種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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聖痕回収編

怨痕

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――全ての話を聞き終え、レノは馬車の中で塞ぎこむ。色々な思考が渦巻き、複雑な心境とは正にこの事を指すのだろう。


彼女を捕まえたのは「クズキ」だった事、さらには既に家族同然だった青年たちのほとんどがあの「ダークエルフ」に殺されてしまったこと、正直に言えば全部冗談だと思いたい。だが、終始バルの表情は真剣そのものであり、このような顔を浮かべる彼女は決して嘘を吐いたことが無い。


「……あんたにも辛い話だろうけど、いずれは話さなきゃならない事だからね……」
「そうか……バルル以外死んだのか、皆……」


何だかんだで生意気に育ったレノをまるでやんちゃな弟のように相手をしてくれた「兄達」の死亡はそれなりに衝撃的な話だが、何故か涙は流れない。精神的に成長したのか、それとも頭が現実を直面しようとしていないのか、自分でも分からない。

しかし、あのダークエルフに対する恨みごとがまた増えた。自分の行く先々に現れては、大切な人間を奪っていく女に「恨み」などという生温い言葉ではな表現できない感情を抱く。

復讐する事を誓い、その目的を果たすために生きてきたと言っても過言ではないが、未だにレノは「ダークエルフ」の名前も情報も何一つ掴んでいないことに歯痒い思いを抱いた。そんな彼を心配そうにバルたちは見つめ、


「……それよりも、あんたの方こそ一体何をしていたんだい?風の噂で「鳳凰学園」に入学したってのは聞いてるけど……」
「よく知ってるな……まあ、こっちも色々と遭ったんだよ」



――今度はレノがこれまでの出来事を話し始め、「クズキ」の指示で学園での出来事、放浪島に飛ばされたこと、そして最近になって地上に戻ってきたことを話す。但し、アイリィ関連の話は一切話さずに気を付ける。



バルが話を聞き終えると、彼女は呆れたような感心した風に溜息を吐き、他の女盗賊も楽しげにレノの旅の話を聞き終え、尊敬の眼差しで自分を見つめてくる。


「……まさか、あんたがクズキに保護されてたとはね……しっかし、何を考えてるんだろうね、あいつは……」
「同感だな……」


彼女の話を聞き終え、ダークエルフから救い出してくれた時のクズキが告げた話が全て「嘘」だと判明する。少なくとも、バルが侵入した貴族の屋敷に彼はその場に存在し、しかもクズキ自身が彼女を捕まえたと言っても過言ではない。

その癖に燃え盛る屋敷からバルを救い出し、さらにはレノを引き取って鳳凰学園に入学させるなど、一体何を考えているか分からない。問いただそうにも既にこの世を去り、真相は闇に消えた事になるが。


「……そう言えば、あんたクズキの事知ってたのか?」


クズキとバルとの関係性を問いただすと、彼女は言いにくそうに、


「あ~……さっきも話したと思うけど、あいつとは昔所属していた組織からの腐れ縁さ……」
「組織ね……」


間違いなく、ダークエルフはその「組織」を狙って居るのだろう。出来ればここで彼女から組織とやらの詳しい情報を聞きたいが、レノの顔を見て察したのか、


「……悪いけど、いくらあんたでも話す事は出来ないよ。いや、出来ないのさ」


そう告げると、バルは自分の舌をレノの前に差し出し、すぐに彼は舌の先端に何か「黒い紋様」のようなものが浮かんでいるのを気が付く。まるで蛇を思わせる紋様であり、バルは舌をしまうと、


「……あたしは組織に関しては何も話せない……話した瞬間、この舌に刻まれた蛇が心臓に到達しちまうのさ」
「……呪いか?」


自分の背中の「反魔紋」と同じく、彼女の舌に刻まれた「蛇の紋様」も同様に呪いなのかと勘付く。バルは黙って頷き、そこから先は何も話さない。いや、きっと話せないのだろう。

反魔紋は「魔法」を使用するだけでも自動的に発動し、電流が流される仕組みだが、以前に学園で習った時に「反魔紋」同様に生涯に渡って縛りつける「怨痕」と呼ばれる「禁忌」の魔法があると学んだ。

「怨痕」とは「魔族侵攻大戦」よりも遥か昔から存在する魔法であり、その効果は非常に恐ろしく、現在では犯罪を犯した重罪人だろうと、死刑と確定した人間でなければ刻まれることは無い。


――「反魔紋」と似た部分はあるが、「怨痕」は絶対に解ける事のない魔法であり、生涯に渡って対象者を縛りつけるという。バルが刻まれた物はある事に関わる「情報」を口に漏らした時に発動するらしく、彼女がその情報を口にした瞬間に身体に異変が起きるという。


怨痕の契約を破って悲惨な結末を迎えた者は歴史上でもそれほど多くはない。何故ならば、大抵の人間は「呪い」が発動する前に自ら命を絶つからだ。それほどまでに「怨痕」の呪いは非常に対象者を苦しませ、追い込む。

反魔紋も森人族の中の「怨痕」とも言える魔法だが、それでも死に至るほどの電流がすぐに流し込まされる訳ではない。呪文を唱えるのを止めれば発動はしないし、日常を過ごすだけでは特に何の負荷にもならない。


「……真っ当な組織とは言えなさそうだな」
「…………」


バルは黙りこくるが、その無言が肯定と解釈し、レノは吐息を吐く。
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