてはここまでにしときましょうか。それよりもレノさんに頼みたい事はですね――』


その後の彼女の台詞に、レノは心底面倒事に巻き込まれたと察し、苦い顔を浮かべる。
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